= 隠されていた真実 = ───サイファーがガーデンに戻ってきた。 その事実を知らされたのは僕が任務から戻ってきた時にセフィの口から聞かされた事だった。 「じゃあスコールも一安心だね〜」 そんな風に呑気に口に出来たのは僕がサイファーとスコールの現状を知らなかったからだ。 サイファーは記憶の一切を無くしていて。 でも風神と雷神の事だけは覚えていて。 記憶を無くしてる本人は大して気にもせずに過ごしている様に見える。 代わりにスコールが憔悴しきったような顔でその姿を追っていると言う事実を。 「班ちょ、一言もそんな事言ってくれへんけど…凄い辛そうやねん。難しい顔してるのはいっつもやけど、あんな風に辛そうな班ちょ見るの初めてやわ…」 そう言ったセフィもとても辛そうな顔をしていた。 …正直言って僕はサイファーとココで過ごしたという時間が無かった分に併せて、再会した時には皆が僕の事も、石の家で一緒に過ごした時間も綺麗さっぱり忘れていた経験からみんなほど辛くは無いと思う。 それでもそんな風に目の前で落ち込むセフィの姿や、その後見るようになったスコールの姿を見る度に訳も無くアノ戦いを思い出すようになっていた。 僕らとまま先生とサイファーが戦ったアノ戦いの日々を。 (またあんな風に誰かが傷付く様な事は…もう見たくないよ…) ───暫くしてバッタリと学食で顔を合わせたサイファーはまったく変わりなく…でもみんなが言うように僕の事は一切知らなかった。 「テメェは何者だ?それで俺と何の関係が有るって言うんだ」 「えっと…そうだなぁ…君は忘れちゃってるけど、って言うかみんなも忘れてたんだけどね〜?僕達は同じ孤児院の出なんだよ〜。だから思わず声をかけちゃったんだ」 「孤児院?」 「そうそう、石の家ってみんなは言ってたけど本当の名前は “イデアの家” って言う所だよ。セントラ大陸の端っこにある小さな孤児院で僕らは一緒に育ったんだよ〜」 「…それは初耳だな」 「え、そうなの?てっきり誰か話してると思ってたけどな〜…」 「誰かって…お前以外にも居るのか、その孤児院出身のヤツ」 「居るも何も君は最初に会ったんじゃないかな〜?彼はココの指揮官だし」 そう言った時、サイファーは何とも言えない表情を一瞬だけ浮かべて。 「ああ…アノいけ好かねぇ指揮官か…」 「あはは、いけ好かないって…まぁ確かにスコールは結構無愛想だからね〜」 「結構?かなりの間違いだろ。周りのヤツに聞いたってあいつが笑ってる所どころか、微笑んでる所さえ見た事がねぇって話だぞ」 「スコールはあんまり笑わないからね〜…僕もあんまり見た事ないよ、笑ってる所」 …サイファーは何だか記憶を無くしてる筈なのに石の家に居た頃と一緒だった。 あの頃もこんな風に誰に対しても変わらない態度で接してくれて、楽しそうに笑ってたサイファー。 僕には不思議と懐かしい姿。 「あはは、君って本当に変わらないね〜。何だか嬉しいよ〜」 「テメェは変なヤツだな。あんまり俺の前でへらへらしてるとケツ蹴り飛ばすぞ?」 「うわっ、暴力反対〜」 いつの間にか僕らの周りには人垣が出来ていた。 最初は僕とサイファーが何かいざこざでも起こすんじゃないかという野次馬だった筈がいつの間にかみんな釣られて笑ってる。 僕の記憶の中のサイファーは…“魔女の騎士” として僕らの前に立ちはだかった時を除けば、今目の前で笑ってるその姿のまま。 人を知らずと惹き付ける魅力は記憶を無くしていたとしても健在みたいだった─── ───そんな風にサイファーに対して大した違和感も無く過ごしていた僕に任務が言い渡された。 依頼者はキロス・シーゲル。 大統領補佐官で有る彼が 『エスタ』 の名前を使わずに個人的な依頼として、更に大統領官邸の外でその内容を話すなんて事は今までに無かった。 …それも僕を指名してきたのはきっと何か訳が有る。 僕じゃなければならない、何かが。 …そうして僕はキロスの指示に従って今、フィッシャーマンズ・ホライズンの中を歩いていた。 ココに来るのは久しぶりだな…なんて事を考えながらランデブー・ポイントに指定されたホテルを目指している。 僕を覚えていたF・Hの人達が声をかけてくれるのに答えながら。 