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ドナドナ
バシッ！と耳のそばで何かが弾ける音がした
ストラーイク！直球！！アウトー！！！
まさに交代 その場からひきずり降ろされるに十分な打撃 身動きも出来ずそれだけで
何もかもが崩れ去り
深い闇に落とされたみたいだった
たった一言で
ただの一言で全てが終わる
呆然とする一護に浦原はなおも続ける
「実はアタシ妻子がいまして、あちらで待ってるんです。だからたまにかえらなきゃいけない
ってのもあるんですよね～」
「ついでにアタシらはあなた方人間より長生きなもんで、姿形もずっとこのまんまでしょ
常に同じ場所にいたらおかしいわけで...」
「あら...一護さん？」
「聞いてます？」
ふわふわと浦原の声は浮かんでいるものの 中々頭の中まで入ってこない
理解し難い情況下で 少しだけ耳に残った＜妻子＞という響き
（あぁ...こいつ男だし 俺より長く生きてるし）
納得できる理由をつけて 自分に言い聞かせるふりをする
「子供いくつなんだ？」俯いたままで精一杯吐き出された彼らしくない小さな声
「あぁ、もう9つと10ですね」
「...9つと10って 2人いるのか？」
「えぇ そりゃもう奥さん似の可愛い娘と、姉の後をくっついてばっかりのこれまた可愛い
息子と」
「そうなんだ」
「そうですよ」
「それに妻はとても綺麗ですよ名前の通り。 アタシなんかには勿体無い位の美人です」
「奥さんの名前 なんて？」
「紅です」
耳に何かが突き刺さった
浦原のザンパクトウは＜紅姫＞.....
紅
こいつはそんなにも 彼女のことを...
「じゃあ...」ふとわいた1つの疑問
「はい？」
「俺との事は？」
絶望とも云える表情の一護の問いに
「あぁ...それは」
しばしの沈黙
「好きですよ」多分笑っているだろう 心配そうな目だけして そう思ったのは優しい声
だったから
もう、頭から胸の辺りまでぐちゃぐちゃになって 悔しいのか 悲しいのか 何に対してなのか
全部滅茶苦茶
どうしようもない
かろうじてわかったのはソレダケ
仕方ない
それ以上どう言えばいい？
もう何もない
それだけ感じて 涙が
流したくも無い涙だけがこぼれていった
「あららら 泣かせちゃいましたか～」
そこまでするつもりじゃなかったんですけどね.....ボソボソと扇子越しに呟いて
ぐっと一護を抱きしめた
鼓膜のすぐそばで浦原がため息をつく
「声ださないんですね」
歯を食いしばり
小さく体を震わせながら じっと耐えるように目をつぶったまま 涙だけ零している
そんな一護の姿を見るのは初めてだった
小さな子供が重たいものを抱え込み 泣くことさえ自分に許さず
必死に我慢し続けてきたせいで声を上げて泣くなんて事 とっくに忘れてしまった
きっと人前で泣いたりもしなかっただろう 誰にも気づかれないよう隠してきた自身
でも涙だけは止められず
そっと静かに押し殺してきた
「あのね.....一護さん」
背中をさすってやりながら優しく語りかける
「泣くのは恥でも悪い事でもないんですよ」
自分の声は聞こえているだろうか？ らしくもない不安になるなんて
「それから」
不安になるより 先に伝えておかなければいけない事がある
目を宙に泳がせ バツが悪そうに浦原がこんな事をいった
「嘘ですから」
抱き締められたまま一護が少し顔を上げる
「あの.....全部嘘ですから」
「何？」涙声で帰ってくるその表情は 理解しきれてないという感じだった
「今日、何日ですか？」
（？）
「四月一日！ですよ」語尾が少し弱まる
（？？）
「嘘をついても良い日です」満面の笑みでネタ明かしをした浦原
に対して
ポカンとしたままの一護
「エイプリルフールってやつっすよ」
いやだなぁ一護さん！といつも通り、いやいつも以上にカラカラ笑いながら背中をポンポンと
叩かれる 「はぁ？」今日何度目の疑問符だろう
「嘘って」
「そうそう全ー部嘘っすよ」とても楽しそうにウキウキと次の言葉が出てくる
「いやぁ～今日は一護さんのあんな泣き顔や、素直で可愛い姿なんか見れて得したなぁ」
ハハハハハーッと満足気な男を目の前にして 事を理解しきった一護に怒りが込み上げる
「んだとコノヤロー！！！何が得しただぁ！！」
今度こそ怒りの対象を突き飛ばすのに成功した彼は
「宇宙の果てまで飛んでいきやがれー！！」思いっきり蹴り上げた
屋根を突き破り 空の彼方へ消えていった奴に一言忘れずに
こう叫んだ
「二度ともどってくんじゃねぇ！！」
ＥＮＤ
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