story of FINAL FANTASY [

最後の言い訳

















<chapter1>





21日 18:00



「待って…待ってよスコール!」

人にぶつかりそうになるのも構わず…人気の少ない夕暮れ押し迫る廊下を走り抜ける。
追い掛けているのは細い背中。
それが駐車場に入って行くのを見つけた僕は有りっ丈の声で叫んでその後を追った。



行かせてはいけない。



僕の中の気持ちはそれだけ。
駆け込んだ駐車場の硝子越し…今、正に車に乗り込もうとしている無機質な冷たさを見せる横顔を引き留める為にエンジン音が響いたスペースを横切って出入口に立ち塞がる。
ギャッとタイヤが鳴く音がして…フロントガラス越しのスコールの鋭い眼差しが僕を威嚇するように睨んだ。

「退け」
「嫌だ!退かない!」
「…轢くぞ」
「どうしても行くって言うなら僕を轢いて行きなよ!お願いだから説明してくれないかな?どうしてスコールが?!」
「…」

アイドルの音が響き続ける。
もしかしたら本当にスコールは僕を轢いてでも行くかもしれない。
それでも、問わずに居られなかった。
硝子越しの顔が苦しそうに眉間に皺を刻んで僕から目を反らす。
僕等はどっちも動かない少しでも動けばこの均衡は崩されて、スコールは行ってしまう。
それだけは絶対に避けなければならない事態だったから。

「他にも適任者は居た筈だよ?なのにどうしてスコールが行くんだい?!」

荒くなってしまいそうになる口調を必死で殺して。
俯いたまま動かない頭を見ている。

その顔がゆっくりと正面を向いた…。

心を抉られるような衝撃。
普段だってそれは確かに整って居るが故に冷たさの目立つ顔だけど…今のスコールはまるで感情の無いアンドロイドの様。
それでも話しを聞く気にはなってくれたのか…車のエンジン音は小さな唸りを上げて切られて。
思わずフーッと溜息を漏らし、まだ車からは降りようとしないスコールの動きを警戒して進路を阻みながら横に回る。
真横に来ても、その横顔は真っ直ぐ前を向いたまま動かない。

「スコール…」
「…SEEDは何故と問う勿れだ」

冷たい横顔が漸く口にしたのはそんな言葉だった。
思わずカッと頭に血が昇る。

「何言ってるんだよ!まだ正式な決定もされてない物を勝手に自己判断で飛び出して来たのは君だろ?!」
「あんただって知ってるんだろ?…時間が無いんだ」
「解ってるよ!だけど、だからってどうして君が行くの?!」
「俺が適任者だ」

あくまでもこっちを見ない横顔。
何でもない事の様にボソボソと綴られる言葉。
それが、耐えられないくらいに腹立たしい。

「誰がそんな事決定するんだよ!君が勝手に思い込んでるだけだろ?!第一、どうして一人で行こうなんてそんな無茶するんだ!」
「…」

沈黙が重くのしかかっていた。
不意にハンドルを握っていた手が…皮同士が強く擦れ合うギリ…という音を立てて。

「…だったら…」

ぽつりと呟いたスコールがゆっくりとこっちを向く。
その瞳はさっきまで見せていた硝子玉の様に感情の無いものではなく、不安や悲しみや苦しみや…色んなものが綯交ぜになった色で。

「だったらどうしたら良いか教えてくれ…きっとあの任務は即刻受理される。そうしたらきっと学園長は俺を外す筈だ…」

いつもの凜とした声が不安に震えていて。
僕は掴んでいた窓枠を更に強く握り締める。
…僕だってどうして良いかなんて全然解って無い。
あんな任務を遣して来たガルバディア軍を憎いとも思った。
それでも知ってしまった以上はスコールを一人で向かわせる事など僕には出来ない。

「俺だけじゃ無い、あんたもキスティスもゼルもセルフィも…関係の有る人間は全員外される…」

もっともな意見だったし、僕だって解ってる。
任務に私情を挟む事は許されない。
例えそれが親兄弟であったとしても暗殺司令が出れば、殺さなければならないのがSEEDなのだから。