「ココだ」 ホテルに踏み込んだ途端に声をかけられて目をやるといつもの官僚服ではなく、あの奇妙な私服で佇むキロスの姿が有った。 「ココでは話せない。部屋を取って有るから話はそこで」 「はい」 妙な緊張感を覚えながらその背を追って部屋に踏み込むと鍵をかけるように言われて。 言われた通りに僕が鍵をかけるのを見たキロスは次に黙るように指を立てて、いきなり部屋中を探り始めた。 壁にかけてある絵やベッドの下、枕も念入りに触って確かめて…部屋に備え付けてある電話も持ち上げて裏返して。 手に持ってるのはエスタが作った機械のようだったがそれが何かと言うのは説明されないし、もしかしたら聞いても答えてはくれないかも知れない。 それほどにやけに鬼気迫る横顔。 「大丈夫なようだ」 散々部屋中を探ったキロスが漸く僕の前に戻ってきてそう。 訳が解らないまま立ち尽くしていた僕はSeeDの心得・第一条にある “SeeDは何故と問う勿れ” という言葉をすっかり忘れていた。 「えっと…何が…?」 「盗聴器だよ」 「え?」 「この話は他に漏れては困るのでね…さて、一安心した所で早速任務の内容について話そう」 思わず “ああ…” と呻いた僕に微かに笑ったキロスがそう切り出して。 任務の内容はガルバディア軍が現在内密に進行してるであろう内容を探るという事だった。 「…内容は解ったんだけどさ〜…どうして僕を?」 「君は今こそバラムガーデンでSeeDとして活躍しているが…元はガルバディアガーデンの生徒だったんだろう?」 黙って頷いた僕にキロスは小さく頷きを返して。 「状況によってはガルバディアガーデンも調査して貰う事になるかも知れない。だったら中を知っている人物の方が適役だという事だよ…例え君が本来はスナイパーで有ったとしてもだ」 嫌な言葉だった。 例え今がバラムガーデンのSeeDだったとしても慣れ親しんだ母校を疑いの目で見て来いと言われたような物だから。 SeeDが任務を拒否出来るのは2回だけ。 最初に派遣されるメンバーとして組み込まれた時点と後は今の僕のように依頼者にその内容を聞いた直後だけだ。 後は何が出てこようと、何が起ころうと僕らに拒否権はなくなる。 …頭の片隅で “この任務は拒否した方がいい” と言う声がしていた。 「任務コード20210322、受理。任務完了日未定。アーヴァイン・キニアス、これから任務に従事。あ、経過報告は依頼者経由になるからそこのとこは宜しく〜」 『了解。気を付けてね?』 「了解〜」 なのにそんな風にガーデンに連絡を入れていたのはきっと信じたかったからだ。 僕の母校は疑われるような事に加担していない筈だと言う事を…。 まま先生と僕らが戦った日々から3年以上の時が過ぎ、ガーデン同士の衝突によりセントラの端に墜落していたガルバディアガーデンも漸く元の場所に戻って本来の活動を再開していた。 僕は任務の内容を伏せたまま一時的にガルバディアガーデンの生徒として登録して貰い、昔使っていた寮を拠点にガーデンからの伝令などを積極的に受け持ってはガルバディア政府に出入りする毎日。 政府とガーデンの中での僕の評価は面白いほどにきっちりと二つに分かれていた。 過去の悪しき魔女と戦い、未来を取り戻した英雄の一人としての僕。 ガルバディア政府を裏切りその時点でTopで有ったイデアに刃向った反逆者としての僕。 (サイファーもこんな気分なのかな…) ふと考えた。 いや、サイファーの現状は僕よりもずっと厳しいものなのかも知れない。 彼は 『魔女の騎士』 として全世界にその姿を知られている。 帰還した彼が如何に穏やかな顔をしてたとしても、例えあんなにも人を惹き付ける存在感を持ってたとしても…現在の彼を知らない人達はきっと彼を憎んでる筈だった。 “悪しき魔女に騎士が付き従ったが故に事態があそこまで広がったのだ” と。 そうして今、彼がその時の記憶を無くしていると知ったら…きっとデモやテロが起こるんじゃないかと言う予想は容易く付き、その分気が気じゃなかった。 サイファーは十分償った筈だった。 戦いが済んだ後に自らガルバディア政府に赴いたその時点でも。 任務に併せて記憶を無くしたその理由も僕は調べている。 