第3章 3 探知 後編

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ホテルでの外泊も、なかったわけではない。
でもここには恋人を泊めたことはない。
「さあ。想像にお任せします」
美香は初めてのことばかり、この男に経験させられている。
そのことを知られるたびに、どうにもじれったいような気分になる。
この男のものだという刻印が、身体じゅうに示され、刻まれていくような気になる。
「俺が初めてじゃないのか?」
洗い物をしている美香の、わざととりすましたような顔を覗き込むようにされる。
すると腰に手を当てられ、無理に唇を奪われてしまう。
背後から、ブラをつけていない乳房を触られる。
「あ……だめ…………」
食器棚を開けようとしている美香に、悪戯を仕掛けてくる。
黒澤を軽く睨んでみても、それでも拒否しきることができない。
ロングスカートをはぐられ、美香のショーツの上から指でなぞられる。

「もう、こんなに濡れてるぜ……朝から。ほんとに、いやらしい女だな」
耳元で、熱い吐息とともにそう囁かれると、もうたまらない……
「だめ……よ。あ……。こんな、とこ……で……」
拒む声にすら、隠しようもない欲情がこもっている。
美香の首筋に唇が当てられる。
「あ……いや。キスマーク、だめ……つけないで……」
「つけても、隠せるだろう?いいじゃないか、あとで化粧して隠せば……」
強く、強く何カ所も吸い続けられる。
肩口に、鎖骨の近くに、首筋に、顎の下に。うなじにも、彼の唇が吸いつく。
ショーツの脇から、じかに指がクリトリスに触れる。
もうそこは、情けないほど濡れきって、男の指を喜んで迎えている。
「あ……あん…………」
声すらも、快感に震えて語尾が溶け崩れている。

こんなにも、この男の指が、身体が触れるたびごとに感じていく。
濡れて、身体は悦びにとろけて、開いていってしまう。
まるで、黒澤という男そのものが美香にとっては媚薬のようなものに思える。
淫猥な悪夢の檻の中に閉じこめられて、それでも快さのあまりに夢から
醒めきれない。
黒澤にかつて言われたように、離れられなくなる、というのはあながち間違い
ではない。
甘い陶酔のひとときをわけあう恋人同士のセックス。
そして激しく責め立てられ、疲労しきりながらも、身も世もなく泣いて、悶え
狂うようなセックス。
その異質な快楽に操られて、どうにも抜け出せなくなっていく。
これから自分が、二人がどうなっていくのかわからない。
わからなくて、恐いけれど……このまま……


美香の下肢を自由に弄ぶ黒澤の指に、他愛もなく続けざまにいかされる。
キッチンの洗い場に手を突いて、背後からさんざんに嬲られる。
こんなことを、金曜の夕方からずっと続けられている。
日曜の朝から、陽光の満ち溢れる中での性の営み。
昨日は黒澤の自室で、そして今朝は美香の部屋で。
多くのショッキングなことがたて続けに美香を襲うのに、狂わずにいられるのは
なぜなのか、自分でもよくわからない。

ベッドに荒々しく身体を投げ出され、跳ね起きようとするところをねじ伏せられる。
前ボタンのワンピースを手荒に押し開かれ、勢いでボタンが二つ跳んだ。
乳房に唇を押しつけられ、幾度も強く吸いまくられる。
当然、痕にはキスマークが残される。
両方の乳房に、数えきれないほどのマークをつけられてしまう。
「これで、あと一週間は消えないぜ」
黒澤は悦に入った笑みを浮かべている。
「今週末には、会えないからな。おまえも、もうすぐ生理が来てもおかしくない
頃だろうしな」
「……会えないの?」
美香は弾む吐息の中で、ようやく聞き返した。
「ああ、家裁に呼ばれてるんだ。離婚訴訟でな、俺が証人として答えなきゃ
ならなくなって。その関係で忙しいんだ」
「……私の生理は、もう少し先……あと10日くらい、あるのよ」
美香は思いきって、そんなことまでを話してみた。

「それじゃ、排卵が終わって……4日、5日くらいか?」
「ええ……」
さすがにこの男は、女性の身体の仕組みにも詳しいらしい。
つまりは今が、美香の安全日ということもわかっている筈だった。
「私は、周期が長いの。黒澤さんに初めて抱かれた日には、生理が終わって
まだ二日くらいしか経ってなかったの」
「……まる三週間になるのか。ひと月経ってないんだな。なんだかもう、長いこと
こうしてるような気がするのにな……」
ベッドで、こうして語り合うことも初めてのような気がする。
美香は黒澤の顔をじっと見つめる。
自由になっている両腕を彼の首筋に回して、自分から口づけを求めていく。

