「フェイトちゃんフェイトちゃんフェイトちゃんフェイトちゃーーーーーーーーん!」
「うわたたたた、なな、ななな、なのはっ!!」
「「「うわああああぁぁぁぁああぁぁぁぁぁ!!!!!」」」
猛突進してくる白い弾丸、まさかシールドで跳ね返すわけにもいかず躊躇したフェイ
トをキャッチしたなのはは、勢いそのままピンボールの球のごとく部屋中を跳ね返りま
くる。おそらくプロテクションを展開しているものと思われるが・・・部屋の中にいた
その他面々はたまったものではない。悲鳴を上げ必死に伏せる以外の行動が取れない。
縦横無尽に跳ねまわる黒白のスーパーボールがブリーフィングルームを破壊していく。
それでもなお人的被害がないのがせめてもの救いというか、奇跡というか。
「なっ!なのは!なのはお願い、落ち着いてー!!」
なのはに抱きつかれ、意にそぐわず室内ジェットコースター状態のフェイトはそれで
も必死になのはを止めようとするも・・・
「やだっ!!」
聞く耳もたない。
「お願い止まってーーーー!!」
「だめーーー!」
むしろ聞いちゃいない。
「みんなが怪我しちゃう!!」
「大丈夫!避ける!!」
どこからその自信が。
「やーめーてーーーーーーーーー!!!!!」
2分52秒の間、白い竜巻が猛威を振るった。
トドメとばかりに天井にガコン!とぶつかり、ゆるゆると落下してくるなのはとフェ
イト。
ようやく開放されたフェイトだが、なのはの手を離れるやその場にぺたん、とへたり
込んでしまう。
「わっ!!大丈夫!フェイトちゃん!!!どこか怪我してるの!?」
「「「おまえのせいだ!!!」」」
その場の全員が即答した。
最後まで猛威に耐えた壁掛けのパネル型通信機が力尽き、ガコン!と床に落ちた。
「あ、あははー、ご、ごめんなさいっ!!!」
ぺこぺこと謝りまくるなのは、表情は今ひとつ緊張感がないが。
「まったく、何考えてる!艦内で飛行魔法なんか使うやつがあるか!!」
「えーあーそのー、急がなくちゃー、って思ったらつい・・・」
「ついじゃない!!」
「ごめんなさーい」
クロノの叱責も今ひとつ功を相していない。あははー、という文字がなのはの頭上に
浮かんでいるかのようだった。
「で!だ。なんで僕らより先に出た君が後からやってくるんだ!しかも飛んで!!」
「え、えーっと、な、なんと申しましょうか、その、うまく一言では・・・あ、あはは」
すると、なのはに代わり意図しない方向から声がしてきた。
「な・・・なのはが急に僕をつかんで飛び出していって・・・」
すわ、誰だ、と、皆が声のした方向を振り向くと、ドアからずるずるとモップやら箒
やらを体にまとわり付かせ、文字通りぼろ雑巾と化したユーノが這いずってくる。
「・・・なに遊んでるんだ、君は」
クロノが呆れる。
「遊んでるように見えるのか・・・君には・・・」
「い、いや、まぁ、言葉のあやだ、すまん・・・で、一体何がどうしたんだ?」
うう・・とようやく身体を起こすユーノ。がらがらと箒やらが落ちる。
「なのはが・・・僕を引っ掴んで・・・待機室まで引っぱっていったんだ」
「飛んでか?」
「い、いや、その時はまだ走ってた。僕は引きずられるだけだったけど・・・」
「なのはちゃん・・・結構ちからもちだったんだね・・・」
唖然となのはに視線を向けるエイミィ。
「あ、あははー、き、気のせいですよー、気のせいー」
わたわたと手を振るなのは。
「で、待機室にフェイトが居なかったから・・なのはがレイジングハートで艦内をサー
チして・・・ブリーフィングルームに居る、って叫んで、アクセルフィンまで使って、
・・・その後はもうなのはにしがみ付いてるのが精一杯で・・・」
