わたしの世界がある
いろんな世界がある
そこには数え切れないたくさんの人たちが暮らしている
みんな必ず大切な想いがあって
時にぶつかったり、傷ついたりするけれど
だけど最後にはきっと分かり合える
みんな笑顔になれる
だから一歩一歩、わたしは歩いていく
笑顔の始まりに会いたいから
魔法少女リリカルなのは Step
第1話 再会は新たな始まりなの
名前を呼ばれた気がした。
懐かしい声。決して忘れることのない、大切な友達の声。
そうだ、今日はフェイトちゃんと再会する日。待ちに待った記念すべき日。
「フェイトちゃん!」
勢いよく振り返る。その僅かな瞬間さえ今は惜しいほど私の気持ちは高ぶっていた。
その先にいるあの子へ、ぶつかりあって、わかりあえて、友達になったあの子に私はとびっきりの笑顔でそれに応えた。
「なのは!」
あの子が駆け出す。わたしも駆け出す。
風に流れる彼女のおさげ。髪を結い纏めている淡い桜色のリボンはあの日渡したわたしの想い。
離れ離れになっても心はいつだって一緒と交わした約束の証。わたしの黒いリボン、あの子の想いも嬉しそうに風に揺れる。
どんどん距離が近づいていく。50メートルは30メートル、30メートルは10メートルに。加速していく 景色の中であの子の姿がどんどん大きく鮮明になる。
やっと、やっとこの日が来た。この日が来たんだ。
もう一度、わたしは名前を呼ぶ。大切な、大好きな友達の名前を。
「フェイトちゃーん!!」
弾んだ息を抑えつつ、弾んだ鼓動はそのままで、わたしはフェイトちゃんの体を抱きしめた。
触れられない時間は短いようでやっぱり長かったけどこうやってフェイトちゃんを体全体で感じれば不思議なくらい綺麗になくなってしまう。アルバムをすごい速さでめくるようにわたしは、わたしとフェイトちゃんの思い出を懐かしんだ。
「な、なのは……痛い」
「あっ、ごめんね。つい力入っちゃって」
いけない。はしゃぎすぎて手加減を忘れてしまった。
「気持ちは分かるけど……少し落ち着こう」
「う、うん」
「……もう、なのははほんっと子供なんだから」
フェイトちゃんが呆れていた。でも何かおかしい気がするのは気のせいなのかな。
「いい? なのははもう少し前後のこと考えなさいよね」
「ふぇ……うん」
なんだか喋り方がぶっきらぼうというかフェイトちゃんらしくないというか。
「あの……フェイトちゃん?」
「なに?」
「フェイトちゃんだよね?」
向こうで何かあったのだろうか。なんだかわたしの知っている人にすごく似てきているようないないような……。
「まさかアタシのこと忘れたとか言うんじゃないんでしょうね……」
「ち、違うよ! そ、そのなんだか最後にあったときと随分違うかな〜って、あはは」
「人なんて時が経てばいくらでも変わるわよ。そう、時間ってのは待ってくれないんだから」
そうだよね。みんな変わって行くんだからこれはきっと普通のことなんだ。だからフェイトちゃんの性格が違うのもきっと普通のこと……だと思う。
わたしが未だ戸惑っているとフェイトちゃんの手が背中から肩へと置かれる。そうして二度、パンパンと叩いた。
「だからなのは、起きなさい」
「えっ? わたし起きてるよ」
「寝ぼけてる」
耳元で断言してフェイトちゃんはわたしの顔を見つめた。
だけどわたしの目に映ったのはフェイトちゃんの顔じゃなくて
「アタシとフェイトを見間違えてる時点でもう手遅れよ」
アリサ……ちゃんだった。
「ふぇ! ふぇ? え〜〜〜〜!?」
なんでフェイトちゃんなのにアリサちゃんでアリサちゃんがフェイトちゃんなの!?
