| 夏宵の向日葵 |
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《後編》 「センセ・・・、どこ行くってばよ」 「・・・・・・」 カカシは何も言わずにナルトの手を引いて歩いた。 身長差がある為に、ナルトは前のめりになり、小走りになりながらも、必死でカカシについて行く。 辺りは木々が生い茂り閑散として、今日が祭だということさえ忘れそうになるが、木立の向こう側からは、ざわめきと祭囃子が聞こえてきて、二人が歩いている場所が意外に先ほどまでいた通りに近いことを知らせる。 「センセ!オレ帰らないと!」 いつまで経っても何も言わないカカシに痺れを切らしたナルトが、カカシの腕を引っ張るようにしてその足を止めた。 「イルカセンセーに浴衣返さないと・・・」 困り切った顔でナルトがカカシに訴える。 借りたものなのだから汚れたままで返すわけにはいかない。 家事全般を全て自分でやっているナルトは、泥汚れが早く洗わないと落ちないことをよく知っていた。 それ故の言葉だったのだが、カカシにしてみれば、ナルトが自分よりもイルカから借りた浴衣の方が大事なように思えた。 カカシは次第にイラついてきた。 イルカ、イルカ、イルカ。 今日何度、この名前をナルトの口から聞いただろう。 ナルトが今日着ている浴衣だって、本当は自分が着せるはずだったのに見事に邪魔された。 喩え本人はそのつもりがなかったとしても、邪魔をされたことにかわりはない。 ぱたりとカカシが足を止めた。 ようやく足を止めてくれたカカシを、ナルトはほっとしたように見上げた。 しかし、次の瞬間、ぐいっと繋いだ手を引かれたかと思うと、ナルトの躰はカカシの腕に包まれていた。 「あ・・・ッ」 突然の行為に驚いたナルトが、引き寄せたカカシの腕に抗った。 「やっ!」 いつもならば気にならないその行動が、今日に限っては酷く気に入らない。 カカシはナルトの唇を食らうように口づけた。 顎を押さえつけられて、逃れることもままならず、ナルトは空気を求めて唇を開く。 それを見計らったかのように、すぐに厚い舌が入り込んで来て、ナルトのちいさな舌は口腔の中で翻弄され始めた。 「んぅ・・・はぁ・・ふ・・・ッ」 舌の付け根も歯列も。 カカシの舌が撫で上げた部分は熱く痺れたようになって。 息苦しさから厚い胸板を押しのけようとするも、カカシの腕は更に強くナルトに絡み付く。 ちゅくりと吸い上げられた舌が卑猥な水音をたてた。 「・・・ふ・・・ぁ・・・センセッ!」 カカシの唇が離れた途端、ナルトが抗議の声を上げる。 しかし、カカシはそれを無視して離した唇を今度はナルトの白い喉元に押し付けた。 白い肌に紅い花弁を散らしながら、徐々に唇で触れる位置を下げていく。 きっちりと合わせられた襟元を崩して、白い胸元を露わにする。 鎖骨の窪みを舌でなぞるとカカシの胸元を掴むナルトの腕に力が入った。 立ったままのナルトの裾を割ってカカシの手が侵入した。 その手がするりと太腿を辿って柔らかな双丘を撫で上げる。 「ぁ・・・ッ!」 いつもはシンと静まり返っているはずの夜の境内も、祭の今夜だけは囃子の音が響いていた。 それもそのはず、木立を越えればそこは祭の屋台が建ち並ぶ通りなのだ。 「ねぇ、ナルト」 「・・・ッ!」 耳元で唇の振動さえもが伝わる距離で囁かれて。 ナルトはビクリと躰を揺らす。 貝殻みたいな耳は紅く染まり、思わずといったように細い肩を竦める。 ナルトの弱い場所なんてカカシは知り抜いている。 もしかしたら、ナルト本人よりもナルトの躰のことならよく知っているかもしれない。 唇で、指先で、触れていない場所の方が少ないくらいなのに。 「ナルトはさ、ホントに俺のことが好きなの?」 「・・・・センセ・・・何・・・」 訳がわからないという顔をして、ナルトが激しいキスの所為で潤んだ瞳を問うようにカカシに向けた。 「俺じゃなくてもさ、ナルトを好きなヤツなら誰でもいいんじゃないの」 「ち、ちが・・・っ」 苦々しげなカカシに、ちいさな顔が泣きそうに歪んだ。 ナルトはカカシのことが好きだ。 イルカのことも大好きだけれど、それはいつも温かくて柔らかくて。 痛みや、苦しさとは無縁のもの。 カカシはどう思っているのか知らないけれど、こんなに苦しいくらいに好きなのはカカシだけ。 でも、どうしてカカシがこんな事を言い出すのかナルトには全くわからない。 カカシがナルトに向ける、ナルトが今まで向けられたことのない種類の好意。 イルカのそれとも、ナルトがじっちゃんと呼ぶ三代目のそれとも、まったく異なるナルトに向けられるカカシの激しい感情。 必死でカカシのそれを受け入れて来たけれど。 実を言うと、自分の好意がカカシと同じ種類のものなのかナルトはわからずにいた。 カカシのことは好きで。 カカシとするあのなんだか自分が変になってしまう行為も恥ずかしいけれど嫌いじゃない。 「オレってば、カカシセンセーのことスキ!」 そのことをちゃんとわかってもらいたくて。 ナルトは泣きそうになりながらも必死に言い募る。 カカシの胸元を掴むちいさな手が微かに震えた。 「・・・・・なんか、俺ばっかり求めてるよな」 こうして、ナルトの「好き」という言葉を聞いても、今は何故か酷く虚しい。 ナルトの好意が刷り込みに近いものだということ。 それはわかっているし、納得していたつもりだったけれど、どうやら思いのほか自分は心が狭かったらしい。 傍にいられるだけで満足だなんて大嘘。 想いが強ければ強いほど、その分想い返して欲しいなんて、今までのカカシは思ったことがなかった。 想うのは勝手、その分想い返してやる義務はない。 ずっとそう思って来た。 けれど、今なら昔付き合っていた相手が言っていたことがよく分かる。 無様な、醜い自分勝手な感情だと、馬鹿にしてきた感情が、今カカシの全身を支配していた。 誰よりもナルトに想われたい。 「ゴメンナサイ・・・」 カカシがどうして怒っているのかわからないながらも、自分の何かがカカシの気分を害したのだと、ナルトがちいさな声で謝る。 その姿はまるきり、先生に叱られる生徒のよう。 「そうやってすぐ謝るけど、俺がなんで怒ってるのかわかってんの?」 「・・・オレが・・・迷子になったから・・・」 しばらく沈黙した後、恐る恐るといった風にナルトの唇から零れたのはやはり見当違いの答え。 はぁっとカカシが溜息を吐いた。 「・・・ホラ、全然分かってない」 冷たいカカシの言葉。 どうしたらよいのかわからなくて、ナルトはさらに泣きそうになる。 いつもは涙なんか見せたくないと、滅多に泣かないナルトだけれど、カカシの前だと涙腺が緩んでしまう。 「・・・・もどかしいよナルト」 「センセ・・・」 「もっと甘えてよ。そうじゃないとおまえが俺のモノだっていつまで経っても信じられない」 こんな風に小さな子供に縋る自分はどれほど情けない顔をしているのだろう。 それを思うとカカシは居たたまれない。 それでもそんなことを気にして入る余裕が今のカカシにはない。 大人の余裕も、上忍の冷静さも。 このコの前では風の前の塵に等しい。 「で、でもッ・・・」 「でも、じゃないの。何がそんなに不安?おまえの我侭ひとつで嫌いになるほど俺は懐の狭い男じゃないよ」 ナルトがきゅうっと唇を噛んだ。 言いたいことやしたいことがあっても我慢する度に癖になってしまったその仕種。 甘えたら嫌われちゃう。 ワガママなんてもってのほか。 センセーに迷惑をかけないように、邪魔にならないように。 そうしないと嫌われちゃうから・・・。 強迫観念のようにナルトの中にいつもある不安。 初めて受け入れた愛情を失うことが酷く怖い。 嫌われないことの方が少なかったナルトは、カカシが自分を好きでいてくれる理由がわからない。 わかるのはカカシを失わない為には、嫌われないようにしなくてはならないということだけ。 返事をしないナルトの無言の態度をカカシは否定と取った。 ナルトが自分を信用していないのだと。 甘える価値もない男なのだと。 そう思われている気がして。 「もういいよ」 最終宣告のような静かなカカシの言葉にナルトがちいさく息を呑む。 ナルトの浴衣の中に侵入していたカカシの手がゆっくりと動き始めた。 「ナルトが俺を欲しがらなくても、俺はナルトを勝手に貰うから」 「イイ格好」 腰まで捲り上げられた浴衣の下で白い尻がもどかしそうに揺れる。 叢に腰を下ろしたカカシの肩に頭を凭れるようにして、膝立ちのナルトは辱めに耐える。 通りに向かって剥き出しの尻。 その狭間にカカシの指を受け入れて、くちゅくちゅと音を立てる。 誰かがもし木立を越えて来たなら、この恥ずかしい格好を見られてしまうのは明白。 声を上げたら誰かに気付かれてしまうかもしれない。 そう思って、ナルトはカカシの浴衣を噛んで必死で声を殺す。 「ふ・・・くぅ・・」 懸命に込み上げてくる快感を堪える微かな喘ぎ声は耳元で弾けて、カカシの欲望をよりいっそう刺激する。 「ナルトのココ凄いことになってるよ?」 深々と埋め込まれた指が悪戯に中を広げて、ぐるりと掻き回すように動かされる。 「女の子みたいにぐちゃぐちゃ」 「いやぁ・・・っ」 カカシの言葉通り性器ではないはずのナルトの蕾は溢れ出す先走りと腸内からの分泌液でしとどに濡れそぼり、カカシの無骨な指を二本、苦も無く受け入れていた。 「ぁ・・っく・・ぅん・・」 思わず高い声が出そうになって、ナルトはいっそうカカシの肩に縋りついた。 カカシの胸元を掴むちいさな手は握り締め過ぎて指先が白くなり、小刻みに震える。 カカシの所為でこんな状態になっているというのに、ナルトは必死に助けを求めるようにカカシに縋りつく。 その矛盾にカカシは自嘲気味に片頬を上げた。 ナルトがこうやって縋って来るのはセックスのときだけ。 それでも、このときだけはナルトが何もかもを忘れて自分に縋り付いて来るのが嬉しい。 このコがくだらないコンプレックスを感じる暇も無いくらい、いつもいつも快楽に溺れさせてやれたらどんなにいいだろう。 監禁して一日中このちいさな躰を突き上げて、壊れるくらい抱きしめてやったら、このコは自分のモノになるかもしれない。 そんな夢みたいなことが出来るはずがないと思いながら、カカシは肩口に埋められた金髪にそっと口づける。 与えられる快感から逃れようと必死のナルトはその口づけに気付かない。 ただ下肢に与えられる嵐のような感覚をやり過ごそうと目の前のカカシに縋り付くだけ。 眼下にある震える白い項から肩にかけての線は、細っこいがまだ子供らしさを残してまろやかに伸び、噛み切ることも可能ではないかと思わせるくらい華奢で果敢無い。 