21 衝動



俺は冷たい水を頭からぶっ掛けた。
打撃を受けてひりつく手足を冷やしたい。
道着を脱いで上半身裸になり、汗だくになった身体に水しぶきを
浴びる。
早く帰ってシャワーを浴びたい。
ここでざっと浴びてもいいが、やはり自室でゆっくり心身を休めたい。
残暑の色濃い太陽が、俺の身体を容赦なく照らしつける。
俺はとりあえず階級を制し、関東地区の覇者となった。
だがこれは前哨戦に過ぎない。全国区での二連覇への足掛かりだ。
口には出さないが勝ち進んで当然という周囲からの期待を受け
俺自身そう思い込んでいた。
勝利の安堵に浸りきる訳にはいかない。
次にはもう、あとひと月先の目標に向かわなければならなかった。
だが、その前に……

新しいTシャツを着て、会場の外にある水飲み場を離れようとしたら
いきなり若い女の矯声が耳を打った。
声の主は複数いて、その矛先は俺に向けられていた。
「お疲れさま」だとか「すごく強かったです」だの黄色い声で口々にまくし
たててくる。
俺は呆気にとられて立ち尽くしていた。
3人並んできゃあきゃあ騒ぐ女達は、どうやらゼミ仲間の知人から
聞きつけて俺の試合なんぞを観に来たらしい。
中に格闘技マニアなのが混じっていて、そいつの口から伝わって
いったようだ。
俺は自分からこんな試合の事を学内で公言したことは殆どない。
賞歴を自慢気に話すことなどしたくもないし、友人知人にも観に来て
もらいたいとは思わない。
彼女らの言うそのマニア男とは単に顔見知りに過ぎず、親しく会話した
こともなかった。
第一こんな騒がしいミーハー女など興味もない。
男に媚びる甘えた態度、舌もおつむも足りない妙な語尾上げ言葉。
俺がもっとも苦手とするタイプだ。
試合後の疲労と緊張の糸がやっと解けかけたこの時に、思いがけない
不意討ちを食らってしまったものだ。
勘弁してくれ……
俺は胸の裡で苦く呟いた。

どうやら三人のうちの一人が俺に気があるということはわかった。
もって回った言い方をしているが俺は次第に苛立ちを覚えていた。
ごそごそと何か口ごもる先に俺からの色よい返事を期待している
のだろう。
みんな仲良くお手々繋いで一緒に行動か。
まるで幼稚園か小学生並みだな。
そのくせ外見は、大学生というよりどこかの娼婦と言っても通るんじゃ
ないかと思わせるほどけばけばしく飾り立てている。
まだ闘争の余韻が濃厚に残る感情を、その下品な朱赤に塗られた
爪先で掻きむしられるような気がした。
俺は彼女らの期待に沿うつもりはない。
きっぱり言ってやろうと口を開きかけたその時、俺の目はそこに
あるべくもない人の姿を認めた。

 「幸実……」
俺は彼女達の包囲を抜けて幸実に駆け寄った。
彼女は肩を捉える俺に驚いて目を瞬かせた。
「……いつから?」
俺は詰問する訳でなく、ただ驚いて彼女に訊いた。
「今……」
幸実は呆然とした様子でいた。
悪戯を咎められた少女のように、俺の叱責を受けると構えているの
だろうか。
「試合は……約束通り、見てないわ。本当は見たかったけど……」
彼女の表情は困惑に満ちている。
俺はその言葉は事実だと確信した。
嘘であろうと構うものか。
人目さえなければこのまま幸実を抱きしめたかった。
熱情を剥き出しにその唇を奪いたい。

数m離れた場所に置き去りの女子大生3人のことを思い出し、そちらに
振り返って言い放った。
「俺には付き合ってる女性がいる。その人にも観に来ないでくれと
言ったんだ。集中力が欠けるからと。まして騒がれるのは苦手なんだ。
だから、君達の好意はありがたいけど受け入れられない」
3人のまん中でもじもじしていた、比較的まともそうな娘がうなだれた。
「……すみませんでした。迷惑おかけして……」
そう言って軽く頭を下げる。
「……あの、一つ訊いてもいいですか」
おずおずと上目遣いでこちらを窺う。
「何?」
「付き合ってる女性って……その方ですか」
俺と幸実は一瞬目を見合わせた。
俺は黙って頬を緩め、小さくうなずく。
そして幸実の肩を抱いて歩いた。


「……モテるのね」
幸実は僅かに微笑むとすぐに真顔に戻った。
「ただのミーハーだよ」
俺は不快感を露わに言葉を投げる。
「俺は騒々しいのは嫌いなんだ。ケバい品性のない女もね。
迷惑してたところだったんだ。幸実が来てくれて、正直助かったよ」
俺は彼女に苦笑を向けた。
「約束破って……来ちゃった。ごめんなさい」
憂いを帯びた白い横顔が美しい。
「いいよ……」
「怒ってない?」
「来てくれて嬉しかった。幸実の顔見て、やっと試合が終わったん
だと思ったよ」
先程までの怒りを含んだ感情はすっかり消し飛んでいた。
あるのはただ、限りなく暖かな感情。幸実を愛おしく思う。
そして徐々に感じる性的な高揚。
優しく広がる愛情と恋着、それを追いすがるように急激に突きあげる
性の衝動。
抱きしめたいと願ったあとで、細い肩に触れる手が熱くなる。
身体に震えが走るほどの欲望の炎に包み込まれる。
あまりに唐突すぎて自分に戸惑う。

俺は会場に自分の荷物を置いてきたので、取りに行くと告げて
幸実に待ってもらった。
道場の仲間に労いの言葉をもらったあと、幸実とタクシーで帰る
ことにする。
これから彼女の時間が空いているので幸実の部屋に向かう。
「いいの?別行動にしてきちゃって……」
「いいんだよ。もうあとは流れ解散だから」
タクシーの後部座席に座り、彼女が俺の肩に頭をもたせてくる。
「……怪我とかしてない?」
「平気だよ」
囁く調子の甘い優しい声……。
抱きすくめてしまいたい。
また花の香りがした。
芳香と幸実の身体の柔らかさ、そしてぬくもりを感じているうちに
抑えきれず、沸き上がるものがある。
熱い血が身体に漲っていく。
それは脈動とともに一点へと集中していく。

俺は言葉もなく幸実の肩に回した手を腰へとずらした。
もどかしくて仕方ない時間。
「そうだ、勝ったのよね?じゃあ、おめでとう言わなくちゃ」
俺はそれには答えず、黙ったまま彼女の腰からウエストに
かけてのラインを撫でた。
幸実がそっと溜息をつく。
見る間に頬が染まっていく。
喘ぐような艶めかしい表情に変わっていく様を眺め、俺はもう
我慢の限界にまで迫っているのを感じた。


幸実の部屋に着く早々に、俺は内鍵を掛けようとする彼女の
手首を掴んだ。
かわりに俺が錠をかけてやる。
ドアが金属の鈍い音を立てて閉じられる。
その冷たい扉に彼女の身体を押しつけた。
幸実を強く抱きしめ、すぐに唇を奪う。
舌先を強引に彼女の唇に忍ばせ、もう隠しようもない欲望を
露わにしているものを彼女の腹部に当ててこする。
キスをしながら幸実が息を漏らしている。
乳房を掴み……愛撫ではなく文字通りに掴みしめるようにして
手におさめた。
V字に開いた白い胸元に顔を寄せ、吸いつく。
「いやっ!」
幸実は咄嗟に身をかわそうともがくが、そうはさせない。
「大きな声、出すなよ」
俺は声を低めた。
「外に聞こえるぜ……」
幸実は呼吸を荒くして、なおも俺の唇から逃れようとしていた。
「聞こえてもいいのか?……まずいだろ?こんなことしてるのを
誰かに聞かれたら……」
幸実は身体を震わせた。怯えが走ったのだろうか。
「やめて……。いや、こんな……。こんなところ……」
声をひそめながら言う幸実の首筋を舐め、今度は優しく乳房を
揉んでやる。


「抱いてもいいわ……でも、ここはいや……お願い、ベッドで……」
俺は彼女の願いを無視する。
何故か今、荒々しい形で欲望をぶつけてやりたくて仕方ない。
「俺はここがいいんだ」
有無を言わさぬ強い口調で、俺は言いきった。
「ここでするんだよ」
幸実の着ているピンクの服を上にまくりあげる。
服と似た色合いの、きれいな花模様の入ったブラがのぞいた。
それも引きはがすように乳房の上に押し上げた。
形のいい胸が不自然に食い込むブラの締めつけで、その下半分
だけが露出させられている。
卑猥な眺めに幸実の恥じらいは余計に増したようだった。
「ああっ……いや、いや……」
首を振りながら俺の抱擁から逃げようとしている。
そうはさせるものか。
腰から下の下半身をがっちりと俺の腰でドアに押さえつけ
肩口は俺の顔を押しつけている。
こうしていれば幸実は俺から逃れられない。

