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[281]176 2006/04/26(水) 22:25:44 ID:O2a8KN//
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魔法少女リリカルなのは Step 第1話 再会は新たな始まりなの Bpart

目を開けるとぼんやりと光る橙色の明かり。薄暗い部屋の見慣れた天井。
「ん……」
 思考に纏わりつく霞を体を起こすことで何とか掃う。
 時計を見るとまだ夜明け前だった。いつも起きる時間よりは少しだけ早い。だけど次元航行中の窓からは夜明けも日暮れも、星さえ見るのはままならない。
「……ゆめ…………?」
 頭の中で揺らめく像は儚くてもう輪郭がぼやけている。鮮明に覚えてないのだからきっとこれは私の夢の記憶。きっとそうだ。
 どんな夢だった? 誰が出てきた? 楽しい夢? 悲しい夢?
 気になって糸を手繰るけどなぜだかそれは一向に私の所に来てくれなかった。
「……まぁ、いいかな」
 こんなことを気にしすぎて嘱託魔導師としての仕事を疎かにしてはいけない。提督やクロノに笑われちゃう。
 気持ちを切り替え睡眠のためにベッドの淵に手を伸ばした。待機状態にしていた照明にスイッチを入れると、パッ、と夜明け代わりに部屋が明るくなった。
 少し体を反らして背伸び。欠伸一つしてベッドから足を下ろす。と、机の上に飾られた写真が目に入った。
 いけない、忘れてた。
「おはよう。なのは、アリサ、すずか」
 写真の中の三人に私は日課のおはようの挨拶をする。この前ビデオメールと一緒に送られてきた三人の集合写真は今の私にとっては元気の素だ。
 辛い時や悲しい時、どうしても気持ちが沈んでしまう時私はいつも三人の笑顔に元気付けられてきた。
 まだ一方的なやり取りでしかお互いを知ることが出来ないのは悲しいけどもうすぐそれも終わる。
「あと五日……」
 自分でもあまり感情を出さないと声だと思っていたけど、この時だけはすごく弾んでいるように聞こえた。
 カレンダーの二重丸はもうすぐ私の明日にやって来る。待ちわびた時がすぐそこに来ている。
 初めはまず挨拶と自己紹介。でもそれはビデオメールでやってるし……でもやっぱり直接言わないと駄目だよね。
 その後はどんなことをしよう。魔法のことは話せないから他の話をすることになるんだろうけどあまり自信ないな……。エイミィに聞いてみようかな。
「……ふふ」
 少し反省。最近こういうことばっかり考えている自分はクロノに言わせれば気が緩んでると言うのだろう。
 急いだって明日はすぐにやって来ない。だからそれまでは大人しく待っていないときっと神様に怒られてしまう。
「着替えなきゃね」
 そう、みんなの役に立てるよう私はアースラの嘱託魔導師になったんだ。
 手早く着替えてリボンを結んで、私は机の上の相棒を手に取る。
「遅くなったけどおはよう、バルディッシュ」
『Good morning Sir』
 挨拶と金色が光る。いつも通り元気な彼を懐にしまうと私はそっと部屋を出た。
「待っててねみんな……なのは」
 さぁ……頑張ろう。

* * *

 ――――平和だ。
 異常も何も沁みさえ一つもないモニターを凝視しながら一息つく。
「ほんと……平和よねぇ」
 横でお茶――むしろ正体不明の飲料に成り下がっている何かを啜りながら、この艦で一番権威を持つ人間がため息をついている。
「やることといえば遺失物の捜索くらい。最近は物騒なことがなくて物足りない気もするわ」
「艦長の言うことですか……それは」
 確かにPT事件以後、このアースラに舞い込む任務は戦闘なんて危険を伴うような物はほとんどなく、もっぱらロストロギアの捜索と収集。暇な時は暇なのだ。管理局というものは。
「いいじゃないですか、何もないことこそ何よりですよ」
「そうね……クロノにも浮いた話何一つないし」
「……艦長」
 なんで平時はここまで落ち着ける、というかマイペースを貫けるんだろうか。本当に管理局提督
の肩書きを持っているだろうか。そんな疑問がこういう時は浮かんでくる。
「そうだよね〜、クロノ君ももう十五なんだからそろそろ身を固めた方がいいと思うよ」
「所で艦長――」
「こぉら、無視するな〜」
 下から聞こえる補佐の声をさらりと受け流して話を続ける。こういう時は話に乗ったら負けと相場は決まっている。
「エイミィとは今もいいコンビ止まり……はぁ、もう少し積極的になった方がいいと思うの」
「だから母さん……」
「母さん心配なのよ。我が息子が仕事一筋の仕事馬鹿にならないかって」
 僕の意見は無視されているのこの際措いておくことにする。けど、いくら暇だからってそんな話題持ち出さなくたっていいじゃないか。
「もしかしてクロノ君、フェイトちゃんのほうが好み?」
「そ、そんなわけないだろ!」
 ああ、人を弄るのは大概にしてくれエイミィ。もしかしたらそう遠くない未来に妹になるかもしれない相手に恋愛感情なんて持つことなんて出来るわけがない。
 長い付き合いだけどそういうことは僕だけにしてくれよ。そう心の中で忠告して再度モニターに目をやった。
「おはようございます」
 ドアがスライドする音と共に透き通った声が僕の耳に心地よく響いた。
「ああ、おはようフェイト」
「おはよう、クロノ、リンディ提督」
「ええ、おはよう」
 艶やかな金髪を揺らしながら入ってきたのは我らがアースラが誇る嘱託魔導師フェイト・テスタロッサ。今風に言えば期待のルーキーと言う所だ。
「おっはよー! フェイトちゃん」
「うん、エイミィおはよう」
 艦橋に来たフェイトの日課はまずここにいる職員全員との挨拶だ。僕や母さんに挨拶をすると下にいるエイミィやランディ、アレックスといった具合に一人一人挨拶をしていく。
 そうやって全員との朝の恒例行事を終えると戻ってくるのだ。
「それにしても全員と面と向かって挨拶するなんて律儀というのかフェイトらしいというのか」
「挨拶は大事だからね。やっぱり一日の始まりはみんな笑顔で始めたいと思うんだ」
「そうね、朝から機嫌悪いなんてこの艦には合わないものね」
 うんうんと二度頷く母さんにはにかむフェイト。何気ない朝のひとコマだというのになぜここまで心が落ち着くのか。
 もうこれがないと朝が始まらない気がしてきた僕を感じ、心の中で一人苦笑した。
「そういえばアルフはどうしたんだ?」
 いつも隣にいる彼女がいないことに気づく。
「うん、なんか変な夢を見て気分がすっきりしないからって訓練室にいるみたい……」
「変な夢……?」
「きっと私が見た夢を一緒に感じたせいだと思う」
 釈然としない顔でフェイトは続ける。確かに精神が繋がっていればフェイトの心の動きに影響を受けることもあるだろう。
「なるほどな……まぁ、その内やって来るさ。そろそろお腹空いた〜、って感じに」
「うん、そうだね」
 夢の内容を聞くのは流石にエチケットに欠けているので無理には聞かない。無粋な真似をしては男としても未来の兄としても駄目だ。
 なんだかすでに頭の中ではフェイトを妹として迎え入れている自分がいて少々呆れてくる。選択権は彼女にあるのに一体僕は何を考えているんだか。
 一番弛んでいるのは僕なのかもしれない。
 それなりに忙しく動く職員達を眺めながら何もしないで突っ立ってばかりの執務官。
「久しぶりに模擬線でもするか、フェイト」
「えっ?」
 何かしなければならない。使命感というわけではないがやはり何かしないと僕としても立場が危うい気がしてきた。
「最近は実戦もしてないし、お互い魔導師として腕が鈍ったら有事の時に大変だからな」
「……うん、そうだね。私も頑張らなくちゃいけないし」
 こくりと頷き僕の申し出をあっさり了承する。なんだかフェイトを出汁に使った気もすることはするのだがフェイトもやる気のようだしその点は目を瞑ってもらおう。
「じゃあさっそくやろうか」
「随分と張り切ってるみたいだな」
「もうすぐなのはたちに合えるから。あんまり弛んでちゃいけないからね」
「ああ、確か五日後だったな……」
 ならばフェイトがその気なのもよく分かる。弛緩した自分など久方ぶりの再会にもってくる馬鹿者はそう滅多にいない。いい所を見せたいのは誰もが考える共通事項だ。
「だから今日は厳しくお願いします」
「言ったな……ならとことんまで付き合ってもらうぞ」
 そうして最近思う。邂逅の時からは想像も出来ないくらいにフェイトは変わったという事実を。
 誰が見たってフェイト・テスタロッサと言う人物がこの一年で大きく変化したこと明らかだ。それは成長であり、また過去との決別も意味しているのかもしれない。
 今まで出会ってきた人たちの中でフェイトほど酷な境遇に置かれた者はいない。自身が代替物でなかったことに加え、母親に拒絶され、あまつさえ不良品呼ばわりされた事実。
 九歳という年齢にはあまりに凄惨で残酷な仕打ち。いや、こんなことに年齢とかそういうものは関係ないだろう。
「私も今日は全力で行くから」
「ならあいつも呼べばよかったか……」
「大丈夫だよ。アースラの結界が持つうちに終わらせられればいいんだから」
「それは僕への挑戦と受け取っていいんだな」
 考えるのはもうよそう。少なくとも今は過去なんて振り返っている時じゃない。今と未来、それだけ見つめていればいいんだ。
 フェイトが笑顔だということ。その笑顔を温かく見守ってやることこそ僕に課せられた任務だ。
「よし、なら今日の1500時に訓練場に集合。それまでは互いに戦闘の準備をぬかりなく、だな」
「はい」
「うん、いい返事だ」
 そうと決まればさっそく自室に篭ってS2Uの調製としゃれ込もう。
 僕は踵を返す。高鳴る鼓動に口元が緩むのが抑えられない。模擬戦といえど戦闘という事に変わりはない。やるからにはどこぞの彼女ではないが全力全開だ。
 それがまさか、皮肉にもこの準備が本当の戦闘に使われることになってしまうなんて誰が予期しえたのか。