どこかで繋がっているかも知れないと思ったんだ…ガルバディア政府が秘密裏に行っている可能性の有ると言う “生体実験” とサイファーの記憶は。 『…にしてもアイツは特殊だったな。あのずば抜けた戦闘能力はやっぱりSeeDとして訓練を受けてたせいかな?』 いつものようにガーデンからの伝達を持ってガルバディア政府の中核…と言っても結局僕が潜入出来るのはその一端にしかならなかったが…そこへ出向いてた時だった。 こっそりと足を向けた立ち入り禁止とされてる区域に足音を忍ばせて近付き、前々から手に入れていたガルバディア軍の制服を身に纏って出来るだけ軍の人間らしく振舞いながら潜入に成功したと思った矢先。 何かの部屋を警備してる兵士達がそんな風に話していたのは。 (SeeD?) その耳慣れた言葉に思わず足が止まって。 辺りを警戒しながら聞き耳を立てる。 『さぁな…でもそれが原因だとしたらSeeDと言うのは化け物集団だな』 『言えてる。だがあながち間違いじゃ無いんじゃないか?ほら、SeeDの指揮官やってるヤツ。俺はまだ見た事ないから解らないんだが正にSeeDの権化らしいじゃないか』 『ああ… “伝説のSeeD” で “氷の指揮官” って呼ばれてる奴だろ?何でも任務なら赤ん坊も眉一つ動かさずに殺すらしいぜ?』 『おお…怖いねぇ。実は人間じゃなかったりしてな』 『それじゃあ “あいつら” と一緒だって事か?正に化け物だな。俺は絶対に会いたくねぇ』 談笑してるその内容こそがきっと僕が調べてるものだと直感した。 だったらあの扉の奥に真実が有る筈だ。 (どうにかして潜入しないとな…) 「おい!そこのお前!何をしてる?!」 手口を考えていたら背後から迫ってきていた気配に気付かなかった。 驚いて振り返るとそこには将校の制服を着た人が立っている。 (うわ…マズ…) 「何をしてるのかと聞いてるんだ。答えろ」 「ちょ、ちょっとトイレに行っていたのですが、まだこの施設に慣れてないものですから道を良く覚えておりませんで…道に迷っていた所であります」 我ながら苦しい言い訳だと思う。 今この中で正体がバレたら間違いなく戦闘になる。 そうしてガルバディア軍の中枢に比較的近い場所になるこの施設の中には嫌になる程、兵士が居ることだろう。 そうなったら、きっと僕は負ける。 疑われた段階で現状を打破する為に目の前の兵を倒さなければ僕が捕虜にされるか…殺されるかのどっちかだ。 どっちも避けなければならない。 これは潜入捜査で、別に施設を壊滅させたりしろと言う任務じゃ無いから応援はまず期待出来ないからだ。 蛇に睨まれた蛙の気分で目の前の将校の返答を待っていた。 “気をつけ” の姿勢を崩さずに…いつ戦闘になっても大丈夫なように心の中だけは身構えて。 「…確かにこの施設は迷路のようだからな…お前はどこの担当だ?案内してやろう」 誤魔化せたと思ったら次の問題だ。 “僕の方が聞きたいよ” とは思ったが流石にそれを口に出す事は出来ない。 「まだ新人なので担当は決まってません。主に雑務をこなしています。あの…例の実験のレポートを受け取って来いとの命令を受けたのですが…その実験の場所も良く解りませんで有ります」 「例の実験?ああ…アレか。しかしレポートは毎週決まった日以外受け渡しをされないと言う話だった筈だが…?」 「(うわ…そうきたか…)き、緊急なので!」 「…そういう事か。確かにアノ実験もいよいよ大詰めらしいからな…。こっちだ、しっかり付いて来い」 「は、はい!」 ホッと肩の力を抜いて先を行く将校の後をぴったりと付いて歩く。 数枚の扉を潜り、本当なら僕が通さなければならない筈のIDカードでさえ前を行く将校が通してくれるお陰で不気味なほどに簡単に中核へと進める事が出来て。 「さて、今まで説明したとおりにココから先は俺も許可が下りてないから進む事は許されない。しっかり覚えろよ?新人」 「はい、有難うございました!」 思わずSeeD式の敬礼をしかけて慌ててガルバディア軍式の敬礼に誤魔化して。 ココまでの道程の間に僕が新人だと思い込んでくれた気の緩みからかアレコレ聞いた事にも懇切丁寧に説明してくれた将校を見送った。 本当はココまでで十分な筈だった。 