乳首を指で撫でながら舐めると、彼女は顔を反らして喘いだ。
いやだと言われれば言われるほど。
いやがればいやがるほど、逆にこんな行為で燃えさせてやる。
俺はそんな決意を強く固めていた。
幸実を見つける前、連れだって告白しに来た娘に感じた苛立ちが
性的な衝動にすり変わっていた。
妙に攻撃的な気分になってしまっているのは、おそらくあのせいだ。
だが、もう今更ひっこみはつかない。
このまま抱いてやる。
愛しい女を犯すように強引に抱く。
そのことの興奮が俺の獣性を刺激し、そそり抜いてやまなかった。
肉体を酷使した闘争の余韻がまだ俺の全身を駆けめぐり、一度は
冷えかけた身体を再び熱い血の流れで満たしていった。
逆らうつもりなら……
逆らえないようにしてやるまでだ。
俺の身体の下で蠢く柔らかい身体に、サディスティックな欲望が湧く。
「幸実、俺との約束を破っただろう」
彼女の手首を軽く握り、正面から目を合わせた。
思った通り、幸実はすぐに目を逸らした。
内心の疚しさからか。
「見てたんじゃないのか。俺があの場にいた子たちから言われてた
様子を」
幸実がまた震えた。
「知ってたんじゃないのか。それで来たんだろう。試合も見てない
なんて、それも嘘じゃないのか?」
「知らない……ちが……う……」
幸実の身体からはもう抗う力さえも脱けているようだった。
俺の身体と扉の支えがなければ崩れ落ちてしまいそうに見える。

タイトなミニスカートの内腿から手を這わせ、秘所を探ると
ショーツの上からわかるほど濡れていた。
湿った布の外から撫で続け、両方の乳房を唾液で濡れるまで
舐めてやると、もはや幸実は快楽の吐息をつくことしかできない
ようだった。
抗っていたくせに、身体は欲望に忠実すぎるようだ。
「外して」
俺は幸実の白い手をジーンズの股間を持ち上げるものに引き寄せた。
彼女は興奮のためか何度も俺のそのものを撫でる。
ベルトを外し、下着をずらすとすぐそれは勢いよく飛び出た。
幸実は悩ましげな目つきでそれを見つめ、なにも要求せずとも
彼女自らの手で握りしめた。
潤んだ瞳が、次は何をするのと訴えかけているようだった。
「指でしごくんだ」
俺は彼女の上から命令を下した。
幸実は従順に俺の言うとおりにする。
揺れている半裸の乳房を手で刺激すると、幸実は悶えて俺への
愛撫を止めてしまう。

「脱げよ」
俺は幸実のスカートをたぐり、淡いピンクのショーツに手をかけた。
「自分で脱げ」
幸実は小さくうなずくと、薄い布に指をからませてゆっくりと押し下げた。
俺を焦らそうとわざとなのか、それとも恥じらいのためになのか、その
手の動きはきわめて遅かった。
黒いかげりを過ぎ、太腿を過ぎる。
そこで俺は彼女の手に俺の手をかぶせて、一気に足首まで引きおろした。
洒落たヒールを履いたままの彼女から布きれをはぎ取る。
「ドアに手を突け」
俺は幸実を後ろ向きにさせて言った。
両手を金属のドアにつけて支えとしながら、幸実は俺に無防備な
下肢を向けた。
上半身は乳房にブラをまといつかせたまま。
そしてスカートは穿いたまま、なにもまとっていない剥き出しの下半身。
黒のスカートからのぞくヒップラインの白さが鮮烈な欲望を誘った。
後ろから、しかもドアのすぐ内側に立たせたままの姿勢で。
この体勢は初めてで、うまくいくかどうかわからない。
だが今はこれで、この形でなければならなかった。

俺は幸実の腰を捉えると、かがみこんだ。
「もっと、尻突き出せよ」
幸実に耳打ちする自分の声が欲情にかすれているのを知った。



20 集中


22 Back door


エントランスへ

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル