「───班ちょ、たまには休まんとあかんよ?」 それからもまるで何も変わらなかったかのように穏やかなガーデン。 いつもの様に画面に映し出されてる依頼や報告に目を通していた時、訪れてきたセルフィが自分の分のついでに俺にも淹れてくれたコーヒーを飲みながらいきなり切り出してきた。 「疲れたら休んでる」 「ちゃうちゃう、休憩の事やのうて、うちが言うてんのは休暇の事やねん。班ちょ、ここ最近全然休んで無いんとちゃうん?」 「別に休暇なんかなくても支障は出てない」 「相変わらず仕事の鬼やね〜。班ちょの死因は絶対 “過労死” やわ」 (勝手に人の死に方を決定しないでくれ…) 「あ、せや!ガルバディア軍から元班ちょについて何か聞きだせたん?」 相変わらずズバズバと痛い所を突くだけ突いておきながら急に変わる話題に頭痛がしてきた。 聞かれた話題も出来れば言いたく無いし、考えたくもなかったが聞かれたからには答えない訳には行かない。 「ガルバディア軍がサイファーを解放した理由だけ聞き出せた。 “拘束しておく必要性が無くなったから返還に応じた” …だそうだ」 「それって邪魔な粗大ごみと一緒やから勝手に持って行ってええよって事〜?!」 「…悪く言ったらな」 「うわっ、元班ちょ可哀相〜…うちやったらショックで寝込んでまうわ」 (あんたの例え方を聞いたら誰でもショック受けるだろ…) 眉間に皺が寄るのを感じながら溜息を漏らして首を振って。 壁際の棚に並んでる資料を取ろうと立ち上がった瞬間に景色が回った。 「班ちょ?!」 「…大丈夫だ。いきなり立ったから眩暈がしただけだ…問題ない」 「問題無い事なんかあらへん!しょっちゅうなるんとちゃうん?!」 咄嗟に机を掴んだお陰で倒れる事を免れたが今日は運悪くセルフィが見ていた。 実の所、ここ半月以上前からこんな風に眩暈が急に襲ってきていたのを “休まないのが原因” と勝手に決め付けたセルフィは制止も聞かずに内線でこの事実をキスティスと学園長に連絡してしまって…。 急遽、俺には3日もの休暇が与えられてしまった。 (いきなり休暇なんか貰っても困るだけだ…) 何かに没頭してないとすぐ思考が同じ所を彷徨ってしまう。 お陰で満足に眠れない日々が続いていると言う事実も伏せて、ただ我を忘れるほど忙殺されて仕事だけに没頭して居たかったのに。 俺の代わりに借り出されたらしいキスティスが笑いながら “たまには外出して美味しい空気でも吸ってらっしゃい” と声を掛けて俺を指揮官室から追い出してくれた。 そうして久しぶりに戻った自室で暇を持て余してる。 (…キスティスの言うとおり、たまには外出するか…) 緊急時の為の端末と愛用のガンブレードを手にガーデンを出て真っ直ぐにバラムの町まで。 ジャンク屋に整備の為に武器を預けると終わるまでの時間を潰す為に不意に港まで行こうという気になったのは…海でも見たら少しはこの胸にあるもやもやしたものが治まるかもしれないと言う無駄な足掻きに似た考えからだった。 まだ微かに夏の日差しの気配を残す太陽が空の高みに昇ろうとしているのを手を翳して見上げながら踏み込んだ港には今、一番会いたくない人物の姿が有った。 日差しが燦々と降り注いでるのも構わずに釣り糸を垂らしている横顔は真剣そのもので。 眩しいばかりの光線を反射した金髪が燃え立つ様に輝いているのが離れていても良く解る。 そうしてその脇には彼よりも一回りでかい浅黒い影とその後ろに立つ細く青い影。 (どうして因りにもよってここに居るんだ…) 誰よりも何よりも会いたくなかった。 そして今、目の前に有る “気の置ける仲間との楽しい釣り” という光景は今は何よりも見たくない光景でも有る。 ズキンと不意に痛んだ胸と頭を押さえて来た道を戻ろうと振り返った瞬間。 