その果敢無さに、多少の罪悪感を憶えないわけではないが、それよりもこの頼りない肢体にどうしようもない欲望を憶えるのもまた事実。 ココもナルトの弱いトコロ。 白い項に口づけて、舌先で辿れば、カカシの指を呑み込んだ秘部がひくりと戦慄いた。 すっかり崩れてしまった胸元から覗く小さな二つの実は、ナルトの官能を示すように、既に紅く色付いている。 カカシは薄い肩から落ちそうになっている浴衣の合わせから手を差し込んで、ぷっちりと存在を確かにしたそれを指先で摘み上げた。 「あ・・ぅ・・」 きゅっと乳首を押し潰される感触にナルトは堪らず逃げるように腰を引く。 しかし、カカシがそれを許すはずも無く、蕾を弄る指の動きも胸元を弄る掌もナルトの意志を無視して激しくなる。 「あっ・・あぁっ・・」 カカシに慣らされた躰は、その愛撫を余すところなく快感に変えて、ナルトの身の裡で熾火のようにもどかしく燻る。 無意識の内に揺れる腰は、もっと欲しいと訴えているのに、当のナルトはそれをいけないことだとでも言うように、頑なに唇を噛み締めて責め苦に耐える。 「ちゃんと欲しいって言わないとあげないよ」 「やぁ・・・っあぁ・・・んッ」 口を開けば、甲高い喘ぎが洩れてしまいそうで、ナルトは答えられない。 それでも、微かに首を振ってもう無理、と訴える。 しかし、非情にもカカシは、ゆうるりと中を掻き回す指も、乳首を捏ねることも止めてはくれない。 「ナルト、欲しいものは欲しいって言わないと手に入らないんだよ」 「あ・・ぅ・・せん・・せぇ・・」 セックスの最中にしてはやけに真剣なカカシの口調に、薄い水膜の張った蒼い瞳がカカシを見つめた。 今日のカカシは意地悪だ。 でも、ナルトを見つめるカカシの瞳は、無体を強いる手や指先とは裏腹に、何故か悲しそうで。 こんな時にこんな場所でコトに及ぶなんて。 酷いことをされている実感はあるのに、ナルトは怒る気にも抵抗する気にもなれない。 それどころか、カカシにこんな顔をさせているのが自分だと思うだけで、ほろりと涙が零れた。 「ナルト、おまえは何が欲しい?」 細い腰を支えるようにしてカカシは膝立ちのナルトと視線を合わせる。 色違いの視線が痛いくらい真摯にナルトに注がれる。 答えを促すように飲み込まされた指がぐいっと奥を突いた。 「はぁ・・・ふっ・・・」 欲しいっていってもいいんだろうか。 ナルトは躰の奥で燻る熱を感じながら、涙で滲む視界にカカシを探す。 大好きな銀色の髪が、滲んで揺れる視界を占める。 ―自分だけのカカシでいて欲しい。 そんな我侭が許されるのだろうか。 嫌われ者の自分。 エリート上忍のカカシ。 カカシが好きだと言ってくれるだけでも充分なのに。 ナルトは切ない想いに、またきゅうっと唇を噛んだ。 それを見たカカシは止めなさいとばかりに空いた方の指先で、ナルトの唇に触れる。 まろい頬を伝った涙が、カカシの爪先で弾けた。 それでも。 何が欲しいかと聞かれて。 答えはひとつ。 ナルトが欲しいのはひとつだけ。 カカシの指先がわななく寸前の唇の振動を感じとる。 ナルトの唇が開くまであと少し。 「・・・・センセ・・・が・・・欲し・・・っ・・・」 「先生じゃわからないよ」 先生ならばもうひとり、ナルトが大好きな先生がいるから。 わかってはいても、ナルトの口からちゃんと聞きたいのだ。 「う・・っく・・かか・・しせん・・せぇが・・・欲し・・・」 小さな、けれど精一杯の必死な声がカカシの鼓膜を揺らす。 「それでいいんだよ」 「せんせぇ・・・」 まだ信じきれないらしいナルト。 全てを信じてもらえるのは難しいのかもしれないけれど、欲しいものは求めてもいいのだということだけでもわかって欲しいとカカシは思う。 そのちいさな手に、掴めるものはたくさんあるのだと、教えてやりたい。 「全部あげるよ。ナルトが欲しいなら全部あげるから」 ちゅぷんと音を立ててナルトの中からカカシの指が引き抜かれる。 「んぅ・・・ッ」 「だから、もっと欲しがってよ」 無くなってしまった指を追いかけるようにナルトの秘部が収縮する。 熱く蕩けたその場所に、カカシはゆっくりと昂ぶった己を宛がった。 「はぁ・・・っふ・・あぁッ!」 そのままグッと腰を進めれば、その衝撃にナルトが白い喉を見せて仰け反った。 仰け反る躰を支えながら、覆い被さるように柔らかな叢に押し倒す。 浴衣から伸びたむき出しの細く白い足を抱えあげて、さらに深く、繋がる。 「ひゃ・・・ッ・・・あぁ!」 浮き上がった腰を真上から突き刺すような体勢に、ナルトは苦し気に息を吐き、縋るものを求めて自分の浴衣の胸元を握り締めた。 「ナルト・・・ナルト・・・」 繋がったままでは、身長差のある二人は口づける事ができない。 けれど、カカシはどうしてもナルトに口づけたくて。 愛おしさを込めて、揺れる金髪の天辺にキスを落とす。 むせ返るような草いきれと、汗の匂いと、ナルトの匂い。 獣のように交わって。 無様なぐらい自分を欲しがるナルトが見たい。 ぐちゃぐちゃと濡れた音。 遠くから聞こえる祭囃子。 木立の向こうのざわめき。 様々な音が耳に届くけれど。 意識のうちにあるのは、お互いの息遣いと体温と、熱い中心だけ。 余裕なんかないはずなのに。 肌蹴た胸元から見える、カカシの意外と白い胸元や、ナルトの脚を抱えあげる綺麗に筋肉の浮き上がった腕や、快感に眉を顰める表情。 それらが細めた視界に入って。 ナルトはきゅうっと胸が締め付けられる。 カカシが好きだ、と思う。 何もかもが愛おしく。 ナルトの中を犯すその細胞のひとつひとつまで。 全部、全部。 好きだと思う。 「せんせぇ・・・せんせぇ・・・っ・・・」 ―センセーの全部が欲しい。 自分が嫌われ者だとか、そういうコトはどこかに吹き飛んで。 素直にそう思える。 「・・・ンっ・・・ナルト・・・っ」 カカシが知り抜いたナルトの一番敏感な場所を、突き上げる。 その度にカカシを銜えたナルトの秘部は心地よくカカシを食んで。 「ぅ・・・ッあ・・・」 「あっ・・あっ・・・やぁあああ!」 感極まったナルトが、堪えきれずにあげた甲高い声。 カカシもまたナルトの中に熱い迸りを放ちながら、確実に木立の向こうにも聞こえただろうと、さすがにヤバイと思った瞬間。 カカシの肩越し、ナルトの閉じた瞼の裏側。 突然の光の明滅。 ドン! 一瞬遅れて大地を揺るがす大音量。 祭の最期を飾る、大型花火。 昇りつめたナルトの最後の声は、幸いにも、カカシの耳にだけ届くことになった。 「せんせ・・・」 「うん?」 「・・・さっき見たふわふわのやつ、食べたい」 くったりと凭れるようにして、ナルトはカカシの腕の中。 きゅうっと広い胸元に抱きつきながら呟いた。 「綿飴?」 「ん」 額に張りついた髪をかきあげてやりながら、カカシは屋台を見てまわった時にナルトがじっと綿飴の屋台を見ていたことを思い出した。 きっと欲しかったのに言い出せなかったのだろう。 「いいよ」 やっと強請ってもらえた小さな我侭。 俯いていた顔を上げさせて、カカシは心底嬉しそうに微笑んだ。 ―センセー、うれしいの? ナルトが言った我侭がどうしてカカシを喜ばせるのかはよくわからないけれど、カカシがとても嬉しそうに笑ったから、ナルトもなんだか嬉しくなる。 「あのさ、あと、かき氷とりんご飴も食べたい!」 「腹壊すなよ」 「子供じゃないってば!」 くしゃりと髪の毛をかき回される。 その感触はとても気持ちイイけれど、子供扱いは気に入らない。 「そうだねぇ、あんなエッチなことするコはもう子供じゃないよねぇ」 「・・・ッ!自分がしたくせに!!」 ニヤリと笑ったカカシに、ナルトはなんて事を言うんだとばかりに、頬を真っ赤にして食ってかかる。 「ハハハ」 「笑ってごまかすな!」 ナルトは染まった頬のまま、きゅうっと眉を寄せて、無理に怒ったような顔をする。 けれど、引き寄せられてぎゅうっと広い胸に抱きしめられれば。 もう、何も言えなくなる。 「こんなの・・・反則だってばよ・・・」 「うん・・・ゴメン・・・」 それでもカカシは抱きしめた腕を離さない。 薄い胸に顔を埋めれば、甘やかなナルトの匂い。 「センセー、スキ、だってばよ」 「うん」 「オレってば、カカシセンセーの全部が欲しい」 「・・・うん」 「オレの全部、あげるから・・・。センセーの全部、くださいってば」 ちいさな手がカカシの頭を抱きしめるように絡み付く。 頭の上から吐息と一緒に降って来たのは、甘い睦言。 「・・・俺の全部はとっくの昔にお前のものなんだよ」 13年前のあの日から。 あのちいさな身体をこの腕に抱きしめた日から。 もっと求めて欲しいと願ったけれど。 「本当は、もうあげるものなんか何もないんだ・・・」 ナルトがくれるものに返せるものはもうない。 小さな子供のように、カカシは目の前の薄い胸に額を摩り付ける。 そのカカシの頬をちいさな両手が包んだ。 コツンと合わせられた額。 「じゃあ、これからのセンセーも全部ちょうだいってば」 今までのカカシは貰ったから、これから先のカカシも欲しい。 ナルトが伝えられる精一杯の想い。 「ナルト・・・」 逸らされることのない蒼い瞳。 思いがけないナルトの告白にカカシは僅かに目を見張る。 「オレってば、欲張り・・・?」 「そんなわけないデショ」 「センセーってば、顔真っ赤」 「・・・ウルサイよ」 夜目にもカカシの顔が常にないくらい紅いのが分かって、ナルトはニシシと笑った。 可愛くない口を叩く、でも最高に可愛い恋人にカカシはとりあえずしかめっ面をして見せて。 やがて、どちらからともなく、近づいた唇が、触れる。 短い、羽根のように軽い口づけ。 「帰ろうか」 「ん」 いつのまにか、木立の向こうから聞こえていた祭囃子は微かになり、人々のざわめきも少なくなっていた。 「綿飴、食べるんデショ?」 「食べるってばよ!」 立ち上がった二人は、お互いの着崩れた様子に。 思わず顔を見合わせて苦笑いを洩らした。 右手に綿飴、左手に林檎飴を持ったままのナルトは、うとうとと半ば眠りの縁に沈みながら、カカシに背負われて自宅に帰ってきた。 カカシの背に揺られて、辿り着いた家はいつもよりも何故か温かい。 「ナルト、ほら、ベッドで寝なさい」 「うにゅ・・・・」 背中から下ろしたナルトをカカシは抱き上げてベッドに運ぶ。 パジャマに着替えさせた方がいいだろうと思いながら、寝室に入った途端。 「っ!」 何かに足を取られて、カカシは上忍らしくもなく蹈鞴を踏んだ。 当然、その振動は腕に抱いたナルトにも伝わって。 「せんせ?」 「・・・・・・・あ」 カカシの目の先には、ナルトの為に買った向日葵の浴衣が紙袋からはみ出してそこにあった。 ナルトもまたカカシの視線の先を辿って、それに目を留める。 「浴衣?」 止める間もなく、カカシの腕の中から降り立ったナルトが濃紺の浴衣を広げた。 それはどうみてもカカシには小さすぎて、ナルトが着るのにちょうど良さそうな大きさ。 ナルトは、祭に行く前に迎えに来たカカシが、浴衣を着たナルトをみて大袈裟なほどに驚いていたことを思い出した。 と、すれば答えは一つ。 「センセ・・・コレ買ってくれたの・・・・?」 「あ〜・・・・・・うん、まぁ・・・そうなんだけど・・・」 「キレーだってば・・・」 「・・・」 「どうして言ってくれなかったんだってばよ」 「・・・いや・・・おまえ・・・金魚の浴衣着てたし・・・」 バツが悪そうに、カカシは頭を掻いた。 神社の境内でコトに及ぶなんて事になったのは、もともとこの浴衣が原因だったのだと今更ながら気付く。 ナルトに浴衣を着せたイルカに嫉妬して、その気分を引きずったまま神社でナルトとはぐれて、ナルトがイルカイルカというものだから・・・。 (情けな・・・・・・) 嫉妬深さとは無縁だと思って来たのに、どうやら自分は人一倍狭量な人間だったようだと、カカシはようやく認識した。 「ナルト?」 珍しく自責の念に駆られていたカカシの前で、突然ナルトが身につけていた浴衣を脱ぎ始めた。 つい先ほどまでカカシの下で乱れていた白い躰が、カカシが付けた所有の印も鮮やかに、明かりの元で顕わになる。 焦るカカシを余所にナルトは、着ていた金魚の浴衣を脱ぎ去ると、カカシが買って来た浴衣を身につけ始める。 「う〜・・・?」 けれど、浴衣を着るのも今日が始めてだったナルトが、着付けなどわかるはずもなく。 袖を通したところまでは良かったが、そこから先がわからず首を捻る。 その姿に思わずカカシは吹き出した。 「笑うなってばよ!」 「おいで」 カカシは真っ赤になって膨れたナルトを笑いながら引き寄せると、ナルトの浴衣に手を掛けた。 きっちりと胸元を合わせてやって、ナルトの身長に合わせてはしょりを作る。 「後ろ向いて」 いわれた通りにくるりと後ろを向いた背中に、合わせて買って来た青いグラデーションの三尺帯を蝶結びにして結んでやれば。 「出来あがり」 ナルトの金色の髪が濃紺の生地に映える。 裾に向かって染め付けられたのはナルトによく似た向日葵。 「似合うよ」 「センセー、ありがと・・・」 自分の為にカカシが選んで買ってくれたものだと思えばそれだけで特別な気がして、ナルトは嬉しさのあまり、カカシに抱き付いた。 ほんのりと頬を上気させて、抱き付いて来たナルトを抱きしめ返してカカシは呟く。 「これ着たまんまのナルトにイヤラシイコトいっぱいシたいなぁ・・・」 「・・・っ!センセッ!」 「今日は勘弁してあげるからこのまま寝なさいね」 はぁ〜っと本当に残念そうに溜息を吐くカカシ。 ナルトの眠りを促すように、抱きしめた背中を優しく叩く。 (今日はって・・・) 疲れたのと、安心したのと、幸せなのとで、すぐにナルトはまた眠気に襲われる。 今日じゃなかったらイヤラシイコトされちゃうのかと、ナルトは身の危険を感じながらも、襲って来る眠気には耐え切れずに。 カカシの腕の中でゆっくりと眠りに落ちていった。 「センセー、これあげる」 「向日葵?」 任務が休みだった次の日。 突然ナルトがカカシの家にやって来た。 カカシが玄関先に迎えに出ると、そのちいさな手に握られていたのは大輪の向日葵。 太陽の光を浴びて、黄色い花びらは黄金色に輝く。 やはり向日葵は太陽の下に咲いているのが良く似合う。 「昨日の浴衣の御礼だってば」 そう言った後、ナルトはほんのりと頬を染めた。 