「で、君がゾンビなのは・・いや、まぁ・・・いい、言わなくても」
おおかた急ブレーキの際に投げ飛ばされたのだろう。運悪く掃除用具入れの方向に。
「あ、あははーはは・・・はっ!?」
「な・の・は・さーん」
額に青筋を立て、ゴゴゴゴゴと吹き上がるオーラをバックに、腕組みしたリンディが
にこやかに、それはもうにこやかになのはを見下ろしていた。
後になのはは減俸3ヶ月とブリーフィングルームの後片付けを命じられた。
「・・・と、まぁ、そういう経緯だ」
「リリーチャーか・・・なるほど・・ね」
休憩室に場を変え、皆を代表しクロノがユーノに状況を説明する。
2人のなのは、特にこちら側のなのはは先ほどの勢いはどこへやら、お互いをちらち
らと時折見やる程度で話そうともしない。
ユーノは手にしたコーヒーをもてあそびながら、
「平行世界の話は知ってるし、そちらのクロノ・・くんの話もわからないではないけど
・・・にわかには信じがたいな・・・もっとも生き証人がいるんじゃ信じるしかないけ
ど・・・」
「そうだな、それに肝心なことが解ってないしな」
「というと?」
「疑問に思わないか?彼らはどうやってこっちの世界へ来ることができたんだ?」
あ、と皆が口をあけた。
「君の言うとおり、平行世界の存在は可能性の粋を出ないとはいえ、まず間違いなく存
在しているだろう。君がさっき言ったこの2人がここにいることがその証明だ」
「うん」
「ただ平行世界はお互いに不干渉、それが鉄則だ。でなければ今まで事例がなかったと
考える方が不自然だからな。それがなぜ、一体どうやって2人がやってきたか、という
ことだが・・・」
「え、と・・・すいません、推測でしかないんですが・・・」
「クロノくん、何か知っているのかい?」
2人のクロノが向かい合う。
「ちょっとまわりくどい説明をしなければなりませんが・・・まず皆さんは「ヒドゥン」
というものを知っていますか?」
「ヒドゥン?」
「あ・・・それさっきも言ってたね、一体何のことだったの?」
と、フェイト。
「はい、ヒドゥンとは、「全てを凍てつかせる、時を壊す災害」僕のいたミッドチルダ
ではそう呼ばれていました。歴史の中で幾度となく飛来し、僕たちは多大な犠牲を払っ
てそれを退けてきました。一つの次元すら消滅させかねない災厄、それがヒドゥンです。
しかし、ある時、過去に類を見ないほどの巨大なヒドゥンが発生してしまったんです。
僕はそれに対し、イデアシードの力での対抗を試みました」
「イデアシード?」
「はい。僕をはじめとするミッドチルダの技術者が開発・・・いえ、復活させた古代の
アーティファクトです。「種」、とも呼んでいますが。捕り付いた者の様々な想いを吸
収して絶大な力を発揮します。ですが、吸収された想いはその人の中から失われてしま
います」
「こちらでいうと失われたロストロギアを現代で復活させたようなものか・・・しかし
人の想いを糧とするアイテムとは・・・」
「ジュエルシードとはまた違うけど、力を得るという点では似ているね・・・」
「そのせいでなのはと対峙したこともあったんですが、結局2人で力を合わせることに
なったんです。もちろん、なのはがそうしよう、って言ってくれました」
「おーおー、お熱いお二人さんだねぇ」
ちゃかすエイミィになのはの頬が赤らむ。クロノも似たようなものだった。
「そして僕となのははヒドゥンを止めるため、ヒドゥンと対峙し、そして・・・僕の覚
えている限り、撃退に成功したはずでした。なのはのレイジングハートの力で」
「ううん、私一人じゃできなかった。クロノくんが一緒に居てくれたからだよ」
むこうのなのはがぐっ、と両手を握る。
「ありがとう、なのは」
