花より色は5
 それから数日した日のことである。事件は幻刀斎が仕事で二三日家を空けたその日に起こった。新之助にはどうする事もできなかった。その事を、新之助は何年も悔やむ事になる。

 その日、三治が遅くに寝床に入ったときの事であった。三治が眠るのは他の使用人のずっと後である。三治はいまだ新入りで一番年若いので、最後まで雑用を片付けてからでなくては眠る事ができない。それに、新之助に読んでおきなさいと言われた本がある。三治は月明かりで少しでも読もうと、今まで土間に漏れる月明かりの下にいたので余計に遅くなってしまった。いつもの事だが、布団に入ったとたんに三治はすっと眠くなる。今日もそのまま眠りに引き込まれる幸せな瞬間だった、その時、使用人部屋の障子の向こうから声をかける者がいた。

「三治、三治はいるか」

聞きなれない声だった。部屋の他の使用人がぱっと起き出し、

「はい、ただいま」

と言って障子を開けた。もちろん、三治も既に目を覚まして布団の上に座っていた。

「何か御用でございますか」

使用人が答えたのは、廊下に立っていた早川家の食客だった。三治は普段あまりかかわる事がないが、早川家には様々な理由で居座っている浪人者や侍が幾人も出入りしている。その人物は、普段あまり使用人以外が来る事の少ない裏庭で、最近何度か三治に声をかけてきた侍だった。

「門田様、何か」

年上の使用人が言った。侍の名は、門田宗二郎様だったと三治は思い当たった。顔と名前が一致していなかったので気づかなかったが、そういえば若い女中が門田様に死ぬほどにからかわれたと噂していたのを聞いた事がある。それに、あの祭りの時に自分が久松をやるのだったと一郎太に言ったと、一郎太が話していたのを聞いたばかりだ。三治に最近声をかけてきていたのが当の門田様だったのだようやく合点が行った。

「うん、三治に用があってな。三治、部屋まで来てくれるか」

年上の使用人は三治を見た。眠そうな顔である。三治に用があるなら、自分はもう眠れるからさっさと三治に行ってもらいたいと言う気持ちがありありと見えている。

「はい。かしこまりました」

三治はそう言って立ち上がった。この深夜何の用だろうかと思ったが、本音を言うとあまり気が進まない。仕事なら喜んでやるが、宗二郎が昼間話しかけてきた事を思うとあまり関わりあいになりたくない。宗二郎は、あの祭りの時の女形姿が綺麗だったと変な猫なで声を出して三治を誉めていたのだ。新之助に誉められるならともかく、大して知らない相手に変な声で誉められても一向に嬉しいとは思えなかった三治だった。

 三治は暗い廊下を宗二郎の後を付いて歩いていった。辺りは静まり返っている。新之助の部屋は中庭の向こうだ。さすがにこの時間では行灯の明かりも消えている。今頃はぐっすり眠っておられることだろうと思いながら、三治は無意識に新之助の部屋のほうを見つめていた。

「入れ」

不意に言われ、三治は顔を上げた。宗二郎の部屋は他の食客の人達とは違う、広い客間をあてがわれており、この家の主人である左衛門がいかに宗二郎を手厚く遇しているかを物語っている。自然、使用人のほうも腫れ物に触るような扱いをしていた。それでも、三治は新之助に直接仕えている身であるので、ほとんど関わる事がなかったのだ。
 部屋に入ると、小さく行灯の火がついていて、すでに寝床の支度もしてあった。こんな深夜に何の用事だろうかと、三治は改めて不審に思った。

