<chapter4>





23日 01:24。
タイムリミットまで後2時間。



その光景は僕をひたすらに圧倒した。
月明かりが照らす大地の上で演舞を見せているかの様な動きで二人の姿が交差する。
青白い閃光の様に振り貫かれた刃が漆黒の刃で受け流され、返す軌道を反射的に大地を蹴ってかわす。
インカムから聞こえる短い息遣い。
ぶつかり合う金属音。
容赦無く引かれるトリガーが発する炸裂音。
直ぐ傍を擦り抜けて行く刃が空を切り裂く音。
信じられないスピードで詠唱される呪文で呼び起こされた魔法が牽制するように炸裂する。
離れた位置で見ているだけなのにその臨場感はインカムから伝わる音のせいで今まで僕が感じた事の無い世界に容赦無く引きずり込んでいた。

(これがスコール達の世界…)

その圧倒的な領域はどんなに僕が望んでも辿り着けはしない。
スコールがスピードで圧倒するとサイファーはパワーで押し返し、有り得ない角度からの攻撃を繰り出す。
それをスコールは計算された様に無駄の無い動きでかわす。
そんな戦いがもう3時間以上…途切れる事なく続けられていた。

(何で…)

信じられない位の精神力と集中力で互いの全力をぶつけ合う戦い。

(もう二人ともいいかげん限界に近い筈なのに…何でそんなに楽しそうなんだよ…)

そんな凄まじい戦いなのに…二人は酷く嬉しそうで。
まるで言葉を交わす様に受け答えする攻撃の応酬。
それはきっと二人だけの世界で…今この時に二人の中には僕の事など一欠片も存在しないのだろう。
悔しいのに…何故か羨ましかった。
そして僕は漸く気付いた。

(サイファーが想ってるだけじゃ無い…もしかしてスコールもサイファーの事…)

“これは俺の手で決着を付けたいんだ”

そうだとしたら。

“解った…なら決着を付けよう”

何と…悲しい決意だったのだろうか。

(君は…どんな気持ちでその言葉を口にしたんだろう…)

想い合う二人が今、僕の目の前で戦っている。
その光景は一枚の絵の様に綺麗で…。
始めから入り込む隙など無かった事を思い知りながら身体を起こそうとゆっくりと腕を地面に付けた時。
不意に背後で大勢の人間が動く気配がした。

(何…?!)

闇に紛れて動く統率の取れた人の群れ。
良く見るとそれはそれぞれの手に銃を携えていた。

(ガ軍?!だってまだ1時なのに!)

スコールの言っていた時間は4時。
予定よりも2時間以上も早い展開に僕は焦った。

(っ…スコールに知らせないと!)

ガ軍に見つからないように移動しながらポケットの中の笛を口に咥えて合図を送ると身を低くして素早く位置を移動する。
岩場の影に身を寄せて…こっそりと伺ったスコールとサイファーは僕からの合図に気付いていないのか…互いに向ける攻撃の手を緩めない。
その向こう側を動く黒い影。

(もう包囲が向こうまで…?!)

ちらりと見た時計が表示する時刻は01:47。
ガ軍の動きを見るとそう長い時間は残されてそうにない。

「貴様、そこで何をしてるんだ?!」

近くで僕に向けられた声に反射的に身を翻し、身体を出来るだけ低くして頭の中に有る狙撃可能ポイントに向かって一直線に移動する。

『ターゲットと戦ってる奴の他にもう一人居るぞ!』

ガ軍の各班に渡されてるらしいトランシーバからそんな声が響いた時。

『アーヴァイン!?』

インカムからスコールの声がして。

『よそ見してる暇有んのか!?』

さげずむようなサイファーの声が畳み掛ける様に響いて…。

『ぐぅっ!』

その声に思わず立ち止まって見たのは切り裂かれたらしい腕を押さえながらもサイファーを睨んでるスコールとその手前に立つ白いコートの横顔。

『見物人がえらく増えてやがるな…』
『…逃げろ』

スコールの祈り様に響いた声がインカムを通して僕にも届いた。



もう、スコールは戦えない。
サイファーもきっと逃げはしないだろう。



…今、僕に出来る事はきっとこれだけだ。
エクゼターに長距離狙撃用の弾丸を詰めて。
ガ軍に見えない位置に移動すると震える手で銃を構えた。

(僕が今、急所を外して撃てばサイファーを助けられるかもしれない…)

可能性は一体何%位なのかは解らない。
それでも今この状態でガ軍の一斉攻撃が始まったらスコールまで巻き添えを食う。
それだけは避けたかった。
スコールだけでも守りたい。
例えそれがスコールの意思に反するとしても。



しかし僕の決意を邪魔するように強烈な光が全方向からスコール達に向けて照らされた。
目を開けて居られない程の光の中で…目を凝らして見るといつの間にかサイファーの前に立っていたスコールが僕を見つめていて。

『撃つな。あんただけでも逃げてくれ』

耳元で響いた小さな呟き。
その身体がぐいっと後ろに隠されるように抱き込まれて。

『何してる…俺を撃つんだろ?だったら早く撃て…アーヴァイン・キニアス』

静かな声がインカムから流れた。
サイファーは気付いていた。
スコールが付けてるマイクの存在も…狙撃班が僕だという事も。
…もう僕には何が正しいのか…解らない。







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