第3章 1 追跡 後編
| 浅く、先端がもぐりこんできた……。 「は、ああっ……」 夢にまで繰り返し見た、この男のものが……いま、ようやく…… 熱く太く、固いものが……濡れそぼった美香の肉襞を貫く。 「あああっ……!ああ……!」 思わず叫び声が出てしまうほど、その感覚は鮮烈なものだった。 立ったままの姿勢で、しかも背後からの挿入…… いつもよりも、黒澤のものでいっぱいにされている感覚が強い。 ただバックからされるだけでもきついのに、立っているからなおのこと締まりが強くなっている。 「……ああ……。よく濡れてるくせに、きついくらいに締まるな……。 中も…奥も、ヒクヒクしてるぜ……。奥まで、引き込まれていくみたいだ……」 こらえきれない快感のにじみ出る声で、黒澤はそう言った。 なのに…ゆっくりとしか、動いてくれない。 深く貫いたまま、そのままで美香の内部の感触を味わっているようだった。 ふたりとも、着衣のまま……美香はワンピースの裾をはぐられ、濡れたショーツは膝下まで 下ろされている。 ガーターベルトとストッキングは身につけたままの、扇情的な姿。 黒澤に至っては、きちんとワイシャツを着、ネクタイを締め、スラックスのジッパーから 男根だけを露出させ、美香を尻から犯している。 下半身だけ、性器だけで繋がっているのが、全裸になって行うセックスよりも遙かに 淫靡な快楽を増幅させる。 そのうちに、黒澤の腰の動きが次第に早まってくる。 美香の腰を背後から抱えるようにして、時に浅く、時に深く刺し貫く。 男根で満たされ、感じる襞をかき回され、緩急をつけた突き引きが、美香の呼吸を浅く そして早くさせていた。 もう、声も出せずにただ息をついているしかできない…… 抽送を繰り返しながら、黒澤の指が美香のクリトリスをさぐった。 「ああん……あんっ!」 陰唇をくすぐり、クリトリスを押しつぶすようにされる。 「あ……。イキ……そ、う………」 「イキたいか?イかせて、ほしいか?」 「おねが、い……。イか、せて……」 二人とも、もう息も絶え絶えになっている。 「ようし…イけよ。俺も……ああ、イクぞ……」 忙しない息をつきながら、彼も頂上に近いことを宣言される。 クリトリスをもうひと撫でされた途端、美香は叫び声をあげた。 「あああっ……!ああ……!」 彼女の絶頂時の激しい収縮に耐えきれず、黒澤も激しく放った。 「うっ……!くうっ…………」 苦鳴にも似た快楽の極の声をあげて、ほぼ二人は同時に達した。 外に夜の闇と静寂が広がる中、狭い部屋の中で、ただ男と女の荒い吐息がこだました。 そのまま二人は、繋がったまま暫く動けずにいた……… ……美香の内部に詰まっていた黒澤のものが、引き抜かれる。 「ああ…………」 まだ硬度を充分に保ったままのそれがゴムに包まれて、先端の精液溜まりの部分に 大量の白濁した液がある。 それを見た瞬間に、美香は顔が熱く火照っていくのを感じた。 なんて、いやらしい光景なんだろう……。 引き抜かれて、放出したものの始末をしている黒澤を背後に感じながら、美香はまだ 余韻にひたっていた。 腰が抜けて……立って、いられない…… そのまま、ずるずると床に座り込んでしまった。 「大丈夫か?」 既に放出の済んだものを収めて、黒澤は美香の手を引いた。 黒澤に手を取られ、立ち上がろうとしても…… ずっと立ったままで、あまりに刺激的なセックスの快楽に酔ったような美香は、膝と腰に 力が入らない。 「だめ……立てません。……しばらく、このままで……」 まだまだ、激しい快感が秘所を蠢かせている。 立ったまま背後から男根を突き込まれ、犯されることを自分からせがんだ。 黒澤が自分の足元にひざまずき、まるでロマンチックな映画のワンシーンのように 愛撫を仕掛けてきたことも、美香を異様に興奮させていた。 「腰が抜けるほど……よかったのか?」 黒澤が笑いながら、へたりこむ美香の前で膝立ちをする。 「まだ一回目だぜ……。宵の口だ。……こんなことで腰が立たなくなってたら…… これからは……」 そこで意味ありげに言葉を切って、くっくっとおかしそうに笑う。 