don't want to kiss
「バニーちゃん、それ、好きだよな」
ベッドの縁に座ってバーナビーを見下ろし、虎徹は嬉しそうに笑う。おそらく揶揄も含められているだろうそれに、なぜかじわりと体が熱くなった。マゾヒストの気はないと思っているのだけれど、彼とする行為の最中はほんの少し意地の悪い虎徹の行動が愉悦に感じる。
「ん、……ふ」
じわじわと熱を持ち固くなるそれに舌を這わせ、なるべく奥まで口のなかに含める。唾液を一杯にからめるように舌を動かすと、ぐちゅぐちゅと卑猥な音が口からこぼれる。
こんなふうにしろと、はじめは注文が多くて仕方なかった口淫に、何も言わずに頭を撫でてくれるようになったのはごく最近のことだ。
歯は立てるなだの、もっと舌を使えだの、俺のちんこはキャンディじゃねえだの、そんなこと、初めての経験だというのにうまくできるはずがないと、無茶を言う虎徹のそれを食い千切ってやりたい気持ちを押さえて言うとおりに動かした。
そうすれば、努力の賜物と言えるだろうか、うまくなったと誉められるようになった。
「ん、バニーちゃ、……そこ、イイ……」
先端を舌で擦るように動かせば、目を閉じた虎徹がはぁと熱く息を吐く。髪に差し入れられた手がぎゅっと頭を押さえ付ける。
勃起した虎徹のペニスは奥まで飲み込んだとしても、すべて口の中には収まり切らなくて、根元は手で擦るしかない。
たらりと、溜まった唾液をこぼして潤滑油代わりにする。そうしないと引っ掛かって痛いと虎徹が嘆くから。
「そ、……っは、バニー、きもち」
バニーバニーと、普段からよく呼ばれるバーナビーの愛称は、セックスの最中は殊更多くなる。
やさしい声でバニー、熱い吐息混じりにバニー、切羽詰まった声でバニー、ねむたそうな声でバニー。
勝手に付けた愛称でなんて呼んで欲しくないのに、そう思っていたこともあったが、彼の声は何故だか胸に暖かく響く。もう、そう呼ばれないと違和感が走る程度には定着してしまった。
「な、バニー……、もっと」
くわえたまま、ちらと彼を見上げてみれば、ゆるく目尻が垂れ下がった彼の目は細められてバーナビーを見つめていた。
シャワーを浴びてろくに乾かしもしていなかった髪は、前髪もすべて後ろに撫で付けてあったのにそれが今は乱れている。
好きな顔が、妖艶な色気を纏ってバーナビーに快感を請う。まさに、激しく自分を求めて後ろにそれを埋められているときと同じ顔をしていて、バーナビーのペニスは先端からじわりと先走りを滲ませ、後孔はひくひくと収縮した。
「ん、どした」
ああ、早くこれを僕の卑しく疼く孔に差して、ひどく擦って、奥をえぐって、あなたで満たしてください。
「バニーちゃん、すごいやらしい顔、してる」
ふっと、それこそ『やらしい顔』で笑った虎徹が、汗で張りついたバーナビーの額に張りついたブロンドを剥がす。
はたりと、彼に見とれていた自分を叱咤し、それよりも彼を満足させたいという感情に従い再び頭を上下させる。
「ふ、……っ、上手」
雁首を舌先で舐め、唇で幹を擦る。
根元を擦る指に触れる少し湿った下生えの感触さえ、今はいとおしい。
「っく、バニー、出そう……出していい?」
かくかくと、首を縦に振り、更に咥内で虎徹を吸い上げる。
何をしてもイイと言ってくれるから、何をするのが一番気持ちがいいのかわからない。それでもありったけの自分にできる、彼が気持ちいいであろうことを必死でやった。
「……っ、ばに、受けとめて……っ」
もう一度、かくかくと首を動かした、すぐ後に咥内に生ぬるい液体が流し込まれる。握ったペニスの中を、精液が流れる感覚は少し不思議だ。
「絞って……、」
あらかたの熱を放出した虎徹は、吐息をこぼしながらバーナビーの頭を撫でる。
バーナビーは、最後の仕上げと言わんばかりに尿道内に残る精液を絞りだすように指を動かした。
「はぁ、……ありがと。バニー、……口、開けて?」
たっぷりと咥内に放出された精液を、どうして見たがるのかわからないけれど、いつも虎徹はそう言う。
口を開けてそれを見せれば満足そうに笑って、頬を撫でた。
「バニーはいい子だな、飲めるか?」
少し眉間にしわを寄せ、それでも何回かにわけてそれを飲み込んだ。味ものどごしも、いいとは思えないけれど、虎徹が好きならば。
「おいし?」
「まずいです」
素直に言えば、彼はまた楽しそうに笑った。
「でも好きだろ」
「別に精液自体が好きなわけじゃありませんからね」
「嘘。いつも自分から欲しがるくせに」
「っ、黙ってください!」
まだ熱く燻る体を立ち上がらせて、彼に口付けようとしたら、その前に額に口付けられ、抱き締められてふたりでベッドに倒れこんだ。
「バニー、身体熱いな」
ちゅ、ちゅと首筋や鎖骨に虎徹の唇が触れて、もっと身体が熱くなる。
本当は唇に触れてほしいのにと思ったことはすぐに頭の隅に追いやられてしまった。
「アッ、ん……」
ほとんど触れられていなかった身体は、ほんの少しの刺激だけでたやすく悦びを感じてしまう。
「バニーの身体、すげーいやらしくなってんな」
それが、触れられずともつんと尖った胸の飾りのことを言われたのか、期待に震える濡れたペニスのことを言われたのか、それとも別のどこかのことを言われたのか、はやくはやくと求める頭では判断がつかなかった。
「ああっ、や、それっ……や、」
ふうっと乳首に息が触れただけでびくりと身体が跳ねた。気配で虎徹が笑ったのがわかった。
いいから、笑ってもいいから、早く。
「こてっ、さ……さわって、そこ、も、やだぁ……っ」
「バニーちゃん、かわいい」
ちゅっと乳首に口付けられて、暖かな舌の温度を感じる。待ち焦がれた刺激にざわりと全身が震えた。
空いた反対側の尖りは指先でくにくにと弄られ、その快感にひどくされたい欲求が募る。
もぞもぞと擦りあわせていたその脚は割り開かれて、そこに指が這った。
「ああ、あ、んぅ……ふあっ」
「イったみたいにドロドロだけど?」
また、からかわれた。
唯一身につけていた下着は、先走りで既にぐっしょりと濡れている。ゴムの部分を少し引っ張り中を覗いた虎徹はニヤリと意地悪な笑みを浮かべている。
「バニーちゃんってば、俺のくわえながら俺に突っ込まれること想像してたんだ?」
「ン、う、ぁんっ!……こて、っひ」
意地悪だと罵りたいのに、先端をぐりぐりと刺激され口からは喘ぎしか出てこない。
「……かーわいーの」
ぼそりと呟いた虎徹の言葉はバーナビーには届かなかった。
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