AM4:30 高町家次女の部屋。
Pi,Pi,Pi,PiPiPiPiPiPiPi♪ Pi...
「……うぅぅん……」
わたしは高町なのは、市立聖祥大付属小学校の三年生、そ
して魔法少女なんてものもやっていたりして。
小学生が起きるには少々早い時間なのですが、人の少ない
早朝は魔法の訓練には最適な時間帯で、わたしはずっと早寝
早起きをしています。最初は結構つらかったけど、今ではすっ
かり早起きにもなれました。
とは言っても、たまには少々起きるのがつらい日もあった
りしまして、それは今日だったりするのですが。
きのうはお兄ちゃんと一緒にすずかちゃんちへディナーに
およばれされまして、ちょっと夜更かししてしまいました。
時間は気にしていたのですが、夜は一人じゃ帰れないし、お
兄ちゃんをおいてノエルさんに送ってもらうのも変だし、肝
心のお兄ちゃんは忍さんと部屋にこもりっきりで。お父さん
におもいっきり怒られたのは仕方がないと思います。
「It is a morning, Master.」
「なのは、起きないの?」
同じ年くらいの男の子の声と、かっこいい女性の声。
男の子はユーノ君、フェレットの姿をしてるわたしの魔法
の先生です。
女性はレイジングハート、わたしのパートナーでいわゆる
魔法の杖さんです。
「きょうはもうちょっと……」
ユーノ君も猫さんたちに追いまわされて疲れてるはずなの
に。
あー、まぶしいから毛布をひっぱらないでー。
「うぅぅ」
「しょうがないなぁ。レイジングハート、なのはを起こして」
あきれちゃったのか、強制手段にでるみたいです。
でも、レイジングハートに起こさせる? 何をさせるんだ
ろう?
レイジングハートは自分じゃ動けないし、自動で発動して
くれる魔法はあるけど、プロテクションとかの防御魔法だし。
ユーノくんも魔法にデバイスは使わないし、もしかしてま
だ教えてもらっていない魔法かな? でもお寝坊さんを起こ
す魔法って何だろう?
あ、そんなこと考えてないで、目だけでも手でかくして寝
なくちゃ。
「I wake up a master.」
張り切ったレイジングハートの声。きっと、くじけそうな
わたしを励ましてくれているんだよね。やっぱ起きなくちゃ、
でも、やっぱり眠かったり……。
「っ!」
えっ、な、なに?
なにか、口をふさいでるの?
手を押さえられて目が開けられない!
「んっ」
な、なめてる? でも、なんか、ちょっと違うような。熱
くて、やわらかくて、ぬれてて。
(えーと、その、これって、キス、なんでしょうか?)
やっぱりそうだよね。わたし、いまキスされてる。ファー
ストキスは大好きな人とって、みんな言っているけど、誰な
のかな。知らない人なんて……。
もしかして、ユーノくん? ユーノくんなの? でも、ユ
ーノ君がこんなことするとは思えないし。
体は押さえられてないから逃げられるはずだけど、すくん
じゃって動けない。あまり乱暴な感じはしないけど、よく誰
なのか分からないし。
でも知らない人ならユーノくんがとめるだろうから、お母
さんかお姉ちゃんのいたずらなの? でも、お母さんの匂い
も、お姉ちゃんの匂いもしないのはどうして? まさかユー
ノくんも?
「んんっ」
や、はいってくる!?
なにこれ、ぬめぬめして、やわらかくて、これって舌?
なめてる、わたし、口の中なめられてる。歯も、はぐきも、
みんな、れろれろなめられちゃってる。でも、なんか、これっ
て……。
(な、なんか、へん……)
熱いの。なめられたとこが、なんか、熱いの。
温かい飲み物を飲んだみたいに、ぽかぽかして。
もう目が覚めてるのに、頭の中がぽわぁってして。
体中の力がぬけて、わたし、口の中だけになったみたいで。
(きもち、いい……)
なんでだろう?
お母さんに抱きしめられた時みたいにふわふわして、とて
もきもちよくて。
「ぁ、ん、んちゅ、んん」
誰か分からないのに、なんでなの?
からんでくる舌が、甘くて、とろけそうで、きもちよくて。
わたし、きっと、この人を知っている。
わたしのこと、大事に思ってくれている。
ふれているのは唇と舌と口の中だけなのに。
そうなんだって、思ってしまうのはどうして?
あなたは、だれなの?
「ちゅ、んく、ん……ぁ」
とつぜん、その人がはなれて。
わたしの舌も唇もおきざりにして。
なにがどうなったのか、わからなくて。
「ん、はぁぁぁ……」
でも、それで息苦しいのにやっと気がついて。
わたし、ずっと息をとめていたみたい。
大きく息をすって、ちょっと落ちついて。
(わたし、キス、されちゃったんだ)
キスが、こんなきもちいいなんて、わたし知らなかった。
お父さんとお母さん、毎日こんなことしていたんだ。
きのう、おにいちゃんも忍さんとしていたのかな?
(わたしの、ファーストキス……)
唇がぬれてる。わたしにキスした人のかな。
気配がするから、まだ近くにいる。
たぶん横でベッドに座ってる。
わたしを、見守っている。
目をあけるのはこわいけど、でも……。
「…………ぇ?」
金色の髪、白い肌、赤い瞳。
最初、ちょっとだけフェイトちゃんかと思ったけど、そん
なことはなくて。フェイトちゃんはアースラにいるはずだし、
何よりその人は大人だったから。
背も高くて、スタイルも忍さんやノエルさんくらいよくて。
キラキラ光る金髪は金属の糸のように細くしなやかで。肌は
雪か牛乳のようににごりなく真っ白で。瞳は宝石のように真っ
赤に輝いていて。
「……えーと、ど、どちらさまでしょうか?」
その人の格好は学校の制服みたいな感じで。ううん、制服
よりもバリアジャケットの方が似ているかも。少し冷たい感
じなんだけど、胸元を飾るピンクのリボンがとてもかわいく
て。
「Good morning, master.」
口はまったく動いていないけど、わたしがよく知る声でそ
う言ったのは、目の前にいるその人で。
「…………へ?」
「なのは、まだ寝ぼけてるの?」
ベッドに飛び乗ったユーノ君が、わたしの手の上に赤い宝
石をおいて。
「どちらさまって、レイジングハートに決まっているじゃな
いか」
「Condition green.」
顔は人形のようにピクリとも動かないけれど、やさしく笑っ
ているように見えて。
「ふぇぇぇぇぇぇ!!!」