ヴォイス <3>









船上の生活は順調だった。波に漂う浮遊感は不快ではなく、自分にはむしろ陸よりも海上の方が合っているような気がしていた。




乗り込んだこの船は結構な大型客船で、サンジは今までに目にしたことのないものに沢山出会った




人も、食材も、音楽も。





ここにはあらゆるものがあって、毎日は騒がしく過ぎていった。






何故か寝食を共にすることとなったシャンクスの話によると、北の海から東の海への航海の途中で嵐に遭遇し、安全確保のために止む無くサンジの住んでいた島に錨を下ろしたのだそうだ。

運命というものがあるのなら、その歯車がまるで自分を逃がしてくれたような気にさえなった。

自分を追い立てる者も、責める者もここには居ない。


厨房ではその髪は長すぎる、と散髪されそうになった時に見られてしまった両眼でさえ、個性的だの格好良いだの、仕舞いには羨ましいとまで言われて驚いた。


あんなに暗く、長く感じた島の逃亡生活も嘘みたいに。




ここはあまりにも優しすぎた。








「何だ、気にしてるのか?」

風呂上りのサンジが濡れた髪を顔に張り付かせていると、シャンクスは酒を片手にそう言った。

これまでの経緯を話してしまったのは、別に信用していたからではない。

そう、何となく、だ。

「お前さんの気持ちも分からなくは無いが・・・ま、過ぎたことは気にすんな」

男だろ、そう笑って。

燃えるような赤い髪をサンジは初めて見たが、乗客の中にそういった者はなかった。

「・・・それって・・・。」

子供の好奇心が手伝って、サンジはシャンクスの髪を指して尋ねる。

「ああ、やっぱり珍しいか?実はな、ここだけの話・・・おれは鬼の子なんだよ」


「話したくないなら別にいい。」


あまりにふざけた答えに、サンジはぷうっと顔を膨らまして背を向けた。


子供らしい仕草に苦笑して、シャンクスは手にしていたグラスを静かに置く。


「突然変異ってやつだ。生まれた俺を見た母親は、すぐに海に流したらしいぞ。」


だから、きっと鬼の子なんだろう、と。





後悔した。


興味本位に聞くべきではなかった。







「ごめ・・・っ!!オレそんなつもりじゃ・・・・・・!!」





慌てて弁明するサンジを見て、彼はおいおい、と困った表情を見せた。






「気にすんなって、過去の事だ。そんな顔されるとこっちが悪者みたいじゃねえか。」





大きな手でポン、と頭を撫でる。近くで見れば、瞳までもが赤い。




無精髭で誤魔化しているような、男というには端正な顔立ち。





「ほら、ちびっ子はもう寝る時間だ。」













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