これから……何をされるんだろう。これ以上のことを、どうやってされるんだろうか…… 美香は、密かな期待で胸をときめかせてしまう。 黒澤の顔が近づき、軽く口づけられる。唇が頬を撫でるように擦り、耳を軽く咬まれた。 そのまま耳たぶの下をはさまれる。 口紅と同系色の、暗い赤色の小さな薔薇のイヤリングを唇で弄ばれる。 「は、あっ……」 唇は重ねずに、美香の性感帯の耳と首を狙ってくる。 肩口から首筋を下から上に舐め上げられて、美香は熱く喘いだ。 「はぁっ……ああ……ん……」 徐々に体重をかけられて、美香はカーペットの上に押し倒された。 部屋の隅に簡易ベッドに使えそうな、ソファベッドが置いてある。 それにも関わらず、その上では決して彼女を抱こうとしない。 床の上で行うことが、美香を淫靡な気分にさせることを知っている…… 暖房が効いているので寒さはあまり感じない。 今度は、黒澤の手が服の上から乳房をまさぐり始めた。 「服を着て、ブラ着けてるのに……乳首が立ってるの、わかるぞ。ブラは、黒のレースか?」 言い当てられて、美香は動揺した。 「……どうして……?」 「どうしてって……わかるさ。下が、こんなレースのシースルーだからな。上も似たような いやらしい素材なんだろう……?」 黒澤は美香の目を見つめ、薄く笑いながらそう言った。 「どれ……見せてみろよ。俺の言う通りかどうか」 彼は美香の背中に手を入れ、彼女をくるりとうつぶせにさせる。 首の後ろ、ネックレスの下になっているワンピースのファスナーを下ろしはじめた。 「なんだ……フロントホックか」 後ろにホックがないのを知ると、また美香をあおむけにさせる。 ワンピースの肩の布を少しずつ下へずらしていく。 男の目に、黒の総レースのブラジャーがさらされた。 ごく薄いレースの素材が、乳首の突起を押さえきれずにいる。 胸と胸との間…中央の部分に、小さなリボンがついている。 その後ろに隠される形で、フロントホックがある……それを難なく男の手が探り当て 外してみせた。 ……これはフロントホックの種類でも、難しいものなのに……。 あっさり、慣れた様子で外すなんて。 どれだけの女を、こうやって堕としてきたんだろう……。 美香の胸に、嫉妬の炎が巻きおこった。 そんな美香の思惑におかまいなしに、黒澤はレースの布を押し下げて可憐に色づいた 乳首に口をつけた。 「あっ……ん……。あ、ああ〜ん……」 たまらずに、美香は自分でも驚くような艶めかしい声をあげてしまった。 今日は今までにほとんど胸を責めてもらっていない。 そのぶん、やっと乳房への愛撫を受けることができた今、感覚は鋭敏になっている。 黒澤もそれを心得ているらしく、そっと乳首を唇に含み、舌先をちろちろと小刻みに動かす。 「ああん……。あっ……。あっ……」 彼は顔を反らして喘ぐ美香の顔を下から見上げ、感じ入っている彼女を見つめてほくそ笑む。 両手の指先で乳首をはさみ、つまみあげられる。 それに唾液を塗りつけながらの舌の愛撫も加わる。 舌全体を使って、乳輪に沿って舐め回すかと思えば乳首に軽く歯を立ててこすられる。 「はぁっ……ああん……。ああ……」 甘い美香の声と、ときおり黒澤の舌が立てる音だけが、静かなこの部屋に満ちる。 「そんなに、おっぱいが気持ちいいか?」 静寂を破るように、黒澤が口を開いた。美香は黙ったままうなずいた。 彼はそれを見ると、彼女の上体を抱き起こし、鏡の前に向かわせた。 なにを……するつもりなの……? 美香はただ彼にされるがまま、横座りした姿勢で次の行為を待った。 後ろから彼の両手が乳房を掴み、ゆっくりと揉みしだく。 そうしながら美香の右の肩に唇を吸いつけてくる。 「はっ……あ…………」 再び、美香はのけぞるようにしながら黒澤の手の動きに反応した。 「ほうら……鏡を見ろよ。いやらしいおまえの姿が映ってるぞ。服着たまま、ブラだけ ずらして後ろからおっぱい揉まれてる……」 粘ついた口調でそう言う黒澤の声を、美香は途轍もなくセクシーに感じた。 