景色が白に侵されるを見た。 電子音の様な キーンという音と共に押し寄せてくる白に抗う暇もなく飲み込まれる─── ─── ヒタ…と触れてきた冷たい感覚に意識が浮き上がって。 同時にまた ズキンと来た頭の痛みに小さく呻き、訳もなく乱れてる呼吸を整えようと小さく溜息を漏らしたら… 「大丈夫か?」 微かに、遠くから呼びかけられてる様な声が聞こえた。 その声は俺のよく知る人物のもので。 「…ゼル?」 「おう、何か欲しいものあるか?」 「いや…ああ、水を。喉が痛い」 「解った。ちょっと待ってろ」 意識がはっきりしてくるにつれて ガンガンと後頭部に走る痛み。 まるで誰かに殴られでもしたかのような痛みが思考を鈍くさせているらしい。 ドタドタと駆け上がってくるような足音がして、ドアの向こうでゼルと誰かが言い合ってる様な声。 だが複数居るらしい相手が誰か判断出来ない。 「だからテメーらは入るんじゃねぇよ!」 「………心配!」 「だも……!!」 「うるせー!俺の部屋に入れるヤツは限られてるんだよ!!」 (煩い…) 外の騒ぎが痛む頭に響いて更に増したような気がして耳を塞いで頭を抱え込んで蹲る。 自分の身体がどうなってるのかさえ解らずに居たがふとジャンク屋に武器を預けたままだという事を思い出した。 “取りに行こう” と決めて。 どうにか壁に捕まりながら立ち上がると痛む頭を “気のせいだ” と言い聞かせて。 少し乱れた呼吸を整えようと深呼吸するとまた ズキンと襲ってくる。 (大丈夫だ。耐えられない痛みじゃ無い) 「スコール?!大丈夫なのか?」 「大丈夫だから騒ぐな…ガーデンに戻る」 開いたドアの前に居たのはゼルと…風神と雷神。 ゼルの声が頭に響いて ガンガンしたがどうにか耐えられる。 “通してくれ” と声を掛けて1歩足を進める度に ズキズキと響くのを無視しながら家を出た途端。 目映い夕陽が目の奥を射て眩暈がした。 「っと…全然大丈夫じゃねぇ癖にどこに行くんだ?」 倒れる筈だった身体が宙で止められて聞きたくない声が上から降ってきた。 「…あんたには関係ない」 「何だよその言い草は。テメェをここまで運んだのは俺達だぞ?」 “俺達”。 その言葉にまた頭が痛んだ。 「余計な事しないでくれ」 「道端で行き倒れてるヤツ見つけて運んだのが余計な事だと?!」 (煩いな…もう放っておいてくれ) 「…勝手にしろ!」 「言われなくても勝手にする。だからもう、俺に構うな」 支えてくれていたらしい腕を自分で遠ざけて…振り返るのが怖くてそのままジャンク屋に向かって、整備の整ったガンブレードを受け取る。 表に出たらサイファーが不機嫌そうな顔をして立っていた。 (何でそこに居るんだよ…) 眉間に皺が寄るのを感じながらも無視してガーデンに向かう俺の後を付いてくる気配。 それは俺がバラムの町を出ても付かず離れずの距離を保って追ってくる。 明らかに追跡の意図を持った足取りは俺が早歩きになると同じ様に速度を上げ、立ち止まると止まりはしないが酷くゆっくりのペースになって。 「…何で付いてくるんだ」 「あ?」 「何で、付いてくるんだ」 意味もなく張り詰めた緊張感に苛立ちが募るだけ募って…耐え切れずに声を掛けた。 振り返って俺が感じてる苛立ちをぶつける様に睨み付けてもサイファーは大した事じゃ無い様に真っ直ぐ俺を見ている。 海を渡ってきた風が少し冷たく吹き付けていた。 俺達の間に張り詰めていた緊張を最初に破ったのはサイファー。 何を思ったのかいきなり鼻先で笑ってずんずんと間合いを詰めてくる。 不意に早鐘を打ち始めた鼓動に併せて体温が上がっていくのを感じている。 きっとサイファーはこう言う。 『一人で真っ直ぐ帰れるかどうか観察してたんだよ』 からかう様に笑いながら以前の様に…。 