積極的に、黒澤の服を脱がせていく。
ああ、と黒澤の口から溜息が漏れる。
それを聞いているだけで興奮していく。濡れていく……

美香は自分から黒澤の足元にひざまづいて、フェラチオを始める。
既に猛り狂ったものを、夢中で唇に含む。
いつから、こんな女になってしまったのか……
淫らな行為を、自分から進んで行うことに酔ってすらいる。
唇の中で熱く、固く息づくものが美香を狂わせていく。
幾度抱かれても、貫かれても、そのたびごとに美香に新鮮な快楽をもたらして
くれる。
昔覚えはじめたばかりのオナニーに、セックスに夢中になっていた時よりも
むしろ激しく、彼を求めているような気がする。
不安感を払拭したいばかりに抱かれている、それもある。
肌の触れあいをしたい、男の逞しい身体に自分を預けてしまう心地よさに浸って
いるのかもしれない。

虜、とはこういうことを指すのかもしれない。

美香は下肢に舌戯を加えてくる黒澤の頭をかき抱いて、悶えた。
太ももを丁寧に舐め、そこから徐々に舐め上げてくる。
クリトリスには触れずに、その周囲を執拗に、執拗に舌と指を使って細心に
愛撫を加えていく。
直接クリをいじられなくとも、ここまでされたらもうたまらない。
美香はもう、耐えられなくなって達した。
白昼であることも、窓からの眩しい光が身体のすべてを黒澤の目にさらして
いても、気にしている余裕などなかった。
ただただ、快楽に身を任せて喘ぎ乱れ続ける。
すぐにまた、舌先が敏感な部分を刺激されただけでせつない声を放って
美香は弓なりに身体を反らして応えた。

幾度達していっても、尽きることのない欲望。
満足、という言葉を知らぬかのように飽かずに美香を責め苛む黒澤。
二人だけの、異次元の空間に放り出されていくようだった。
性の魔力に取り憑かれて、どこまでも底のない沼に落ちていくような気がする。

唇を合わせあっても、乱れた吐息が互いの口から漏れる。
情熱、というよりも妄執のように互いを求めていくのは何故なのか。
単にサディストとマゾヒストという問題だけで片づけられるものでもない。
今後二人の身に起こる激変を知ることもなく、ただ二人は欲望に溺れていく……


美香は既に、ベッドで三度の絶頂を迎えていた。
正常位の形で黒澤に女性器を貪られ、二度達していた。
そして今はうつぶせにされ、膝を立てて身体を支えるようにしながら、背後から
指と舌で嬲られている。
もうすぐ、いきそうに高ぶっている……
ぬるりと舌が美香の秘所を舐められ、指が奥まで挿入される。
その瞬間、美香はまた昇りつめていく。
「あああっ……。あ……。あ……」
頭がくらくらしてしまうほど、下半身が痺れてしまうほどのよさだった。
そしてすぐに、美香に休息を与えずに、黒澤の熱いものが美香の狭間に
当てられた。
もう、美香は膝近くにまで愛液を垂らしてしまっている。
黒澤の唾液が混じり、ぬめる感触が途方もない悦楽を与えてくれる。

幾度か、怒張の先端が擦りつけただけで、美香はあっけなく頂点を迎える。
「あっ……あ……ああ〜〜んっ!!」
たまらなかった。
拷問のように、セックスで苛まれている。
そのくせ、美香をイキまくらせておいて、黒澤はまだ挿入しようとしてくれない。
彼女の快感に悶えのたうつ姿を眺めて、笑みを浮かべている。
美香の支配者として、完全に彼女に屈従を強いていくつもりなのか……

彼女は息を乱しながら、うつぶせに身体を投げ出して横たわった。
そんな彼女を見下ろしながら、黒澤は言葉をかける。
「なあ。美香……」
優しい響きの声が、彼女の耳に届く。
「……おまえ、生理まであと10日くらいある、って言ったよな?」
「……はい……」
美香はそこで、自然と「はい」と丁寧に答えてしまう。
「……すると、今は安全日という訳だな」
彼女のさきほどのほのめかしに気づいて、そんなことを言い出してくる。
「……はい。そうです……」

急速に、美香の胸は早鐘を打っていく。
喉元が締めつけられていくように感じるのは、興奮のせいでもある。
身体が見えない力で圧迫されていくような、期待とも不安ともいえない
複雑な感情が湧いて出る。
「恐いか?」
黒澤は軽々と美香の身体を仰向けにさせて、彼女の顔を見つめる。
「……病気にかかったことはない。心配するな。そんなドジは踏まない。
定期的に、検査もしてる」
膣内射精を示唆する内容を口にされると、美香の身体も少しこわばる。
「……中に、出したことが……あるの?」
「昔、にな。真剣につきあってた女と、何度かある。遊びの女とは、そんな
ことはしなかった。リスクが大きかったからな」
つまりは、美香に対して真剣だと言いたいのだろうか……

「だから、最初から俺は徹底的にゴムつけてしかしてなかっただろう。
まだおまえがどういう女かわからないうちにはな」
美香は黙ったまま、まだ余韻を残す秘所の快感に浸りながら聞く。
「訊いてもいい?」
美香は思いきって尋ねてみたいことがあった。
「ああ、いいよ。何でも訊いてみてくれ」
「……今まで、どれくらいの女性を抱いたの?」
黒澤は、わずかに唇を動かした。
「片手以上、両手未満だな。案外と少ないぜ」
「素人女性は、じゃなくて?」
ふっと黒澤が笑った。
「言ってなかったかな。俺は玄人はあまり好きじゃないんだ。昔、学生時代に
そういう所に連れて行かれて、仕方なく相手したことはあるけどな」
「…………」
美香は目をしばたたかせて黒澤を見ている。