わたしの頭はいきなり突きつけられた現実をぐるぐるとただ受け入れることしか出来なくて
「さぁ、なのはGet up! Wake up!」
アリサちゃんの言葉にもわけもわからず従っていた……。
* * *
「起きなさいってなのは!」
「う、う〜ん……フェイトちゃ〜ん……」
「フェイトじゃない! アタシはアリサ!!」
もう四時間目も終わってお昼休みだってのになんでアタシはこの居眠りを起こしているのだろうか。この子が睡眠時間を削ってしまった理由はあらかた察しはつくことつくんだけど。
「アリサちゃん、あんまり乱暴にしちゃ駄目だよ」
「甘いわすずか。このままなのはが起きなかったらアタシ達の貴重なランチタイムがなくなるのよ! Time is money! 時は金なりよ!」
「でも〜……」
肩を二度叩いて反応を窺う。……反応無し!
次は肩を掴んで激しく揺さぶる。前へ後ろへ左へ右へ――。そこいらの絶叫マシンよりずっと迫力があるわ。
「あぁ……やぁ、だめだよぉフェイトちゃ〜〜ん……」
「だ〜から! アタシはフェイト違う!!」
「ふへ!? …………あれ? アリサ……ちゃん?」
「そう、アリサよ。あんたの親友のアリサ・バニングス」
ようやく戻ってきたなのは。だけどこれじゃ悪いけど気が済むわけがない。まだまだ眠気眼のなのはの頬をアタシはそっと掴む。
「というわけで」
で、引っ張る。思いっきりにだ。
「屋上! ランチタイム!」
「ふひぇ〜〜〜〜!! いひゃいよありひゃひゃん〜〜」
「そうだよアリサちゃん。なのはちゃんのほっぺが伸びて戻らなくなったちゃったら大変だよ」
「……まぁ一理あるかもしれないわね。わかったわ、今日はこれで勘弁してあげる」
マシュマロみたいな頬を開放してアタシは自分のお弁当箱を掲げてみせた。
「いい? 今度起きなかったらもっとすごいことしてあげるからね」
「それだけはもう許してよ〜」
「だ〜め、お寝坊さん直さない限りはね」
「今日だけだってば」
「関係ないわ」
軽くウィンクをしてアタシはなのはに背を向けた。時計を見るともうすでに昼休みから十分も過ぎている。
いけない。アタシとしたことが何て時間の浪費。
「ほら、行くわよ。二人ともさっさと準備して」
「私はもう大丈夫だけど」
「えっ、えっ? ちょ、二人とも待って待って!!」
ガタガタと机やイスの揺れる音。きっとすごくなのはは慌ててる。
でもアタシは待たない。だってすぐに追いついてくれるんだから。いつだってなのははアタシたちと一緒なんだからこれは当然。
今日のランチタイムも賑やかになりそうで楽しみだ。
* * *
いつもお昼休みにお弁当を食べる場所。屋上に今私たちはいます。
いつものように腰掛けたベンチ。隣には大事なお友達のなのはちゃんとアリサちゃん。
「それにしてもさ、時の流れが速いことを改めて思い知らされるわ」
タコさんウィンナーを頬張りながらアリサちゃんが何気なく呟く。ちなみにそのタコさんウィンナーはなのはちゃんのお弁当から取ってきた物。なのはちゃんはというと恨めしそうにそれを見つめている。
いくらお寝坊の罰とはいえそれはないんじゃないかなと思うんだけど、でもまぁしょうがない……かな。
「どういうこと? アリサちゃん」
「だって今年からアタシたち四年生なのよ。またひとつ上級学年に進級したのよ」
「でもあんまり実感沸かないね」
そう、実感なんて全然沸かない。持ち上がりでクラス替えがないから私達は当然
「腐れ縁……ってこういうことを指すのよね」
同じクラスで席も近くてあんまり変わってないと言えばそれまでで。
「それとは違うような気もするけど……」
首をかしげながらなのはちゃんが呟いた。うん、微妙にニュアンスが違うと思う。
だって私はなのはちゃんもアリサちゃんも大好きだから四年生になっても一緒にいられることはすごく喜ばしいのだから。
「う〜ん……それより今はお昼にしようよ。せっかく急いできたんだから」
「まっ、結局誰かさんのおかげで急いだけどいつもと同じくらいのランチタイムなんだけどね」