俺は動かずにサイファーを見ていた。 …いや、動けなかった…。 一瞬何を言われたのか理解出来なかった。 否、理解したくなかったのかも知れない。 すれ違い様に少し足を止めたサイファーは俺を見下ろして “指揮官ってのは随分と自意識過剰なんだな” と嘲るように呟いて。 そうして俺の事など最初から居なかったかの様に振り返る気配も無く真っ直ぐにガーデンに戻っていく。 …遠ざかる背中を振り返る事さえ出来なかった。 足元から妙な震えが這い上がってきて指1本さえ動かせない。 頭が割れそうに ズキズキする。 それが嘲られた事への怒りからなのか、それとも別のものからなのかさえ理解出来ずにただ立ち尽くして。 震えが収まった頃にはすっかり辺りは暗くなっていた。 沈みかけた夕陽が伸ばす最後の光がまるで断末魔の叫びを上げている様で。 その叫びは身体の中で木霊して激しく俺を揺さぶっていた…。 残りの休暇は結局何をする訳でなくただぼんやりと部屋に閉じ篭って悪戯に時を過ごしてる。 何も変わらない。 何も起こらない。 何も解決しない。 (以前は俺がどんなに疲れてると説得しても聞く耳も持たずに押しかけてきたのにな…今のアンタには俺がどんな状態だろうがもう関係ない訳だ…) 幾ら疲れて居ようが、どれだけ暇を持て余して居ようが、もう関係ない。 どれだけ俺がアイツを知っていても…アイツには俺は知らない人物になったのだから。 どうでもいい、その他大勢と一緒だ。 …そうして俺はまた置いていかれる。 (大切なモノほど遠くに行くんだな…ラグナもエルおねぇちゃんもサイファーもリノアも。みんな、俺を置いて行ってしまう…俺が必要だと認識するよりも先に…) ブラインドを閉じた光のない部屋の中で膝を抱えて蹲って。 自分が何をしたいのか、何をすれば良いのか解らないで居た。 求めない時は手元に有るのに、求めれば失う。 その事実はこんなに苦しい事だという事を何度味わえば済むんだろう。 (だから嫌だったんだ。求めても失うくらいなら最初から求めない方が良いって事なんか解ってた…なのに…) アイツは強引に図々しくそれでいて堂々と俺の心の中に入ってきた。 それがこんなにも尾を引くほどに大きくなってる事にも気付かずに過ごしてた毎日。 一度アイツを失って。 漸く取り戻した筈が指先からすり抜ける様にまた消えて。 今度こそもうどこにも行かないだろうと…気付いた自分の気持ちを漸く伝えられる筈だった。 (これは罰なのか…?自分の気持ちの方向にさえ気付かない俺に対する罰か?) それほどに罪深いのだろうか、俺は。 求める者を失い続けなければならないほどに罪深いのか。 …幾ら考えても答えは出なかった。 急に冷えてきた気がする空気に小さく震えて抱えていた身体をより引き寄せる。 『寒いか?』 目を閉じて暗闇に蹲っていたら不意に囁きかけてきた耳慣れた声。 (そうだな…俺が寒がってたら傍に来て俺が拒むのも無視して温めてくれてた) 優しい幻。 都合の良い思い出。 解っていても俺はそれをいつも拒めない。 頬に触れてきた感覚のないそれはゆっくりと手を滑らせて頭を引き寄せる。 サイファーの香りがした気がした。 ゆっくりと床に押し倒されて覗き込むような瞳に酔わされる。 目を閉じてサイファーの手の動きだけを感じている。 「っ…」 触れられた場所が帯びている熱を意識させられて息を呑む。 濡れた音が響いてそこから湧き出す熱に押し出された吐息を闇に吐き出して。 リズミカルに追い立てられていく。 つい…と触れてきた指先が胸で尖るものに触れてきて、それの感覚を楽しむ指先に執拗に弄り回されて。 「はっ…あぁ…」 耐え切れなかった喘ぎが唇から零れた事に笑う気配。 『俺だけが知ってるお前のもう一つの姿だな…淫乱』 耳元で囁かれた弄る言葉が哂いを含んでいて…それだけで更に高ぶっていく。 