キロスが疑っていた通りにガルバディア軍は生体実験を行っている。 それは対エスタやこれから先に出現するかも知れない悪しき魔女を討ってでる為の血も涙もない戦闘マシーンを精製していると言う事だった。 神の業をも冒涜する所業。 生体実験のモルモットは現在モンスターばかりだと言う話だったが…元を正せば一人の人間の戦闘データから始まると。 その人物の名前を聞いて…僕は今この先に有るその実験施設に任務を越えて潜入している。 (やっぱりだ…) 目の前で今も正にその威力を示すように捕獲してこられたモンスターを相手に戦っているその姿。 マシーンのようで、マシーンとは違う…形に囚われない、それでいて的確な攻撃。 (ココに居たんだね、サイファー…) 『よし、いいデータだ。あの魔女の騎士にも負けない結果が出てるぞ。お疲れ』 透明な特殊強化ガラスの向こう側。 動かなくなったモンスターの前に佇む人影がゆっくりとその顔を覆っていたヘルメットを取る。 振り返ったその顔は…僕よりもまだ幼い少年。 3年前の僕達よりも若いかも知れない彼は上から結果を示す研究者の言葉を純粋に喜んでいた。 ま る で ゲ ー ム を ク リ ア し た か の よ う な 。 命の駆け引きであると言う事実さえ忘れ、与えられたに違いない力を絶対のものだと信じてる。 それは何か悪い病にでも冒されているかのように光のない眼差しを与えていた。 (こんな事有っちゃいけないんだ…駄目だよ…) だが僕には何の力も無い。 そう、欠片さえ。 SeeDで有っても動かせないものは有る。 胸を掻き毟りたくなるような得体の知れない気分を味わいながらただ黙って初めからそこに居なかったかのように姿を消すしか出来ない僕は、無力だ。 漸く確固たる事実を掴んだ僕はそれでも胸糞の悪さを拭いきれないままにキロスに見た事をありのまま報告した。 目の前に佇むキロスは酷く難しい顔をしてさっきから一言も言葉を発さない。 「これでこの任務は終了だよね…?」 「…残念だが、君はこの件に関しての別の任務に移行して貰う事になるだろう。1週間ほど前にエスタの領地内にガルバディア軍がその兵を送ってきた」 「えっ、でも施設の中で戦っていた少年は確かに居たんだよ〜!?」 「その件に関して一つの仮説を立てる事が出来る。今回エスタに侵攻してきたガルバディア兵がもし “試作品” だったとしたら?」 ドクン…と鼓動が大きく脈打った。 そして僕が見た彼が “完成品” だったとしたら…それはどの位大きな脅威になるのだろうかと考えると寒気が足元から立ち上ってくる。 またあの戦いが今度は魔女の手を借りずに起こるとしたら。 それはどれだけ虚しい 命 の奪い合いになるのだろう。 僕達は何を思って戦わなければならないのだろうか。 何を守る為に戦わなければならないのだろうか。 「考えたくないよ…そんな事…」 「だが考えなければならない。大いに在り得る事なんだよ、アーヴァイン君」 「だって!…だってそんな終わりの見えない戦いに突入したら “月の涙” よりも “あの戦い” よりもずっと、ずっと性質が悪いじゃないか!」 正直僕はSeeDには向いてないのかも知れない。 SeeDで有りながら、SeeDなど必要のない世界が来る事を望んでる。 それでも世界はSeeDを必要とし続ける。 そしてSeeDは望まれるままにあちこちに赴き…時には仲間同士の筈なのに互いに武器を向け合う事だって有った。 虚しいなんて言葉じゃ片付けられない由々しき事実。 『SeeDがSeeDで有る為の真実の戦い』と呼ばれた “あの戦い” だってそうだ。 学園長もまま先生さえそれが起こる事は望んでなどなかった。 そうして僕らも…。 だが起こった。 それは今回だって言える事だ。 だったら僕は何をするべきか。 「この件に関しての別任務と言うのはやっぱりあなたが依頼者?」 「いや、今度の依頼は 『エスタ』 だ。大統領自らの名前で依頼が出されてる」 「…内容を聞いても良いかな…?」 「そう言ってくれるだろうと思っていたよ」 力強い眼差しで頷いたキロスは軽く微笑み “大丈夫だ、今ならまだ間に合う。止めよう” と─── = 奇跡の欠片 = ───サイファーが記憶を失ったまま戻ってきてからと言うもの、ずっと嫌な感じがしてた。 