にこやかに微笑みあう2人。
「そ、それで、その後は?」
ここで恋愛モードに突入されても困るのですかさずクロノが口を挟む。
「向こうの世界での記憶はそこまでです。そのあと急に・・・何かうまく言えませんが、
次元移動のような感覚があったような気はしたんですが・・・気が付いたら僕となのは
はどこか別の場所にいて、急に周囲の空間が揺らぎ出したんだです。たしか、次元震、
でしたね。そしてそこでフェイトさんに出会ったんです」
「なる・・・ほど・・・」
「考えにくいことなんですが・・・おそらく・・・」
クロノは話していいものかそこで躊躇した。
「かまわない、話してくれ」
こちらのクロノが促す。
「はい、おそらくは、こちら側の次元震と僕たち側のヒドゥンのなんらかの形で干渉し
あって、平行世界間の通路が開いてしまったんだと思います。偶然か・・・何らしらの
意図かはわかりませんが・・・すいません、憶測に近いです。もっとも、この理由だと
消滅させたはずのヒドゥンが消えずにまだ残っていた、ということになるので・・・」
「君たちにとっては考えたくはないね、そうか、ヒドゥンと次元震か、なるほど・・・
とりあえず他に説明のつけようはない、か・・・」
と、そのときドアの向こうから話し声が聞こえてくる。
ついでドアが開き、シグナム、ヴィータ、シャマルの3人が顔を覗かせた。
「む、どうしたのだ、皆集まって、何かあ・・・」
「疲れた、ってんじゃねーか、いいからもう帰って飯にし・・・」
「あら皆さん、お集ま・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・あらぁ、やっぱり昨日は皆すこーし飲みすぎたからしねぇ」
「なぜだ、あの程度のアルコールで私が・・・クロノと高町が2人に見える・・・」
「シ・・・シグナムが無理に酒なんか飲ますからだぞ!あたしはジュースがいい、って
言たのにさ!」
「あー、わかった、わかった、3人とも、今説明するから落ち着いてくれ」
クロノが額に手を当ててやれやれと立ち上がる。が、
「あれはおまえが勝手に飲んだのであろう、だいたい自分の力量もわきまえず酒をあお
るなど修練が足りぬだけだ、未熟もいいところだな!」
「んだとぉ!そっちこそワインをジョッキなんかで飲みやがって、あれが騎士のふるま
いかよ!」
「お、おいおい、2人とも・・・」
「貴様!私の華麗な作法にケチを付ける気か!あれは代々伝わる由緒正しき立ち振る舞
いだぞ!」
「はー、華麗が聞いてあきれらぁ、あれじゃワインを作ったお百姓さんも草葉の陰で泣
いてるぜ!」
「・・・」
皆が唖然とする中、一人の人物が、すい、と立ち上がる。
「おのれ、もはや許せん!そこになおれ、レヴァンティンの錆にしてくれる!!」
物騒この上ないことに言うが早いかレヴァンティンを抜き、鞘をかなぐり捨てるシグ
ナム。
「はっ!やれるもんならやってみな!頭にでっかいたんこぶ作っておっぱい3つ魔人に
してやるぜ!」
ヴィータも負けておらず、グラーフアイゼンを頭上でぐるんぐるんと回す。
「こっ、こら、お前ら、こんなとこでそんな物騒なもの・・・ん?」
止めようとしたクロノをさえぎる人物一人。
その人物は火花散ろうかという惨状の2人の前につかつかと歩み寄り・・・
「・・・2人とも・・・」
「「ん?」」
「ケンカはいけませーーーーーーーん!!!!」
むこうのなのはの大絶叫が響いた。
「は、はっ!!申し訳ありません、主はや・・・ん?」
「ひっ!ご、ごめんなさい!はや・・・あれ?」
そこまで言ってようやく何かが違うことに気付くシグナムとヴィータ。
「2人ともそこに正座!!」
「「はいっ!!」」
なぜか素直に従ってしまう2人。