おそらく昨日の神社での情事まで思い出してしまったのだろう。 ナルトの気持ちなど手に取るようにわかってしまうカカシは、小さく笑って向日葵を受け取った。 「ありがとう」 植物好きのナルトらしく、向日葵は切り取られたものではなく根から掘り起こされたもの。 「コレ、どこから持って来たの?」 「途中にあった向日葵畑」 「・・・・・・ナルト、それって・・・・」 それはもしかしなくても泥棒ではないのだろうか。 「・・・まぁ、いいか」 カカシはもともとそんな細かいことを気にするような男ではない。 極端な話、ナルトがくれたものならカカシはゴミだって大事にするだろう。 カカシは徐に受け取った向日葵に顔を近づけて、花びらの先に口づけた。 「センセー、なんで向日葵にちゅうするってば・・・?」 花びらを食むように向日葵に口づけたカカシをナルトは複雑そうな顔でみる。 カカシはヤキモチかなぁ、なんて都合の良いことを考えながら。 「うん?なんか、可愛くってね〜」 「可愛い?」 ―ナルトに似てるから。 耳元でそう囁くと、かぁっと一気に染まる頬。 その頬にもキスを与えて。 「可愛い」 「せ、センセー、向日葵かして!」 頬から唇に、キスを移そうとすると、恥ずかしいのか、ふいっと顔を逸らしたナルトがカカシに向かって手を伸ばした。 「何すんの?」 ナルトに向日葵を渡しながらカカシがそう聞くと、ナルトは「植えるの」と言って、庭に出て行く。 仕方無しにカカシもまたサンダルを引っかけて、庭に出た。 カカシ宅の庭は意外と広いが、庭らしく使われているところといえば、片隅で申し訳程度に薬草が植えられていることぐらい。 ナルトはここを見るたびに、こんなに広いのに何も植えないなんて勿体無いとしつこいくらい言っていたのだ。 「センセー、この向日葵が枯れたら、ここに種植えてもいーい?」 早速しゃがみこんで向日葵に土をかけていたナルトが、作業の手を休めないままに聞いた。 ―あぁ。 突然カカシは気付いた。 向日葵は枯れてもたくさんの種を残す。 その種から新しい命が芽生えて。 いつか、太陽に届く向日葵が生まれるかもしれない。 譬えそれが、砂漠に落とした一粒の宝石を探すよりも難しいとしても。 「きっと、たくさんの向日葵が咲くよ」 「センセー」 振り向いたナルトが蕩けるような笑顔を浮かべて。 泥だらけの手をそのままに、カカシの胸に飛び込んだ。 無風に近い大気に揺れるナルトのやわらかな金髪越しに、殺風景な庭にはどこか不似合いな一輪の向日葵。 ひりつく熱気が肌を撫でる。 それでも、どこか風を感じるのは、夏が過ぎ行こうとしているからか。 夏の終わりに佇む向日葵。 枯れ逝く未来も、凛として受け入れるその姿が。 哀しく、そして、いと惜しい。 この腕の中の向日葵は、きっと太陽に届く。 「来年はナルトがいっぱいだ」 「・・・・は?」 何を言ってるのかと、ナルトがきょとんと瞳を瞬かせた。 なんでもない、とカカシが笑った。 |
| 吉田可南子さまのcaramel boxの一周年記念小説をいただいてきてしまいましたv こんっなステキな小説、お持ち帰りにするなんて、ゴージャスすぎまする〜(>_<) しかもステキにエロいし(^_^;) 可南子ちゃんの書くカカナルはとにかくカカシがなるちょのことを好きで好きで堪らないって カンジが伝わってきて、とってもぐ〜〜〜っ! ああん〜浴衣のナルちょ、誘惑めらめらv裾からのぞくしろい足がサイッコーですわvvv 可南子さま、ありがとうございました<m(__)m> これからも応援してまス! |