窓から差し込む月明かりと、街灯の光に照らされて鏡に映るのは 彼の言うように、自分とは思えないほど淫らな…まるで知らない女のような淫靡な姿だった。 美香の腰を覆うワンピースの裾が、再びたくしあげられる。 さきほどの立ちバックで犯された時に、すでにショーツははぎ取られている。 ガーターとストッキングを着けただけで、股間は無防備なままだった。 「あ……」 そのことに気づき、慌てて手で秘所を覆う。その手を、男の力強い手のひらが握った。 「手を離せ」 低くそう命じられ、美香はそれに従った。 「膝を立てろ。鏡に向かって、脚を開け」 淫らな指示をされても、、美香は恥ずかしさのあまりに首を振った。 「……できないのか?」 黒澤の声がもう一段、低く響いた。 「じゃあ、俺がそうさせてやる。……前を向け。鏡に映る自分を見ろ」 黒澤が背後から、美香の両足の膝を立てさせ…次いで、ぐっと足首を掴んで広げさせた。 所謂M字開脚の姿勢にされる。 この男の前で、いったい何度……この姿勢をとらされたことだろう。 そのたびに、羞恥心は激しく湧き起こった。 けれど、今回は夜の自然光の中…夕闇の部屋の中での、淫猥な性の遊戯。 鏡に向かって、彼女自身の淫らな姿を見せつけようとするこの男のサディズムに、美香は 畏怖を覚えた。 「自分で、足首を持って広げていろよ。 ……ほら……見ろ。まだまだこんなに濡れて、光ってるのが見えるぜ……」 言いながら彼の指が、美香の女性の部分を押し広げてくる。 「外の光でも、十分見えるぞ……。ほら……。どうだ、これは……」 指先がまだ潤っているはざまを犯し、膣の口に浅く入ってくる。 「あ、ああ……」 感じる…………。 男の指が奥に入り込み、Gスポットのあたりをすぐに探られる。 ゆっくりと、黒澤の右手人差し指が…美香の膣に出入りする。 美香は、自分の両手が自由になるなら…耳を塞ぎたくなるほどのいやらしい音が出る。 聞いているだけで赤面するような、ぐちゅぐちゅという湿った音。 「見ろよ……ほうら。俺の指が、おまえのあそこを……濡れてるおまんこに、出たり入ったり してるぜ。気持ちいいんだろう……。俺の指を、締め付けてくるからな……」 恥ずかしくて、とても直視できる光景ではない……。 美香は目を閉じて顔をそらしてしまおうとした。 その顔を、後ろからぐいっと下に向けられる。 「見ろ。おまえの中に入ってるのを、見るんだよ。それとも……恥ずかしいのか?見たく ないのか?」 美香は答えられず、ただうなずいた。 「恥ずかしいだろう……俺の前に向かされるよりも、自分でこんなところを見せられる ほうが、よほど恥ずかしい。……そうだろうが」 美香の内心をすべて見透かしたような黒澤の言動に、美香は怯えを感じるほどだった。 乳房での愛撫でも快かったのに、今はこうして……脚を広げさせられ、 鏡に向かわされて、卑猥な現象を見せつけられている。 「もっと、恥ずかしい目に遭わせてやろうか……」 男の悦に入った声がすると、美香の膣から指が引き抜かれた。 「あん…………」 その指が……今度は小陰唇にのびてくる。 クリトリスの包皮をそっとめくり、指で両側をはさむようにして、上下に擦る。 「ああ、あん……はぁ……。あ、あん……」 つい、美香の唇からは声が漏れてしまう。 人差し指でそうされながら、次に中指が……膣口にこすりつける。 今度は中指の先が、膣内にゆっくりと挿入される……。 クリトリスを擦られているだけで、腰をビクンと動かしてしまうほど感じている……。 それだけでなく、膣内の指も…美香の感じやすい部分をそっと押す。 そうされるたび、クリを擦られるたび……美香の膣は勝手に蠢いて、もっと快楽を貪ろうと 蠕動してしまう。 それでも、黒澤の指での責めは終わらなかった。 残る指……そう、薬指を美香の尻の後ろの、小さなすぼまりにあてがう。 「あぁ…………」 そこは、いや…… 美香は呟いたつもりでも、声が出せなかった。 いままでに美香が知っている男達は、積極的にそこを求めてきたことはなかった。 彼女自身も、男に対してもそこはあまり責めたこともない。 