闇の書をめぐる事件から4年
僕、クロノ・ハラオウンは18歳になった。
提督にもなり、今はアースラの艦長をしている。
今日は一つの大きな任務を終え、半年ぶりに本局に帰ってきたところだ。
そして、報告書を提出するために本局内の廊下を歩いているときに、逃れられない過去と対峙する事になる…。
本局情報管理部第三分室資料庫の前を通り過ぎようとする。
この資料庫は表向きはただの資料室だが、そこには公表されなかった、
もしくは公表出来なかった過去の事件についての資料、報告書が保存されている。
入室するものは誰もいない資料室だ。
その、誰も立ち入るはずのない第三分室資料庫から人影が飛び出してきた。
僕はあわてて飛退く。
しかしその人影はこちらに向かって駆け出してきて…
ドンッ!
「きゃっ」
ぶつかってしまった。
運が悪い。
まぁ、飛退いているところだったので押し倒されたような感じになってしまったのだが。
「わわっ」
慌てて立ち上がり頭を下げてその人が言う。
「すいません。慌ててたもんでぶつかってしまいました。大丈夫です…か?って…クロノ君?」
見上げる。茶色のショートカットに聖祥大学付属中学の制服、胸には剣十字のデバイスをぶら下げた人物。
ぶつかった人影は不安そうな顔をした八神はやて特別捜査官だった。
「やぁ、八神さん。君の方こそ大丈夫だったかい?」
立ち上がり僕が言う。
「私は大丈夫や。ぶつかってごめんな、クロノ君」
「いや、気にしなくて良い。別になんともないし」
そう答えると彼女はほっと息をつき
「そっか。よかった」
と言い、僕に笑顔を向ける。うん、やっぱり彼女には笑顔が似合う。
「久しぶりだね、八神さん。調子はどうだい?」
かれこれ半年ほど会っていなかったことを思い出し、問いかける。
「ん。私のほうは調子ええよ。もうこうやって走れるようにもなったし、騎士のみんなとちゃんとお仕事もしとるし。クロノ君とは…半年振りくらいになるんかなぁ」
「そうだね。ずっとアースラで出回っていたから」
彼女は足の麻痺も完全に治り、仕事も頑張っているようだった。
「元気そうで何よりだよ。フェイトや他のみんなも元気かい?」
「もちろん元気やけど…。なんや、フェイトちゃんに電話位してあげたらええのに」
呆れ顔で彼女が言う。
「そういう訳にもいかないさ。任務中にそういうことをする訳にはいかないからね」
当然のことを僕が言うと彼女は苦笑して
「まったく…クロノ君はお堅いなぁ。もっとリンディ提督みたいにすればええのに」
と言う。
「そうや、クロノ君が頭固過ぎるから…」
その後の彼女の台詞はよく聞き取れなかったが
「僕は職務に忠実なだけだ」
と告げておく。もちろん、連絡を取りたくなかったわけではないが、艦長が規定を守らないわけにはいかないからな。誰も守ってないのも知っているが。
それに、エイミィがこっそり連絡を取っているのは知っているから特に何もなかっただろうとは思っていたが。
「ところで、慌ててたみたいだけど、どうかしたのか?」
と、疑問をぶつける。
「あっ…、いや、なんでもないで。ちょっと急いでただけや。今日は騎士のみんなにおいしいものたくさん作ってあげよ思ってて」
「そうか。急いでるんなら引き留めて済まなかった」
僕が言うと彼女は
「ええんよ。私も久しぶりにクロノ君に会えて嬉しかったし」
そう言って優しく微笑みかけてくる。
…ヤバイ。すごく可愛い。思わずクラッときた。
「じゃあクロノ君、またな」
思考停止しているうちに彼女はそう言って背を向けて走り出す。
「ああ、また」
走り去る彼女の背中にそう声をかける。
…さて、報告書を届けないと。そう思い、思い出す。
彼女が第三分室保管庫から出てきたことを。そして、そこには僕らが隠していた闇の書事件の闇が眠っていたことを…。