「うう……もう居眠りしないように気をつけます」
なのはちゃんが小さくしゅんとしている。自分でも居眠りしたことが相当堪えているみたいだ。
「でっ、あんたは四時間目の授業と引き換えにどんな夢を見ていたわけ?」
「寝言じゃフェイトちゃんって言ってたよね」
多分、夢の内容は察しがつく。きっともうすぐに迫ったフェイトちゃんと合う日のことを夢に見ていたのだろう。
私たちはまだビデオレターのフェイトちゃんしか知らない。会うのは私たちだってすごく楽しみだけど、きっとそれ以上なのはちゃんはその日がくるのが待ち遠しくてたまらないのだろう。
「え、えと……多分アリサちゃんとすずかちゃんが考えていることと同じだと……」
「直接口で言ってもらわないとわからないわよ」
にやけながらアリサちゃんがなのはちゃんに顔を寄せた。
「私も聞きたいな」
フェイトちゃんが本当はどんな子なのか一番良く知っているのこの中じゃなのはちゃんだけだ。その点ではなのはちゃんが羨ましくてちょっと嫉妬しちゃったり。
「あ、あははでもその話はまた今度にしようよ」
「なぁに、お楽しみは一人で楽しみたいとか言うつもりじゃないでしょうね?」
「そういうわけじゃなくて、話し出すときっとわたしいっぱい喋っちゃうと思うから……」
「じゃあ、今度私の家でお茶会しよう。それならゆっくりできるし」
昼休みだけじゃ足りない思い出。一体二人はどんな風に出会ってそこまで沢山の思い出を作れたのだろうか。もちろん思い出なら私だっていっぱい持ってると思うけど。
「そうね……それならいいんじゃない?」
「そうだね。うん、じゃあその時のお楽しみということで」
なのはちゃんがちょっとだけ自慢げに胸を張った。顔も少し得意気。
「覚悟しなさいよ、たっぷり絞ってあげるから」
「アリサちゃん取調べじゃないんだから」
なんだかんだ言って私たちは今日も仲良し三人組です。
いつかフェイトちゃんも私たちと親友になれるかな。
そしたら仲良し四人組。楽しいことがもっともっと増える予感です。
* * *
遠く扉の向こう、廊下を駆ける足音。時計を見ればすでに時刻は四時過ぎ。この部屋の主のお帰りだ。
「ただいま! ユーノくん」
元気良くドアを開けて笑顔で帰ってくるなのは。僕も半身をベッドから起こしてそれに応える。
「おかえりなのは」
ベッドにカバンを放り投げなのは横目に僕もとある準備を始める。
もうこの家に――というかなのはの厄介になるために必ずしなければならない規則のようなもの。
「じゃあ外に出てるから」
「あっ、うん。いつもごめんねユーノくん」
「いいよ、男としては当然なんだから」
いつでも出入り出来るように鍵を開けておいてくれるベランダから僕はしばらくの間は外の風に当たる。
それはもちろんなのはの着替えを見ないための僕なりの気遣い。以前なんて目の前でなのはが着替えだしたりして僕としてはそれなりのドキドキさせられる経験もした。
あの時は僕が本当は人間だってなのはが知らなかったせいでかなり無防備な姿を晒していてある意味かなり犯罪的なことを僕はしでかしていたわけだ。
「気は楽になったんだけどね……」
軽く息を吐いて首を垂らす。
あの事件が終わってから今までは流石のなのはも僕のことを一端の男と見てくれたおかげでもうあんなことは皆無だ。罪悪感に苛まされないので僕としてはとてもありがたい。
「着替え終わったよ」
「うん、今行く」
ベランダからまたもう一年はお世話になっているバスケットの中へ。体がすっかり覚えてしまっている。
きっとフェレットの匂いもいい感じに染み付いているのだろう。あくまであったと仮定するならだ。そんなものまで忠実に変身魔法で僕は再現していない。
でもこれじゃほんとにフェレットもどき、なのはの使い魔みたいだ。
「どうしたの?」
「え、あ、うん大丈夫。少し考え事」
慌てて首を振る。こんなのなのはに悟られたら余りに情けない。
「そういえばなのは」
「なに?」
「今朝の魔法訓練は一人でやったの?」
