唇が触れる。舌が絡まる。
・・・・・木ノ宮とは・・・・違う・・・・・・。
そんな事は当たり前だ。
木ノ宮とはもう、二度と・・・・・。
「カイ・・・・。」
レイは・・・さすがに上手い。
百戦錬磨は伊達じゃない。
キスも、愛撫も・・・何もかも、木ノ宮よりずっと上手い。
だが・・・・違う・・・・・・俺が欲しいのは・・・・俺が、真に欲するものは・・・・・・・。
厳重に鍵のかかった社長室。
そこでは社長が一人、黙々と仕事をこなしている・・・筈であったのだが。
ネクタイが解かれ、シャツのボタンは外されてその隙間からは素肌が覗き、乳首が覗き
オーダーメイドのスーツのズボンは足元にずり落ちて
世界的大企業、火渡の社長であるカイは今
窓ガラスに手を突いて、なんとか全身を支え
息も絶え絶えに、その熱に溺れた全身を窓ガラスに映し出していた。
そしてその腰をガッチリと掴んで激しく突き上げ続けるレイの姿も窓ガラスには映っていた。
ここは高層階で、ガラス張りと言ってもミラーガラスだったので外から中が見える事は無い。
対して室内から彼らの目に映るものは、天上からの絶景。
「・・・あ、は・・、ぁ・・・・・、っ!!」
「カイ、久し振りだな・・・何年ぶりだろう?お前の中、相変らず、スゴイな・・・。」
「・・・・っ、・・・!!」
「この締め付け・・・その辺の女なんか、お前の敵じゃないぜ?」
「・・・うる・・さい・・・。」
レイは前を握りながら一際激しく打ち込み、俺の文句を封じてしまった。
「・・・ん、・・っ!」
たまらない・・・。
前を握られて、胸に触れられて、そして激しく突き入れられて。
そうかと思うと、ピストン運動を止めて背中から抱きしめて耳を甘噛みして。
腰をじりじりと押し付けながら中を、感じるポイントを刺激しながら・・・前を摩りながら耳元で・・・。
「・・・ここが好きなんだろ?変わらないな、子供の頃から。」
そう囁きながら、腰を押し付け中のある場所を摩る。
「ん・・、ああ・・・っ!!」
「カイ・・・なかなかの眺めだな。
お前のこんな姿が窓ガラスに全て映し出されて・・その向こうには高層階からの、天上からの景色・・まさに絶景。ふふ・・・。」
次の瞬間、ガラス張りのそのガラスに、白い液体が飛び散っていた。
「どうだ?カイ。たまには・・・こんなお遊びも悪くないだろ?」
「あそ・・び・・・・。」
「そう、遊びだ。たまには遊ばないと・・・お前、壊れちまうぜ?」
いっそ、壊れてしまえたら、どんなに楽だろう・・・・俺は、ふと思った。
「そんな顔を・・・するな。」
レイは俺の思考を読み取ったかのように言った。
「俺でよかったら・・・いつでもお前の遊び相手になってやる。」
「自惚れるな。誰が貴様となど!」
するとまだ達していないレイは俺の中の、その怒張を更にグッと押し付けて。
「・・・、・・・・っ!!」
「・・・無理しなくていい。俺にまで無理をする事は無い。
俺は火渡とは何の利害関係も無いし、そんな事より何よりも・・子供の頃からの付き合いだろ?」
「・・・・。」
「お前の事は・・・よくわかってる。俺だってお前を・・ずっと見てきたんだから・・・・。」
タカオに負けないくらいに、と聞こえたような気がした。
木ノ宮・・・・・木ノ、・・・宮・・・・・・・。
お前は今、何をしている?