晒された肌を冒していく熱い掌。 くっと忍び込んできた指先に身体が浅ましく反応する。 内側からかき回されて、曝け出したものを扱かれて。 「ふ…もう、ダメだ…サイファー…」 “イケよ” と言うように緩む事のない動き。 ピンと張り詰めた糸がぷつりと切れた。 「ぅ…あああぁっ!!」 堪える事が出来ずに唇から迸った嬌声と共に ガクガクと走った震え。 同時に自分の腹の上に落ちてきた生暖かいもの。 暫くは荒くなった呼吸もそのままにぼんやりと虚ろなまま、目の前に広がる闇を見ていた。 残された余韻にまだ微かに震えが走る体の上をつるりと滑っていった冷たい感覚に呼び覚まされて溜息を吐く。 …何度こうやってアイツを思い描いただろうか。 体に刻まれた感覚が “恋しい” と叫んでいるようで。 終わった後はただ、虚しい。 何をしているのだろうか。 何がしたいのだろうか。 何をすれば良いのだろうか…。 虚しさを掻き消す為にシャワーを浴びながらそんな事をぐるぐると考えていた時、ドア越しの室内から緊急を告げるコールが鳴り響いてるのに気付いた。 着るものもそのままで濡れた体の腰にタオルだけをおなざりに巻きつけて端末を取り上げる。 「どうした?」 「やっと繋がった…休暇中で悪いけれど任務なの。今どこに居るのかしら?」 「部屋だ。5分だけ待ってくれ、そっちに行く」 「了解。出来るだけ急いで」 通信が切られたのを確認して濡れたままの身体を手早く拭き上げると着衣を身に纏ってエレベーターまで走り、着くまでに中で呼吸を整えて指揮官室のドアをくぐる。 いつもは俺が座ってる席でキスティスが難しい顔をしていた。 「どこからの依頼だ?」 「エスタよ。領土内にガルバディア軍が不法侵入していて今、応戦してるそうなの」 「どういう事だ?エスタなら応援を頼まなくても大丈夫だろ」 「それが可笑しいのよ。“ターミネーターが押されている” とさっき追加連絡が入った所」 「ターミネーターが?」 「ええ、それともう一つ。どうやら魔法が効かないらしいのよ…敵にも味方にも」 「魔法制御装置でも持って来てるって言うのか?」 「そうみたいね…だから魔法が使えなくても戦える者を緊急に配備して欲しいって依頼よ。内容はターゲットをエスタ領内から排除する。敵の数は把握してるだけでは5」 「5…?」 幾ら何でも少ない。 たったそれだけの数を相手にエスタは手こずっていると言うのだろうか…。 (まさかラグナが俺を呼び出す口実にでたらめ言ってるんじゃないだろうな…) 溜息が零れたのをどう受け取ったのか、キスティスは溜息で返して。 「間違いなくそう言ってたわ。迎撃に出したターミネーターは20。それでも押されてるって事は冗談じゃなく、相当な相手だと思うんだけど…」 「…解った。早急に受理する旨をエスタに伝えてくれ。後、出来ればラグナロクと状況を説明出来る者を遣すようにも」 「解ったわ。メンバーはどうするの?」 「俺が行く。それと…ゼルが昨日帰って来てたな?後は基礎データから現在空いてるSeeDの内、新人を除いて一番体力と力の有る者を」 「了解」 「ゼルともう一人には今から10分後の14:00に2Fデッキの前に来るよう伝えてくれ。学園長に通達してから向かう」 返事を聞く暇は無い。 ドアからドアへと移動して学園長に任務内容を報告して、集合場所のデッキ前に。 そこに居たのは…ゼルと雷神。 「よっ!あの後体調大丈夫だったか?」 「ああ、大丈夫だ。あと一人は遅いな…」 出来るだけ雷神を見ないようにしながらそう呟いて腕時計を見た時。 「あと一人は俺だもんよ!」 「…は?」 横からかけられた声に床を見たまま呻いた。 雷神はまだSeeDじゃない。 急いで端末を開いて指揮官室のキスティスに連絡を取ると。 