「2人とも!何があってもケンカはいけません!いいですか!世の中にはラブアンドピー
スという言葉があってですね・・・」
腰に手を当て、2人を見下ろし切々と語り始めるなのは。
「ちょ、ちょちょ、クロくん、あ、あれって一体?」
エイミィがあわててむこうのクロノに訊ねる。
「あ、あはは、な、なのははなんだかケンカに敏感で、その・・・な、何度か僕も見ま
したが・・・」
「あの2人を止めるなんて・・・」
ユーノも目を丸くしている。
「ケンカ慣れじゃなくてケンカ止め慣れしてるね・・・」
フェイトの呟きにバルディッシュは、
「Wonderfully Ms.Nanoha」(流石です、ミズ・なのは)
と、返す。
「・・・なんです!わかりましたか!2人とも!」
「も、申し訳ありません・・・でした・・・」
「もうしませんから許してくれ・・ください・・・」
「はい、よろしい。もうケンカしちゃ・・・はっ!!!」
はた、と皆の視線に気付くなのは。
「あ、あ、あは、あはははは、あ、あの、ちっ、違うのクロノくん、こ、これは・・・」
「う、うん、さ、流石だね、なのは」
「はうぅっ・・・ち、ちがうのにぃ・・・」
真っ赤になって小さくなるなのは。
「どうやら・・・」
「好きな相手にはあんまり見せたくない特技だったみたいですね」
「みたいね、まぁ・・・無理もないかしら」
リンディとエイミィは、うん、と頷きあった。
〜 〜 〜 〜 〜
「そうですか、違う世界の方々・・・」
「なるほど、リリーチャーの存在か、納得いった」
「なんだよ、んならそうと早く言えよ、酒残ってるのかと思っちまったじゃねーか」
(言う前に騒ぎ出したのはどこのどいつだ)
そう叫びたかったが、流石にユーノに引き続きヴァルケンリッターの面々に長々と状
況を説明したクロノにその気力はなかった。
「はい、兄さん」
フェイトがそっと紙コップに入ったコーヒーをクロノに差し出す。
「あぁ、ありがとう、フェイト」
「ううん、兄さんこそ、お疲れ様」
妹の心遣いに感謝するクロノ。一口飲んだコーヒーはほんのり甘かった。
フェイトはクロノの隣に座りその様子を眺めている。
(えへへ、兄さんの隣に座っちゃった)
「自己紹介が遅れて申し訳ありません、私はヴァルケンリッターが一人、シャマルと申
します」
「同じくシグナムだ、先ほどは取り乱して申し訳なかった」
「あたしはヴィータってんだ、なんかややこしいけど、まぁ、よろしくな」
「あ、高町なのはです、よろしくお願いします、あの、さっきは・・その偉そうなこと
言ってすいませんでした」
「まったくだ、はやてと間違えちまったじゃねーか、まぎらわしいことすんなよな」
「ヴィータ、悪いのは我々だ、リリーチャーの高町が正しい。それを何だ」
「そうですよ、ヴィータちゃん。そんな風に言っちゃいけません」
「んだよ、わかったよ。悪かったなー、なのは」
「いえっ、こちらこそ、すいませんでした、ヴィータさん、シグナムさん」
「えーと、じゃぁそちらがもうひとりのクロノさんなんですね。よろしくお願いします」
シャマルがクロノに歩み寄る。
「はい、クロノ・ハーヴェイです。よろしくお願いします。あの、ところでヴァルケン
リッターというのは?」
「ああ、そうだな、すまない。われら3人と、ここには居ないがもう一人、ザフィーラ
という者を合わせて4人は、主である八神はやてを守護する騎士なのだ」
「守護騎士、ですか」
「そうだ、主はやては事情あって今は少し健康を害していてな。それに自身のデバイス
を失っているため、直接戦闘行動を取ることができないのだ。ゆえに我らが主はやてに
変わり時空管理局の業務を行っているというわけだ」