「言ったろう?昔は真面目だったって。体育会系の部で、そういうのはよく
あるんだよ。…まあいい、それより……」
彼女の唇を塞ぎ、乳房を愛撫し始める。
「ん……っ。んん……」
美香の濡れている秘所に、また彼の顔が近づく。
「あ……!ああん……あっ……あ……」
再び、執拗なクンニリングスが加えられる。
何度でも、イかされてしまう。
続けざまに、否応なく与えられる愉悦が、やがて苦しくなっていくほどにまで。
美香の快楽によがる様を見ているのが、この男にとっての愉しみなのだろうか。

美香がもう一度達してから、ようやく黒澤は離れた。
そして彼女の足を広げさせ、その間に自分の腰を持ってくる。
濡れている部分に、またしても男根で嬲るように撫でてくる。
「ああ……あっ!あ……。ああ……ん、ん……」
長く尾を引くような美香の声が、快楽の強さを物語っている。
「あ、あん……あ……ねえ、イキ、そ……う……」
美香の腕が、黒澤の肩を捕まえようとする。
すると、黒澤はすっと美香から腰を引いた。
「ああっ……あ、いや!……」
美香は欲情に曇った瞳に、涙を浮かべて黒澤を睨め付けている。

「美香。俺のことが好きか?」
なぜか今、改めてこんなことを訊かれる。
「好きよ……好き。昨日も言ったじゃない……ひどい、焦らさないで……」
美香は黒澤の胸にしがみつこうとする。
「俺のことを、受け容れるか?」
「……え?」
どういう意味で、彼がそんなことを言ってくるのかがわからない。
「中に、出したいんだよ。おまえもそういう意味で、さっき俺に具体的な
生理の予定を言ったんだろう?……違うか?」
美香は、確かにさっきはあまり深く考えずにそういう意味を含めて言った。
安全日だ、ということを知らせたかった意味もあった。
自分の身体に関心を持ってくれたことが嬉しくて。

避妊こそしなくても、今の時期には妊娠などしないことはもうわかっている。
美香は基礎体温を測っていて、排卵日には面白いほど体温が下がる。
医師に見せたら、わかりやすくて笑われるほどのものだろう。
普通の女性はいいところ0度3分とか0度4分程度しか下がらないのに
美香は軽く1度近く、がくん、と下がる。
それは五日前のことだった。
正直なところ、妊娠よりも性病の方がこわかった。
美香はともかく、黒澤のような行動をしている男が性病を持っていない保証
などどこにもない。
今は彼の言葉を、言葉ひとつを信じるしかない。

さすがに病気がこわい、などと正面きって言うことに躊躇いがある。
それは黒澤を侮辱することになりかねないから。
さっき彼の言った言葉を信じたいと思っている。
避妊を徹底してくれていたから、ここまで彼の言うがままに身体を任せていた。
黒澤は、避妊をしないことに美香が畏れを抱いていると思ったようだった。

ベッドから下りて、手提げを探る。
彼の手に、見慣れない筒状の物が握られている。
蓋を開けると、五円玉のように中央に穴が空いた、トローチ状になっている
錠剤が出てくる。
「膣錠だよ」
黒澤は、起きあがった美香にそれを手渡した。
「ちつ……じょう?」
見たこともないものだが、いつか友人がそのことを話していたのを思い出す。
挿入の5分ほど前に入れて、膣内で発泡して溶けるのを待つと。
マイルーラが生産中止になった今では、それで失敗したことはない、と。

「聞いたこと……あります。これ、殺精子剤っていって、精子を殺す作用がある
んでしょう?」
「そうだ。……もっとも、俺のは薄いらしいけどな」
「え?」
「女を孕ませる可能性が低いらしいんだよ。原因はよくわからないけどな」
「そう…………」
なんて答えたらいいのか、わからない。
もしも将来、結婚でもする時に苦労するだろうに…美香はぼんやり思った。
「入れてやろうか?」
黒澤は、美香を寝かせて足を開かせた。
「奥まで入れないと、いけないんだぜ。……自分で入れてみるか?」

美香は羞恥心でいっぱいになった。
最初に犯された時に、オナニーを強要されて従ったことがあったが、あの時に
匹敵するほどの恥の感覚が美香を責める。
「……カーテンを、閉めて……」
美香はそれだけ、ようやく言った。
黒澤が全裸の逞しい身体を隠そうともせず、窓辺の花柄のカーテンを閉めた。
「カーテンは、花柄じゃない方がいいぞ。チェックとか、男が好みそうな柄に
するといい。これじゃいかにも女性が住んでいます、と主張してるものだからな」
職業柄の防犯意識をひとくさり講釈する。
人がいいのか、悪いのか……
美香は苦笑したいような複雑な思いで、ベッドに膝立ちになった。

美香が、それを持って自分で挿入しようとするところを、黒澤の目がじっと
見つめている。
男にとっては、下手な前戯よりも興奮を誘う光景だろう。
女が自分で、膣内に異物を挿入しようというのだから、女のオナニーを見ている
感覚と酷似するに違いない。
「……恥ずかしい……見ないで……」
美香はか細い声でそう言いながら、自分の指先に乗せた丸い錠剤を入れていく。
子宮口にそれが突き当たる感覚を知ると、ゆっくりと指を引き抜いた。
まもなく、膣の奥でそれが泡だっていくような感じが伝わる。
「女は、熱く感じるらしいな。5分もすれば溶けるらしい。……もっとも、あんなに
中がとろとろになってたら、溶けるのも早いらしいけどな……」
黒澤はにやりと笑って、美香の乳房に唇をつける。

「あ……あ……ん……」
指先で、敏感な乳首の先を何度も何度もつままれ、こすられる。
舌がぬるぬると乳房の間を這い、唾液が塗りつけられる。
美香の弱点である、脇の下、首と肩、そして背中、腰、わき腹……
次々と責めを加えられて、美香は絶えず喘ぎ続けていた。
なんて、こんなにも感じることができるのか……
かつての恋人たちは、美香に限らず女の感じる部分、秘所と乳房ばかりを
責めてきた。
それが間違っているわけではない。けれど、根本的にこの男とは違う。
本質的に、黒澤という男は女がよがるのを見るのが好きなんだろう、と思った。
そうでなければ、これほどに時間をかけて、自分は射精もしないで、美香の
身悶えする姿を見ているだけで済む筈がない。

「そろそろ、いい頃合いかな……」
とうに5分以上はよがり狂わされた美香は、膣奥から熱っぽい液体が分泌されて
いくのを感じていた。
正常位のままで、美香の足だけをぐっと広げさせ、膝を立てさせる。
熱く濡れている男のものは、もう迸る上澄みの液体で鈍く光っていた。
美香の股間も、まるで蜂蜜をこぼしたかのように粘っこく濡れている。
そのまま、ゆっくりとこすられる。
先でつつかれて、美香は興奮しきって顔を反らして左右に振った。
決して拒む動作ではない。
やっと迎え入れることができる歓喜のあまり、息も荒くなっている。
「我慢してたからな……あまり保たないかもしれない。それでもいいか?」
そんなことを告げる黒澤に、美香はうなずく。

やがて、それはゆっくりと美香の柔らかい部分を開いて、押し入ってくる……

「あ……!ああっ、あ……」
美香は自然と声を放ってしまう。
美香の焦らされきった、熟した内部が黒澤の“男”を締め付ける。
Gスポットをこすり、ゆっくりと奥まで突き、膣奥の熱した部分にまで突かれると
意志とは無関係に、勝手に収縮をしてしまうのがわかる。
感じまい、と思ったところで無駄だろう。
膣のほんの入り口、感じやすい部分を先太のものが浅くつつく。
「あ、ああ〜〜っ……は、あ〜〜ん……」
生々しい声をあげて、黒澤を抱きしめて、しがみつく。
それほどの快楽の強さが、美香の理性を奪い去っていく。
こんなにも感じていくことができるなら、どうなってもいい……
危険な思いが脳裏をかすめる。
黒澤との愛欲のみに溺れていくのも、かまわない。

黒澤も、さすがに耐えに耐えてきたせいか、美香の膣内の圧搾に、こらえきれ
ない淫らな声を漏らしている。
この男が、挿入まもなく呻き声をあげるなんて、今までにはなかった。
そのことに驚きながらも、美香は快楽を追う動きに夢中になっていく。
「ああ……あっ……あ……ああん……」
美香の喉の奥からも、黒澤の動きのリズムに合わせて自然と声が出ていって
しまう。
「ああん……あ。凄い……熱い。熱くて……固いの。凄い……あ……」
うわごとのように、それでも黒澤を賞賛する言葉を繰り返す。
「……おまえも……凄いぜ。俺のを、締め付けて離さない。こんなに、熱く
なってる……濡れ濡れになってるのに、きついくらいだ……」
呻き混じりに、美香の内部について露骨な感想を告げる。

「ねえ……あ……。もっと、動いて……。もっと、激しくして……ああ……」
美香は自分から、そんな卑猥な要求を口にしてしまう。
腰と腰とが、腿と腿とがぶつかりあい、小さな音を立てる。
美香の腕はもう黒澤の首には、巻きついたおらず、肩口に手をかけている。
黒澤もまた、逃がさない、と言わんばかりに美香の腰椎の下に手を入れて掴む。
「もっと、突いてほしいのか?」
美香の潤んだ瞳を見つめる黒澤の目も、情欲で底光りしている。
「そう……よ。ああ……そう……。あ、ああ……」
黒澤の抽送が速度を増し、美香は激しく息を乱しはじめた。
口許に自分の手を近づけて、美香は目を閉じて悶えている。
「ああ……あっ……いきそう……。あなたも、あなたも……きて……」
震える声でそう言うのがやっとだった。

もう、頭がかすんで……気が、遠くなりかけていく。
そのくせ、黒澤の逞しいものを収めている女の部分だけは、勝手に脈動して
さらなる快感を求めようと、貪欲に蠢いている。
はじめて、生まれてはじめての男性からの膣内射精を受ける。
そのことが、異常なほど美香と黒澤の、互いの快楽を昂進させている。
焦らされきっていることも、高ぶりを呼ぶ一因だった。
「……出すぞ。おまえの中に……。美香。おまえの中に、俺のザーメン
ぶちまけてやるからな。いいか。それがそんなにいいのか。
そんなに感じるのか……!ほら!いくぜ!」
黒澤の声も、切迫してうわずっていく。
美香はそんな彼の言葉に後押しされるように、一足先に絶頂に押し上げられて
いってしまう。

「ああっ……あ!」
耐えられずに、黒澤も大きく喘ぐ。
熱い、熱いものが美香の奥でどっと溢れていくのを感じる。
はじめての感覚……
長く、長くかかって、幾度も脈打ち、奥に注ぎ込まれてくる。
子宮に届けと言わんばかりの勢いで、激しく放出が続く。
黒澤の肉体と一体になっているような、迎え入れている部分が燃えているような
気にもなる。
バターを溶かしたものが中に満ちているような気がする。
少しでも腰を振ったら、こぼれて、あふれ出てしまいそうなおそれも感じる……
それでも、初めての膣内射精の経験がもたらす異質な快感が、美香のマゾの
素質に大きく影響していくような気持ちになる。
彼女の意識は、また少し現実を離れていってしまう…………



気がつくと、既に黒澤は美香の身体から離れていた。
美香の腰の下に、真新しいバスタオルが敷かれている。
男の精液の、独特のムッとする匂いが身体にまとわりついている。
でも、不快な気分はしない。むしろ、けだるい感覚に包まれている今は
この状況が心地よくも感じる。
強く激しい抽送を繰り返されていたせいで、入り口が広がってしまったような
錯覚にも陥る。


黒澤は、美香の目が覚めるのを待って横に寄り添っていた。
美香の目を覗き込むように、薄く笑いながら問いかける。
「中に直接出されたのも、もちろん初めてなんだろう?」
美香は答えず、ゆっくりとうなずいた。
そういえば、黒澤はこれが初めてではなく、真剣につきあった女性とは何度か
あったと、さっき言っていた。
今まで至福の時を過ごしていた筈なのに、また醜い嫉妬心が頭をもちあげて
くる。

「どんな感じだったんだ?」
「……どんな、って……」
本当は、さまざまなことを感じていた。
それを言葉で伝えることが恥ずかしい。
その時に、美香の膣内からどろりとした粘液がこぼれてくる感触があった。
「あ…………」
それはあっというまに太ももを伝い、黒澤が敷いてくれたタオルに落ちていく。
そうなることを知っていたからこそ、黒澤が気を利かせてベッドが汚れない
ようにしてくれたのだろう。
嬉しいと思う反面、そのことを熟知している黒澤の経験の深さが、美香の
心の奥に小さな引っかかりを作る。

激しいセックスや、繰り返す自慰のあとに愛液が出てくるのとは、また
違ったどろどろとした、粘ついた感覚だった。
まだ少し、奥の方からこぼれてくるのがわかる。
小さな、でも卑猥な音を立てて、黒澤がしたたかに注ぎ込んだ、男の分身
ともいうべきものが腿を伝う。
「これで、おまえは俺の女だ」
黒澤は、低く、それでもはっきりとそう告げた。

「おまえは、俺のものなんだ。他の男には、目もくれるな。俺だけのものだ。
おまえを追い回しているのが男なら、俺は容赦しない」
ゆっくりと、刻むように美香の目を見据えてそう言う。
その言葉の続きを想像するのが恐くなって、美香は身体を震わせた。
自分が、大きな猛禽に捕らわれた小さな小鳥のようにひ弱な存在に思える。
捕食されるのも、弄ばれるのも、黒澤の意志ひとつ。
それでも、この男にすがるしかない。
他の男のことなど、実際に考えもつかないほどだった。

美香は自然と膣口にタオルを当てて、こぼれ落ちてくるものを拭った。
不思議な感覚だけれど、「男に支配される」というこの状態が、美香の
被征服感を満たし、肉体的にも精神的にも充足感が訪れている。

美香は暫く動けずにいる。
動いたら、残りの精液が出てきてしまわないかと心配もある。
「シャワー、浴びるか?」
黒澤に声をかけられて、やっと腰をおそるおそる持ち上げていく。
「垂れてくるのが、いやなのか?」
それでも、どうしてもいやというわけでもない。
「慣れてないから…どうしたらいいのか、わからないの」
「自然に外に出てくるさ。もう、ほとんどがこぼれてきただろう」
美香の太ももに残る、色白の肌よりももっと白い粘液の痕跡。
ほんとうに、『ものにされた』という自覚を否応なく促す。