 本当に世界って奴は、いつだってこんなはずじゃないことばっかりだ。

* * *

 家に帰ってきてから夕食を食べて、お父さんやお母さん、お兄ちゃんお姉ちゃんと今日の一日あったことをお話しして
「う〜ん……はぁ」
 お風呂に入ってからわたしはベランダに出て夜風に身を浸している。
 湯冷めしちゃうかもしれないけど今日は暖かい日だから大丈夫、かな。
「ミッドチルダもこんな星空なのかな……」
 少し視線を上げればもうそこは星の海。小さな光がひしめき合って、本当に宝石箱をひっくり返したって言葉がピッタリの夜の空。
 なんだかずっと見ていたら吸い込まれそうな気がして不思議な感覚に捕らわれる。
「そうだね……うん、これに負けないくらい綺麗な空だよ」
「ほんと?」
「これでも遺跡発掘が仕事だからね。他にもいろんな世界の星空を知ってるよ」
 ちょっと自慢げにユーノくんが笑った。
「そうだ、夏休みに行ってみる?」
「ミッドチルダに?」
 手すりの上のフェレットがこくりと頷いた。
「うん、僕やフェイト、他のみんなが生まれた世界をなのはに見てもらいたいから」
「うん! 絶対行く! 行ってみたい!」
 断る理由なんてない。だってわたしにとってミッドチルダといったらあのアースラの中しかないのだ。みんなが生まれた世界を本当には見ていない。
 ユーノくんがいいのならわたしは見てみたい。
「それなら今からいろいろと考えないとね。なのははどこか特に行きたい所とかある?」
「う〜んと……」
 そう言われると正直困ってしまう。知識ゼロで名所も穴場もなにもかもわからないんだから。
 でもいくつか行ってみたい場所はある。浮かべてみるとどんどん出てきてまた違う意味で困ってきた。
「えへへ、全部見て回りたいかな」
「はは、なのはらしいよ」
「そうだ、ユーノくんの部族の人は?」
「僕の部族? いつも流浪してるけど……そうだな、多分今ミッドに戻ってるかも」
「じゃあ、会ってみたいな……」
「また候補が増えちゃったね」
 そう言ってユーノくんは笑った。つられてわたしも笑った。ほんとにどんどん増えてきちゃう。
「フェイトちゃんも一緒に行けるかな」
「きっと大丈夫だと思うよ。それにきっとリンディさんがどうにかしてくれるだろうし」
 確かにそうかもしれない。リンディさんならどんな事情があっても二つ返事で賛成してくれそうだ。
 まだまだ先の、夏休みの情景を思い浮かべながらわたしはしばらく星空を見つめていた。
「そろそろ、寝ようか」
「……えっ。あ、そうだね」
 早寝早起きは大事。ユーノくんに促されてわたしはようやく視線を真っ直ぐに下ろした。視界には夜に染まった海が見えた。
「――?」
 そうして唐突に、本当に唐突に星とは違う輝きがわたしの目に映った。
「なのは? どうしたの」
「今、海の方が光ったような気がしたんだけど……」
 正確には水平線よりちょっと上。星の煌めきとは違う場違いな光が見えた……ような気がした。
「気のせいじゃないの? だって晴れてるし」
 ユーノくんの言う通りだ。雷とかの光を見間違えるにしても今日はこんなに晴れているのだ。
 もしかしたら飛行機の光だったかもしれない。でも飛行機はそんな低い所は飛ばない。
 じゃあなんだろう。いつもは気のせいで片付けられたそれが今日だけはすごく気になってわたしは身を乗り出すようにしてもう一度その場所に目を凝らした。
「…………」
 やっぱり気のせい? だけどそこに何か大切なことがあるようでわたしは目を離せなかった。
 だから応えてくれた。
「――光った! 魔法の光……」
「ま、魔法!? そんな誰が」
 ユーノくんには分からなかったみたい。でもわたしにははっきりとそれが見えた。
 稲妻のような軌跡を描いた金色の光。わたしがよく知ってるあの子の魔法の色。
「ユーノくん!!」
「わかった、すぐに転送――行くよ!」
 元の姿に戻りながらユーノくんが転送魔法を発動させる。
 わたしの足元を照らす魔法の光。輝きに包まれながらわたしは胸元に光る紅玉を取り出す。
「レイジングハート! お願い!!」
『All right.Standby ready……』
「セット……アップ!!」
 掲げた左手から溢れる桜色。パジャマはすぐに着慣れたバリアジャケットへと姿を変えた。
「座標固定! 転送!!」
 光に包まれる何キロもある距離を一瞬で飛び越える。光が消えればもうそこはわたしがさっきまで見つめていた空の只中。
 そして、きっとこれが始まりの合図だったんだと思う。
 わたしやフェイトちゃん、アリサちゃんにすずかちゃん。わたしの世界を巻き込んだ新たな物語。
 高町なのは二度目の日常と非日常を行き来する物語の始まり。


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