黒澤に犯され、あまりの快感に…衝動的に、そこを責めてしまったことはあった。 さわさわと、男の指先がそこをくすぐるようにしてくる。 クリトリスと、膣の快感だけでも……もう少し続けられたら、イってしまいそうなほど感じている。 なのに、そこにまで愛撫を加えられたら……。 はじめて味わわされる、未知の快楽への恐れと期待。 薬指が、ツン、ツンとアナルをつつく。 「はあっ……ああっ……!!」 美香は背筋を後ろにのけぞらせるようにして、その責めから逃れようとした。 クリトリスと膣…そしてアナルにまでも与えられる三カ所、それぞれのまったく異質な 三種の快楽…… それそれが相乗効果を醸しだし、美香の身体に言いしれぬ快楽をもたらしていた。 「だめ……。あ……。……そん、な……とこ……」 美香は、息も絶え絶えにようやくそれを口にした。 「……ふふ……気持ち、いいだろう?三所責めって奴だ。 ほら……いけよ。おまんこも、クリも…後ろの穴もみんな、感じるだろう。……いいだろう?」 黒澤の畳みかけるような卑猥な囁きが、美香の興奮を誘う。 もうすぐ……ほんとうに、イってしまいそう…… ただ美香は、陶酔のあまりに上体を起こし、自分で自分の太ももを掴みしめていた。 突然、その部屋の静寂は終わりを告げた。 デスクの上の電話が着信を告げる音楽を鳴り響かせる。 チッ、と舌打ちして、黒澤は美香の秘所から右手を離す。 「八巻だ……。野郎、何かドジ踏みやがったか」 乱暴な言葉を吐いて、立ち上がると美香を手招きする。 「続きをしたけりゃ、来いよ。イかせてやるぜ……」 そう言い放つと、受話器を取った。 「ああ。俺だ。……ああ。ああ、まだいるよ」 大きな黒革のイスに腰掛けて、美香の方に身体を向ける。 「報告書?ああ。それは問題ない。大丈夫だ」 淡々と電話を受けながらも、激しく隆起している黒澤の股間のものを美香はぼんやりと 見ていた。 広げるように命じられた脚を閉じ、はぐられていた裾も直す。 いきそうになるくらいまで迫っていた大きな快感の波涛が、今はやや勢いを失いながらも 小さく波だっている状態だった。 黒澤が、まだ美香を手招きする。 すると受話器を持ったままの彼が、デスク脇に立ったまま動こうとしない美香に業を煮やし たか、近づいてきた。 美香は驚き、逃げようとしたがあっさりと肩を掴まれてしまう。 ぐっと身体を引き寄せられ、イスに座る彼の上に跨らせられる。 「ああ、うん。そこはそう書け。それでいい」 黒澤はなにげなくあいづちを打ちながら、後ろ向きに膝に座らせた美香の股間に右手を 伸ばす。 左肩に受話器を挟むようにしながら、美香の抵抗を封じるように、両腕で彼女の脚を 開かせる。 やがて再び、クリトリスと膣への執拗な愛撫が始まった…… 美香は、電話相手の青年……八巻に悟られまいと、必死に声を殺す。 でも、二人で座るイスの軋み音がそこらに響く。 あまりに不自然な規則的な音が、かえって美香の声よりも如実に淫靡な行為を連想させて しまう。 黒澤は息も乱さずに美香を弄んでいるが、彼女は自分自身の手で唇を塞ぐかたちで いなければ、声が出てしまいそうになる。 美香のアナルを責める指が、すぼまりをつついた。 「……!」 美香は息を呑んでしまう。 その瞬間、押し殺した吐息が一瞬漏れた。 『……誰かそこにいるんですか?所長……』 訝しがるさっきの青年…八巻の声が受話器から美香の耳にも伝わる。 くくっ、と黒澤が低く笑う。 「ああ。おまえには紹介し忘れてたな。……俺の女だよ。さっきおまえが応対した女さ」 『……えっ!さっきの美人が……ですか?』 驚きが彼の声を大きく、高くさせた。 「そうだよ。いい女だっただろう。……今度紹介してやるよ」 『はあ……まったく所長、人が悪いなァ……』 呆れたような青年の声が聞こえてくる中で、美香の意識はすでに秘所をいじる黒澤の指に 集中していた。 そして相変わらずギシ、ギシと軋むいやなイスの音…… 美香の息も弾みそうになってしまうが、ぎゅっと手のひらを口に押しつけてこらえる。 まるで、ほんとうにレイプされているみたい……美香はぼんやりと倒錯したことを考えていた。 