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[82]176 2006/04/16(日) 00:58:57 ID:QVXKIEpL
[83]176 2006/04/16(日) 01:00:15 ID:QVXKIEpL
[84]176 2006/04/16(日) 01:00:59 ID:QVXKIEpL

糖度200%の日常 days 1

 砂糖というものは一番適当で手っ取り早く万物に甘みという味を授与できる魔法の粉末である。
 だが加減を間違えれば時としてあまりの甘さに万人は舌先を口から出してしかめっ面なんてこともある。例外としてこの異常濃度に耐用しあまつさえ好んで摂取しようとする人物もいることはいるのだが。
 兎も角、さじ加減を間違えてはせっかくの料理も台無しというのは尤もな話だ。しかしこればかりは料理人の舌に大きく依存するのも事実。
 本人は絶妙だと思っていたものでもいざ口に入れるととても食えたものでなかったり。いわゆる味覚オンチ。
 ここにいる二人も自分達ではかなり甘さ控えめのつもりなのだが、実際他人が見ればとても見れたものじゃないくらいの糖度であったりするわけで。
 恋の炎は互いの欠点はおろか周囲の視線さえ覆い隠してしまうらしい。
 まったく恋は盲目とはよく言ったものである。

days 1

 真っ白なシーツに包まれて男と女が静かに寝息を立てている。
 男と女、そう呼ぶにはほど遠いあどけなさと幼さを残した顔は二人がまだ成人はおろか十代半ばにすら達していない事実を教える。
「んぅ……ゆーのくん」
 大好きな人の腕に抱かれて高町なのはは幸福100%の寝言を漏らした。昨晩の情事を夢に見て思い返しているのかその顔はいい塩梅に綻んでいる。
 対して彼女を抱くユーノ・スクライアはつい六時間前の疲労が残っているのか石像のごとく沈黙したままだ。それでも顔は心なしか笑っているように見えるのは気のせいではないのだろう。
 カーテンの隙間から朝日が部屋に差し込み窓の外では朝を告げる雀のさえずりが聞こえる。いつもは早起きを心がけているなのはにはちょうどいい目覚ましなのだが今日はそうではないようだ。
 壁にかかったカレンダーには散発的に赤丸が書き込まれている。特に法則性もなく本当に適当につけられたような丸の一つ。ちょうど今日の日付の所だけが二重丸になっている。
 日曜日は当然のことながら老若男女問わず共通の休日だ。だがあくまでそれはこの地球だけに当てはまるルールでありミッドチルダ当てはまるとは一概に言えない。
 ようするに今日は二人の休暇が見事ピッタリ重ねる日であり、二人が一日を共有し合える貴重な日というわけだ。
「すきぃ〜……はぅ……」
 そういうわけで昨日夢に旅立つ前に朝寝坊するとなのははちゃっかり決め込んでいたわけで未だ意識は遠い所で幸せに漬かっている。
 太陽はせっせと大地の温度上げている。当然のことだが部屋の温度も上がり休眠していた体にも火入れを始めた。彼女には悪いがそろそろ起きてもらわなければ一日が始まらない。
 シーツがもぞもぞと動き仔犬のようになのはが呻いた。一度、瞼をぎゅっと締めてからゆっくりと網膜に光を取り入れる。平生より二時間遅く、ようやくなのはは起床した。
 まず視界に入るのはまだまだ立派とは言いがたい平たい胸板。ちょっと目線を上にずらせば
「――ふふ」
 大好きなユーノの寝顔。
 笑みがこぼれるのを抑えられない。目覚めてすぐ彼に会える朝ほど幸せな朝はない。
 断言できる最高の朝、と。
 まだまだ寝足たりなさそうな体を少しだけ起こして今度は上からユーノを見つめる。
 相変わらず均整のとれた顔立ちは女の子に見えても仕方ないくらいに可愛い。未だすぅすぅ、と寝息を立てる顔は昨日の夜あんな乱れたことを感じさせないくらいに綺麗だ。
 こんな彼の無防備な一面が見られるのは恋人の特権。そんなことを思いながらなのははそっとユーノに口付けをする。