何かが起こるようなそんな予感。 我ながらとても嫌な直感で…それは嫌な予感ほど当たると言う経験上、ただの “予感” では済ませられないような…そんな気がしてた。 「キスティスっ!サイファーと風神がエスタに向かったそうだ!」 スコールが任務に就いて、代理を務める為に居た指揮官室へ血相を変えたシュウが飛び込んできたのはそんな予感を象徴するような言葉と共に。 雷神から戦況と応援要請の連絡が入ったのはついさっき。 その時にサイファーがこの部屋に居たのは偶然だったのかしら…? 「止めないのか?!彼は最重要保護人物だろう!?」 「解ってる。解ってるの…サイファーが帰還してると言う事実を “ガーデン” は認めてはならないって事も、今サイファーがエスタに向かってる事実はとても危険だって事も…」 「だったら今すぐにでも誰かを派遣して止めるべきだろう?!私でもいい。キスティス、私をその任に就かせてくれ。きっと引き戻してみせる!」 シュウの言う事はもっともだったし、彼女ならきっと本当にどんな手を使ってもサイファーと風神を阻止して連れ戻してくれるだろう。 だけど。 「だけど…サイファーが言ったのよ。“テメェの尻拭いはテメェでする” って」 「何?」 「“アイツに押し付けるなんて事、有って堪るか!” って…そう叩き付けるみたいに叫んで、行ってしまったの。私には止める事が出来なかった。止めちゃいけない気がしたのよ」 「キスティス…」 「駄目ね、私。きっと指揮官なんて成れそうもないわ…あんなに真剣な眼差しでいきなり怒り出したサイファーを見たら何だか戻ったような気がしたの。何もかも “あの戦い” が起こる前に…」 戻りたいのかと問われたら、正直頷いてしまう。 毎日訓練や任務や勉強に追われて忙しかったけれど確かに平和だった。 少なくともスコールとサイファーの関係は切っても切れないような微妙な線を辿っていて…それでも均衡を保っていた。 私達は毎日忙しなく動き続け、SeeDの本当の意味も知らずに生きていた。 …けれど時は巻き戻せない。 「サイファーが 鍵 を握ってる気がするの。決して元に戻るなんて事は無いだろうけど…だけど、何か期待してしまうのよ…」 「…奇跡が起こる事を天に願うようなものだよ。いや、起こるんじゃない。サイファーが奇跡を起こす事を願っているうようなものだって事を解って言ってる?」 「解ってるわ。有得ないって言いたいのよね?…私だって思ってる。そんな都合の良い様に事が進むならSeeDだって必要ないし、私達が武器を持って戦場に赴く事だってないって事も頭では理解してるのよ。だけど何かが起こってくれる様な気がするの。不思議ね」 「何も起こらない可能性は大きいんだぞ?」 「そうね」 「更に事態が悪くなる可能性の方が大きいんだぞ?」 「…そうね…」 私が間違ってるだろう事をこうして指摘してくれるシュウはいつだって親友。 私がまだ教官でさえなかった時から “伝説のSeeD” と呼ばれるようになった今でもこうして変わらずに言ってくれる。 それでもこれは譲れなかった。 きっと何かが起こると言う予感。 例えそれが今より悪い事態になる可能性が有ったとしても、もしかして…万が一だったとしても良い方に転がる可能性だって絶対無いとは言えないから。 「…実を言うと私もそんな気がしてるんだよ」 叱られてる子供の様にそのまま黙って机に置かれた画面に視線を置いていたら、目の前に苦笑いしてるような声が落ちてきた。 ハッとして顔を上げるとやっぱり苦笑いしてるシュウが私を見てる。 「こんな事言ったら他の者に示しが付かないから今まで黙ってたけど。私も思ってるんだよ。サイファーが何かを動かしてくれるんじゃないかって事をね?…ナイショだぞ?」 「…ええ、勿論だわ」 「よし、では私達はもしも最悪の事態の方に転んだ場合の事を想定して準備をしてようか。頼むぞ、キスティス指揮官代行?」 「そうね、協力してくれるかしら?」 「勿論だとも」 そう、まだ希望は潰えてない。 だったらただ願うんじゃなくてそうなるように働きかける事だってきっと必要だから。 待っているだけじゃ奇跡は起こらない─── |