『残ってるSeeDは魔力が強いものばかりで今回の任務には不向きよ。念の為に調べた年末のSeeD試験に登録されてるメンバーでは雷神が飛びぬけて体力も力も有るの』 「だからと言って任務にSeeDじゃない者を連れてはいけない!」 『拘ってる場合じゃ無いでしょ?!学園長にも許可は貰ってるわ。そのメンバーで行って頂戴』 学園長の許可が下りてしまっているならもう俺に拒絶出来る事はなく。 デッキにラグナロクが接地した音が響いたのを聞いて気持ちを切り替える事にした。 ─────エスタの現状は芳しくないらしい。 ガーデンが任務を受理するまでに送り込んだターミネーターの数は40を上回るというのに…倒したガルバディア兵は2。 場所はアダバン平原の岬。 奴らの狙いはティアーズポイントでは無いかというのがエスタ側の見解だった。 「ティアーズポイントにはまだ何か?」 「いや、今は何も無い。だが元来よりあそこは魔力が強い場所だ…何かを求めて進入してきたとしか思えなくてね」 そこまで言うとキロスは険しい顔で俺を見た。 「通信によるとガルバディア兵は独特の戦闘スタイルを見せているらしい…私も衛星から送られた現地の映像を見て確信したよ。あれは魔女の騎士であるサイファー君の戦闘スタイルだ」 「な…」 「どうしてそうなってるのかまではよく解らない。だが間違いないだろう…使用してる武器もガンブレード状の物だ」 「サイファーじゃ無いもんよ!サイファーはガーデンに風神と居るもんよ!!」 「雷神!」 サイファーが戻ってきたのはガーデン内の機密だった。 しかしそれさえも意に介さないサイファーは好きな様に出歩き、好きな事をしているから既に周辺各国にもその事は知られているだろう。 だがそれでもサイファーが帰還したと言う事を俺達の口から認める訳には行かなかったのだ。 それなのに口を滑らせた雷神を睨みつけて溜息を溢す。 「サイファー君がガーデンに帰還しているのはこちらも把握してる。それまでガルバディアに捕らえられていたという事も承知している。…だからこそ、今回のガルバディア兵の動きには警戒したいんだ…解るね?」 「…はい」 警告に似た響きで問いかけられて、俺はただ了承の返事をするだけしか出来なかった。 前線から約1000mほど離れた場所に下ろされた俺達は前線に向かいながら有得ない事だと繰り返した。 …だが辿り着いた前線で見た光景は…あの日のサイファーの姿。 姿は全然違うのにその戦闘スタイルはサイファーそのもので。 「嘘だろ…」 「本当に一緒だもんよ…」 唖然と呟く二人に “行くぞ!!” と叫んで真っ先に戦いの場へと切り込んだ。 俺の強襲にも驚きを見せずにガンブレードを模写した武器で薙ぎ払ってくる。 真っ直ぐに俺に向けられた切っ先。 (くそっ…何でだ!?) サイファーと剣を交えるのは嫌じゃなかった。 だが戦うのは嫌だった。 なのにまったくの別物だと解っていてもその戦闘スタイルが俺の心を掻き乱す。 サイファーのコピーとも言えるガルバディア兵は疲れる事を知らないのか一部の隙もなく攻撃を仕掛けてくる。 どうやら弱点を窺う隙さえ与えてくれないらしい。 ちらりと視界の端に映ったゼルと雷神もそれぞれ苦戦していた。 サイファーを知っている者ほどその動きに惑わされて戸惑い、そうしてそこに隙が出来るらしい。 「ちくしょお!!」 「ゼル、踏み込むな!」 自分の間合いに踏み込ませない攻撃に業を煮やしたゼルが無理矢理に踏み込もうとした瞬間。 まるで迎撃する様に横に振り抜かれた武器。 「ゼルっ!!」 「スコール、危ないもんよ!!!」 雷神の声と共に下から振り上げられてくる武器を半歩下がって辛うじて回避して。 グッと奥歯を噛み締めて目の前に立ちはだかるサイファーもどきに立ち向かっていく。 (弱点はどこなんだ?!ライブラが使えれば…) 弱点も解らない、魔法も使えない。 有りっ丈揃えたハイポーションもキロスに渡されたエクスポーションももうじきに底を尽く。 ゼルは戦闘不能で雷神もボロボロだった。 どうにか二人掛りで1人倒したがまだ向こうは2人居る。 (このままではやられるだけだ…) 俺一人でも今、集中攻撃している1人は倒せるだろう。 だがもう1人を倒す為には新たな戦力が必要だ。 「雷神、ゼルを連れてラグナロクまで退避しろ!無線でガーデンに応援を要請してくれ!」 「解ったもんよ!」 雷神がゼルを担ぎ上げて離脱しようとしているのを阻むようにガルバディア兵が無防備な背中に向けて雑魚散らしに似た技を放って。 咄嗟に駆け出そうとした俺の前を青い影が横切る。 攻撃を食らう筈だった雷神の前に立ちはだかる白い、影。 「オイ、そのツンツン頭をさっさと連れてってやれ!」 その人物を認めて嬉しそうに頷いた雷神がゼルを連れて遠ざかっていく。 いつの間にか俺の横に立っていた風神が持ち前の素早さを生かして攻撃を繰り出すその向こうに立った白いコートの姿。 「偽者風情が俺に勝てると思ってんのか?!」 威嚇する様に叫んで、向かっていく翻ったコートが黒のガンブレードを振り抜く。 記憶を無くしていても、戦いは身体が覚えているらしい。 「指揮官のクセにいつまで地面に這い蹲ってたら気が済むんだ?!風神、片付けるぞ!」 「了解。スコール!之、使用!」 放り投げられたエクスポーションのお陰で蘇った生命力に地面に突いていた膝を持ち上げる。 何故SeeDでもないサイファー達がココに駆けつけて来たのかは解らなかった。 少なくとも俺を助ける為じゃ無いという事だけは解る。 だが駆けつけてくれたお陰でこうして立っていられるのも事実だった。 劣勢だった攻防は見る間に優勢になり…程なくして倒された1人を踏みつけて残りの1人が残された力を振り絞るように何かを使った。 途端に広がる爆炎。 それが何かを見極める暇もなくごっそりと削られた体力にサイファーと風神が膝を折る。 (フレアストーン?!) 魔法が使えない場所でも相応の効力を出せるものは他に知らない。 もしも幾つも持っているようなら今のまま立ち向かうのは不利だ。 手元に有った最後のハイポーションをサイファーに投げておいて自分は目の前の敵に向かって剣を揮う。 あと少しで間合いに入るという時に何かが張り詰めていたような圧迫した空間が解けて…次の瞬間 ゴゥッ!!と風が舞った。 避ける暇もなく巻き上げられて固い地面に叩き付けられて。 ゴボッと喉の奥から鉄の味が湧き出してくる。 魔法制御が解除されたらしいと解っていても声の代わりに出てくるのは ゴボッという濁った音と共に湧き上がってくる血の味だけ。 サイファーと風神が繰り出してくる攻撃を受けながらも俺にターゲットを絞ったらしいそいつは執拗なまでに攻撃を繰り返してくる。 今の状況を考えたらどうにかして耐えるしかなかった俺は攻撃の手を休めて回復に専念する。 (俺が立ってる限り、サイファー達には攻撃しない。だったらあいつが倒れるまで俺が立ってるしかない) …だがそれも奴の体力が削られていくにつれて、時々繰り出される様になった2回連続攻撃のせいでもう長く持ちそうになかった。 最初の攻撃を受けて膝ががくんと笑う。 不意に ズキンと頭の芯がブレる様な痛みが走って。 崩れかけた俺に向かって2度目の攻撃が避けられない距離で繰り出されようとするのを見ていた。 (結局何も言えなかったな…) 頭の中をそんな事が過ぎて思わず苦笑しながら目を閉じる。 戦場で戦いの中で死んでいく。 あまりにもSeeDらしいその死に方は俺には相応しいのかも知れないと笑って。 (これでやっと終わりだ) |