そんなある日の事だった。

情事の最中、かすかな物音がしたのにレイは気づいた。
最も盛り上がっていた時だったので、カイは気づかなかったようだ。


何年振りだろうか。
その日、タカオはカイに会いに来ていた。
実はタカオも自らの結婚生活に限界を感じていたのだ。

「いつまででもいいから、待つ」と取次の者に迫り、カイの自室に通された。
召使達にとってタカオはカイの旧友であると共に、ベイブレード界の英雄くらいの知識しかなかったものの
親交がある事は分かっていたので、それなら大丈夫だろう、と思ったその日の当番のメイドがカイの自室に通していた。
そして待つこと・・・・どれくらい経った頃だろう、扉が開かれた。
「カイ!」と声をかけようとしたら、カイはレイと一緒だった。
タカオはとっさに物陰に隠れてしまった。
何故、と言われても自分でもよく分からなかった。
気づけば隠れていた。
そして一部始終を見てしまったのだ。

タカオは・・・・喘ぎ声が大きくなったあたりを見計らって、そっと部屋を立ち去った。
レイは最初から侵入者の存在に気づいていた。
それが恐らくタカオであることも。
そしてタカオが立ち去ったその時も気づいた。

レイにとっては後味の悪い情事となった。




タカオが火渡邸の玄関に向かって足早に歩いている時にタカオを案内してくれたメイドに出会った。
「あ、木ノ宮様、カイ様にお会いできましたか?」
「あ、ああ。会えたよ。ありがとう。」
メイドはタカオの返事を聞いて、ホッとした表情をした。
タカオはふと思いついて、さらに言葉を続けた。
「あのさ、悪いんだけど、今日の事はカイには詮索しないでくれないかな。」
「・・・?」
「いやその・・・ちょっと喧嘩になっちゃってさ。あいつも思い出したくないだろうし。」
すると、そのメイドはニッコリと笑った。
「わかりました。早く仲直りなさって下さいね?」
「うん、ありがとう。」
嘘の言葉を信じてくれて、今度はタカオがホッとした。
あの場にタカオがいたなどとカイに知れたら・・・・さすがに気分が悪いだろう。


火渡邸の門を出ると、タカオは逃げるように走った。
一刻も早く、ここを離れたかった。





カイとレイが。
カイとレイが!

この二人の関係を知らなかった訳じゃない。
子供の頃から気づいていた。

でもカイは俺の事を好きだと言ってくれた。
俺とそういう関係になってからは、レイとは切れた筈だ。
なんで今更!
俺と別れたから?
俺が結婚したから?
あの時、なんでカイを手放した、俺は!
結局、結婚なんて上手くいかなかった。
ヤケクソの結婚だったけど、一応気に入った人を選んだのに。

・・・・最初のうちは義務感で抱いた。
でも、今では触れる気にもなれない。
嫁さんの方も馬鹿じゃない。
俺の気持ちには気づいていたようだ。
そしてだんだん・・・・亀裂は取り返しがつかない程になっていった。


心は、体は、行動は正直だ。
俺はカイが好きだ。
カイ以外は・・・・抱きたくない。

彼女は暫く前に、マコトを連れて実家へ帰ったきり。
俺は気づけばカイの家に向かっていた。


カイに会いたかった。
無性に。
ただ、会いたかった。

何を話そうか、なんて考えてなかった。
カイがまだ俺を想っていてくれるかどうかなんて、分からなかったけど。
でも会いたかったんだ。

で、結果はこれだ。

ハハ・・ハハハハ・・・・。
我ながら滑稽すぎて。

カイの夫婦仲がうまくいってないのは漏れ聞いていた。
だから、という自惚れが俺の中にはあったらしい。

カイは俺を、もう必要としていないのだろうか。
忘れて・・・しまったのだろうか。

カイと別れて、俺は無理やり結婚した。
そしてカイも結婚した。
お互いに子供までできた。

でも。
カイは俺を忘れたりはしない。
そう、信じていた、心のどこかで。
会えなくても、互いに結婚していても
想いだけは結ばれていると・・・固く・・・信じていた・・・・。


俺が愛したのはカイだけ。
カイだけを見つめて・・・カイだけを愛して・・・・・
そして幸せにしたかった、俺の手で。
だけど、それは叶わなかった。

それでも。
俺はカイを愛している・・・・。
俺はカイを忘れない・・・永遠に・・・愛している・・・・。


そして
カイは忘れない・・・俺を忘れない・・・
愛している・・・今も、これからも・・・愛している・・・ずっと・・・愛してる・・・・・。
そう信じていた・・・・信じていたかった・・・・・。



畜生!!
なんで俺はあの時、カイを手放した!!




・・・・・・。


今のカイにはレイがいる。

夫婦仲は、家族は相変わらず冷え切っているのだろうが
気まぐれに、しつこくない程度にレイが現れてカイを抱いてくれるなら
カイはその瞬間だけでも、自分の苦しみを開放できるだろう。

俺のように独占欲の強い奴じゃない、レイなら・・・・・・。
きっと新しい幸福を見つけ出すことができる・・・のかもしれない。


もう、俺の出る幕はない。
本当に、終わった・・・んだ・・・・・・・。

俺の夢・・・俺の愛・・・・・・
俺の・・生きる希望の・・全て・・・・カイ・・・・・。





幾筋もの涙。
流れるがままに・・・・・。



















季節は巡り・・・・・。

俺は正式に離婚した。
マコトは、俺が引き取った。
俺に似すぎていてマコトを見ているのが辛い、と彼女は言っていた。
マコトには申し訳ない事をしてしまった。

マコトに対する俺の、彼女の愛は真実だが
マコトが大きくなった時、自分は愛のない・・・いや、違うな。
彼女は俺を愛してくれた。
でも俺は彼女を愛していない・・・そんな夫婦からできた子供だと知ってしまったら
どんな思いをするだろう。
その絶望は計り知れない。

俺は・・・なんて事をしてしまったのだろう。




そんな時だった。
カイも離婚したと聞いた。
子供はカイが引き取ったらしい。
それはそうだろう。
カイの結婚の最大の目的は、火渡の跡継ぎを作る事。
たった一人の子供は息子。
これを火渡が、何よりあの総一郎が手放す筈がない。
奥さんがどんな気持ちだったのかは全く分からないけど。

カイの息子、ゴウも絶望しているのだろうか。
昔のカイのように、全てが敵だと思っているのだろうか。
父親であるカイの事も・・・・そう、思っているのだろうか。






マコトが生まれた朝。
初めてマコトを腕に抱いたあの日。
こんなに小さいのにずっしりと重たくて、あたたかくて、やわらかくて。
タカオの腕の中で、小さな手足を必死にもごもごと動かしていた。
その小さな小さな手にタカオが指で触れると、マコトはタカオの指をギュッとつかんだ。
その力に・・・・胸の奥底から、無条件の無償の愛が溢れ出してきたことを、今もハッキリと覚えている。

幸せに・・・・平凡でいいから、ただ幸せになって欲しい、と願った・・・遠いあの日。


なのに・・・・。


命はいとも簡単に生まれてしまう。
だが・・・生命だ。
神の領域だ。
それをこんなに簡単に・・・俺は・・・俺達は・・・・・・。








無為に日々だけが過ぎていく。
何も感じないまま。
喜びも、悲しみも、何も、ない。


















空と、この道 4→

裏ベイ部屋へ



暗いですね・・・。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました!
(2016.7.22)













PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル