Virgin break7 喪失
私が髪を乾かしていると、彼がシャワーを終えて出てきた。
なんとなく、私も彼も口数が少なくなってしまう。
身体が離れてしまうと、二人の間に広がる空間を、少しの距離を
感じる。
まもなく食事が運ばれてきて、室内にあるテーブルセットの上に
料理が置かれる。
食前酒で乾杯を交わして、二人で食事を始める。
そうしているうちに、心地よいワインの酔いが私を少しずつだけど
リラックスさせていくのがわかった。
なんというか、少し頭がぼやけていくような……素面の時のように
ものごとが細かく考えられない状態、とでもいうのか。
酔ってしまいたくて、それでも飲み過ぎないように杯を重ねる。
酔いすぎたらいけない、抱いてもらえなくなってしまう。
やがて、アルコールが私の身体の奥深くを柔らかく溶かしていく。
頭がふわふわとしていくような、頼りない浮遊感覚。
それとは逆に、腰から下が重く感じていく。
何故か今、身体に触れられてもいないのにひどく疼く。
今下着の奥を彼に探られたら、きっと驚くほど濡れているのに
気づかれてしまう。
適度なアルコールは媚薬のようなものだというけど、まるで本当に
そんな作用があるみたいだった。
今……今、抱きしめてほしい。
そんな思いをこめて彼を見つめる。
黙ったまま、彼の黒く深い瞳を。
彼が近寄ってくる……
顎を上向かされて、軽いキス。
そして次には身体をぎゅっと抱きしめられて、唇を貪るような情熱的な
キスをされる。
嬉しい……
早く触って、私の身体のどこでも。
あなたの好きなところを、好きなようにして。
でも……お願い、優しくしてね……
抱き上げられて、ベッドの上に運ばれる。
少しだけ怖い思いが頭の隅にあったけれど、そんなふうに考える隙間も
ないほどの彼の愛撫が始まった。
着ている服を、ニットもスカートも脱がされる。
下着姿になったところで、彼が部屋の照明を落としてくれる。
枕元の小さな絞った明かりさえなければ、室内はほとんど暗闇に
近くなった。
彼が、着ている服を脱いでいく。
それをまともに見ることは恥ずかしくてできないけれど、でもやっぱり
彼の身体を見たくて薄目を開けてみた。
彼が鍛えた身体をしていることは、すぐわかった。
長身に、広い肩幅……私がすがりついても、しっかりと支えてくれる
逞しい腕、抱きしめられるとわかる厚い胸板。
鋼のような……というと大袈裟だけど、でも空手の修練で鍛え上げた
筋肉質な体つきをしているのがわかった。
よくK1やプロレスなどで見るような、筋肉でパンパンで、かえって
不自然にグロテスクな男性の裸体とも違う。
彼が最後の一枚を脱ぐと、私の目の隅に彼のあれが……男性器が
目に映った。
それは、予備知識で“天を衝くように”だとか、“臍まで反り返る”とか
いう表現で知っていたけれど……
彼のものは、まさしくそんな表現が相応しかった。
実際に、ちらっと見ただけでもかなりショッキングなものだった。
あんなになっているものなんだ……
それだけ、私を欲しがってくれているんだ。
でも、あんなものが私の身体に入ってくるの?
短い間に、さまざまな思いが私の中で交錯する。
恥ずかしくて、身体に巻きつけていた布団を彼がはぐる。
彼と素肌のまま、抱き合う……
ああ、彼の身体、すごく温かい。
私の乳房が、彼の胸に押しつぶされる。
彼の首に腕を回して、強く強く抱きしめる。
彼の手が、私の身体に残されたショーツにのびる。
これで全裸になってしまう。
男性の眼に、裸を晒すのはこれが初めて……
ゆっくりと、彼の手が私のお尻の方から布の下に入りこむ。
そのまま私は少し腰を浮かせて、彼が脱がせやすいようにした。
きっとショーツの中心は、私が濡らしてしまってたはず。
それを彼にももう見られた。
そんなことを思っていると、私もかなりの興奮状態にあって、息が
もう乱れかけている。
私にとってはなにもかも初めてのことで、興奮するなというのが無理だ。
抱きしめられ、両手で乳房を揉みしだかれる。
それだけで私はずっと喘いでいた。
乳首の先を吸われると、「ああ!」と高い声が出てしまう。
「きれいな肌、してるね……」
彼が私の耳にそう囁いた。
「触ってると、すべすべしてる。すごくきれいだ」
「ほんと?……ありがとう……」
私はなんて返したらいいのかわからなくて、でも嬉しくてたまらなかった。
そんなことを言われたことなかったから。
彼の唇が私の胸を柔らかく、幾度も吸い続ける。
唇の湿った音が淫らに響き、そのたびに私の吐息が弾んでいく。
たまらなく感じていって、もう溢れそうなほど濡れていくのがわかる。
彼の長い手指が私の胸元を、脇腹を、ウエストのくびれを這いまわる。
素肌に伝わるその感触が、私の誰にも触れさせたことのない部分を
とめどなく潤ませ、歓喜の雫をこぼれさせる。
今私の耳に聞こえている淫らな声は、誰のもの?
私自身が出しているの?
聞いたこともないような女の声……
好きな男性と肌を合わせている歓びが、私の中の女の本能がそう
させている。
彼の顔が、だんだん胸元から腹部に降りてくる。
脇腹にキスされると、くすぐったさと同時に腰が痺れるような快感が
襲い、私に小さく叫ばせた。
そして彼の手が、私の秘部に触れる。
「すごいよ……」
彼はくすりと笑った。
「すごく濡れてる。愛美のここ……」
恥辱で顔が熱く火照る。
「欲しいって言ってるね。俺が欲しい、って」
彼がどうして、そんなことをわざわざ口に出して言うのかがわからなかった。
ただ恥ずかしくて、いたたまれない……できるものなら身をよじって隠して
しまいたかった。
そうよ、欲しいのよ。あなたが欲しいの。
あなたのものにして欲しいのよ。
好きよ、好きなの。
もうどうしようもないほど、あなたが好きでたまらない!
だから、抱いてほしいの。
私を見つめて、私を感じて。
あなたのものだって身体に刻んでほしい。
私を奪って、あなたの腕の中で、あなたの女にして。
お願い……
指でクリトリスをいじられ、優しく上下にこすられる。
彼の指が私の愛液で滑って、それも私の性感をいっそう刺激していく。
「あ……ああ……んっ……」
腰に、お尻に、足の先にまで力が入る。
もっと感じたくて、気持ちよくなりたくて。
自分でときどきしている指の遊びとは違う。
彼の手でイかされるということが、恥ずかしい……
でも、羞恥心も消しとぶほどの激しい快楽が私を乱れさせる。
灼熱感が襲い、私の目の前も紅く弾ける。
「ああ…………!!」
クリトリスに与えられる快感が頂点に達した。
あそこが勝手に蠢き、極度の興奮と快感で全身に汗が噴き出る。
呼吸が苦しくて、私は酸欠になった魚のように喘いだ。
ベッドの上で起きていることが、現実ではないような錯覚を起こし
かける。
頭がくらくらする……
めまいに似たような感覚の中で、私はそのまま息を乱しながら
横たわっていた。
彼が、私の力を失って投げ出された脚を掴む。
そのまま両脚を左右に広げさせられる。
彼の顔が私の脚の間に入って来ようとしていた。
私は慌てた。
「いや!」
手で秘所を覆い、彼から逃れる。
それだけは恥ずかしくて嫌だった。
そこを見られてしまうのはともかく、彼の狙いは私のそこを舐めること
……いわゆるクンニリングスだということに気づいたから。
「恥ずかしい?」
彼が訊いてくる。
恥ずかしいに決まってる。
私は黙ってうなずいた。
舐められてしまうなんて、今はどうしても嫌だ。
欲しいのなら、せめて何度か抱いたあとにして。
彼の指が、浅く私のそこにもぐりこんで来た。
「あ…………」
ビクッ、と身体が震える。
濡れているそこは、前と同じに彼の指を受け容れる。
痛みは感じず、ゆっくり、少しずつ入りこんでくる。
「どう?痛い?」
「ううん……痛くないです」
私は首を振った。
イった直後の余韻が残るそこに、彼の指が入っている……
そして、今度はそこに彼のものが……。
彼は指を引き抜くと、身を起こした。
枕元に置いてある箱を開けると、コンドームを着けている。
避妊してくれるのを知ってほっとすると同時に、今度は少しの
不安な気持ちになる。
いよいよ来るんだ……
彼とひとつになる時が。
胸がぎゅっと締めつけられるような処女を失うせつなさと、彼を求める
気持ちが複雑に胸に渦巻く。
彼が私を抱きしめ、私の唇を割って舌が入りこんでくる。
彼の身体も熱く感じる……
「好きだよ……愛美」
唇を耳につけて囁かれる。
嬉しさが胸にじんと沁みて、心を暖かく満たしてくれた。
「私も……好きよ」
優しいキスが何度も繰り返され、そして彼の手が私の秘所へのびた。
「膝を立てて、開いて」
私は彼の言う通りにした。
彼が私の脚の間に、腰を入れる。
火傷しそうなほど熱いものが、私の女の部分に触れた。
「力を抜いて。息を、ゆっくり吐いて……」
そうしようと思っても、唇が、腰が震えてしまってうまくできない。
「……愛してるよ……愛美」
雷が身体の中を走り抜けたような衝撃。
たった今かけられた言葉を、頭の中で幾度も反芻する。
愛してる、って初めて言ってくれた。
身体に震えが走るほど、産毛が逆立つほど、嬉しい……
彼にぎゅうっと抱きつく。彼の耳元に唇をつけて囁き返す。
「わたしも……あ……いしてる……」
感極まっているせいか、声がうわずって、とぎれとぎれにそう言うだけが
精一杯だった。
目の端に涙が浮かんでくるのがわかった。
私はその瞬間、全身の力がすうっと抜けていくような気がした。
熱く固いものが、私の身体の中心を押し開いていく。
指とはまるで違う容積のものが侵入する異質な感覚に、痛みが混じる。