「ふわー、すごーい、お姫様を守る騎士さんなんてかっこいいですねー」
「え、えーと、はやてちゃんはお姫さまーというか、その・・・」
さすがのシャマルも言葉に詰まる。
《おい、なんなのだ、こんな緊張感のないのが本当にもう一人の高町なのか?》
《い、いや、僕に言われても困るんだけど・・・》
いきなりシグナムにそんなことを言われて言葉に詰まるユーノ。
「ねーねー、さっきからちょっと気になってたんだけど」
「ん?何だ?エイミィ」
「なのちゃんが持ってるデバイス・・・あー、デバイスで通じるのかな?まぁ、その杖
のことなんだけどさ」
「レイジングハートのことですか?」
「あ、形は違うけどそれもレイジングハートって言うんだ。やっぱりインテリジェント
デバイスなのかな」
「いん・・てり・・・・?」
「It is a magicall-rod having artificial intelligence like me. Ms.Nanoha」
(私のような人工知能を持つ杖のことです。ミズ・なのは)
「あ、ありがとう、バルディッシュさん」
「You're welcome Ms.Nanoha. Please hear anything with me if good」
(どういたしまして、ミズ・なのは。私でよければ何でも聞いてください)
「!おいっ!テスタロッサ!そのデバイスは普通に喋ることができたのか?!」
「おいおい、なんだよ、杖が色気づいてんじゃねーか」
「いや、もう、そのリアクションも勘弁してくれ・・・」
コーヒーを手にがっくりうなだれるクロノであった。
「えーっと、その、脱線しまくってるんだけどなー・・・私の質問どうなったのかなー」
「あ!す、すいません、エイミィさん。え、えーっとえーっと」
「あはは、なのちゃんのせいじゃないから気にしないで、えーっと、じゃぁちょっと起
動してみてくれる?あ、杖の状態にしてほしいんだけど」
「あ、はい、わかりました」
ポケットから赤い宝玉を取り出し。杖に変化させるなのは。
初めて見るシグナムから、ほぅ、という呟きが漏れる。
「へー、やっぱりぜんぜん違うんだね。インテリジェントじゃないとするとストレージ
デバイスに近いのかな」
しげしげとレイジングハートを眺めるエイミィ。
「なのは・・・そちらのなのはは「祈願型の魔法」を使うそうです」
「祈願型の・・・魔法?」
フェイトの言葉をむこうのクロノが補う。
「なのはの魔法は、僕のような形式のある術式・・・呪文の詠唱で魔法を発動させる形
ではなく、心に思い描いた願いを具現化する形式なんです」
「なんと、呪法を使わない魔法だと!」
驚くシグナム。
「それが本当ならものすごい事ね。術者の力量次第ではそれこそ神にも等しい力を得る
ことになるわ・・・」
やはりこちらも驚きを隠せないリンディ。
「祈願型か、なるほど・・・インテリジェントデバイスも広義では祈願型と言えるが、
それとは一線を介するな・・・」
腕組みして思案しているクロノ。
「バルディッシュもそれで直してもらったんです。ね、バルディッシュ」
「Yes sir」
「そうだ、なのは。比べてみよう。レイジングハート起動してみて」
なのはの手を取り立ち上がらせるフェイト。
「えっ、あ、う、うん」
こちらのなのはもレイジングハートを起動させる。
「わぁ・・・綺麗・・・」
むこうのなのはが目を輝かせる。
「あ、あの・・・え、えと、なのは・・・さん・・・えと、触ってみてもいいですか?」
「あっ、う、うん、はい。どうぞ」
「あ、じゃあ、なのはさんは私のを」
「う、うん・・・」
2人のなのははお互いのレイジングハートを交換しあう。
他の面々はどうなることかと固唾をのんでいる。