いつものように、横抱きにされてシャワーを浴びる。
陽光の強さと、浴室の時計から、もう昼過ぎだと知って驚く。
今日こそは、もうこれから抱かれることもないだろう。
一昨日の夜、正確には金曜の夕方から、今に至るまで何度交わったことか。
美香は文字通り、気が狂いそうになるほど、イキまくった。
きっとまた、これからこのことを思い出して自慰に及んでしまう。
そんなことを考えている自分の欲望の強さに、今更ながら呆れる思いもする。

シャワーを浴び終えると、美香は重い体をベッドに横たえた。
黒澤が、思い出したように電話を見る。
「今日は、何も入っていないな」
美香はそう言われて、はじめて電話のことを思い至った。
「きのう、おまえの声を聞けて満足したんじゃないか?」
美香に向かって、声をひそめて言う。
「俺にこんなことをされてるとは、夢にも思っちゃいないだろうがな」
美香は恥辱に顔から火が出る思いだった。
「男性と限ったわけじゃ、ないでしょう!」
「いや……こういうのは、男だと思うぜ。女で嫌がらせをするなら、もっとしつこく
続くはずだ」
「それも、これまでの経験上から?」
「ああ、そうだ。カンもあるがな」
きっぱりと言ってのける黒澤の顔は、自分の仕事に自信を持つ大人の男の
顔だった。

「疲れただろう。……ゆっくり休めよ」
そう言いながら、黒澤はワイシャツを身につける。
「……帰るの?」
美香はすがりつくような表情で彼を見つめた。
「いや、まだ帰らないさ。なにか食べるものを買ってきてやるよ。近所に
コンビニとかスーパーがあっただろう。俺の着替えも買いたいしな。おまえは
まだ横になってろよ」
あからさまにほっとしている美香の頬を撫でると、黒澤は軽く口づけて出て
いった。
別な部屋着、今度は可愛らしいセーターとロングスカートに着替える。
明るい光の中で、彼が外に出ていくのを窓から見つめる。
同棲しているカップルのようで、なんだか照れくさい。

美香はしばらく横になっているうちに、うとうととまどろむ。
今は充実感でいっぱいで、昨夜までの不安感は拭い去られている。
このまま、セックスに溺れていけるのもある種幸せといえるのかもしれない。
それが一時しのぎのものであっても、この先続けていけたならそれでいい。


美香の部屋のインターホンが鳴る。
「俺だ、黒澤だよ。鍵借りるの忘れてたよ」
美香は跳ね起きて、オートロック解除ボタンを押す。
やがてドアホンが鳴り、ドアスコープから黒澤の姿を確認して中へ引き入れる。
「ドジったよ。こんなことは滅多にないんだがな」
苦笑する黒澤に、美香の顔もほころぶ。
大手スーパーの袋を持っている黒澤の姿を見ていて、なぜか笑ってしまう。
「何笑ってるんだ?」
黒澤が訝しげに美香のおかしそうに笑う顔を見つめている。
「だって……黒澤さん、そういうの似合わないんだもの」
「そういうのって、どういうことだよ?」
「だから……スーパーとかで買い物して、袋ぶら下げてるとことか」
「あのなあ……」
黒澤も、美香の顔を呆れたように見ている。

「俺はじゃあ何か、いつもデパートとかでむっつりして高級品選んで、全部
外食で済ませていろってのかよ?生憎だけど、買い物とかは好きなんだよ。
イメージが壊れたか?」
「ううん……」
美香は、まだくすくす笑いを止められない。
「まったく、いつでもニヒルな探偵なんて気取ってられないぜ。四六時中張り
つめてちゃおかしくなっちまう。女ってのは、すぐ勝手なイメージ作って、人に
おっかぶせるのが好きだよな」
そんな文句を言っている彼を見ていて、まだ笑いがこみあげてくる。
黒澤が買ってきたものを床に広げるのを手伝う。
そういう、時々のぞかせる素の黒澤の顔も美香は好きだった。
それだからこそ、好意を示して、応じることもできた。

黒澤は、着ているシャツを脱ぐと、青のストライプのシャツを袋から出して
着替える。
「いつも、下着を着ないで直接着るの?」
美香は不思議な思いでそう尋ねた。
「ああ。この方がスマートでいいと思ってな」
「もっと、これから寒くなっても?」
「2月くらいになれば、さすがに下に着るよ。それに張り込みとかで深夜とか
着込むこともあるし」
スーツを脱いで、新しく買ったスラックスに履き替える。
「あとで、スーツにアイロンかけた方がいいかも…さすがに皺になってるわ」
「ああ、アイロンと台を貸してもらえたら、自分でやるよ」
そう言われて美香は少々驚く。
「下手な女にかけてもらうくらいなら、俺が自分でやった方がよほど手早く
うまくできる。伊達に独身が長い訳じゃないんだぜ」