『ねぇ、所長……その、まさかと思うんですが……』 おそるおそるといった感じで、八巻が声をひそめる。 「ん?なんだ?」 そらとぼけて黒澤は答える。 『まさか……今、そこで……Hなこと、してるんじゃないでしょうね……』 八巻の疑問の声が、美香にも聞こえた。心臓が、ドキッと一瞬強く鼓動する。 ……悟られてしまった……? 黒澤から離れようとしても、彼の強固な力で膝の上に固定されている。 「なんで、そう思うんだ?」 笑いをかみ殺したような声で、まだ黒澤はとぼけていた。 『だって……』 八巻が困ったように一瞬言葉を切る。 『……さっきから……ずっと、イスか何かの音がしてるんですよね。しかも、なんか一定の 間隔で』 黒澤は美香をイかせまいとして、緩急をつけて彼女を苛んでいた。 自分の腰を突き上げて、指で美香の膣の中をかき回すようにさせる。 時々怒張を美香の尻に当てて感じさせて、また指で責める。 「気のせいだろう」 黒澤はこの期に及んで、まだしらばっくれている。 それでいて、美香を責める指の蠢きが本格的になってくる。 美香をイキそうになるほど追いつめた、電話の前の時のように。 クリトリスをつうっとこすられて、美香はその刹那…詰まった声を放ってしまった。 「んっ……!」 『………………』 受話器の向こうで、呆然としている青年の顔が容易に想像できる。 少しの間気まずい沈黙が流れる中、今度は美香の膣内をかき回す指をわざと 激しく出し入れさせて、粘った音を立てさせる。 ふっ、と黒澤が耐えられないように笑いを漏らす。 『やだなぁ、所長……。ほんとに、あの人と…してるんですか?』 「くくく……。は、はっは……」 その笑いがなによりの返答になってしまった。 美香は、もうやめて……と大声で叫びたかった。 でも、ほんとうは……続けてほしい。 美香の今日のセクシーな服装は、探偵に依頼をしてくるにはあまりに似つかわしくない。 その思いがあったのか、あの青年は美香のことを興味深げに見ていた。 そして今、こんな場所で淫らな行為をされているのを悟られてしまった。 羞恥心と屈辱感、そして陵辱されている自分を見るあの青年の目が、次回から好色な 目に変わることへの恐れ。 それらが美香を困窮させるけれど、目前に差し迫った絶頂感を醒ます効果はありもしない。 「美香……もう、声を殺す必要ないぜ。思いっきり、聞かせてやれよ。……なあ、八巻。 おまえももう、あそこビンビンにおっ立ってるんだろ?」 黒澤は、あからさまな物言いに態度を急変させた。 『所長……もう、俺……彼女いないの、知っててやってんですか?』 八巻は困惑しつつも、声に隠しきれない弾んだ調子が滲み出ている。 『美香さん……て、いうんですか。きれいで、セクシーな人でしたね…… 髪がきれいで……身体の線も、すごく……』 「ああ。いい女だよ。俺はSだけど、こいつはMなんだ。身体の相性も、バッチリって奴さ」 下卑たセリフを得々と部下に語る黒澤を、美香は身体を震わせながら見つめていた。 この人は…… ほんとうに、なんてひどい…… なんてものすごい、好色な人なんだろう…… 寒気がするほどのおぞましさを感じながら、その一方で快感を高める動作を味わうことが やめられない。 「ほら……美香。なにか言ってやれよ。言えなけりゃ、おまえのイキ声でも聞かせてやれ」 そう言うと、黒澤は美香に決定的なとどめの一撃を与えた。 クリトリスをこすりつけながら、膣に浅く指を入れ…… ……そして、アナルにもやや浅くだが指が入り込もうとした。 その瞬間、美香はもうこらえられなくなった。 耳元で黒澤が甘く囁く言葉も引き金になる。 「ほら……イけよ。気持ちいいんだろう?声出せよ……」 受話器の口の部分を美香の唇に押しつけるようにしてくる。 「あ……!いや!ああ、ああ〜〜ん……!」 美香は、耐えに耐えていた声を放ってしまう…… 全身ががくがくとふるえ、腰と……そして頭が強烈な痺れに襲われる。 こんなふうに、膣も、クリも……そしてアナルさえも責められて… ……しかも一度はイク寸前のところをこの電話で断ち切られた。 