杖が本来のもち手を離れ、もう一人のマスターに手渡った瞬間。2つのレイジングハー
トが淡い光を放つ。
「えっ!?な、なに、これ」
「ふわっ、ええ、な、なに、何?!」
「It is another master thanking you in advance」
(よろしくお願いします。もう一人のマスター)
こちら側のレイジングハートがむこうのなのはを手の中で応答し、。むこう側のレイ
ジングハートはこちらのなのはの手の中でハート型の宝玉を鮮やかに光輝かせる。
「レイジングハートが、お互いの主を認めてるんだ・・・」
元レイジングハートの持ち主であったユーノが呟く。
2人のなのははお互いの持つレイジングハートをしばらく見つめ、そしてもう一人の
自分に視線を移していく。
そしてゆっくりとその表情が笑顔へと変わっていく。
「私、高町なのはです。よろしくお願いします!」
「はいっ!私も高町なのはです。こちらこそよろしくお願いしますっ!!」
2人は手を取り合い、声を上げて笑いあった。
「(フェイト、こうなると思ってたのか?だからなのはのレイジングハートを?)」
こちらのクロノがフェイトに近づき、そっと耳打ちする。
「(うん、なんだかきっかけ掴めなかったみたいだったから)」
「(さすがだな、なのはのこと、よくわかってる)」
「(もちろん♪友達だもん、なのはは私の一番大事な友達)」
「(そうだな)」
さきほどまでの探りあいのような雰囲気はどこへやら、いまや2人のなのはきゃっきゃ
と騒ぎあっている。
「あ、3年生なんだ。それじゃあ私の方が少しだけお姉さんだね。私4年生だし」
「あ、そうなんですかー、じゃぁやっぱりなのはさん、って呼びますね」
「あははー、そんなに気をつかわなくてもいいのにー、じゃあ、私はなのはちゃん、って
呼ぼうかな」
「はい。なのはさん」
「うん。なのはちゃん」
一層の笑い声が室内にこだました。
〜 〜 〜 〜 〜
「さて、あっちはうまく溶け込んだようだな」
「そうだね、まぁ、なのはが2人なら元々何も心配もなかったかな」
クロノもユーノも微笑ましそうに2人のなのはを見ている。
「シグナムまで楽しそうにしてる。なんだか不思議」
2人のなのはの楽しそうな雰囲気は他の面々にも伝わり、2人のクロノとフェイト、
ユーノ以外の面子は全てそちら側で会話に花を咲かせている。
「そういえばクロノくんもデバイスを持っているのかい?」
ユーノが興味津々で聞いてきた。
「あ、はい、これです」
と、むこうのクロノは懐からカード状のS2Uを取り出し、デバイス状態にする。
「見た目は僕のS2Uと全く同じだね」
こちらのクロノがふむ、ともう1つのS2Uを見つめる。
「名前も、ですね。最も正式名称はSong To Youと言いますが」
「君に歌を・・・、いい名前。兄さんのもそういう意味だったの?」
「え、あ、ああ、ま、まぁね」
「そうなんだ、流石兄さん」
まぶしそうなフェイトの笑顔がクロノに向けられる。
「ん、んん、そ、それほどでも、ないさ、はは・・は」
クロノはやや乾いた笑いを交えつつ答えた。
《嘘つくなよ》
ユーノの容赦ないツッコミ。
《う、うるさい、フェイトが喜んでるんだからいいだろうが》
「クロノさんのも見せてもらってよろしいですか?」
「ん、あ、ああ、これだよ」
同じくカード状態のS2Uを杖にしてみせるこちらのクロノ。
「確かに・・・全く同じですね・・・」
「・・・もしかしてとは思うけど、コアユニットはフェンティアム系かい?」
「あ、そちらにもあのコアがあるんですね、そうです。フェンティアム5の350Ghzです」
「驚いた。全く同じコアだとは思わなかったな」
