鷹ずきん

                                           ○久


ある日のことです。
「鷹ずきんや、元服後のお前の凛々しい姿を、産みのお母様にも見せておあげなさい。
聞けば、旦那様を亡くして、伏せておられるご様子。
お見舞いの品をお前が持っていけば、さぞや喜ぶことと思うのだよ。」
 育ての親にそう言われて、鷹ずきんは素直にうなずきました。

 鷹ずきんが一人で歩いていると、華やかな着物をまとった狼が近づいて言いました。
「そこの美しい髪の君、どこへ行くのかな?」
「母の元へ、お見舞いの品を届けに行くのです。」
「それならば、花を添えると喜ぶだろう。
女性は、いくつになっても花を愛でる心を失わないものだから。
そうそう、そこの神社に、橘が綺麗に咲いていたよ。」
「ありがとうございます。」
「いえいえ。君の役に立てたのなら、嬉しいね。」
 狼はくすくすと笑いながら去っていきました。

 鷹ずきんは狼に言われた通り、神社で橘を摘みました。あまりに綺麗に咲いていたので、ついつい詩を作っていたら、すっかり遅い時間になってしまいました。
 鷹ずきんは母親の家に急ぎました。

「母上? ご機嫌いかがですか?」
「どうぞ、側に来ておくれ。」
 まだ幼い頃に産みの母親と別れた鷹ずきんは、その声が女性の声にしては、やけに低く、艶めいていることに気づいていませんでした。
 帳台に横たわる人影に近づきました。
「良く来てくれたね。」
 母親が笑いました。自分の母親なのに、そんなに年をとっているようには見えませんでした。
 整った顔に浮かぶ、柔らかい微笑みに、鷹ずきんはなんだか照れてしまって、何か会話しようと言葉を捜しました。
「母上の耳には、どうして赤い飾りがついているのですか?」
「それは、君の愛らしい口が紡ぐ言葉を聞き逃さないようにするためのお守りなのさ。」
「母上の目は、どうして深い泉の色をしているのですか?」
「それは、君の麗しい姿を、よく見るために目を凝らしているからさ。」
「母上の手は、どうしてそんなに大きいのですか?」
「それは、成長したとはいえ、まだまだ華奢な君の体を抱きしめるためさ。」
「母上の口は、どうしていつも微笑んだ形になっているのですか?」
「それはね、君を食べることが出来ると思うと、嬉しくてこうなってしまうのさ。」
「え?」
 母親だと思っていたのは、実はさっき出会った狼でした。
 あっという間に鷹ずきんは狼の体の下に組み敷かれていました。

「な、何をなさるのです?」
「さっき言っただろう? 君を・・・食べてしまうと。」
 狼は、鷹ずきんの唇へ、自分の唇を重ねました。
 そして、器用に鷹ずきんの服をはだいていきました。
「んっ・・・・んんっ!!」
 暴れる鷹ずきんの手足から、だんだんと力が抜けていきました。
 そして、狼はゆっくりと時間をかけて鷹ずきんを食べてしまいました。


 鷹ずきんが帰ってこないからと、使いに出された猟師は、鷹ずきんの母親と名乗る女性にその旨を伝えました。
「あの子は、今は疲れて眠っています。久しぶりに親子で話したいこともございますので、しばらく預からせていただけないでしょうか?」
 その女性は鷹ずきんに似た、穏やかな表情を浮かべました。
「はい・・・判りました。では、そのように伝えます。」
 もしかしたら途中で悪い狼に攫われたのではないかと、ちゃんと刀を持参した猟師は、なんだか拍子抜けしたような気持ちで帰っていきました。

 しばらくして、その女性は文机に巻物を広げました。
「とてもいい題材が手に入ったわ。やっぱり実物を見ると、文章にも気合が入るというか、迫力が違うわよね。
あの子達だって判らないように偽名を使えばいいし。」
「それにしても、自分よりもあの子を使うほうが流行に乗れると思ってしまうあたり、私も女流文学のこと判ってるわよね。」
 くすくすと笑いながら、鷹ずきんの母は筆を取りました。

 寝室では、疲れきった鷹ずきんが、狼=友雅の肩に頭をあずけて、やすらかな寝息をたてていました。



                                      了2000.07.02



はははははっ(汗)  なんていうか、ありがちネタなら早いほうがいいかなって。(笑)
こういう話に出てくる女性キャラが、なんだか自分の分身になってしまうのもお約束(笑)
自分の息子をネタのために売るなよ(笑) きっと、人払いもしてあげて、でも自分は屏風の影に隠れて覗いてたんですよ。あああ、いいな〜(爆) 私も見たい〜(核爆)

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