自慢げに語る黒澤を、美香は感心しながら相づちをうった。
「なんでもできるのね」
美香は溜息をつく。
「小器用なくらいじゃないと、この仕事やっていけないからな」
言いながら、寿司や弁当の類を出す。
「飯も作ってやりたいとこだけど、腹が減ってるだろうから、すぐ食えるものを
買ってきた」
「ありがとう……」
テレビの前の木のテーブルにそれらを並べて、二人で遅い昼食をとる。

「お仕事のほうは、いいの?」
美香はおそるおそる聞いてみた。
「夜から張り込みが入ってるんだ。浮気調査のな。だから夕方にはここを
出てマンションに車を置く。事務所のマーチに乗り換えなきゃならない」
「事務所ではマーチなの?」
そう聞いて、ボルボとのギャップに驚く。
「ああ。ありふれてるし、警戒されなくて済む。俺がボルボを仕事で使うって
言ったか?……左ハンドルのS60なんて目立ちすぎるだろう。あれは俺の
私有車だよ」
黒澤のことを知るのが、今はとても楽しい時間になる。
もっと知りたい。仕事のことも、趣味のこと、そのほかのいろいろなこと。
聞けば聞くほど、意外な面が現れてくる。
意外に堅実だったり、慎重だったり、器用だったりと、そのたびに美香は
振り回されて、しかもそれは不快ではない。

硬質なイメージの中の素顔は、美香の思うところ以上に好感を持てる
ものだった。
黒澤は食事を終えて、美香が片づけをしている間ベッドに横たわって
いたが、美香にアイロンとアイロン台を出してくれるように言う。
「霧吹きあるか?」
「あるけど……アイロンのスチームじゃ、駄目なんですか?」
「霧吹きの方が、手早くスムーズに出来るんだよ。悪いけど、水入れて持って
来てくれ」
美香が言う通りにすると、スラックスを台に固定して、足元からピシッと
折り目に沿ってかけていく。
手つきがいいし、相当慣れているようだった。
美香は感心しきりながら、仕上がった見事なスラックスを丁寧にハンガーに
掛ける。
手早く上着もきちんとかけ終わると、上下揃って皺ひとつない出来になる。

美香は「いつでもお嫁に行けるわね」と冗談を言う。
黒澤はくっと笑って、美香に答える。
「おまえより上手いだろう?」
「私だって、父や兄のスーツにアイロン掛けてたから、上手ですよ」
「じゃあ、今度は頼むよ」
ベッドに上がると、美香を抱き寄せながら軽くキスをする。
「夕方の……そうだな、5時に目覚ましをかけてくれるか?悪いけど、少し
眠らせてくれ」
「5時でいいのね?」
「ああ。頼む」
今は午後3時になろうとしているから、2時間は眠れる。
美香は目覚ましをかけると、すぐに静かな寝息を立てる黒澤に寄り添う形で
目を閉じる。
なにもしないで、ただ眠るだけ……なんだかとても、贅沢な時間を過ごして
いる……そんな風に思える。


目覚ましのけたたましい音が、美香と黒澤の眠りを破る。
すぐに黒澤は上体を起こして、ベッドにあぐらをかく。
大きく伸びをすると、洗面所に顔を洗いに行く。
美香はまだ眠かったけれど、彼を見送りたいので無理に起きる。
けだるく髪をかきあげると、せつなげな目で彼を見る。
「眠そうだな。寝てていいんだぜ」
黒澤はスーツに着替え、ネクタイを結ぶ。
「寝ていたら、その間に行くの?……置いて行かれるのは、いやなの」
黒澤は美香の心細げな様子を見て、笑ってみせる。
「かわいいこと言うんだな。……そんな顔するなよ。帰りたくなくなっちまうよ」
優しい口調でそう言う彼を見ていて、美香の胸はぐっと詰まってしまう。
「……そんなこと、言わないで……」
涙が出てきてしまいそうになる。

「……そうか。彼氏が海外に行くからって、置いてかれたんだったな。
悪かったな……」
美香がこらえきれずにうつむいて涙をこぼすのを見て、抱きしめてくれる。
「泣くな、って言う男も多いけどな……辛いときや、悲しい時には思いっきり
泣けばいいと俺は思うよ。泣ける時に泣いて、涙が枯れても、苦しくなっても
泣けばいい。そうでないと、感情がどっかで壊れちまう」
そんな黒澤の言葉が胸に沁みて、もっと涙が溢れてきてしまう。
この人は、泣くべき時に泣けなくて、辛い思いをしたんだろうか。
この言葉は、美香に言うと同時に彼自身に言っているのじゃないか。
強く強く、力をこめて、美香のほっそりとした身体を抱きしめられる。
「苦しい……」
美香は喘ぐようにそう言うと、黒澤は抱く腕の力を緩めた。
そして彼女をあやすように、身体を上に持ち上げる。
「やっ……」