「うん、ユーノくん起こすの何だか悪いと思ったから。ほら、管理局帰りなんだから」
PT事件から半年経ち空間もようやく安定した頃から僕はちょくちょく部族の元に帰ったり、管理局の手伝いをしている。
根城としているのは相変わらずなのはの家。またこの世界で魔法に関する事件が起きた場合の駐在職員代わりとして僕はなのはに魔法を教える傍ら日々この世界の情報を収集している。
「みんな元気だった?」
「そうだね、みんな元気だったよ」
この一軒で知り合った管理局の人たちに直接会えることも手伝ってなのはへみんなの近況を伝えることも忘れない。
「クロノの奴も憎たらしいほど元気だった」
「あはは」
毎度毎度顔を合わすたび僕のことをフェレットもどき扱いするあの性格はどうやったら直るのだろうか。本局には巨大な書庫があるらしいから今度そこで性格矯正の魔法があるか調べてみるもいいかもしれない。
「そういえばユーノくん、今日やっとディバインシューターの制御数増やせたんだ」
「ほんと」
「うん、これで十個目」
日々なのはも自分の魔法に磨きをかけている。一度に十個ものシューター制御できるなんてほかの人が聞いたらさぞ驚くこと請け合いだ。
「でも結構難しくてやっぱり上手く動かせないんだけどね」
「やっぱり五つぐらいが今の限界かな」
「そうかも」
「でもいいよ。なのははまだ十歳なんだからゆっくりしていけばいい」
一時は肉体に負荷をかけて一日過ごすなんてこともやったけど結局僕が止めさせた。
向上心は確かに必要だけど無理をする理由にはならない。成長段階の肉体に魔法負荷をかけた悪影響が後々出てきたらそれこそ示しがつかないしそれにただ力を求めても魔導師としては駄目なのだ。
「なのはにまだ学校があるんだから疎かにしちゃいけないことが沢山あるでしょ」
でも一番の理由はなのはの日常全て非日常に変えたくはなかったからだ。
この世界では義務教育がまだまだあると聞いている。だからそれを侵食してしまうほどなのはが魔導師としてこちら側に来てしまうことだけは避けたかった。
なのはは自分の意志で魔導師としての道も考えている。それはいいことだと思う。けどきっかけは僕が巻き込んでしまったのだ。
どちらかといえば今なのはが魔導師を志しているのも使命感に近いものだろう。
「そうだね、いっぱいある」
なのはにとって魔導師としての日常をするのは朝の訓練の時だけ。後はもしもの有事の時。それ以外は小学四年生としての高町なのはとして日常を過ごさせてあげたい。
これは僕なりの優しさ。多分、驕りなのかもしれないけど。
「そういえばフェイトって嘱託魔導師になったんだよ」
「しょくたく?」
「えっとね簡単に言うと魔導師のお手伝いさんかな」
「そうなんだ。わたしてっきり料理を作る魔導師さんかと」
確かに始めて聞いたらそう勘違いしそうだ。
料理に魔法を使うのはそんなに珍しいことではないからあながちそういうのもいるかもしれないけど。
「あはは、でもフェイトの料理も食べてみたいね」
「フェイトちゃん料理できるのかな?」
「今度聞いてくる」
そう、僕にとってこの日常と非日常を行き来する今が掛け替えのない日常なんだ。
今が続けばいい。そんなことをふと思い僕は窓の外を見つめた。
どこまでも青く澄み渡った空は僕がなのはに抱く淡い気持ちのように思えたのは気のせいではないのだろう。
でも今はこのままでいいと思う。この気持ちだってまだ急ぐものではないのだから。
* * *
天上で瞬く星は何処の世界も同じ光を投げかけているように思える。
だけどそれは微妙に違う。言葉では言い表せない感覚的なものだけどそれがそこにあると私は信じている。
「フェイト……こいつら」
「落ち着いて、私たちそれぞれで相手をすれば勝てない相手じゃない」
星の海を背に黒衣に頭まですっぽり包んだ魔導師が静かに佇んでいる。傍らには淡い黒で身を包んだ雌獅子を引き連れて。
「大丈夫だよ、私たちにアースラの嘱託魔導師なんだよ。これぐらいでへこたれてちゃクロノに笑われちゃう」
