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[660]176 2005/12/11(日) 02:57:36 ID:GiKYfC7I
[661]176 2005/12/11(日) 02:58:25 ID:GiKYfC7I
[662]176 2005/12/11(日) 02:59:04 ID:GiKYfC7I

彼女の守り手 17 星砕き、一番星――あの日の二人

 魔力と共に風が流れレイジングハートが光り輝く。
 先端に生まれた光は見る間に膨らみ閃光を放った。
「要領はあの時と同じ。だけど今度は込められるだけ魔力を込めて、僕がそれを抑える」
「うん、わたしの全力レイジングハートに!」
 光球が膨らむたび結界で魔力を押さえ込む。とっくに飽和している魔力は戒めから逃れようと魔力流となって暴れまわる。光球の表面を稲妻が走っては消え、バチバチと音を立てた。
 最後のチャンス。無駄にしないためにも僕もなのはも全ての魔力をそこに集中させていく。
「持ちこたえて、レイジングハート」
『All right』
 なのはの声にレイジングハートも自らの限界を省みず自分の全てを割いていく。宝玉を覆う金具にはすでにいくつものひびが耐える代償として入っていた。
『Photon bullet charge complete』
 先手を打つのはやはりヒュードラだった。最初に仕掛けてきた時より遥かに小さい魔力弾。直撃したって痛手にはならないだろう。けど今は攻撃されるだけで命とりなのだ。下手すれば自分達の魔力で自滅しかねない。
「くっ! 時間が足りないか……」
 発射態勢に移るヒュードラ。こちらの準備は未だ終わっていない。
 どうすればいい? このまま手をこまねくしか出来ないのか。
「いや――」
 簡単なことだ、守ればいいだけ。
 僕はなのはの盾なのだから。
「レイジングハート、元マスターとして頼みがある」
『What's?』
「全リソースを蒐集に割り振ってくれないか」
『There is highly danger of an accidental discharge』
 僕とレイジングハートで互いに拘束してるからこそ今は均衡させられている。どちらかがこれを解いてしまえば暴発の危険性が高まるのは当然のこと。彼女の言う分はもっともだ。
「その代わりにプロテクションの詠唱をやってくれない。魔力は僕のを使っていいから」
『Easy.But,what do you do?』
「僕が拘束と防御、引き受ける」
『Is it serious?』
 彼女から言わせて見れば無謀もいいところだと言いたいのだろう。確かに僕の考えていることは理解できる範疇を超えているだろう。
 拘束魔法でなのはの魔力を抑えこみ、なおかつヒュードラからの攻撃を防ぐ。綱渡り所ではない。綱自体ないようなものだ。
「本気。それに役割を分担した方が早いだろ?」
『Thougu it agrees to you』
「これでも一時は君のマスターだったんだ」
 使いこなしたかは別として。
「だから信じて。それに結界魔法ならなのはに負けない」
『…………』
 彼女が口をつぐんだ。
 僕の出した答え。それに彼女はなにを考えたのか。
 少しの沈黙。それを破った彼女の答えは

『……You need not like recklessness like my master』
 抑揚のない声だというのにどうしてこんなにも彼女が呆れていることがわかってしまうんだろうか。
 多分ため息でも吐きたい気分なのだろう、レイジングハートは。
「違うよ、レイジングハート。ユーノくんは元から無茶が好きだよ」
「よく言う。なのはこそさっきあんな無茶しようとしてたくせに」
『Both of them are』
 思わずおかしくなって噴出した。
 猶予はないというのになんでこんなに余裕があるのか。きっとそれは僕がなのはを、レイジングハートを信じているから。
「そうだね、お互い様。でもきっと三人なら絶対に成功するよ!」
「うん、それぞれがベストを尽くして」
『Swears it to my master and previous master』
 僕となのは、今まで別々に回っていた魔法陣が一つに重なる。お互いの心に触れるように魔力光が交じり合う。
 二人の、真っ白な、光そのもののような輝きを放つ魔法陣が生まれた瞬間――
『Bullet full fire』
 無数の紫苑が襲い掛かった。
「守りぬけ!」
 光の壁が僕らを覆い尽くす。襲い掛かる脅威はすべてその前に弾け飛び、一つたりとも僕らには届かない。
 魔力を押さえ込みながらの作業は体も心にも堪える。だけど負けはしない、絶対に。
 僕は防御と魔力の拘束――。
「全力全開! もっともっと強く!」
 なのはは魔力の供給――。
『Count down start』
 レイジングハートは魔力の蒐集――。
 既に光球はヒュードラを視界から覆い隠してしまうほど巨大なものへ成長を遂げている。
 込められている魔力はすでにスターライトブレイカー三発分以上。もしかしたらそれ以上かもしれない。
 目の前で輝く星。それは最上級の特大打ち上げ花火。
『……seven……six……five』
「ねぇ、ユーノくん」
「なに?」
「これが終わったら今度こそ町の案内してあげるからね」
 発射へのカウントダウンが近づく中、なのはがそっと囁く。
「うん楽しみにしてる」
「今度はどこにも……行かないでね」
 どこか不安げななのはの声。僕は自然と、なのはがそうしたようになのはの手を握り締めた。
「……うん!」
『……three……two……one』

 時は来た。
 これで全てを――
「スターライトブレイカー!」
『Supreme star』
「ブレイク――」
 ――決める。
「シューーーーーーーーーーートッ!!」
 声が重なり、爆音が轟き、ついに恒星が解き放たれる。
 空を切り、風を引き裂き、大気を押し上げ光は飛翔する。その先にいるのはヒュードラのみ。
『Distortion divide』
 声と共にヒュードラが壁を作る。星の光を跳ね返したあの防壁だ。
 星の光はあの壁の前に無残に別たれた。だけど今度は違う。ぶつける光は星そのもの。
 唸りを上げて星が壁に激突する。吹き荒れる光の嵐。星は鳴動し、その身をもって壁をじりじりと削り取っていく。
 ヒュードラの姿が水面に映したように激しく揺れ、波紋の只中で輝く星はさらに勢い増す。
 僕らにもうするべきことはない。残されたことは見守るだけ。 
(そういえばリンディさん、足止めって言ってたんだっけ)
 結局はその目的は果たせそうにない。僕たちの想いはあまりにも真っ直ぐすぎてその上を行ってしまっているから。
「……一番星みたいだね」
「そうかも」
 夕焼け空に最初に光を産み落とす星。二人で見上げたあの日の帰り道。もしそれが目の前にあったなら、きっとこんな輝きなのかもしれない。
 そしてガラスが砕けるような音と共に壁が破られる。ヒュードラに星を止める術はもうない。
『The volition of two person is not stopped』
 駄目押しのごとくレイジングハートが口を開いた。その言葉の通りに星がヒュードラの巨体を飲み込んでいく。星の表面には無数の亀裂が走り限界が近いことを知らせた。
「じゃあいくよ、なのは」
「うん」
 それでも星に込められた使命はまだ果たされちゃいない。フィナーレを飾る仕上げはこれからだ。
 あの日の夜空に咲かせた花を、もう一度ここで咲かせるために星は自分をヒュードラの巨体へと捻じ込んでいく。
「……拘束解除」
 静かに口ずさむ言葉に亀裂から光が溢れた。
「――っ!!」
 一瞬だった。五感全ては白く塗りつぶされ世界は再び影をなくす。
 最初はヒュードラが、今度は僕たちが世界を光の中へ葬った。


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