美香は不意にそうされて、驚きで涙も止まる。
「軽いな……40sあるのか?俺の半分、あるか?」
「あります……45s」
「じゃあ、半分以上だ。でも俺は、おまえの倍以上持ち上げられるぜ」
「えっ?」
美香はきょとんとして聞き返した。
「ベンチプレスでだよ。100sはいける。もっとも、ここひと月はスポクラも
行ってないけどな」
「スポクラ?」
「スポーツクラブ。ハイグレのお姉さんを見に」
にっと笑って、美香を下に下ろす。
「行くか?今度。そしたら護身術も、約束通り教えてやるよ」
「ええ、じゃあ今度はお願いするわ」
「来週以後の平日でよければ行けるぜ。暇ができたらな。もっとも、その後には
セックスしてる暇はないだろうけど」
あからさまなことを言う黒澤に、美香はかあっと顔が熱くなる。

「じゃあ、そろそろ行くぜ」
美香の顔を撫でてそう言う。
「待って。外まで行って見送るわ」
「ああ。車まで一緒に来いよ。鍵は忘れずにな」
笑う黒澤に「私は鍵忘れて締め出されたことなんて、ありませんもの」
と冗談めかして言ってみせる。
エレベーターを下りて、マンションから一分ほどしか離れていない立体
駐車場に向かう。
ボルボの運転席に座る黒澤が「何かあったら、俺の携帯か、八巻の
携帯に電話しろよ。事務所は留守がちだから、携帯の方が早い」
八巻の携帯だという番号を名刺に書いて渡される。
「ありがとう……」
「じゃあ、またな。金曜は無理だけど、その後に電話入れる」
「ええ。じゃ、気をつけて」
駐車場を出る黒澤のボルボを見つめていると辛くなりそうなので、美香は足早に
中に引っ込む。

部屋に戻ると泣いてしまいそうになるけれど、ぐっとこらえる。
そういえば、彼は白のワイシャツを忘れて行った。
洗ってしまうと、彼のぬくもりが消えてしまいそうで、余計せつなくなりそうだ。
美香は深く溜息をつくと、黒澤が買ってきてくれたものを食べて、早々に
眠ることにする。
疲労感から、美香はあっというまに泥のような眠りに落ちることに成功する。

翌朝、美香は多少なりとも元気を取り戻すことができた。
黒澤から携帯にメールが来ていた。
他愛のないことだけど、「張り込みで底冷えがした。遠赤外線の肌着を着た」
という内容だった。
思わずくすりと笑ってしまう。
勤務中も、平常通りに過ごすことができた。
いつも通りになにごともなく、一日が終わろうとしていた。


帰宅すると、郵便受けに見慣れない荷物が入っていた。
四角く平たいもので、宛名も差出人も美香の名前と住所、電話番号が
記されている。
こんな荷物を自分に宛てて出した覚えはないし、貰うような心当たりもない。
大きさや重さからすると、ビデオテープか本のようなものに思える。
美香は服を脱ぐと、荷物の中身を出してみる。
やはりビデオテープだった。
市販されているプロ用のもので、茶色と黒のツートンになっている。
でも内容のタイトルを示すシールやステッカーもついていない。
内容を確認しようとデッキに挿入しようとして、はたと思い出す。
この前、ビデオテープをヘッドに絡ませて駄目にしてしまったことを。
そして取りきれずに、まだテープが絡まったままの状態で放置されている。
仕方なく、中身を見ることもせずに諦めようかと思うが、やはり気になる。

時刻は、夜の9時になろうとしている。
実家に行くには気が引ける時間だし、友達の家にビデオを見せてくれと
言って押し掛けるのも、妙に感じる。
少し考えた挙げ句、黒澤にメールを打つことにする。
すぐに返事が来た。
今は自宅にいるから、車で迎えに来てやると。

ビデオテープを持って待っていると、黒澤のボルボが立体駐車場の前に
やってきた。
美香は念のために、少し洒落た下着に着替え、セーターとスカートの格好を
していた。
「デッキの方を見てやるよ。バカだな、なんで昨日言わなかった?言えば
その場で修理してやったのに」
バカだといきなり言われたことに少しムッとする。
「だって、昨日は……」
昨日の今日で会えたことに嬉しさがあったのに、そんなことを言われて少し
凹む。
黒澤は、今夜はセーターとブルージーンズのラフな格好だった。
「悪かったよ。口が悪くてな。じゃ、見てやるよ」

工具箱を側に置くと、デッキにからまっているテープを取る。
「このテープは諦めろよ。無理に見ようとすると、また同じことになるからな」
ヘッドにクリーナーを差して、クリーニングテープをかける。
「ほら、直ったぞ。試しに、駄目になっても惜しくないテープかけてみろよ」
言われて、重ね撮りしまくって消耗したテープをかける。
「大丈夫だな」
テープが無事に走行することを確認して、黒澤が言った。
「じゃ、それをかけてみろよ」
届いたタイトルのないテープを再生させてみる。
なかなか始まらない。
素人が撮ったのか、画面が少しちらついている。
やがてそこに映ったものは、美香を激しく驚愕させた。




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