ヴォイス <1>





冷たい風と氷の大地。長い冬は住む者の心までも暗く澱ませる。

外界と接触を嫌う、閉鎖された小さな北の島に彼は生まれた。

透き通るような白磁の肌と、光のように美しい金色の髪を持って産声を上げた彼の上に、
誰もが祝福の声を上げるはずだった。


















その瞳を開けるまで。















端整な顔立ちに赤い唇が印象的だった彼女は、7年目の春に逝った。

『愛してるわ。』

臨終にあってもやはりそれは彼女の口癖だったが、きっと自分に向けられたものではなかったのだろう。

彼の生まれた小さな島には因習があった。

〔外洋の血を入れてはいけない〕

かつて、神が宿る、と言われたこの島の選民思想の成れの果てか、実際それを皆堅守していたのだが。

ある日東の海からふらりと現れた一隻の海賊船が、一人の女に罪を孕ませた。

夫をもつ身でありながらその異邦人とたった一夜の恋をして、やがて彼女が産み落としたものは、罪の証拠を瞳に宿した混血の少年。

どこか精神を病んでいた彼女は、時折正気の顔をしてそう聞かせた。

冷たい海を想わせる右の瞳と、この地にはあるはずのない左のそれ。

彼女から全てを奪い去った色を見るたびに泣いていた。

記憶にある母親の顔が悲しく歪んでいるのは、きっと自分という存在のせいなのだろう。

















母親の死から、少年は海岸に程近い廃屋を住処にしていた。

町外れの小さな家で彼女が必死に隠していた、島においては禁忌の子供。

病的に彼女が自分を見張り、決して家の外へ出させなかった理由は、少年が自由を感じたときに分かった。

鬱陶しい程に長く伸ばした金色の髪は、彼女の涙を止めることはできたが、少年の存在を隠すことはできなかった。

因習は時に、人を狂気へと駆り立てる。

毎日、逃げて




逃げて




逃げて。

この島で自分は間違いなく異端児であり、あってはならないものだと知った。

それでも、探してみたかった。

いつか自分を認め、必要としてくれる何かを。


月も星さえも姿を隠す、嵐の夜にその機会は巡ってきた。

こんな辺境の島には場違いな一隻の船が、それを与えてくれたのだ。これを逃せばもう、自分に生きる道はない、と。




















それがどこへ向かうのか、考える必要はなかった。
ただ、ここから出ることだけが、今考えられる全てだった。













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