魂食い











「こうして見ると、ひろも普通のサラリーマンみたいだな」

 ベッドの縁にどっかと腰掛けた赤木がひろゆきを見てそう言った。

声をかけられたひろゆきが苦笑する。ひろゆきは形のいいダークグレーのスーツを着ていたが、そのスーツ姿はその表情と同じくどこかくたびれている。

一日が終わり、乱れて直していないボサっとした髪、少し生えかけた無精ひげ、銀縁の眼鏡。

仕事帰りの、どこにでも居そうな何の変哲も無いサラリーマン。それが今のひろゆきだ。

ひろゆきは、スーツの上着とスラックス、そして下着を脱いだ。脱いだ服をめんどくさそうに側のソファに掛け、少しよれた白いワイシャツとネクタイ姿になる。

「『みたい』なんじゃなくて、普通のサラリーマンなんですよ」

 それ以上脱ぐのが面倒だったのか、その奇妙な姿のまま座った赤木の前に跪き、目の前のスラックスのファスナーを下げながらひろゆきがそう言う。赤木の顔を見ることが出来ずに、手元に熱中するふりをしている。赤木はひろゆきのさせたいようにさせてやっていた。

「この前会った時はまだスーツに着られてるって感じだったが、今じゃすっかり馴染んでる」

「当たり前です。あれから半年以上も経っているんですから。赤木さんどれだけ俺をほったらかしにしてると思ってるんですか」

「ククッ、悪りィ……、ん……」

 赤木の口からかすかな呻き声が漏れ、眉が顰められる。

 赤木の下着から取り出したまだ柔らかいペニスをいきなりひろゆきがくわえたのだ。


今日のひろゆきは会った時からどこか様子がおかしかった。夕食を共にしていてもどこか上の空で、目を会わせようとしない。

今も、さっさとセックスにもちこんで、赤木の鋭い観察眼から逃げようとしているのが丸わかりだった。

「ククク……。普通の……、サラリーマンが、こんな事、するか?」

 からかうように笑いながら、赤木はそう言って自分を足の間に蹲まって愛撫するひろゆきの頭を撫でた。

ひろゆきは赤木のペニスをくわえ込み吸い上げていたが、それをやめ、亀頭の先を舌でちろちろ舐めあげる。愛しそうに軽くキスをし、数度べろりと大きく舐め上げた後、赤木の言葉に抗議してほんの少しだけ先端に歯をたてた。

「っち……。ひろ、歯ぁ立てるな」

 ほんの少し……とは言っても、敏感な部分だ。赤木の体が跳ね上がり、赤木はひろゆきの髪を掴んで顔を上向かせた。

「嫌な事言うからですよ」

 口元を、唾液と赤木の先走りで卑猥に濡らしながら、ひろゆきは表情も変えずに言った。いつものひろゆきと違う。やはりどこか機嫌が悪い。じゃなかったら不安なのかどちらかだ。

ひろゆきを掴みかねて赤木が黙っていると、またひろゆきは赤木のペニスを愛撫し始めた。

先ほど歯を立てた場所を、動物が傷ついた場所を癒すようにぺろぺろ舐めている。

相変わらず赤木の顔を見ないまま、唾液と先走りの液でぬらぬらと濡れた赤木のペニスを手で扱き上げると、くちゅくちゅと卑猥な音がホテルに響いた。手で扱き、舌でカリや鈴口を執拗に舐める……という愛撫を繰り返していると、それに応えて赤木のペニスが硬度を増し、隆々と立ち上がってくる。だが、ひろゆきの愛撫に反応する肉の姿とは裏腹に、ひろゆきを見下ろす赤木の表情は冷たい。

ひろゆきは相変わらず愛撫に熱中し(またはそのフリをし)左手と口唇でペニスを愛撫している。しゃがんで大きくM字に足を開き、右手では自らのペニスを扱く。

ひろゆきのペニスも赤木と同じく大きく立ち上がり反り返っていた。申し訳程度にワイシャツがひろゆきの痴態を隠していたが、ひろゆきの自分のペニスを扱く仕草が大きくなるにつれ、裾がめくれて、ひろゆきの手が赤い肉に絡みついて上下するのがちらちらと見えた。

「服、汚すぞ……」

「いいんです……っ!」

 赤木の呟きに、反抗期の子供のような声を上げてひろゆきはそう言った。赤木の忠告をわざと無視するように、ひろゆきの行為は一層激しくなった。爆発寸前の己から手を離し、コンドームを被せた指にたっぷりローションを塗りつけ、アヌスをいじりだす。

