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ヴォイス <2> 姿を隠す暇もなく突然鉢合わせてしまった男を前に、上手い言い訳が見つからない。 こんなに早く船員が現れるとは予想していなかった。 「あ、いや・・・、その・・・」 しどろもどろの少年を一瞥し、その船員の男は赤い髪を掻き上げて大袈裟に言った。 「あーそうか!コック見習いか!丁度良かった、それ持ってついて来な。」 思わぬ展開に唖然とする少年をよそに男は麻袋を指差し、「早くしろよー」と急かした。 ここは大人しく指示に従うしかない。侵入者だと海に落とされでもしたら、間違いなく自分は魚の餌だ。 言われるがままに男の後を追うと、途中雑然とした船室に立ち寄り、真白な調理服を差し出された。 「ほら、早く着替えな。そんな格好じゃ密航バレバレ。」 男の言葉に少年はまたしても唖然とした。 侵入者だと知りながら、この男は何故。 島からの追っ手だろうか、それとも何か善からぬことを企んでいるのか。 睨み付ける少年に、男は吹き出して笑う。 「んな、怖い顔すんなって。獲って食いやしねえよ。俺も似たようなモンだしな。」 そう言って手際よく汚れた服を脱がせると、新しいそれを頭から被せた。 「ちょ・・・っ!」 何かを言い出す暇もなく、タオルでごしごしと顔を拭かれる。 「よっし、完璧だ!」 再び先程の荷物を持つと、またしても「早く早く!」と急かされた。 睨み付ける視線をさして気にするでもなく、廊下を歩く。 「そう言えば、まだ聞いてなかったなあ」 途中突然立ち止まり、人の良さそうな笑顔で、「名前だよ」と少年に尋ねてきた。 一瞬躊躇したが、答えない理由もこれといって見つからない。 何よりその男の笑顔に、毒気を抜かれた・・・そんなところだろうか。 「・・・サンジだよ。よろしくオジサン。」 溜息混じりに答えると、男は「オジサンはないだろう」とがっくり肩を落とす。 「いい名前だ。俺はシャンクス、こっちこそよろしく!」 鮮やかな赤い髪を掻き上げる仕草は彼の癖なのだろうか。 「コック志願の新入りだー!」 大声を上げて、辿り着いた扉を豪快に開ける。 「ヘマするなよ。」 そうサンジに耳打ちをしてシャンクスは厨房の奥へ足を進めた。 こうして一人の怪しい男の手助けを得て、サンジは海上の料理人となる。 暖かく迎え入れてくれた厨房の男たちの中で、 |
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