ひんやりとした風が全身を撫でていく。
頭の上には鳥達が――なのはの世界でカモメ、と言う名前らしい――特徴的な鳴声をあげながら飛んでいく。
最初はなんだか変な臭いに思えたこの香りも今は逆に心地よい。
海鳴臨海公園――ある時はジュエルシードを巡り眼前の海で激戦を繰り広げたり、また出会いや別れが会ったり、なにかと僕たちとかかわりがある場所だ。
「海なんてミッドチルダじゃほとんど見なかったな」
遺跡発掘という仕事の都合上、どうしても僕たちが行くところは人々の間で秘境と呼ばれる場所が殆んどだ。それが密林だったり荒野だったり、はたまた山の中、大地の下と普通の行く人が行かない場所が僕にとって普通の場所だった。
今は多分前者が普通になっているけど、いずれミッドチルダに戻るときにはまた僕は普通ではない普通に身を置くことになるんだろう。
この風景も、あっちではこれからも早々見ることは出来ない貴重なもの。今のうちに堪能しておきたいな。
「それに……」
ふっ、と脳裏に浮かぶ笑顔。
――なのは。
当然、来るべき日が来たら彼女とも別れなければならない。
なんだか胸が痛い。
それが自分の気持ちに嘘をつくことだとわかっているから。
「でも、ダメなんだ……それだけは言えない」
僕はこの世界の住人ではないし、あまつさえ本来ならもうここにいてはならない存在。
別の次元の人間と干渉しあうことがもしかしたらこの次元に何らかの影響を与えたりしたらそれこそ取り返しのつかないことになる。
だからいちゃいけない、時空が安定したらすぐ帰らなければならない。
「いい加減治まれよ」
考えれば考えるほど胸は昂り僕を締め付ける。
いつからだろうかなのはのことを考えるとこうなってしまうようになったのは。
きっかけは多分、他愛ないこと。一緒にジュエルシードを回収していくうちにこうなってしまったんだと思う。
いつも一番そばで彼女を見て、彼女のことを知って、いつしか僕がなのはを見る視線は友達や仲間とは違う別のものへと移り変わっていた。
優しくて、強くて、可愛くて、それでいて責任感が強くて無理をしてしまう。
そんな彼女に抱く想い。
恋心。
「……なのは」
支えてあげたいとか守ってあげたいとかそんな想い。何より彼女と一緒にいたいという想い。
なんでこうなってしまったのか。軽率、というべきなのかそんな自分が不甲斐ない。
「ああ、もう」
半ば八つ当たりで僕は結界を展開した。周囲を魔力で満ちた空間へ移送させ時間の流れを幾分かずらす。
有事でもないのに魔法を使用するのはいろいろとお咎めを受けそうだがそんなことはおいて置いてほしい。時間は早いけど一応最近の日課なんだ。
僅か十分の時間。その中で僕はありったけの結界、拘束魔法の修練をする。この姿をそれなりに維持できるようになった僕は次にこの状態で魔法を使うことによって自分の魔力を始めとする能力を 伸ばそうと目標を立てた。
「拘束、全方位展開!」
別になのはに匹敵するような魔法使いになろうとは思っていない。なのはの才能はミッドチルダでも早々現れない希少な存在だ。正直、そんなものに追いつけるほど僕は自分の実力がないことぐらい分かっているつもりだ。
だから自分の得意な魔法、結界魔導士としての力を徹底的に高める。そうすればもしこの先何か起こってもなのはのことを十二分にサポートできるはずだから。
なのはの驚く顔が見たい、なのはの喜ぶ顔が見たい、なんて結局はなのはにいい格好を見せたい、それだけなんだけど。
結局、そんなことがもし起こったとしても僕がなのはと一緒に力をあわせることなんてあるのかさえ分からないのに。