何故・・・俺を抱いているのが・・・お前じゃ、ない・・・・・。
レイはタカオよりずっと上手い。
レイが動く度に達してしまうほどに。
愛撫に、突き上げに感じる度に、タカオとの違いを突きつけられるようで
タカオとの日々は、もう気が遠くなるほど遠い過去なのだと思い知らされるようで。
「カイ!」
お前が俺を呼ぶ。快活に、嬉しそうに。
「カイ・・・。」
俺を抱く時は、熱く・・・低く・・・俺の名を呼ぶ。
様々な感情を込めて俺の名を呼ぶ。
馬鹿な奴だから、その声を聞いただけで、顔を見ただけで
何を考えて、どんな感情で俺の名を呼んだのか、手に取るようにわかる。
もう一度・・・・その声で俺の名を呼んでくれ。
もう一度・・・・お前の唇で、俺の名を奏でてくれ。
もう一度・・・・・・・・。
もう、二度と帰らない・・・帰れない・・・・・・。
「やっと感情を顕にしたな。」
「・・・・?」
「それでいいんだよ。どうせお前、タカオと別れてから、ちゃんと泣いてないだろ。」
そう言われて。
俺は初めて瞳の奥が熱くなっている事に気づき、そして両の頬に流れる涙に気が付いた。
「たまには泣く事も必要さ。人間はそんなに強い生き物じゃない。」
「俺、は・・・・。」
レイは俺の中の自身を引き抜いた。こいつは達してもいないのに。
そしてレイは俺の肩を抱きながら俺の体を反転させて、つまりレイと向かい合わせの体勢となった。
俺はこの時どんな顔をしていたのだろう。
酷く・・・情けない顔をしていたと思う。
レイは苦しみを押し隠すような複雑な微笑みを浮かべながら、俺を胸に抱いた。
「泣けばいい。涙が枯れるまで。
涙と一緒に押し流してしまえ。俺がずっと抱いててやるから。」
「なに、を・・・偉そう・・・に・・・・。」
いつものように悪態をつこうと思ったのに。
溢れるものを押し止めることが出来なかった。
それからは。
俺はレイの胸で、文字通り涙が枯れるまで泣き続けた。
そして長い時間が流れた。
「・・・・すまなかった・・・。」
レイの胸に手をついて少し距離を取って、ようやくそれだけをバツが悪そうに言った。
思い切り泣いたら、レイが言うように少しスッキリしたような気がした。
「気分はどうだ?」
「・・・顔を・・・洗いたい。」
「そういう事じゃなくて・・・。」
レイは苦笑した。
が、しかし。
「・・・ま、いいか。洗って来いよ。サッパリするぜ?」
俺の気持ちはレイに伝わったようだ。
コイツの笑顔が清々しく見える。
社長室に設置されている洗面所でバシャバシャと顔を洗う。
冷たい水が火照った顔に心地いい。
タオルで拭い、改めて鏡の中の自分を見た。
まだ目の周りが腫れている。酷い顔。
「ふ、ふふ・・・ははは・・・・・。」
醜い顔。醜い俺。
いつまでも子供の頃の恋が忘れられずにいるくせに結婚などしてしまい
そしてそんなものは当然、上手く行く筈もなく。
今、俺は幼馴染に抱かれて泣き腫らして。
無様だ・・・・あまりにも。
「カイ・・・。過去を捨てろ、だなんて事は無理な話だって分かってる。
でも過去に囚われ過ぎたらお前の負けだ。人生、なるようにしかならないものさ。」
そう言ってニッコリと笑うレイ。
「・・・お前が言うと、酷く無責任に聞こえる。」
「酷いな〜。俺だって色々あるんだぜ?」
「何があるんだ。長の役目をライに任せきりで、お前は世界中でやりたい放題。
貴様より自由奔放な人間を、俺は知らん。」
「俺から自由を取ったら、生きていられる自信がない。」
レイは苦笑した。
「俺は真の根無し草の風来坊さ。幼い頃、初めて村を出て、その時、心からそう思った。
世界を旅して武者修行で己を磨くのが一番、性に合ってる。
で、そのついでに、ちょっとだけ遊ぶ!」
「貴様の場合、遊びの方が目的に見えるが。」
「どんな時だって楽しみは必要だろ?」
そう、猛然と抗議するレイを見て。
俺は自然と微笑んでいた。
「お前は・・・・あの頃からちっとも変わらないな。」
「そうさ。俺は一生このままだ。そして一生・・・お前が好きだ。」
レイがまた俺を引き寄せた。
金色の瞳が優しく微笑んでいる。美しい・・・満月のような、その瞳で。
「そうやって・・・人の弱みに付け込んでくる、最低な所も・・・ちっとも変わらん。」
唇が近づいてくる。
「悪かったな、最低な奴で。」
「・・・。お互い様だ。」
そして再び触れ合った。
レイは、これは「遊び」だと言う。
レイは誰だって抱く。
迫られれば相手が誰であろうと
男だろうと女だろうと、年齢差があろうとなかろうと、大抵は拒まない。
そういう、とんでもない男だ。
レイは自分の魅力を知り尽くしていて、それを更に魅せる手段を心得ている。
呼吸でもするように、それを自然にやってのける。
だから男も女もつい、レイに魅せられてしまうんだ。
しかしそんなレイも情事に及ぶ前には必ず「遊び」であると、「本気ではない」と示唆しているらしい。
レイに言わせれば、それは精一杯の誠意であり、本気ではないという条件の元での合意の上での情事だと。
本当に、つくづくとんでもない野郎だ。
しかし、そんなレイにも真に欲する奴がいる。
子供の頃から・・・俺は何度もそれを思い知らされている。
だからこそ、敢えて「遊び」だとレイは俺に言う。
これは・・・・レイの優しさだ。
俺の感情を解放させるために、この馬鹿は・・・・。
それから。
時々レイは俺の前に現れるようになった。
会社だったり、火渡邸であったり。
どこで調べたのか、出張先のホテルに現れた事もあった。
頻繁に、という訳ではなく、忘れた頃にふらっと・・・俺の前に現れた。
俺の心が荒みかけた時、実にいいタイミングで現れる。
仕事だけの生活は、周り中全てが敵だった。
隙を見せたら、すぐに足を掬われる。
頼れる者など誰もいない。
誰に心を開く事もなかった。
荒んでいく心。
それでいい、と思っていた。
俺は幼い頃から最強の称号を欲していてた。
その為には仕事においても、なんにおいても
自らの身を修羅に置く事、孤独である事はむしろ望ましいと信じていた。
子供の頃から、ずっと。
人と心を交わすことなど
タカオと別れたあの時に
タカオが結婚したと知ったあの時に
そして俺自身も結婚などしてしまったその時に
何もかも全てが終わったんだ、と。
しかし・・・一度、人と心を交し合う事を知ってしまうと
時々、無性に哀しく、虚しくなる事がある。
ただただ・・・切なく胸が痛い・・・そんな事がある。
そんな時に大抵、レイが俺の前に現れるのだ。
「貴様・・・俺を、監視でも・・してるのか・・・・。」
「何故、そんな事を聞く?」
レイは自身を俺の中にグイッ、と押し付けながら耳に直接言葉を吹き込んだ。
「・・、・・・・っ!」
震えが走る。
レイが突き入れるそこから。甘く囁かれる耳から。
答えられず、窮していると。
「・・・わかるんだよ。お前の事は。」
そして唇付けて。
唇と、絡まる舌の合間に
「どんなに遠くにいても、地球の裏側にいても・・・いつだってお前の事ばかり考えているから。」
「・・・・・。」
予期せぬ答えに、思わず差し出していた舌を止めた。
すると容赦なくレイがその舌を絡め取る。
「お前はお前の道を進めばいい。
お前は一人じゃない。いつだって・・・俺が傍にいる。」
俺は思わず瞳を見開いた。
罪の意識が、かすかに首をもたげた。
タカオは・・・・。
いつもは馬鹿で鈍感なくせに、俺の事には敏感だった。
俺自身ですら気付いてもいなかった事に気付き
そしていつもその手で救い上げてくれた。
俺を・・・抱いてくれた。
しかし、今、俺を抱いているのはタカオではない。
それが無性に・・・・哀しかった。
するとレイは綺麗な微笑みを浮かべた。
「いいさ、気にしなくたって。俺が勝手にしていることだ。」
そして俺に考える隙を与えないように、激しく突き上げた。
レイがソコを通り過ぎて、そして最奥の秘所を突く。
激し過ぎる、切羽詰まった気持ちよさがたまらなくて、気づけば俺も腰を動かしてレイの動きに応えていて。
レイの背に腕を回す。
レイも俺を抱きしめて唇付ける。
どこもかしこも繋がって、求めて求めて・・・全身に甘い電流が駆け巡り
ビクッ・・ビクビク・・ッと痙攣を起こし・・・そしてもう一度強く強く抱きしめあう。
事後のけだるい時間。
人肌が心地いい。
俺にとってレイとの時間は、いつの間にか気を緩めることができる貴重な時間になっていた。
しかし、このままズルズルとこんな関係を続けても良いのか。
そんな気持ちを常に心の奥底に抱えながらではあったが。
レイは俺に何も求めない。
・・・・セックス以外は。
レイは俺を好きだと言うが、俺にレイを見てくれ、とは言わない。
恐らくこの先も俺の心まで求められる事はないだろう。
俺はレイに甘えている。
何も要求しないレイに。
何も要求しないのに、俺にぬくもりを与えてくれる。
そのぬくもりに・・・・安らいでいる、癒されている俺がいる。
レイが何も言わないのを良い事に。
心の中の漆黒の闇が
レイに抱かれるたびに、深くなる・・・そんな気がした。
・・・・・・。
俺は、こんな事になろうとも
木ノ宮への想いを、どうしても断ち切る事が出来ない・・・・・。
俺はいつから、こんな卑怯者になった・・・・・。
どう見ても、レイカイですね・・・すみません。
ウダウダし過ぎで、すみません!
まだまだウダウダします・・・ごめんなさい!!
(2016.6,15)