 ――ちゅ……

 目覚めのキスは王子さまがするのが普通だけど今朝は特別にお姫様からお寝坊さんにおはようのキス。
 少し長めに触れ合ってゆっくりと唇を離す。初めてした時は顔を近づけるだけで火が吹き出そうだったけど今では軽いスキンシップのように自然に出来る。一種の愛情表現ということですっかりなのはの中では定着している証だ。
「ん…………あ、なのはぁ……ん、おはよう」
 遅れること五分と三十二秒。王子様がようやく起床した。
「うん……おはよう、ユーノくん」
 欠伸一つして目端に涙を浮かべるユーノになのはは無邪気に笑い、そして抱きついた。
「どうしたの……今日は日曜なんだからもう少し寝ててもいいんじゃない?」
 眼を擦ってじゃれつくなのはに面倒臭そうに切り出す。その口調、社会の荒波に揉まれ数少ない休息を貪る企業戦士のようだ。
「もう十分寝坊はしたよ。それに今日は日曜なんだからもう起きないと駄目だよ」
「時間は……?」
「八時くらい」
「……じゃあ起きないと駄目かな……」
 ベッドにしがみつこうとする上体にしぶしぶ鞭を入れ引き剥がす。当然くっついてるなのはも一緒になって起き上がる。首に手を回して何が何でも離さないつもりか。
 嬉しいのだが少し動きづらい。
「なのは……」
「えへへ」
 これが何も考えてない笑みなら微笑ましく思えるのだろう。生憎、笑って誤魔化せば強く出れないことを分かっている上での笑みだから始末が悪い。
 甘えるのは一向に構わない。なのはがこういうことをするのが実はかなり好きだとか云々諸々は長い付き合いでよく理解している。
 魔法でも思いもよらぬことを平気でやってのける彼女だからこそこういうことにも頭が回る。それに妥協してしまう自分も甘いのだろうけど。
「いいでしょ、今日は日曜日なんだし」
「まぁ、なのはがいいならそれでもいいんだけど」
頬を摺り寄せながら喜色満面ななのはの頭を軽く撫でるとくすぐったそうに目を細める。トリプルAクラスの魔導師……この姿でそう言えば疑念の眼差しが突き刺さること請け合いだ。
「でも、そろそろ起きないと……ね」
「う〜ん……やっぱりそうかな?」
「うん、それにお腹空いたしさ」
 ぎゅるぎゅると腹の虫が抗議の声を上げる。昨晩消費したカロリーを少しでも取り戻さないと今日一日の行動にも破綻が訪れる。正直、まだ腰の辺りに違和感を感じるのだ。
「あはは、じゃあわたし朝ごはん作ってくるね」
「うん、お願いするね」
「何がいい? 和食にする? それとも洋食?」
「おまかせする」
「じゃあ洋食にするね」
 ようやく二人の体が離れた。なのははベッドから軽やかに降りてカーテンを勢いよく開けた。今までと比にならない光の洪水が小さな部屋を満たした。思わず目を細める。
「うーーーん……今日もいい天気」
 両手を組んで背伸びをする姿は窓一杯の陽光によって鮮明なシルエットになり彼女の体の線を映し出す。
 沁み一つない白魚のような肌。視線を下ろすと小さく丸い谷に目が行ってしまうのは男としてはしょうがない、と思いたい。
 今頃になって股間の猛りに気づいてユーノは少し赤面しながら胡坐をかいた。下着も寝間着も何もつけていないおかげで生理現象はシーツを押し上げ普段より鼻高々といった所。
「……ユーノくん」
「な、何?」
「少し言いにくい気もするんだけど……」
 背伸びしたままの格好でなのはがおずおずとなのはが切り出す。なんというかぎこちない口調だった。
「どうしたの?」
「えっと……着替えたいな……って」
「……向こう、向いてるね」
 それはそうだ。いくら体を重ねあう仲とはいえ恥ずかしいものは恥ずかしい。女性にとって着替えを覗かれるのはどれほどの羞恥かは分からないが、見てはいけないという暗黙の了解としてユーノは受け取っている。
 逆ストリップを見てみたいと思うこともあるのだが、それこそ正体がばれなかった――というより知らなかった――時に嫌というほど見ていたのでそこまで切実な欲望にはならないのだ。
 陽からもなのはからも背を向けて終わりが訪れるのを静かに待つ。当然静かになればいろいろな音が鼓膜を揺らすのだが
(……我慢だ)
 考古学を齧る端くれとして探究心はあるのだが今は忍耐。上から着るのか下から着るのか、はたまた一緒に着るのか。いや一緒に着るってなんだそりゃ。
「よいしょ……うん、オッケーかな」
「いい?」
「うん、ごめんね。じゃあわたし先に下行ってるから」
 振り向く頃にはなのははすでにドアを閉めて一階へ。後には男一人、寂しく部屋に残された光景だけ。
 中性的な顔立ちも手伝ってシーツに包まれたユーノはむさいというよりどこか可愛い。ちょっと飛び出た寝癖がポイントだ。
 そういう趣味の人間がいたら襲っているだろうけど幸いここにはそのような不届き者はいないのでご安心を。
「僕も着替えるか……」
 綺麗に畳まれた薄桃色の隣に少し乱雑に畳まれた――というより積まれた服を手に取りいそいそと着始める。足を通し腕を通し男の着替えは通り雨。あっという間に私服に身を包みユーノも階下へ降りていった。
 ようやく本調子になってきた腰と共に。


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