secondo sogno

ツナの近所に新たにファミリーとしてユリがやってきた次の日、ユリはツナの家に呼ばれていた。呼び鈴を鳴らすと、ボブカットの女性が出てきた。
「あなたがユリさん?綱吉から話は聞いているわ。どうぞ入って」
「…おじゃまします」
習った通りに頭を下げて家の中に入る。きちんと靴も脱いだ。
「綱吉はお友だちと一緒に二階で勉強してるの。よろしくお願いしますね」
「分かりました」
ユリが呼ばれたのは、他でもないリボーンからの電話だった。補習の後で宿題を出されたツナと山本に家庭教師として勉強を教えてほしい、というものだ。元々家庭教師の一部を頼まれているので、ユリはすぐに沢田家にやってきたのだ。
中から人の声がしてくる部屋のドアをノックすると、昨日聞いたツナの声がした。
「はーい…ってユリさん!」
「ちゃおっすユリ」
「チャオ、リボーン。ツナヨシたちに宿題が出たんですって?」
「そうなんすよー。こないだは数学だったんすけど、今回は英語で。ユリさん、英語分かりますか?」
山本の声にユリは頷いて、空いているところに腰を下ろした。昨日見たメンバーの中で、獄寺だけがいない。
「ハヤトはいないの?」
「ああ、獄寺は頭良いっすから、補習とかないんすよ。んで、今日は用事らしいっす」
「そうなの。それで宿題って、どれ?」
「これなんだけど…」
ツナが見せたプリントをユリは受け取って、目を通した。ツナたちが通っているのはジュニアハイスクールだと聞いていたのだが、思いのほか優しい。外国語だからだろうか。
「何か書くもの貸して」
「あ、はい」
ツナに差し出されたノートにユリはすらすらと答えを書いていく。
「…す、すげー…」
「説明していくわね、いい?」
今までリボーン(間違ったら爆破)や獄寺(教え方がスパルタで理論的)にしか教わってこなかったので、ツナはユリの優しい教え方に、感激してしまっていた。こんなに優しく教えてもらったら、何でも分かりそうなものだ。
「…とりあえず、こんなとこかしら。何か分からないところはある?」
「もう大丈夫っすよ」
「うんうん、すごく分かりやすかった!」
「そう。それは良かった」
三人が和んでいると、いきなり部屋のドアが開いた。
「がはははは!ランボさんとーじょー!」
「?」
ユリは初めて見るランボに怪訝そうな表情だ。ツナはまたかと呆れている。
「死ねリボーン!」
銃を放ったまでは良かったのだが、リボーンにアイスの棒で弾かれて、ランボは自分で被弾した。辺りに煙が舞う。
「ぐぴゃぁぁああ!」
「な、何なの…?」
「ボヴィーノファミリーから来たランボさんは撃たれちまった!五歳のランボさんは撃たれちまった!」
ランボが自己主張の激しいセリフを喋ったので、ようやくユリにも意味が分かった。だが、ボヴィーノというファミリーをユリは知らない。
「こうなったら…」
「あ、よせランボ!」
ツナの制止を振り切って、ランボはバズーカを自分に向けて放った。ガウン、という音がして、煙の中からは大人ランボが現れた。
「やれやれ…最近多いなあ…」
さっきまで五歳児だったのに、いきなり大人になっているので、ユリはびっくりして目をぱちぱちさせている。
「…アイツが使ったのは十年バズーカと言って、十年後の自分と五分間入れ替わるボヴィーノの特殊な銃だ」
「そういうことですよ、ボンゴレのレジネッタ」
ランボはユリの手を恭しく取ると、手の甲にキスした。
「…!!」
ツナと山本がびっくりしている。
「あちらの貴女も美しいが、若い貴女もまた素敵だ。どちらも拝見できるオレは何て果報者なんだ…」
「レジネッタって、あたしが?」
「ええ。あちら…十年後ではレジーナともアペレジーナとも呼ばれていますね。美しくお強い貴女にふさわしい言葉だ」
ランボとユリをよそに、ツナはリボーンにこそっと耳打ちした。
「大人ランボ、何て言ってるんだ?」
「レジネッタってのは年若い女王、って意味だ。レジーナは女王、アペレジーナは女王蜂だな」
「へー…」
山本は意味が分からないままに感心している。ツナは女王、の意味をいろいろ考えすぎて顔を赤くしていた。
「おっとそろそろ時間だ。名残惜しいが、また会う機会もあるでしょう。では…」
登場のときと同じように煙に包まれ、また五歳児のランボが戻ってきた。向こうで何があったのか、泣き止んでいる。
「あ、ユリだ!」
「ユリを指差すんじゃねえ」
ランボは指をびしぃっと突きつけたので、怒ったリボーンに指をぐいっと曲げられる。
「ひぎゃぁあああ!」
「泣かないで、こっちおいで」
床に置いてあった救急箱を取り寄せて、ユリは膝にランボを乗せる。ランボはまだ泣いていた。
「人を指差したらいけないんだよ、ランボ」
「ぴぎゃ…」
指を何度もさすってやり、元に戻して小さくシップを貼る。上から簡単に包帯を巻いた。涙をぬぐってやる。
「ほら、もうこれで痛くない。ね?」
「うん…」
ランボはユリに顔を近づけられたので、自然と顔が赤くなっている。
「あっちのユリもオレっちに優しかった」
「あっち?十年後?」
ランボはこく、と頷く。
「今もユリはキレーだけど、あっちのユリはもっともっとキレーだった」
「…大人ランボの片鱗があるぞ、既に…」
ツナはランボの言葉に呆れている。山本ははなから十年バズーカの意味が分かっていない。
「あたしは、どこにいたの?」
ユリの他愛ない言葉に、ツナとリボーンがちらりと反応した。十年後のランボとユリが一緒にいたとランボは言っているのだから、ユリはどこにいたのだろう。
「ボンゴレのおうちだよ。すっげー広かったんだもんね」
ボンゴレの屋敷にユリがいたのは分かる。ユリはボンゴレファミリーだ。しかし、なぜそこにランボがいる。
「あいつ、十年間ずっとオレを追うつもりか…」
リボーンが脳内で結論を出し、はぁっとらしくないため息をついた。ボヴィーノのランボがボンゴレの屋敷にいるのは、どう考えてもリボーンを狙撃するためだとしか思えない。十年間の間に、ボヴィーノが傘下に入ることがあれば別だが。
「ちわっす、十代目!」
いきなり部屋のドアが開いたかと思えば、獄寺がそこに立っていた。獄寺とランボの相性は良いのか悪いのか微妙なところだが、獄寺が絡むとランボは必ず泣く。
「あ、アキヅキさまもいらっしゃってたんですか」
「うん、英語を教えにきたの。ハヤト、本当に様はいらないから」
「でも…」
「そういえば、ユリさんは日本の名前だよな。どう書くんだ?」
獄寺を遮るように(本人に自覚はない)山本がユリに話しかけたので、獄寺は思わずダイナマイトに火をつけかける。ツナに止められた。
「漢字?漢字は上手くないんだけど…」
ノートの片隅には、『秋月百合』と書かれていた。
「へー。百合さんってこういう名前だったのか。良い名前じゃないっすか」
「本当?漢字には意味があるんだってお父さんに教わったわ。漢字って素敵よね」
百合という名前の漢字の意味について話をしているとき、ドアの外から声がかかった。
「リボーン、ツナ、夕食だってママンが…あら隼人」
「ぐふっ…」
ドアを開けたところにいたのはビアンキで、姿を見るなり獄寺はテーブルに突っ伏して倒れた。
「獄寺くん大丈夫!?」
「獄寺!?」
ツナたちをよそに、ビアンキとユリは二人で手を取り合って微笑んでいる。
「ビアンキじゃない!久しぶり!」
「ユリ!?まあ久しぶり!」
「え、二人知り合いなの…?」
獄寺をベッドに寝かせたツナにリボーンが頷いた。
「ビアンキとユリは友人だ。ボンゴレもビアンキに仕事を頼むことが多いしな」
「ユリ、日本に来たとは聞いてたけど、近くなの?」
「ええ。ディーノが十代目の家の近くに用意してくれたの。あなたは?」
「私はここにお世話になってるわ。ママンがすごく良い人だし、リボーンはずっとここにいるし」
「あなたは本当にリボーン一筋よね」
女二人の会話に男たちはついていけない。当事者のリボーンは何てことない顔をしているが。