「僕もです」
「クロスポイントには何を?」
「バイオメトリヌールを考えていたんですが、生体ユニットはまだ保守性が悪くって、
S2Uにはシンメトルギーンを」
「そうだね、テスリンゴルUは発熱の問題もあったから僕もそうしたよ」
「・・・ね、ねぇ。ユーノ。何の話してるかわかる?・・・」
「・・・悪いけどまったくわからない・・・」
「おぉー」だの「なるほど」だのの感嘆の言葉が飛び交っているが、フェイトとユーノ
には何のことやらさっぱり解らない。
「私たちも向こうに混ざろうか・・・」
「そうだね・・・お二人さん、ごゆっくり」
2人は肩をすくめながらなのは達の輪の中に向かっていった。
「でもなのはさんのレイジングハートってすっごく綺麗ですねー」
「Thank's Another master」(ありがとうございます、もう一人のマスター)
「あはっ、レイジングハートも喜んでる。でもなのはちゃんのレイジングハートだって
すっごくかわいいよ」
「ありがとうございます。えへへっ」
「確かにな、およそデバイスらしからぬが、気品にあふれたデザインだ、リリーチャー
のなのはに似合っている」
「えへへへー」
照れまくるむこうのなのは。
「あ、そういえばさっきシグナムさんとヴィータさんが持ってたのもデバ・・イスなん
ですか?」
「ああ、これか」
言って2人はペンダント状態のレヴァンティンとグラーフアイゼンを取り出す。
そしてデバイスの形をとる2つのベルカデバイス。
「わが分身、レヴァンティンだ、私共々よろしくな」
「グラーフアイゼン、ってんだ。強ぇーぜ、今度見せてやるからな」
「わぁ、すごーい。かっこいー!」
2つのデバイスを褒めちぎりまくるなのは。持ち主の2人もそこまで誉められて悪い
気などするはずもない。
「あ、でも」
そこまで言ってふと言葉を止めるなのは。
「ん?どうしたのだ?」
「えーと、そのー、ごめんなさいっ!!皆さんの持ってるの、どれもすっごくかっこい
いんですけど・・・」
「けど?何だ?」
と、なのははフェイトに視線を向け。
「バルディッシュさんが一番かっこいい!かな。えへ」
一同ぽかんとする中、すかさずバルディッシュ。
「I am honored. Ms.Nanoha」(光栄です。ミズ・なのは)
やがて皆の中から笑みがこぼれ出し・・・
「あらら、なのはちゃん、よっぽどバルディッシュが気に入ったのね」
シャマルがころころと笑う。
「なのちゃんって、もしかしてメカフェチ?」
エイミィの晴れやかな笑顔。
「なんだよ、怒る気にもなれねーよ」
ヴィータの年相応(?)のかわいらしい笑顔。
「な、なのはちゃんてば、おもしろーい」
ほぼ自分のことなのに笑い転げるなのは。
それを聞いていなかった2人のクロノもあまりの笑い声にびっくりしたようにこちら
を向く。
その他諸々、皆のはじけるような笑顔の中、
きっかけはともかく、むこうのなのはは皆の輪の中に見事に溶け入っていた。
が、そのとき、
Pi!PiPi!!
「艦長、いらっしゃいますか!」
ブリッジからの通信であった。
「はい、ここにいるわ。何かしら?」
リンディが壁の通信パネルに歩み寄る。
「先ほどのテスタロッサさんの遭遇した次元震を観測していたんですが」
「どうかして?」
「まだ、治まりません。依然として次元震継続中です」
「まだ続いてるの?そんな大規模じゃなかったと思ったけど・・・」
「それが・・・」
「次元震の中心部に魔力反応を確認しました。ロストロギアです」
「「!?」」
笑い声でなく驚愕が室内を制した。
魔法少女リリカルなのは 〜 もう一人の私へ・・・ 〜
プロローグ 完
〜〜 To Be Continue 〜〜