「ハアッ、あ、……っは!」

 狭いなかに指をめり込ませ、円を描くようにしてそこをほぐす。指を伸ばし、体内を探って指先に力を入れた。自分の体だから、どこにどれ位力を入れれば快楽を得られるのかよく知っている。

「うぐ……っ、ひぁ……」

 快感に口から透明な涎を垂らし、空ろな顔で喘いでいる。快感に顔を仰け反らせた勢いで銀のフレームの眼鏡がずれたが、直そうともしない。

まるで赤木に痴態を見せつけるように、ひろゆきは足を開いていた。赤木の目前で、ひろゆきのペニスが張り詰め、たらたらと透明な欲望をたらしている。

右手の指を自分の体に埋め、まるで義務のように左手で赤木のペニスをぎこちなく扱く。

いつもなら赤木が丁寧にしてくれる挿入前の愛撫を、今日はひろゆきが有無を言わさず自分で済ませた。目の前に赤木が居るのに、ひろゆきは赤木を見ていない。赤木を道具にしてオナニーをしているのと同じだ。

 だが、赤木は怒る気になれない。

 ひろゆきのその痴態が、萎えそうになる自分を必死で誤魔化しているようでどこか痛々しかったからだ。

 気が済むまでやりゃいい……。

 そう赤木が心の中で呟くのと同時に、ひろゆきがゆらりと立ち上がった。

 赤木の上着を脱がせ、シャツのボタンを全て外し、はだけた胸に数度キスを落とす。赤木さん……と声をかけて腰を浮かさせ、スラックスを下着ごとめんどくさそうに足元まで引き摺り下ろした。

 新しいコンドームの袋を破り、赤木のペニスに手早く被せてローションをぶっ掛ける。

 一連の準備を淡々とこなし、赤木もひろゆきに何も言わない。

 無言なそれを許可と取ったのか、ひろゆきはベッドサイドに腰掛けている赤木の上に向かい合って跨り、無言で赤木のペニスを掴んで狭い入り口へあてがう。

ゆっくりと腰を落とすと、ひろゆきの口から低いうめきが漏れた。

「くぅ……」

「無理するなよ。まだキツイじゃねえか」

「あっ……」

 赤木の言葉を無視してひろゆきは腰を落とし、アヌスに赤木のペニスを飲み込んだ。深く入った瞬間の鋭い痛みにひろゆきが小さく悲鳴を上げ、びくっと体を震わせる。

 くそ、言わんこっちゃねえ。

 ひろゆきの体が傷ついたのに気がつき、赤木が内心でそう呟いた。ひろゆきが無理に自分の体内の奥深くヘ赤木をくわえ込んだ痛みや快感で一瞬動きが止まっている隙を見て、両手でひろゆきの腰を掴んで揺さぶる。

「あ、あ、あ、っつ……、そんな、動かさないでくださ……、赤木さんっ!」

「黙れ……」

抗議の声を上げるひろゆきを睨みつけ、その眼力だけで抵抗を封じた。

このまま自暴自棄のひろゆきに好きにさせていたら、どれだけ自分の体を傷つけるか判らない。自分が主導権を握り、ひろゆきが投げやりになって自分の体を傷つけるような事をさせないつもりなのだ。

ぐっと赤木が腰を突き上げ、ひろゆきのアヌスの奥にペニスを差し込むと、ひろゆきが悲鳴を上げた。

「あっ、あっ、ううっ、す、すいません、あかぎさ……」

 赤木の意図を察し、さすがにひろゆきが涙目になって赤木にそう謝る。

「何で謝る?」

 ひろゆきが何が言いたいか判るくせに、赤木はわざと判らないふりをしてひろゆきを苛める。

「拗ねた態度取って、すいま……せ……、ひッ、あ、ああっ」

「フフ、ひろ、正直に謝るあたりかわいいじゃねえか」

「久しぶりに……会ったのにっ、ほんとに……っ、ご、ごめんなさ……いっ」

「黙って腰振りな。悪いと思ってるならいい声で鳴け」

 拗ねた態度を取った事を謝るひろゆきを、赤木は容赦なく責め上げる。先ほど自分の手でしていた時とは比べ物にならないほど強い快楽を与えられ、意識が飛びそうだ。

 赤木の腰の動きは容赦なかった。ひろゆきに快感を適度に抜いて長く楽しむ余裕など与えない。ただ闇雲に突き上げるのではなく、赤木のものはひろゆきの感じる部分を的確に擦り上げ、突いてくる。