リボーンやツナ、ランボたちが夕飯に呼ばれたものの、人数分が足りなかったので、ユリは獄寺の看病のためにツナの部屋にいた。
「ハヤト、大丈夫?」
「…大丈夫っす…姉貴がいないなら平和なもんスよ…」
獄寺は荒い息を整えながら、上半身を起こす。
「ダメよ、寝てないと」
ユリは上半身を寝かせるように両の肩を押す。獄寺は迷った挙句、ユリのするままになっていた。ユリは布団を肩口までかける。
「ハヤトがビアンキのこと苦手だとは聞いてたけど…そこまでだったなんて」
「姉貴のポイズンクッキングの第一号被害者はオレっすから…。二年間もポイズンクッキングを喰らい続ければ苦手にもなります」
死人も出したビアンキのポイズンクッキングを二年間喰らい続けて、それでも生きている獄寺はある意味強いのかもしれない。
「ビアンキに悪気がないっていうか、自覚がないのが大変なとこよね」
ユリがビアンキの側から獄寺のことを聞いていたので、ビアンキに悪気がないことは分かっている。が、獄寺はそれに関して頷き難い。
「でも、兄弟がいるのはいいことよ。羨ましいわ」
「…ジャポネじゃ、十代目が弟みたいなもんじゃないすか。ボンゴレのファミリーなんですから」
「おじさまもハヤトと同じことを言ったわ。ディーノも。でも、あたしがここに来て、ツナヨシがより危険に晒されたら…って思うこともある。あたし自身は平気でも、ツナヨシはまだ普通の子どもなんでしょう?」
「十代目は素晴らしい方です。懐も広いですし、いざってときにはすごく頼りになる方ですから、大丈夫です。それに」
「それに?」
「危険なときには、オレが絶対に守ります。オレは十代目に仕えてるんすから」
獄寺はそう言うと、にっと笑ってみせた。ユリもつられて笑う。
「スモーキン・ボムがついているなら安心ね。でも、あなたも無理をしたらダメよ」
「…オレは十代目に命を救われたんです。十代目のためなら命ぐらい…」
「ダメ」
ユリは両手で獄寺の頬を挟んだ。獄寺はびっくりしたのとユリに近く接しているのとで顔が赤くなった。
「ハヤトに何かあったらツナヨシがきっと悲しむから、ツナヨシのことを思うのなら、もっと強くなって」
「…はい」
「強くなって、ツナヨシも自分も守れるようにならないとダメよ。分かった?」
「はい。…ユリさん」
獄寺が「様」付きでなく、ユリのことを呼んだので、ユリはにこ、と微笑んだ。



「あら、何だか良い雰囲気じゃない?リボーン」
「さぁな。ユリに手を出そうなんざ、十年早いぜ」
「妬けるセリフ」
廊下にいるビアンキはリボーンを見ながら肩を竦めた。

terzo sogno

いかがだったでしょうか。獄寺夢ぽくしてみました。途中でランボも挟みつつ。大人ランボとビアンキとを百合に絡ませたかったのです。次は笹川兄とシャマルだな。

お付き合い有難う御座いました。多謝
2006 2 8  忍野桜拝

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