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[470]176 2006/04/07(金) 02:24:33 ID:BbK4AXt0
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インジュー・ジョーンズ 発掘最終日 冒険は続くよ何処までも

 揚陸艇が停泊している場所まであと少し。四人は疲労感をお土産に来た道を黙々と歩いている。
「でもよかったわ。ふたりが無事で」
「僕も何よりです」
 聞かなくても、やつれた笑みを浮かべる辺りシャマルが相当な心労を抱え込んでいるのはよくわかる。
「しっかしゾンビとお友達になるなんてシャマルも物好きだよな〜」
「お漏らしは黙ってなさい」
「漏らしてねーよ! あれは、あれはそう股間の汗だ!」
「股間の汗って……」
 なんだか激しく意味を勘違いしそうな響きだけど触れないでおくことにする。きっと本人のためだ。
 どちらにせよ、二人がそれぞれ無事に生きていられたことは何にも引き換えに出来ない一番の宝だ。
「私だって騎士だけどやっぱり生き延びるためには恥も外聞も捨てるに決まってるわ」
 そう言ったシャマルはあのゾンビに襲われる瞬間一か八かで使った変身魔法で同じ屍に成りすまして事なきを得た。
 晴天の書が呼び寄せた時、大量のゾンビをお供に従えてやってきた時は流石に肝を潰したが。
 そりゃいきなり自分達を見るなり周りのゾンビを殴り飛ばしてやって来るなり名前を呼ぶのだ、ゾンビのままで。てっきりシャマルも仲間入りしたと思ったくらいだ。
「大丈夫だよ、誰にも言わないから」
「い、言ったらぶっ飛ばすからな! ぜってー誰にも言うんじゃねーぞ!」
 両手を振り上げて必死の形相のヴィータ。再会した時の様子は今思い出しても涙を禁じえない。全身誇りまみれで何があったのか股間の所だけ妙に色が濃くなっていて、まぁそういうことなのだ。
 だから今の彼女は私服姿で密林の景色から妙に浮いていたりする。
「みんな、もうすぐ舟につくよ。えと、なにかもう気になることとかないよね?」
 ユーノの一声に全員が首を縦に振った。顔にはそれぞれもう帰りたいという意思表示がありありと浮かんでいた。
「うん、それと今日はみんなありがとう。それとご苦労様。何も僕からは上げられるものはないけどほんとありがとう」
「いえいえ、最初は嫌々だったけど報酬もたっぷり貰ってますし。それに少し楽しかったしね、ユーノ君」
「あたしはあんまロクなことしかなかったけど……でも結構……楽しかった。また連れてけよ、ユーノ!」
「わたしもいろいろあったけどすごく楽しかった。ユーノくん大好きだよ!」
「あ、あはは……」
 何はともあれ三者三様だけど思い残すことはなさそうでなによりだった。隊長としては一番満足できる結果といえる。
「けどよ、よく考えたらなんであたし達がこいつらのお守りしなきゃなんならなかったんだよ」
「空いてるのが私達しかいなかったからしょうがないのよ」
「大体よ……高町なにょはをお守りするなんて怪獣の世話するのと同じじゃねぇか。こっちが危なっかしい」
 おまけに怪獣に一番見られたくない姿まで見られてしまって鉄槌の騎士の姿も形無しだ。
「ヴィータちゃん……あんまりそんなこと言うと後ろから撃たれるわよ」
「そんなことしないってば!」
 さらりと口走る毒舌の騎士――もとい湖の騎士になのはは思い切り非難の声を上げた。
 同時にまだそんな風に思われているのかと思うと少し、いやかなり頭にきた。
「まぁまぁ、もう仲間なんだし仲良くしよう」
「んだよ、おまえもなにょはの肩を持つのかよ」
「そういうわけじゃないんだけどね」
「じゃああたしたちの仲間だな! へっへーんだ。どうだ高町、こいつもあたしの魅力にめろめろらしいぜ」
 両手を腰に添えながら胸を張るヴィータ。ちなみに魅力とかめろめろとか意味は知らない。
 取りあえず言ってみれば相手を馬鹿にできる言葉だとは思ってはいるが当然ながら使う場所を間違えている。
「むぅ……それならユーノくんはわたしの魅力にめろめろなの! でしょ! ユーノくん!」
「えっ、あ、うん」
 腕を引っ張り自分に引き寄せるなのは。なのはの剣幕にユーノは少々押されぎみに声を出した。
「あっ! もう裏切るのかよ!」
「い、いやそういうわけじゃ」
「ならおまえはこっちだ! ユーノ!」
 負けじとユーノの片腕を引っ張るヴィータ。こいつにだけは負けられないというプライドがヴィータの中で燃え上がる。
「ユーノくんはこっちなの! 大体ヴィータちゃんはユーノくんはちゃんと名前呼んでるのにわたしは呼んでくれないの!?」
「うっせー、おまえなんてなにょはでじゅ〜ぶんだ!」
「ひ、酷い! じゃあなおさらユーノくんは渡さない!」
「いや、ちょっと二人とも落ち着いて、ねぇ。あっ、痛い! 痛いってば!!」
 右へ左へぐいぐい際限なく腕を引っ張られ顔をしかめるユーノ。だけどその声に耳を貸す余裕、今の二人にはほとほとない。
「バーカっ! なにょはのバーカッ!」
「馬鹿って言った方が馬鹿なの! ヴィータちゃんの馬鹿!」
「ね、ねぇ二人とも止めてって、ちょ、痛い! いたたた!!」
「ほんと子供なんだから」
 いつの間にか一歩引いた所で成り行きを楽しむシャマル。やっぱり自分達は妙な取り合わせだと三人を眺めながら今一度思った。
「さてと、それじゃ私は先に行ってようかしら。触らぬ神に祟り無しってね」
 今晩のおかずのことを考えながらシャマルは一足先に歩き出した。
「ちょ、二人とも腕ちぎれる! ちぎれる〜〜!」
 後ろから聞こえる賑やかな悲鳴にやれやれと表情を崩して一人微笑んだ。

 ――そういえば晴天の書の彼女はどうなったのかというと

* * *

「空間形成、フィールド固定完了。マテリアライズ開始――」
「……にしてもリィンフォースの親戚……みたいなもんやろな。ほんま言葉もでぇへんよ」
 次から次へと世界の風景が創造される様にはやてはため息を漏らした。
 空中に両手を広げ晴天の書は無数に積載された記憶から注文どおりの世界を具現化させていく。
 山、川、森、海――。彼女の思う心は無地のキャンバスに絵でも描くように楽々と作業をこなしている。
「模擬戦闘空間、広域型。……これでいい?」
「うん、上出来」
「えっへへ〜」
 無邪気に笑んで彼女が降りてくる。地に立つと同時に彼女は軽やかに走ってユーノに抱きついた。
「もっとほめてほめて〜」
「はいはい」
 局員達の演習世界の創造。それが今の彼女の仕事だ。
 いつ何時、ありとあらゆる状況に対応しなくてはならない時空管理局から見ればニーズに応じた世界を瞬時に作り上げられる彼女の存在は重宝される以外の何者でもない。
 特に武装職員達の演習は時に地を砕き、空を引き裂く文字通りの激戦となることがある。
 魔導師としての格が上がれば上がるほど彼らが演習をする土地も世界も少なくなり、下手をすれば彼らが次元世界を破壊する犯罪者に成り下がってしまう。
「もてもてやなぁ……」
 取り分けこの隣にいるはやてのような魔導師同士が本気で戦い会うなんて想像しただけで寒気がする。
「あはは……なんか懐かれちゃってね」
「なのはが好きだから私もユーノが好き〜」
 それを彼女が肩代わりする。仮想世界ならばいくら破壊しようが誰にも迷惑は及ばない。
 しかも術者たちの希望に沿った世界を完璧に創造可能なのだ。至れる尽くせりとはまさにこのこと。
「……ああもう、お腹一杯や。ごちそうさんなユーノ君」
「いや……その、ね。ほらハーレー離れて」
「それ、この子の名前か?」
「うん、なのはがつけたんだ」
 契約者として――もっとも今は既に元契約者の身だが――彼女に晴天の書以外に名前がないというのはなんとも虚しいことだ。
 堅苦しい名前はこの際捨ててもっと親しみある呼び名こそ彼女にはふさわしい。なのははそう考えハーレーという名前を彼女に授けた。
 無論、もう誰も捨てはしないという決意も兼ねているのは言うまでもない。
「晴天だけに晴れ……なかなか上手いこと言うな、なのはちゃん」
 顎に手を添えに感慨深げにはやては頷いた。自分が夜天の書――現在、蒼天の書――にリィンフォースと名づけた時とは大違いだ。
『マイスター……』
「もちろんリィンフォースって適当につけたわけやないから安心し。寝ずに考えた名前やないけど誰にも誇れる立派な名前や」
 それは今も昔も変わらない。あの子はあの子、この子はこの子。確かに今のリィンフォースはあのリィンフォースではない。だけど背中を押す幸運の追い風である事実は絶対の普遍だ。
 同時に頼れる相棒であることも。
「ねぇユーノ、このお姉ちゃん誰?」
「ん? この子ははやてのデバイスで」
「蒼天の書、またの名をな。リィン出ておいで」
 はやての肩に腰掛けていたリィンフォースが光を纏いながらはやてより一回り小さな少女となって実体化する。
「リィンフォースといいます。よろしくお願いします」
「は〜い! 私はハーレー、よろしくねリィンお姉ちゃん!」
「うちのリィンフォースはいい子やから仲良うしてな」
「うん!」
 流石同じ魔導書同士気が会うのだろうか。早速、意気投合してる辺りいろいろな心配は杞憂になりそうで何よりだ。
「じゃあ僕は仕事があるからこれで」
「司書の仕事か? そんなん後でええやろ。もうちょいゆっくりしてもバチあたらへんと思うよ」
 はやての言葉にユーノは首を横に振った。
「みんなを待たせちゃ悪いからね。それにロストロギアは待ってくれないからね」
 その仕事は今のユーノに司書以上に大事なもの。すでに足元から転送方陣を呼び出し転送の準備を始めていた。
「ああ、もしかして遺失物捜索班のどえらいホープっていうんは……」
 思い出す頃には既にユーノは遥か遠く、別世界へ旅立った後だったりする。
「……せっかちやなぁ」
 どこか遠い目ではやては晴天の空を仰いだ。
 ――うん、いい天気。

