「さ…みんな、返ろーか。ちゃんと休みとって、またお仕事や」
涙を拭いながら、はやては笑顔をみせる。
「はやてちゃんの手料理、久しぶりですね♪」
「ったく、どっかの馬鹿が一人でムリしなきゃ、もっと早く帰れたのによ〜」
「…何だと?」
ピク、とシグナムが首飾りに手をかける。
「そないなコト言うて、シグナムが怪我したとき、『ど〜しよ〜』って
一番泣いとったのって、誰やったかなー?」
「そ、それは…」 ヴィータが少しばかり慌てる。
「お忘れですか主? ここにい」
「テメェは黙ってろよザフィーラ! 普段無口のクセに!」
そんな何気ないやりとりに、笑顔が溢れた。
―同時刻、ミッドチルダ某所―
「2時間、か…」
時計を片手に、魔導師が呟く。その声は、風下にいるもう一人の女性に届いたようだ。
「待ち合わせの時間、3時なんでしょ? 遅刻っていっても、まだ一時間だけじゃない」
何とも気だるそうに、彼女は言った。黙って待っているのが性に合わないらしい。
「2時間、なんだよ…ユウキは、昔から約束の一時間前には必ずその場所に
いるようなやつだったからな。来ないってコトは…やっぱり捕まったんだろう」
「やっぱりって…分かってて行かせるなんて、残酷だねえ。仮にも弟子だったんだろ?」
「いいのさ。ユウキは、いつまでも私などの周りにいるべき人間じゃない。
あの剣は、もっと『正しい』ことに使うべきなのさ。ただ…」
「ただ?」
「いや…何でもない」
(…あいつを止めてくれたのが、『彼ら』の誰かであってくれたらいいんだがな…)
言葉を飲み込み、静かに笑う魔導師だったが…その顔はどこか寂しげだった。
「それよりも…仕事の内容ですが、受けてもらえます?」
「勿論。というか、これだけの大金払うなんて、はっきり言って馬鹿よ。
ハイリスクの割にローリターン。こんなことしてどーするワケ?」
写真を片手に、呆れ顔で女性は笑う。
「それは良かった。生憎、そういう世界の相場ってものを知らなくてね。
それに、貴方の言うとおり、私は馬鹿なもので」
クスリと一笑し、立ち上がる魔導師。長髪が、風になびく。
「…だからこそ、『馬鹿の一つ覚え』をやるのさ。『それ』には、少々思い入れもあるしね」
(END)