「だからって…君が一人で行って良い問題じゃ無い」
「だったら何人で行けって言うんだ?!多人数で行けば心の傷が浅くなるって問題じゃ無いだろ!」

呟いた僕の胸倉を掴んで。
怒りに満ちた瞳で睨み上げて来る顔がまるで助けを求めている様に見えて…堪らなかった。





「…うん、そうだね…だから二人で行こう」





僕が君を許すから。
だから二人で行こう。





驚いた瞳がすぐに苦汁に満ちる。

「駄目だ、俺一人で良い」

それでも意地になる様に一人で行くと言うスコールを納得させる為に。
ポケットに捩じ込んで持って来てしまったよれよれの依頼書と胸ポケットに入れてるペンを取り出して。
わざとスコールに見えるようにフロントガラスの上で広げて…派遣メンバーのサインの部分に先に書かれたスコールの名前の横に自分の名前を付け足した。

「これでもう僕も行かなくちゃ駄目だよね〜?」

依頼書を後からココに来た人が見つけられる様に地面に置いて、風が掠って行かない様に近くの小石と自分のペンを上に乗せた。

「何でだ…」

唖然と呟いたスコールの声に背中を向けたままくすっと笑って振り返り。

「SEEDは何故と問う勿れ、でしょ〜?」

わざと軽く両手を広げて肩も竦めてオーバーアクションでおどける様に切り返して。
まだ運転席で面食らったまま固まってるスコールを助手席に追いやってエンジンをかけた。



「じゃあ行こうか」

「…あんた、ちゃんと依頼書の内容は読んだんだろうな…」



押し殺すような声が尋ねて来る。



「うん、読んだ。だから行くんだよ」

「解ってて行くのか」

「それを言うならスコールも、だよ?…第一暗殺はスナイパーの仕事なんだから…僕は適任だよね?」



覚悟を決めて見たスコールは…今にも泣き出しそうな目をしていて…その瞳に囚われそうで慌てて正面を向く。
その時、ちょうど誰かが駐車場に入って来る気配が微かにして。
ガンッとアクセルを踏んでハンドルを操りながらガーデンを飛び出した。






「あんた…もう少し静かに発進出来ないのか?!」

急発進に構えてなかったスコールはシートに叩き付けられた様で、不機嫌そうに文句を付けて来る。

「出来るならそうしたかったけどね…緊急事態だったからさ〜」

小さく笑ってバックミラーを指差して教えた。
どんどん遠ざかるガーデンから飛び出して必死に何かを言いながら追い掛けて来る人影。

「キスティス…」

追いつけない事を悟った姿は呆然と立ち尽くして…僕等が見えなくなるまでそうして…。

「もうこれ以上、傷つく人を増やしたくない…そうだよね〜?」

スコールは何も言わなかった。



同じ気持ちだよ。
きっとキスティだって…みんなだって、解ってくれる。










車を走らせ続ける。
最近出来た大陸との緊急車輌専用道路を通ってティンバー領内のマンデービーチへ。
僕達は言わなくても何と無く解っていた。
ターゲットとなった人物はきっとそこに居る。
そこは…みんなの思い出が詰まった場所だから。

「…どこに行くつもりだ?」

あの後から助手席でずっと黙っていたスコールが不意に口を開いた。

「まずはF.H。そこから船を借りて行こうかな〜って思ってるよ」
「…そうだな」

やっぱりスコールも同じ場所を描いていた様で。
そうして短い会話があっさりと終わりを告げようとしたのを繋ぐ為に慌てて口を開いた。

「あのさ、作戦が有ったら聞かせてほしいんだけど…良いかな…?ほら、黙ってるのって何だか苦しくてさ〜…」

話していたとしてもきっと苦しい事に変わりはない。
それでも作戦を立てている間はそっちに集中出来る気がしてそう切り出した。
“ああ”と呻く様に答えたスコールは…ぽつりぽつりと作戦を口にする。

「ターゲットは解ってると思うが…グットホープ岬の南端に居る。次いでガルバディアからの通達で23日の04:00にガルバディア軍の狙撃部隊がグットホープ岬一帯に展開、ターゲットを確認、予定時刻に一斉攻撃が開始されるそうだ」
「えっ?!だって…それじゃ何でSEEDにわざわざ要請が?」

ちらりと横目で盗み見た顔は真っ直ぐに前を見ていて。
その顔はいつも見る“指揮官 ”の顔。
頼もしいけど冷たい横顔。

「誰だって自分の手は汚したくないからだろ…」

しかし吐き出す様に呟いた言葉には過分な程の見えない刺が有って。
それがスコールのやり切れない気持ちへの怒りだと解った。







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