有り丈の記憶を引っ掻き回す様にして探しても
そ れ を思い出す事は出来なかった。
きっと何よりも大切なものだった様な…
そんな気分だけがこの胸に残ってる。

一体俺は何を失っているんだろうか。











『Cross Road』 〜side storys〜
 = 無くしたピース =





目を覚ました場所が真っ暗な独房の中だった事から始まる俺の記憶。



ここがドコだ とか
何でココに居るのか とか
どうしてこんなに全身血塗れの上に傷だらけなんだ とか
俺は一体ダレなんだ とか…



誰か聞きたい事は山ほど有ったが生憎傍には誰も居ない。
正面に有る扉も一向に開きそうな気配を見せない。

(…オレはダレだ?)

考えてみても全然それは思い出せる気配を見せずにただ沈黙だけがそこに有った。
イライラする。
訳もなく暴れたい気持ちになる。
…そうして無性に誰かに会いたい気持ちになる。
誰でもじゃなく “誰か” であるその人物に会いたい、と。
胸を掻き毟りたくなるような慕情。
それが誰に向けての感情なのかも思い出せないというジレンマ。
そしてこの沈黙が酷く息苦しくて身悶えもせずに悶えた。
訳もなく泣きたくなる…。

(くそっ…惨めったらしいじゃねぇか!何で俺がこんな気分にさせられてんだ…チクショウ…)

ボロボロの体に纏ったボロボロの白いコート。
何かを呼ぶ様に痛み続ける眉間。
横たえたまま胸を掻き毟るようにその白いコートの前を掴んで グッと目を閉じる。
その間にも俺の中で疑問はめまぐるしく駆け巡っていた。










ここはドコだ?
何でこんな所に居る?
何故こんなにも傷を負ってる?
オレは何者だ…?

お前は、ダレだ?










何日が過ぎたのだろうか…いや、実は大した時間は過ぎてないのかも知れない。
体の傷がどうにか癒えて少しは動けるようになってきたのを感じていた時、目の前に有ったあんなに何度殴っても開く気配さえ見せなかった扉がゆっくりと重い音を立てて開かれる。
僅かな灯りしかなかった場所に慣れた目が外の灯りの強さに痛む。

「サイファー・アルマシー、出ろ」

“サイファー・アルマシー”
それが俺の名前のようだった。
どうして目の前のこの人物が俺の名前を知ってるのかは解らない。
だが今は大人しく付き従うしか手立てもなく…黙ったまま独房を出た俺は外で待っていたもう一人の奴にこの場所…D地区収容所と呼ばれる場所の清掃をするように言い渡された。
不思議な事に特にコレと言って疑問はない。

『サイファー・アルマシー、現在21才。職業、D地区収容所清掃作業員。作業中に脱獄しようとした政治犯を捕らえよとの命令を受けて立ち向かい、度を過ぎた乱闘騒ぎに発展させた事で3日間の独房入り』

自分自身の現状を伝えて、説明を求めた俺に返ってきた言葉はそれで。
“乱闘時に後頭部を強打した恐れが有る事から記憶の一部が飛んだ可能性は有る。月に1度検査を受けろ” という命令さえすんなりと受け入れられた。

(…そんなもんだよな…少しばかり夢見てた訳だ)





俺は何か世界を揺るがすようなデカイ事をして捕まった政治犯で
毎日死にかけるほどの拷問を受けて
それでも誰かを守る為に
決して口を割らずに耐えていたのでは無いだろうか





そんな事が掠めた考えはあっさりと否定されて、蓋を開けてみればつまらない毎日が横たわっていただけだった。
そうして俺はまた今までやっていただろう事をなぞる様に同じ繰り返しを始める───



































『───っ、魔女の騎士!?…よくのうのうと生きてるもんだな!!』

房の中から投げつけられた言葉。
それは担当区域では無い場所に居る同僚を呼びに行った時に起こった。
何の事だかは解らない。
だが間違いなくその格子の向こうから叫んだ声は俺の事を言っている気がして。

(魔女の…騎士…?)