さっき、ほんの1時間ほど前に会ったばかりの青年に、痴態を演じる声までも聞かれて しまった…… 八巻の声が、興奮のあまりに掠れているようだった。 『……凄え……。凄いっすね、所長……俺……もう、彼女の声聞いてるだけで、たまんない っすよ……』 くくく、と黒澤はいかにもおかしそうに笑った。 「八巻が、おまえの声聞いただけでたまんないってよ……」 美香に向かって、そんな直接的なことまで告げる。 『勘弁してくださいよ、所長……。俺、これから仕事まだあるのに……抜かないと、もう おさまりつきませんよ……』 「抜くのはいいけど、報告書にザーメン付けるなよ」 黒澤が、美香の恥じらいのあまりに耳まで赤くなっている表情を盗み見ながら ひどく卑猥なことまで言ってみせる。 「じゃあな。座興は終わりだ。これからお楽しみだからな」 そう言うと、黒澤は電話を切ってしまう。 美香はデスクの後ろ、窓際に座り込んだままで、あまりに激しい快楽と羞恥がおさまるまで 動けなかった。 「よかっただろう?」 美香を見下ろしながら、黒澤が満足そうに言った。 「……ひどいわ……こんな、ことまで……」 「そう言いながら、感じてたじゃないか?あいつ今頃、おまえの声思い出しながら、ちんぽ しごいてるぜ。きっと、おまえのこと裸にひんむいてよがらしてるとこ想像してるぜ」 侮蔑的な、猥褻な言葉を美香に浴びせる黒澤の声を黙って聞いていた。 悔し涙が出るかと思ったが、そんなことはなかった。どこかが壊れてしまったのかもしれない。 この異様な空間の中での快楽の前にはすべてが現実感に乏しく、美香は今後の展開を 考えることさえ疎ましかった。 怒りを感じていたはずのこの男に口づけられ、抱かれただけで身体が溶けてしまうような 錯覚にとらわれた。 期待していたからこそ、淫らな下着に身を包み、化粧をし、装いを凝らしてきた。 SとMだ、と八巻に説明した黒澤に、そうかもしれないとも思った。 今頃、あの八巻という青年は、美香を犯す妄想でも脳裏に浮かべて精を放っているの だろうか…… やっと疼きがおさまってくると、今度は空腹感と喉の乾きを感じた。 空腹で低血糖に陥ったのか、手にひどく脱力感を覚える。 セックスのあとの高揚感とは違うものが美香を包んでいた。 現実に一枚フィルターがかかっている感覚。 度の強い眼鏡をかけた時のような、浮遊するめまいに似た非現実感。 呆然としているうちに、黒澤の姿はこの部屋から消えていた。 あたりを見回し、のろのろと身支度を整える。 乱れてしまった長い髪を手櫛で整えていると、コーヒーの香りが漂ってきた。 芳香に誘われるように、ふらつきながら歩いていくと…美香が最初に座っていたソファの前で 黒澤がドリップでコーヒーを淹れていた。 なぜか、それがとても不思議な光景に見える。 この男でも、そういった日常の動作をするんだ…… 美香がやって来たのに気づくと、黒澤は彼女に笑いかけた。 その笑顔がなんとも意味ありげなものに思えて、美香の足はソファの前で止まった。 「コーヒー、好きか?好みがわからないから、癖がないブルマンにしておいた。飲めよ。 落ち着くぞ……」 美香は、コーヒーは大好きとは言えないが時々飲む。 ソファに腰を下ろし、出された熱いコーヒーを啜る。 普段はミルクも砂糖も入れるけれど、今日のこの状況ではこのまま飲みたかった。 「おいしい……」 思わず溜息をついて、素直にそう言った。 「だろう?」 黒澤も自分のカップに口をつける。 「時間も時間だし、腹も減っただろう?食事でもしに行こう。どういう店に行きたい?」 そういえば…外はすっかり夜の闇に沈んでいる。 壁に掛かっている時計は夜の七時近くになっていた。 「どういうって……」 黒澤の問いかけに、美香は戸惑った。 この後、いつものようにラブホテルに軟禁される形になるとばかり考えていた。 確かに空腹も、切迫していた。 「じゃ……お任せします」 黒澤が、どこのどういう店に連れていってくれるのか。 まずは彼のリードに従おうと思った。彼を試す意味合いでもある。 |