それにこれぐらいできなきゃきっとリンディ提督の娘になる資格なんてあったものではない。
バルデイッシュを構え直しいつでも飛び出せるように体勢を低くする。
今日の星空はどこか冷たくて鋭い。そんな気がした。
「もう一度聞きます。なぜアースラを襲撃したんですか」
「…………」
「今投降すればまだ罪は軽くなります」
なぜ一言も喋らないのだろう。疑問よりもなぜか苛立ちが募った。
「答えてください!」
そしてその裏で私はなぜか彼女が喋らぬままこの場を立ち去って欲しいという願望を抱いている。それは恐怖にも似た感情で自然と声も荒げたものとなっていた。
「どうしたんだいフェイト?」
アルフの声もよくは聞こえなかった。
「もしこれ以上黙秘を続けるようなら」
「私はあなたを撃たなきゃいけない……って言うの? それなら――」
『Photon javelin』
「私が撃ってあげるよ」
刹那、私目掛け二条の雷光が空を薙いだ。
「フェイト!!」
不意の一撃はアルフが障壁を張ってくれたおかげで難を逃れた。いつもの私ならアルフがいなくても自分の力で防げたのだろう。だけど今だけは体が動かなかった。
きっと精神を通じて私の動揺をアルフが感じてくれたからだろう。その証拠にアルフの声が揺れている。
「な、なにやってんだい! 黒焦げになるとこだったじゃないのさ!」
「あっ……ごめん」
開いてしまったパンドラの箱。その声、彼女の声が私の心を鷲掴みにする。
「どうしたの? あんまり誘導性ないから避けると思ったのに」
私のランサーのような小さな槍ではない光。収束率を上げて塊のようにすれば命中率が鈍るのは当然だ。
「ほんとにあなたって私の欠片なの? すっごく弱い」
無邪気な声。きっと私があの子のままだったなら、あんな風にカナリヤのような声を凛と響かせていたのだろう。
――違う。
私は私だ。どんなことがあったって私は私で違いない。
絶対にそうなのだ。
「でも足りないよ。あなたにはもっともっと悲しい思いしてもらうんだから」
気づけばバルディッシュがガタガタと震えていた。当然震えているのは私の腕。
認めるのが怖い。だって目の前の真実が本当に真実なら私の存在は一体なんだって言うのだろう。
「全部返して……あなたには悲しい思い出だけで十分なんだから」
心の奥底でもう忘却の彼方に追いやったそれが気がつけば私の首に手を回している。
「お喋りが過ぎますよ。今日は挨拶程度に留めて成すべきことをやりましょう」
「え〜、まだいいでしょ? そんなに時間かからないんだし」
「駄目です。……まったく、そういういい加減な所を直さないと立派な魔導師にはなれませんよ」
「ちぇ、ほんっとリニスは頭でっかちなんだから」
懐かしい声が私以外を叱っている。そういえば私は彼女が獣になった姿を知らない。あの姿が彼女の野生なのか。
「あまりこの姿で私もいたくないんです。そろそろあなたの我侭に付き合うのも我慢の限界です」
「じゃあいいよ、元の姿に戻って。フェイトに驚かせればそれでよかったんだから」
「ではお言葉に甘えて」
だからもう、その姿を、私に見せないで。
アルフが驚いちゃうよ。
「あ……嘘だろ? ……なんで……あんた……」
「ふふ、久しいというには少々時が経ち過ぎている気もしますが、立派になりましたねアルフ」
その変わらない眼差しにはもちろん私も映って
「そしてフェイト。ですがもう余興は終わりです」
躊躇いもせずそんな言葉を平気で言えるなんてやっぱりリニスらしい。
「じゃあ見ててフェイト」
掲げた左手に鈍く光る黒き杖。リニスが私に残してくれた杖と幾分形が違うけどやっぱりそれはそれで。
「いくよ! バルディッシュ……プロト!」
『Yes,sir』
煌く金色が目に沁みた。
彼女が被っていた黒衣を脱ぎ捨てる。空に放られ風に流される黒に星明りを受けて揺らめく金色の髪。
「今夜が私の第一歩! アリシア・テスタロッサの第一歩!!」
少し幼さの残る顔で瓜二つの彼女はにんまりと笑みを作った。