その言葉は脳の奥で チリッと焼けるようなイメージを齎してすぐに消えて行く。
ただ訳もなく感情だけが高ぶっていくのを冷静に感じていた。

「俺が…何だって?」
「世界を混乱に貶め入れた魔女とその騎士!お前らのお陰で俺達がどれだけ屈辱を覚えたか!」
「んなもん知るか。第一、その魔女と魔女の騎士とやらがどこに居るって言うんだ、ああ?!」

罵倒に罵倒で返し、大股でその房に近付き ガンッ!!と扉を蹴った途端。
辺りで警報が鳴り響き、思わず チッと舌打ちする。
ココの警報装置は完璧だ。
不用意に外から扉に衝撃を与えるとこの様になる。
途端に警備の兵達が駆けつけてきて、俺を取り囲んで。

「貴様、何をしてる!」
「ここの房の奴が俺に向かって魔女の騎士だとか何とか言って因縁付けてくるから腹立って思わず扉蹴っちまっただけだ…他は何もしてねぇよ」
「お前の担当区域は4F以下だろう?!どうして担当区域以外に居る!」
「飯の時間だからココの担当の奴を呼びに来ただけだ。んな目くじら立てて怒る事ァねぇだろ」

異様な程に緊張感が満ちてる。
過剰なほどに警戒し続け、俺に銃を突き付けたまま警戒を緩める気配のない警備兵達に反抗する意志が無い事を示す様に両手を挙げて、肩を竦めて笑ってみせる。
顔を見合わせた奴らが小さく頷き合って…辺りに安堵の空気が流れた。

「もう行っていい。さっさと飯を食って午後の作業にかかる準備をしろ」
「へぃへぃ…」

軽い返事を返しながら下の階に置いてきた掃除道具を取りに階段を下りる間も背中に感じる視線。
まるで忌々しい罪人を見送るようなキツさを纏って俺を追いかける。
それがが何故か不快だった。

『 魔 女 の 騎 士 』

それが俺の失った記憶の中に埋もれてる何かなのだとしたら…。
そう考えると身の内でぞわりと何かが擡げる様な感覚に捉われる。

(俺が、魔女の騎士…か…)

“悪くねぇな” …と、確かにその時はそう思った。
だから俺が夜中に黙って寮を抜けて闇に紛れるようにあの、俺を “魔女の騎士” と呼んで憎む眼差しで睨んだ奴の房を目指したのはそれが真実かを確かめる為で他に他意はない。
もし俺が本当に魔女の騎士だったとしても敢て何かを起こす気も無く、ただ記憶の始まりにある薄暗く臭い独房の中でほんの少しだけ夢見た事が事実なのかを確かめたかっただけだった。
見張りの兵の目を盗み、機械仕掛けのセンサーを潜り抜けて…闇に紛れたまま覗き込んだ房。





そこに…奴は居なかった。





ドクン…と鼓動が跳ね上がる。
この階に収容される政治犯はせいぜい執行猶予付きで5年前後の拘束のみで済む奴らばかりが集まっている筈だった。
そして俺が知ってる限り、この階の囚人が別の階に移されるという例は聞いた事がない。
それが何を意味するのか。
…確かに現実的に考えればたまたま今日、懲役が済んで解放される予定だったという風に考えるのが筋なんだろう。
だが、こうとも考えられる。

『あいつが俺を知っていたから房を移された』

しかしその考えは俺の中で即、却下された。

(だったらどうなるって言うんだ?…どうにもならねぇ…俺が万が一その魔女の騎士だったとしても俺がココに居るって事はその魔女はきっともうこの世には居ないじゃねぇのか?魔女だったら、騎士を迎えに来るだろ…己に付き従えさせる為にな…)





ああ、そうだ。
きっとそうに違いない。
だったら、やっぱり俺は魔女の騎士なんかじゃなく
ただの男だ。





改めて認識した現実はただ虚しく。
こんな事を確認する為に馬鹿らしい行動を取ってる自分が笑えてくる。
己が勝手に描いた夢のような道筋は儚い花火のように一瞬で闇に溶けて。
だた黙って、項垂れて…苦笑いをして。
元来た道を辿る足取りは酷く重かった───

























───それから数ヶ月、毎日が代わり映えのない日々の繰り返しでまぁ正直飽きてはいた。

「サイファー、お前は今日を以って解雇だ。明日、お前の迎えが来るから本日の作業終了後、身辺の物を残さぬよう纏めておけ」

だが別に解雇して欲しいとかここから出してくれとまでは思ってなかったのが事実だ。
何かちょっとは代わり映えしろよ…程度にしか思ってなかった毎日がまさか今日で終わりだなんて事を望んでは居なかったし、これからも望む気はなかったんだが。

「あ?どういう事だ、説明しろ!いきなり “解雇だ。明日出て行け” なんて事言われて “はい、そうですかお世話になりました” って出て行く訳ねぇだろうが!納得行かねぇ!!」
「お前が納得行かなくてもこれは上層部命令だ。明日、ここを去れ。…もうココには来るな」
「チッ…どいつもコイツも勝手言いやがる…もう来るな?頼まれたって来やしねぇよ!」

清掃管轄のリーダー的な老兵士が有無を言わせぬ口調でそう切り出してきた時思わず反抗したが、結果が曲がる事なんて万が一にも無い事なんて解っていた。
所詮俺たちは軍にとってはほんの欠片に等しい存在で、その欠片の1つが手の中から零れ落ちたからといって何の問題もない訳だ。
それでも馴染んだ場所から離れるのは寂しい。
そう思った時。



“君はもうココに居るべきではないな…”



つい1週間ほど前、作業中に訪れたエスタの監査団だとか言う奴らの先頭に居た男がその長い裾の中から何かを落とし、それはコロコロと俺の足元に転がってきて。
拾おうとした周りの兵を制したそいつは思わず拾い上げた俺の所にやってきて受け取るついでの様に俺にそう囁いてきた。

まるで俺を昔から知ってるかのように。

圧倒的な存在感を俺に見せ付けるようなそいつは頭からすっぽり被ったフードの陰から微かに笑う気配を見せてそのまま踵を返して従えた兵を引き連れて上の階へと上がっていく。
その光景に、そいつの纏う空気に圧倒されて俺は何も返す事無くただ呆然と見送っただけ。
…そんな一部始終をふと思い出して何故かその後には反抗の言葉も拒絶の意志も出てくる気配を見せない事に苦笑する。
あの日から何となく俺の周りが変わるんじゃないかと思っていた。
この退屈な毎日が終わりを告げるのを本当は心待ちにしていた。
だがそれがこんなにもイライラさせるものだとは思っても居なかったが。
…翌朝、結局よく眠れないままに朝を迎え、元々大した荷物も無かった俺の荷造りはあっさりと終わった。

「サイファー、荷造りは終わったのか?」
「まぁな」
「それだけかよ…少ねぇなぁ…」
「何か要る物有るならやるぜ?同室のよしみってヤツだ」
「本当か?!」
「おぉ」

元から何かを持ってここを出て行こうとは思ってなかった。
思い出を引きずるのは…好きじゃねぇ。
別れの挨拶に来てくれた奴らにも好きなものを持って行っていいと溢して、俺は記憶の始まりの時に身に纏っていた物と何となく肌身離さず付けたままにしていたネックレス以外は全てここのヤツに譲り渡して。

「んじゃ、そろそろ行くか…」
「もうそんな時間か…元気でな?」
「お前らもな」
「当たり前だ!」

振り返りもせずに寮を出た俺を待っていたのはガルバディア軍の兵士。
両脇を固められるようにして慣れた場所を離れ…地上に出て行く。



赤い大地がどこまでも続くように見えた。
乾いた砂が風に巻き上げられて吹き付けてくる。



(こんな寂しい場所だったんだな、ココは…)

振り返って見上げた螺旋状の建物。
今まで内側しか見る事が出来なかったそれは圧倒的な威圧感を持って聳え立っていた。
ぐるりと見渡した先に有ったゲート。
その向こうにある車両。
そしてその脇に立ってゲートの兵と話している女の影。

「アレが俺の身元引受人ってヤツか?」

俺の視線の先に気付いた横の兵に顎をしゃくって尋ねると低く “そうだ” とだけ呟く様に返って来た後は無言のまま、ただ歩くしかない。
近付いて見てもその女と一緒に居る二人の男も俺には見覚えはなく。

(あいつら、何者だ…?)
「サイファー!」

眉間に皺を寄せて訝しげに見ていた俺を見つけた女が…俺の名前を呼んだ。
どうやらこの女は俺を知っているらしい。
それも涙を浮かべて俺を見詰める眼差しはまるで引き離された恋人との再会。
もしかして俺の恋人ってヤツだったのかもしれないその女を見ても…あの独房の中で感じたアノ訳もない慕情のような感情は湧いてこない。
視線を巡らせて…脇を固めてる兵を窺いながら大地を踏みしめて1歩ずつ俺を見ている女の所へ。
長身ですらりと細い身体。
ブロンドが陽を反射してキラキラと輝き、今にも泣き出すんじゃねぇだろうかと思う程潤んだアイスブルーの瞳が近付く俺を見上げている。
整った顔立ちはまぁ好みじゃねぇとは言えない。
…だが何度考えてもその女の名前は記憶の中から浮かんでは来ない。

「…お前、俺の何だ?」
「イヤね、からかわないで頂戴。久しぶりの再会なんだから少しくらい感動したって良いじゃない…。あなた達、ガーデンにこれから帰還する事を連絡して」
「ガーデン?お前ら何者だ…?」

俺の質問をどう受け取ったのか照れたようなしぐさで笑った女は車両の脇に行儀良く立ってる二人に少しだけ振り返って聴きなれない言葉を口にした。
それはまるで軍隊のような。

「…サイファー?」
「あ?」
「貴方…まさか…」

明らかにショックを隠せないらしい顔が振り返って俺に縋るように問いかける。
だがそんな顔をされても覚えてねぇものは覚えてねぇし、思い出せるような気配の欠片もねぇ。
肩を竦めて濁した質問の答えに “YES” を返す為に軽く頷いて見せた。
俺がこいつの名前を覚えてねぇのがそんなに問題なのか…それとも問題は他にも有るというのか。

「私よ、キスティス。キスティス・トゥリープ」
「…知らねぇな。今日、初めて聞く名前だ」
「キスティス班長、この地域はデッドゾーンです!少し離れないと連絡が取れません!」
「!…あ…ああ、そうだったわね…」
「で、お前らは何者なんだ?」
「…取り合えず車両に乗って頂戴。ガーデンに向かいながら中で説明するわ」

明らかに動揺してるらしい声は不安に揺れて、それでもどうやら俺をその “ガーデン” という場所に連れて行かなければならないらしい。
これから行く当ての無い俺は取り合えずそこが何なのかを知ってからでも遅くはねぇだろうと了承の意味を込めて頷いてやった。





ガタガタと揺れながら道なき道を走る車両内は緊張感が張り詰めてる。
運転席に座ってる奴が緊張してるのは解らないでもないが…助手席に座ってる奴まで妙な緊張感でこちらを窺っていた。
まるで見世物。
ちらっと視線をやると慌てて前を向く。
だったら最初から見なきゃいいだろうにと思うが、どうやら見ずには居られないらしい。

(ったく…何なんだこいつら…)

俺の向かいに座ってるキスティスはさっきからだんまり決め込んで床を見詰めたまま考え事の最中らしく、こいつらが何者なのか、ガーデンとは何なのか…D地区収容所を出発して既に10分くらい経ってるのに一切の説明は無い。
訳の分からない沈黙がイライラする。

「おい。テメェらが何者なのか説明しろ。それと俺を連れて行く先らしいガーデンって場所の事もな。これ以上黙ってるようだったら俺はココで降りるぜ?」
「…本当に覚えてないの?」
「何がだ」
「私達が何なのか。ガーデンがドコに有るのか、ガーデンとは何なのか…貴方が何者なのか」
「覚えてるも何もテメェらが何者なのか知らねぇから聞いてるんだろうが。それに俺が何者なのかって質問は何なんだ。俺はサイファー・アルマシー。それ以外に何が有る」
「極めて優秀な成績を持っていながら万年候補生に甘んじてたでしょ?」
「覚えてねぇ…」
「共に戦ったでしょ、私達!」
「ウルセェ!知るかそんな事!」

眉間がズキッと痛んだ。
脳の芯を眉間から後頭部に向けて串刺しにされたんじゃないだろうかと思うくらいの痛みが鈍く走っていく。
荒れた道をガタガタと走るその揺れが更に痛みを助長してるようにさえ思う。










まるで

W E C O S …

埋もれた記憶が

… L U S E C

掘り起こされるのを

… F I T H O S …

拒むかのように

V I N O S E C …











(またアノ声だ…)

記憶を掘り起こそうとする度に頭の芯で甘く囁くように唄う声。
酷く懐かしいようなその声は記憶を封印しているように思える強さで、優しさで俺の中に溢れる。
その声に耳を傾けている内に記憶などどうでも良くなる。
静かな響きの声に癒されるように痛みが治まっていくのを感じる。

(…俺は確かにこの声に癒されてる…)

そう感じずに居られない。
それから結局満足の行く説明を受ける事も出来ずに車内は沈黙だけが支配していた。
それさえも気にならなかったのはアノ声のせいだ。
…やがて大きく揺れる事のなくなった車内が一瞬闇に包まれて次に明るい自然のものでは無い灯りに包まれた。
やけに響く音からしてどうやら目的地に着いたらしい。

「…着いたわ。事情は後で説明するから…まずは下りて頂戴」
「後回し、後回しだなテメェは…降りたら銃突き付けられて捕虜にされるなんて事はねぇだろうな?」
「ないわ」

キッパリと言い切ったキスティスに一つ頷いて開かれたドアを出るとそこはどこかの施設の中。
きっちりと整備されてるらしいその空間は適度な清潔感を持って存在している。
反対側から降りてきたキスティスがぐるりと回って俺の横を通り過ぎて行く先に視線を投げた。
…視界の先に立つ俯き加減の細身の人物。
ボディラインから推測すれば多分、男。
そいつに俺の事を話をしてるらしいキスティスはちらりとこっちを振り返り、またそいつに何かを言って気まずい様に顔を逸らし…代わりに真っ直ぐに俺を見たその男はえらく綺麗な顔をしていた。

(男、か?)

整いすぎてるが故に冷たく見える顔の額から眉間にナナメに走る傷跡は見覚えが有る。
俺の顔にも有る…鏡に映したかのような傷跡。
鋭利な刃物で切り付けられた様なその痕の原因が何かさえ思い出せない俺には有る程度の衝撃で…そしてそれはこの男と俺が何らかの関わりが有ると言う事を予感させた。

「随分と遅かったからあんたがこの期に及んで往生際悪くごねてたのかと思ってたが…そうでもないみたいだな」

見下ろす高さの顔が挑戦的な眼差しで俺を見ている。
ブルーグレイの瞳がその色に反して燃え立つように俺を射抜いてくる。

(嫌な眼をしてる奴だな…全部解ってるとでも言うような…そんな眼だ)

こいつが最初に居た位置で俺達を見守ってるキスティス。
この場所に有る視線が全て俺に集まってる事は想像しなくても感じていた。
訳も解らないまま苛立つ。
他の奴らの視線ではなく、目の前に居るこいつの視線が、何よりも。

「どうしてお前もアイツも俺の名前を知ってるんだ?!お前は何者だ!?」

俺の問い掛けさえも興味無い事のように片付けようとする声に、態度に苛立ちは募る一方でその眼を見てるだけで頭の芯を貫く鈍い痛みがまるで額の傷に呼応するように痛んでいる。
眩暈が、する。
掴み掛かった俺の脇を固められて…俺はまるで犯罪人か何かの様な扱いでどこかへと連れて行かれる。
すれ違う奴らが俺を見て俺の名前を囁くのが不快だった。





どうしてお前らは俺を知ってる?!

オ レ ハ 、 ナ ニ モ ノ ダ … ?





───カドワキだとか言うココの医者らしい奴に引き渡されて、あれこれ聞かれて。
覚えてる限りの事を有りっ丈ぶちまけて。
…結論は記憶の始まりに聞いた “記憶喪失” というものだった。
俺を無視して後から入ってきたあの射抜くようなブルーグレイの瞳をした男とカドワキが話してる。
話してる言葉は解るのにその内容が点で理解出来ないなんて事は記憶に有る限り今まで経験した為しがねぇ。

(まるで言葉は同じなのに別の国にでも来たみたいだぜ…ちくしょう)

…その考えはあながち間違いでもなかった。
“付いて来い” と命令するように口を開いたその冷めた顔は心成しか顔色が悪いくらいに白い。
少し前を行くダークブラウンの髪が柔らかそうに揺れてる。
今まで見た事も無い様な造りの室内ホール通路。
通路の両脇を満たしてる水はどこかへ流れているのかさらさらと心地よい音を立て、そのどこまでも澄んだ水面に縦に並んで歩く俺達を映していた。
どこかで幼い子供の声がする。

「何なんだ、ここは…一体何の施設だ?」

俺の質問のような呟きにはあからさまな拒絶の意志を含んだ “黙っててくれ” という言葉で強制的に終わらされて。
二人で乗り込んだエレベーターの中。
質問もさせてくれないこいつが何様なのかを値踏みするような気持ちで眺めた。
こんな至近距離で見ても女と見劣りしない綺麗な横顔。
それを冷たく見せてるのはこいつが纏ってる ピリピリと張り詰めた空気のせいだろう。
全身黒ずくめに近い格好、男にしては細い身体。
2重に巻かれたベルトに通されてる小さなサバイバルナイフを見つけて更に謎が深まる。

(コイツは何者だ?それにあの傷…俺と関係が有るのか…?)

通された室内でどこに居ろとも言わずに自分はさっさと1つだけ有る機器に埋もれた机について…さっきから溜息ばっかりだ。
逆光のせいで表情が見えないのはアレだが…多分苛立ってるんだろう。

(何にそんなに苛立ってるんだアイツは…)
「…用が有るなら早く言ってくれ」

盛大な溜息の理由はどうやらそれらしい。
合点の入った俺はココに連れて来られる前から繰り返していた質問を繰り返しなぞる様に口にしていた。
そうして漸く俺はアイツが何者で、ココが何で、俺が何者なのかを知る。
だがそれはまるで御伽話にでも出てきそうな非現実的なもので…全てを信じる事は出来ない。
暫く疑う余地が有るのかどうかを考えて…ふとスコールと俺に共通する傷についてを聞こうと思いついた時。
未だに何かに対してイラついているらしいスコールは仕事の邪魔だから後にしろとでも言うような辛辣な言葉でその場から俺を追い出した。

(何で俺が八つ当たりされなきゃならねぇんだよ!)

指示された薄暗い部屋に入るとそこに有るのはまるでD地区の独房の様な簡単なベッドと机だけ。
室内の明かりを灯すと尚更にそこは殺風景に俺の目前に飛び込んできた。
独房と違うのは床が剥き出しの鉄板ではなく絨毯が敷かれているという事とベッドに膝を乗せれば覗く事の出来る高さに有る窓くらいなもの。
舌打ちしてせめて窓でも開けようとベッドに近付いた。
…誰か使用しているのか…シーツが微かに乱れている。
だがそれは熟睡出来てる訳では無いらしく、本当に微かな。

(仮眠室だって言ってたな…あいつが使ってたのか…?俺がココを使ったらアイツは眠る場所あんのか…?)
「…俺には関係ねぇか…」

何気無く考えていた事に苦笑いしてそのままベッドに腰を下ろす。
…耳を澄ませばキーを叩いてるらしい微かな音が続いてる。
そうして時折訪れる唐突な人の声。
女だったり男だったりと様々だったが…どの声も幼さを残している。
スコールもキスティスもまだ若いだろうし、俺をカドワキの所に連れて行ったあの二人組は更に若いようだった。



『バラムガーデンが抱えてる傭兵集団、コードネーム・SeeDと呼ばれる者達を指揮してる』
『あんたはここの生徒で…風紀委員長も勤めてる』



さっき漸くスコールから聞き出した言葉がふと浮かんできて…思わず眉を顰めた。

生徒という言葉が出るという事は、ココは学校だ。
通路をココまで歩いてる時に聞こえた声は明らかに幼い声だった。
学校ならそれは有り得ない事じゃねぇ。
バラムガーデン=学校。
この図は多分間違いじゃねぇだろう。
だが、そんな幼い少年少女が何故傭兵という過酷な職業をそれも今現在、学業と同時進行でやっているのかという疑問がまた浮かび上がった。
しかしスコールに聞いてみた所で満足行く答えが返ってくるとは思えない。
あいつ自身が何かを迷って…それを押し隠してでも居るかのような表情を見せるからだ。



結局、説明された事実を鵜呑みにする事も出来ずに…かと言って無視する事さえも出来ず。
ただ、悪戯に時間だけが過ぎていった───







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