「目標、囮の中に侵入しました」
「もう直だ。もう直であの悪魔どもを…」
報告した男の横で初老の男がそう呟いた。
※
やや古ぼけた通路の中をフードを被った数人の人間が歩いていた。
「……なぁ、リーダー」
前から二番目を歩いていた男が前を歩いていた人物に話しかけた。
「ん?なんだ?」
「此処、やっぱり妙だと思わないか?」
「何がだ」
前を歩いていた男は脚も止めずそう聞いた。
「…あいつ等の話じゃ『武装した魔導師がかなりの数で潜伏してる』って話しだが、入って5分も経って人どころかトラップ一つ無いじゃねえか」
「確かに、それにこの依頼を持ってきた奴等も怪しいですよ。何より“時空管理局”が私等に頼むってここんとこ無かったですし」
すると、直後ろに居た人物もそう話した。
「ふん、俺等の流儀は金さえ貰えれば、どんな任務も引き受ける。だ」
「確かにそうだがあの管理局の提督の目は俺は如何も信用出来ん」
「ええ、あの目は私達を敵としてしか見てない感じでした」
「ふっ、今更奴等の目を気にして如何する。あいつ等は昔から俺達を目の仇にしてたじゃないか」
「ええ、ですから今回の依頼が私には如何も納得が…」
「分かった分かった、その話はこの仕事が終ってから聞いてやる」
男はそう言って口を閉じた。
その後ろに居た者も言っても無駄と感じ喋るを止めた。
※
そして、それから数分が経った。
「目標、あと僅かで中心部に着きます」
「よし、全艦隊に通達!アルカンシェルの発射準備をしろ!!」
すると、
『お待ち下さい提督!中にはまだ彼等が…』
「ギル・グレアムより通信が入りました」
「ふん、如何したグレアム、命令が聞こえなかったのか?」
指揮官と思しき男がそう言った。
『聞こえたからこそ聞いているのです。中には彼等が侵入したままです。このままでは巻き添えを…』
「だからこそ撃つのさ…あの悪魔どもを今度こそ殲滅する為にな!」
『! 提督まさか最初からそのつもりで…』
「その“まさか”だよ。グレアム君」
『……この事本局は?』
「無論知っているさ。…尤も一部の高官だけだがね」
『…あんた、正気か!?』
「グレアム!提督をあんた呼ばわりとは如何言うつもり…」
提督の横にいた副官と思しき男がグレアムを怒鳴りつけようとすると提督が「止めたまえ」と言った。
「グレアム君、我々管理局が奴等に何度煮え湯を飲まされたか知らん訳ではあるまい」
『確かに報告書で何度も見ましたが、これは完全に騙まし討ちです!』
「グレアム君、我々はただのボランティ集団では無いんですよ。『時空管理局』っと言う組織なんですよ。このままでは世間体も危ういんです」
『世間体だけで彼等を抹殺するんですか!?』
「グレアム君、何度も言いますが我々は管理局なんですよ。言ってみれば我々が正義なんです。正義は悪を淘汰するものです。今までも…そしてこれからも」
『………』
「さぁ、分かったら君の艦もさっさと撃つ準備をしなさい。それとも一介艦船の艦長如きがこれ以上提督に逆らうのですか?」
『りょ、了解しました…』
「さて、少し無駄に時間を使ってしまいました。奴等が感ずく前に発射しなさい」
「了解!」
※
「なぁ、此処が中心部だよな?」
「その筈ですけどね」
中心部に来た彼等はそう言ってたたずんでいた。
なにしろ、中心部と思しき場所はドームのような形で人っ子一人、影も形も見えなかった。
「情報では此処にAAAクラスの魔導師が少なくとも30前後いる聞いていたが…!」
その時、男達は膨大な魔力を感じた。
「何だ?この魔力…」
「魔導師の魔力にしちゃ妙だな…」
その時、一人の男が魔力の正体に気付いた。
「! これ、アルカンシェルじゃねえか」
「アルカンジェル?…ちっ、はめられたか!」
『ふっふっふっふっ、やっと気付いたか』
すると、やや年をとってると思しき人物の声がドーム内に響いた。
如何やらこのドーム自体管理局が作ったダミーようだ。
「よう、クソ提督、まんまとはめてくれたな」
『悪く思わんでくれ。これも世界の平和の為だ』
「騙し討ちが平和ですか?やれやれ」
『アルカンシェルなら幾ら君らでも耐えられまい。それに転移魔法も今からでは間に合わないだろ。それではあの世で楽しく暮らしたまえ。はっはっはっはっはっは……』
「…精々笑ってろ、必ず返ってきて貴様ら管理局を根絶やしにしてくれる。俺達の通り名は不死身の魔導傭兵集団だ!!」
男がそういい終えると辺りは目が眩む程の光に満ちた。
※
『…目標点消滅。周りに生体反応無し。魔力反応はアルカンシェルの物のみ』
『ふっふっふっ、以外に呆気ない。不死身の噂もただの伝説ですね』
「………」
グレアムが浮かない顔をしていると、
『グレアム君。辛かったら止めて良いんですよ。……そんなに私の命令が不服なら私より偉くなりなさい…』
「提督…」
『私より偉くなって部下に君と同じ思いをさせないよう気をつけなさい』
そう言って提督は通信を切った。
そして、この作戦の直後、提督は病に倒れた。
そして、時は流れ30年が過ぎた。