「ひあっ!」

 赤木の指がひろゆきの充血した乳首を掠め、思わず女のような声が出た。

 赤木の手が、ひろゆきのわき腹や太股の裏を掠めてゆくたびに、ビクッ、ビクッと体を痙攣させる。

 久しぶりに与えられる赤木の愛撫に、体中が喜んでいるのが判る。より敏感になって、赤木の与える全てを余さず受け取ろうと貪欲になっている。

「いいんだな、ひろ?」

「あ……、は、はいっ。す、すごく」

 はっ、はっという荒い息の合間に、律儀にそう答えたひろゆきに赤木が満足そうに唇を吊り上げた。

「どうして欲しい?」

 意地悪くひろゆきの耳元で囁くと、顔を上気させ、かすかに開いた唇の端から涎をたらしていたひろゆきが、とろりとした目で赤木に言った。

「噛んで」

「あ?」

「噛んで……。いじって下さいっ、乳首。い、痛くしてもいいですからっ!」

 羞恥心と自尊心が強く、普通なら絶対そんな事を言わないひろゆきが、貪欲に快楽を欲しがり、恥も外聞も無くそう口にする。素面に戻ったら、絶対言ってないと言い張りそうなセリフだ。

「ククク、好きだな」

 ひろゆきの理性を吹き飛ばすほど乱れさせた事を確認して、赤木が楽しそうに笑う。

「じゃあ、可愛くおねだりしてみな」

 赤木がそう言うと、ひろゆきが一瞬困った顔をした。そうしている間も赤木はひろゆきを責めつづけ、ひろゆきは、「んっ、んっ」と小さく声を上げながら暫し迷っていたが、やがて赤木の首に両手を回した。

 顔を赤くし、途方にくれたような目で赤木を見る。赤木もひろゆきの目を見返すと、ひろゆきが赤木に口付けた。


 ひろゆきが赤木の口腔におずおすと舌を入れ、赤木の舌を求める。ぎこちなく赤木の舌にと自分の舌を絡ませると、キスの快感に段々我を忘れ夢中になる。舌が歯列をなぞり、唇を舐め、頬の内側の敏感な粘膜を掠める。最後には、赤木の口の中を舐めまわすほどに激しく口付ける。

 ようやく唇を離すと、唾液が名残惜しげに糸を引く。赤木がひろゆきの唇の端からこぼれた唾液を指で拭い、ひろゆきの口元へ持っていくと、ひろゆきは甘い蜜でも味わうように赤木の濡れた指をしゃぶった。

「お、お願いです」

 羞恥と快楽に顔を真っ赤にし、ひろゆきが精一杯になってそう言う。

「気に入ったぜ」

 そう言って赤木の指がひろゆきの充血した乳首を親指と人差し指で摘み上げた。くりくりと硬くなった乳首をいじると、ひろゆきが高く鳴く。

 片方を指でいじり、もう片方を口に入れ嬲る。いじって、舐めて、吸い上げる。軽く歯を立てると、ひろゆきが暴れた。

「く……。んぁぁああっ!」

 悲鳴を上げながら、あまりにも強い快楽に逃げようとするひろゆきをがっちりを捕まえ、乳首をいじりながら、ベッドのスプリングを上手く使い、深く、抉るように、角度を変えた挿入でひろゆきを翻弄する。

赤木のリードにあわせ、ひろゆきの腰が自然と動く。まるで赤木に操られでもしているかのように。

アヌスを付かれながら、ひろゆきは自分のペニスを夢中で扱いた。

ずれて役割を果たしていない眼鏡が床に落ちても、ひろゆきはそれに気がつきもしない。

「あ、赤木さん、好きですっ! 凄く、凄くッ!! もっと、激しくしてくださいッ 壊れてもいいから、もっともっと赤木さんが欲しい!」

赤木は、チキン・ランでアクセルをいっぱいに踏んで崖から勢い良く飛び出すように、手加減を一切せず快楽をひろゆきに与え続けていると、ひろゆきがいやいやと首を振って叫んだ。

「赤木さん、もうだめです、だめです!! 駄目……ッ!」

「吐け、ひろ、吐き出しちまえ、我慢するな……っ!」

「はい……っ、うあ、で……、出ま……す……っ!!」

 赤木の巧みな動きに、ひろゆきは強い射精感に煽られていた。アヌスを責められ、自らの手で自分のペニスを扱く動きが早まる。

「あう……っ、あかぎさん……ッ!?」

 ドクン……とひろゆきのペニスが脈打った。射精の瞬間、赤木が、ペニスを握ったひろゆきの手ごとひろゆきの側に押しやる。大量の白い液体がひろゆきめがけて飛んだ。

「はぁ……、ん……」

 射精の快楽と満足感に体を震わせていたひろゆきだったが、自分の顔とワイシャツにたっぷりとかかった白いものに、赤木が服を汚すぞと言ったのに無視したのを根に持っている……ということを知った。






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