報告書を届けた後、久しぶりの休暇になった。アースラのメンテナンスも兼ねて、一月ほど休めるらしい。
最初の一週間は雑務に追われていたが、ようやく休暇を満喫できるようになった。
残り三週間もあるし、とりあえず家に帰ろう。
転送で海鳴市に着いたのは昼過ぎだった。まだフェイトは学校だろうが、先に家に帰っていることにする。
家に帰り熱いシャワーを浴び、リビングでソファにすわり一人、本を読んでいると玄関を開ける音がして、続いてフェイトの落ち着いた声が聞こえてきた。
「お帰り、兄さん」
ん?ちょっと機嫌が悪いのか?
「ただいま、フェイト。久しぶりだな」
「もう、久しぶりだなじゃないでしょ。全然連絡もしないで。エイミィが連絡くれてるから大丈夫なのはわかってたけど、たまには連絡くれないと…。むぅ…」
ふくれるフェイト。連絡しないのはいつものことだと言うと、
「本局に帰ってきてからも連絡してきてないでしょ」
と返される。本局に戻り、休暇になってからも連絡しなかったのは、確かに自分の落ち度なので素直に謝っておく。
「もぅ…」
そう言ってフェイトはソファの隣に腰を下ろす。
「あらためてお帰り、兄さん」
「あぁ、ただいま。やっぱり自分の家っていうのは心が休まるな」
僕が笑って言うと
「うん。そうだね」
と、フェイトも笑って返す。兄妹笑いあい和んだところで、この一週間ずっと気になっていたことをフェイトに訊く。
「なぁ、八神さんのことなんだが、最近様子が変だったりしなかったか?」
「はやてが?…別に普通だったと思うけど…。はやてと何かあったの?」
「…いや、本局で会っただけだ。何もないなら別にいい」
そう、第三分室資料子から出てきたということは、たぶん闇の書事件について調べていたのだろう。
しかし、普段と変わらない様子だったのなら資料が見つからなかったのかもしれない。正確なところは本人に訊くしかないが、どうするか…
「どうしたの、兄さん。大丈夫?」
もの思いに沈んでいた僕に声がかかる。
「あぁ、すまない。考え事をしてた」
答え、気付く。フェイトの目線の高さが少し変わっていることに。
「また、背が伸びたんだな。女の子は成長期が早くて羨ましいよ」
僕は成長期が遅かったから、背が低いのがコンプレックスだったし。
「そうだね。5pくらい伸びたかな?」
背が伸びただけでなく、身体つきも丸みを帯びて女らしくなってきている。
あと二年位したらかなり良い身体になるのではないだろうか。って何を考えてるんだ、僕は…
「…?どうしたの?私の身体眺めて。何かヘンかな…?」
そう言ってフェイトは立ち上がり自分の体を見回す。こういう部分は相変わらずだな。
「…なんでもないよ。さて、悪いんだがちょっと部屋で休ませてもらうよ」
告げ、フェイトの頭を撫でてから自室に足を向ける。
そんな僕に向かってフェイトが
「うん、分かった。夕飯が出来たら呼びに行くから」
と、声をかける。
わかったとだけ答えて自分の部屋に向い、入ってすぐにベッドに倒れ込む。
…どうしても、八神さんのことが気になる。彼女は知るべきではないことまで知ってしまったのだろうか。
それとも、まだ何も知らないのか。
訊いてみるべきか、訊かない方が良いのか。グレアム元提督が早くに全てを説明しておけば良かったのではないか。
そんなことを考えているうちにいつのまにか僕は眠ってしまっていた。