「まあ座れ」

宗二郎にそう言われ、戸惑いながら三治は障子のそばに座った。肩もみでもしろと言うのだろうか。それとも他に何か。

「お前とゆっくり話がしたいと思っていたんだ。まあもっと奥に来いよ」

宗二郎は口の端で笑いながら三治に手招きする。それどころか、三治が不穏な気配を察してじりじりと下がろうとするのを腕を掴んで引きとめ、中へと引き寄せようとしている。

「か、門田様、御用は、御用を仰ってください」
「用か、だからお前と話がしたいと言っているではないか。怖がる事はない。いいから座れ」
「は、はい、でも」
「見れば見るほどお前は可愛い顔をしているな。女の子といっても充分に通るではないか。橋村座で人気の女形などよりずっといい。いいか、お前が祭りで演じたお染の相手役の久松は俺がやるところだったんだぞ。俺を久松だと思ってあの時のように寄り添ってみろ。久松だと思って、じっと見つめてみろ。さあ」
「門田様、堪忍してください。私は三治です。お染ではございません」
「お染でも三治でもよい。可愛い子なら俺はどちらでもいいのだ。お前は可愛い。お前、男女の事も知らないであろう。俺が教えてやる。男女のときよりずっといい思いもさせてやるぞ。さあ、こっちへ来い」
「門田様、お止め下さい。無理です、私には」
「無理ではない。お前、使用人の分際で逆らうと言うのか。さあ来い、乱暴をされたくはないだろう」
「嫌です、私は新之助様にお仕えしている身です、あなた様の使用人ではございません」
「ええい、聞き分けのない」

宗二郎は逃げようとする三治を無理矢理布団の上に引き倒した。そのまま、三治の寝巻きを力任せに剥ぎ取る。宗二郎の行動に真剣に恐怖を感じた三治は、力の限り抵抗を始めた。

「やめて、お止め下さい!いやだ、や、助けて誰か、イシ様、イシ様、新之助様ぁぁぁぁぁ!」

この時代、商家にせよ侍の屋敷にせよ、使用人として仕えている女中や、時に下男は、屋敷の主人やその息子たちにどんな目に合わされても仕方のない事と考えられていた。使用人は主人のものであり、どう扱っても誰にも何も言えないのである。そのため、例え主人やその息子の部屋から女中などの悲鳴が聞こえても誰も助けに来る事はなかった。酷い時には、女中が何度も陵辱された挙句身ごもっても、何の保障もされなかった。そればかりか、側女の扱いになってしまえば給金も出ないまま一生ただ働きさせられてしまう事もあったのである。だが、この早川家では未だかつてあった試しのない出来事である。幻刀斎は決してそのような事をしなかったし、左衛門は左衛門で、家老の娘を妻に迎えている以上、少なくとも家の中で女中などと通じようとはしなかった。だからそんな事が起きたのは早川家が三百石を頂き屋敷を構えてるようになってから初めてのことだった。それでも使用人の立場で早川家の大事な客が無体を働くのを止める者は誰もいない。

「暴れるな。しかし本当に華奢だなお前は。触り心地はあまり良くなさそうだが、そうでもないか、この滑らかな肌」

宗二郎の指が三治の肌をなでていく。三治は叫んだ。

「助けて!助けて、新之助様!!」
「あんな小僧の名前を呼ぶな。どうせ誰も助けに来ないんだ、おとなしくされた方が身のためだぞ。後ろはどうだ。やはり硬いな」

宗二郎の無遠慮な指は、三治の秘密の場所を暴いていく。三治を押さえつけたまま宗二郎は自分の寝巻きを脱ぎ、褌を抜いた。既にいきりたった宗二郎の分身が、三治の体に押し付けられる。

「いやーーーーーー!!!!!助けて、新之助様!!」

三治の叫び声に、屋敷のどこからかバタバタと音がしたと思うと誰かの押さえつけるような声と、揉めている様な音が聞こえてくる。

「三治、三治!」

新之助の声がする。

「新之助様、新之助さ・・・!!」

三治の声は、宗二郎が押し付けた灼熱の棒を無理やり三治の中へと押し込んだとき絶叫に変わった。

「やーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

熱い、焼けた棒を押し付けられたように痛みと熱が三治を襲う。初めての場所の事、中々進まない事に焦れた宗二郎は、三治の口に手ぬぐいを押し込んで三治の口を封じた。三治は、力の限り逃げようとするが、宗二郎の力の前では動く事も叶わない。涙と鼻汁で息をすることすら苦しく、三治は初めて死の恐怖を感じた。目を見開いたまま恐怖の表情で固まって動かなくなった三治を、宗二郎は存分に楽しみ始めた。そのまま三治は延々と数時間の間、誰からの助けも得られないまま宗二郎に苛まれ続けたのである。







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