* * *

「ついに……ついにこの時が来た!」
 厳かな雰囲気を醸し出す祭壇の上で法衣を着込んだ男が感嘆の声を上げる。血走った目は狂気に染まり視線で人を殺せるくらいの迫力を持っている。
 台座の上には不気味に明滅する真紅の宝玉。それを前に初老の男が両の手を空へと掲げる。
「古より言い伝えられし幻想! 今この時を持って現世せん!」
 男の言霊に宝玉が応えるように光を投げかけ始める。
 何を成そうというのか、少なくともそれは人の世のためになるものとは思えない。きっとこの世を混沌へ導く滅びのに違いない。
「現れよ……現れよ……現れ」
「待て! そこまでにしてもらうよ!」
 だが誰も指を加えて滅びを待つことなどするものか。
「誰だ!!」
 振り向く男の先には
「あなたのやろうとしていることはロストロギア無断使用の立派な犯罪です」
 男を見据え風に金髪を遊ばせながら年長者の風格を漂わせる女性
「人様の物は勝手に使っちゃいけねーって教わらなかったのかよ」
 呆れたように腕を組み斜に構える小柄な少女
「あなたにどんな事情があるかは知らないけど絶対やらせはしない!」
 凛と声を響かせ愛杖を構える黒の魔導師
「今ならまだ間に合います、退いてください。それができないなら然るべき罰を受けてもらいます」
 杖を左に右手は相手を指差し、高らかに言い放つは白の魔導師
 ――そして
「ロストロギアは希望を育てるために生まれたんだ。それを私利私欲で利用するなら」
 眼光と共に逆の意味で紅一点の少年が一歩踏み出る。
「僕は絶対に許さない!!」
 風にマントがなびき彼の言葉は容易く男を怯ませた。
「お、おのれ管理局か! 格なる上は……いでよ!!」
 男の片手が印を描き指先から赤い光を大地に放つ。すると地面から石膏像のような人型が次々に現れた。
「貴様らこそ盗掘者ではないか!」
「おまえが言えた義理かよ。あたしたちは悪人の手からロストロギアを守るために戦ってんだ!」
 啖呵を切り少女が鉄槌を振り回す。
『みんな、そのロストロギアは時限式であと三分で停止させないと暴走状態になるよ! 早くしないとそこごと吹っ飛んじゃうからね!』
 通信されるエイミィの声に彼は、いやそこにいた五人は竦むどころか口元を緩ませるほどの余裕を見せた。
「三分……ユーノくん」
「うん、確かにちょっとした冒険だね」
 だけどそれこそが自分達の原動力――!
「いくよみんな!!」
「ええ!」
「おう!」
「うん!」
「まかせて!」
 号令にあわせそれぞれの右手に握られたのは携帯電話を思わせるような管理局御用達の最新デバイス。
「アクセル!!」
 下部についたホイールを二の腕に勢いよく滑らせ
「イグニッション!!」
 天に掲げ五人が叫ぶ。
 刹那、五色の光がそれぞれを包みこみその姿を一瞬にして変えていく。
 それは彼らが魔導師を捨て転生する瞬間。
 今ここに五人の冒険者が誕生した――。
「アドベンピンク!!」
 高町なのは――またの名を高き冒険者。
「アドベンブルー!!」
 湖の騎士シャマル――またの名を深き冒険者。
「アドベンブラック!!」
 鉄槌の騎士ヴィータ――またの名を強き冒険者。
「アドベンイエロー!!」
 フェイト・T・ハラオウン――またの名を速き冒険者。
「アドベンレッド!!」
 そしてユーノ・スクライア――誰よりも冒険にかける情熱は熱い、またの名を熱き冒険者。
 全身を特殊スーツで覆った彼らはロストロギアを探し、守るスペシャリスト。
 その名を――
「冒険戦隊! アドベンジャー!!!」
 決めポーズを華麗に決めて彼らの背後を爆音と爆炎が盛大に飾った。
「いくぞ!!」
 赤き戦士が大地を蹴る。そうして手にした鎖鞭は敵を痛快になぎ倒す彼の十八番。
 司書は大事だ。考古学も大事だ。
 だけどそれ以上に大事なことを見つけた。
「でぇいやぁ!!」
 世界を股に駆ける冒険者。
 今のユーノにはそれこそが全てだ。
 彼らの冒険は終わらない。
 むしろそれは
「みんな! 一気に決めるよ!!」

 ――今ここに始まったのだ。


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