閉じていた部分がこじ開けられる痛みが、だんだんと強くなる。
思わず息を止めて、苦鳴を洩らすまいとして唇をぎゅっと噛みしめる。
彼の背中に回した腕にも、自然と力がこもる。
今、どれくらい入っているんだろう……
指で済んでいた時には考えもつかなかった、身体を裂かれるような苦痛。
ひきつるような痛みが、私に喉にこもった呻きを出させる。
今までに味わったことのない種類の痛みに、私は戸惑いを隠せなかった。
前戯まではあんなにも気持ちよかったのに……
指とは比べものにならない圧迫感に、これまでの愛撫の快さも帳消しに
思えてしまう。
痛い、と叫んで逃れてしまいたい。
でも……彼を受け容れたい。
その一心で、私は初めて味わう破瓜の痛みを懸命にこらえた。
ペッティングの段階ではとても気持ちよかったのに……
こんなことも、何度か繰り返せば気持ちよくなれるんだろうか。
信じられない。
ただもう、できるだけ早く終わって欲しい……
入れないで身体の接触だけをしていたらいいのに。
呼吸をするだけで痛みを呼び起こされる気がして、息をつめて、無限とも
思える時間を過ごした。
「奥まで入ったよ」
彼の声で、はっと現実に帰った。
動かないままで抱きしめあうと、少し痛みが薄れたような気になる。
「ほら……今、繋がってる。愛美の中に入ってるよ」
彼の言葉を聞いた瞬間、心の中にぱあっと幸福感が訪れてくる……
そうだ、セックスって即物的な快楽を追うだけじゃない。
繋がっていたいんだ、大好きな人と。
そばにいて、ふれあって、体温を感じて、ひとつになりたいんだ。
彼がキスしてくれる。
この気持ちを、なんて表現したらいいのかわからない。
悲しいわけじゃなく、嬉しくてたまらないのに何故か涙が出てきそうになる。
苦しいほどの充足感が、心にも体のすみずみにも広がっていった。
「動くよ……」
彼がゆっくりと腰を動かすと、途端に痛みが蘇った。
彼の吐息も乱れている。
「……痛い?もうじきだから……」
ああ、もうすぐ終わるんだ……
私はもう、処女じゃない……
彼に抱かれて、隙間なく埋めつくされて、満たされたんだ……
耐えがたいと思っていた苦痛も、もうそれが終わると思った途端に
愛おしいものにさえ変わる。
「イクよ……愛美」
彼は大きく溜息をついて、もう動くのをやめて私を抱きしめた。
そして彼は私の上に突っ伏す。
暫くの間、黙ったまま、私たちはそうして繋がっていた。
やがて彼が、私を埋めていたものを抜いた。
押し広げられていた部分が、じんじんする疼痛に見舞われた。
いつまでもふさがらない傷口のような、というか湿った痛み。
彼は後始末を終えると、私にキスしてきた。
二人で顔を見合わせると、照れくさいけどくすぐったい気持ちに
なって、思わずお互いに微笑んでしまう。
「シャワー、浴びようか……」
「ええ……先、入ってて」
私はトイレに行きたかった。
出血していると思って、それを確かめてみたかった。
少しだけ、血が出ていたようだった。
私はもう処女じゃない……
それでも、彼に抱いてもらえた嬉しさで頬が緩んでしまう。
大人の女、というものになれたような気分。
なによりも好きな人と結ばれた、という歓びと満足感があった。
彼がシャワーを浴びているところに、私もそっとドアを開けて入った。
明るいところで身体を見せるのも、今ならできそうだった。
抱きあうと、キスされる。
「洗ってあげるよ」
彼がボディソープを泡立てて、私の身体に塗ってきた。
ぬるぬる滑る彼の手が、くすぐったい。
「やだ……くすぐったい。やめて……」
私は笑いながら言った。
「じゃあ、俺の身体も洗って」
「はい。後ろ向いて」
彼が立ったままで私に背中を向けた。
その広い背中に白い泡を塗りたくり、そしてシャワーで落とす。
「前も洗って」
彼がこっちの方に向き直る。
私ははっとした。
彼のものが、もう大きくなっているのに気づいたから……
しかもそれを明るいところで、まともに直視してしまったから。
すぐに眼を逸らしても、吸い寄せられるようにそこに視線を走らせて
しまう。
「ここも洗ってくれる?」
彼は笑いながら言った。
私が恥ずかしくてうつむいてしまっても、からかうようにそう言う。
彼が私の手をとって囁いた。
「……愛美が可愛いから、こうなるんだよ。触ってごらん」
私は彼に手を握られたまま、彼の股間にその手を導かれた。
熱い、それに固いものが手に触れた。
「……どう?どんな感じがする?」
訊かれるまま、彼に言う。
「……熱い……すごく、固いのね。こんなになるなんて……
知らなかった」
彼の問いかけに、大胆だと自分でも思いながらも率直に答えた。
<続く>