初めての一泊二日の二人の旅行。
彼と一緒というだけで心が躍り、ときめく。
私たちは少しずつ変り始めてる。
いつも朝になれば切ない別れが来る。
穏やかにそばを離れられたことなんて一度もなかった。
一泊二日とはいえ時間を気にせず一日中一緒にいられることは、とても幸せだ。
心はまだ届かなくても私はまだ彼に見切りをつけられてはいない。
普段は言ってくれなくてもベッドにいる時は愛してると言ってくれる。
赤い花をたくさん咲かせてくれる。
結婚するまで誰かと体の関係を持つことはないと思ってた。
周囲の友達にも固いとか古風とかよく言われていた。
助手席から運転している彼の横顔を見つめ、微笑む。
海も夜景もたくさん見たい。
想い出は消えることなく胸に残る。
首にかけたネックレスをぎゅっと握り締めた。
彼がくれたプレゼントが力をくれる。
車はトンネルを抜け、海が見え始める。
窓を開け、無邪気に身を乗り出した。
「きれい」
ルームミラーに映る彼は、笑っている。
「ホテルに荷物置いたらすぐに海を見に行こうか」
涼しげな声音が頬を撫でる。
こんな瞬間がとてもかけがえなくて愛しい。
そう感じていた。
海鳥達の鳴き声。
車はスピードを上げて、真っ直ぐ進んでゆく。
彼の器用なハンドルさばきにもみとれてしまう。
車をバックさせる時の真剣な眼差しも何もかも好きだった。
洗練された身のこなしと、女性扱いの上手さ。
何もかもできすぎている男性。
一ミリの隙も見せなくて、こちらに何かを気取らせるようなミスは
犯さない。計算なのかもしれない。
何も悟らせない彼は常に完璧だった。
聞かれたら答えてはくれるが、彼から教えてくれることは無い。
悲しみで押しつぶされそうになる胸を手のひらで押さえ景色を眺めた。
何て美しいのか。
海の青はとても心をくすぐる景色だ。
その時、車が止まった。
目の前には大きなホテル。
こんな立派な所に止まるのは初めてだった。
ガチャリ。
彼が、車を降りて、助手席の扉を開ける。
「ありがとう」
トランクから二人分の荷物を降ろすと、
「いこうか」
彼の後ろをついて歩き、ホテルに入っていく。
立派な高級ホテルだが、個人経営で従業員の数が
少な目のホテル。俺は宿泊先を選ぶ時、かなり慎重だった。
誰に見られて困るわけではないが、多くの従業員に出迎えられるのは好きではない。
彼女が、海の見える静かで落ち着けるような場所が良いといっていたこともあり、
色々検討した結果このホテルに決めたが、
会員制の方がもっとくつろげるかもしれないと今更ながら気づく。
そこは妥協するとして最近は旅行なんて行ってなかったから、
久々に羽を伸ばせると思いホッとする。
一泊しか出来ないとしても、旅行には変わりない。
スイートホームではないが最上階の景色がよく見渡せる部屋を押さえてある。
チェックアウトも遅めにしてあるし。
チェックインが午後5時でチェクアウトが午後3時
ほぼ一日一緒にいれる。
明日も休みを取っているからゆっくりできるだろう。
フロントで宿泊者名簿に二人で名前を綴る。
キーを預かり、エレベーターに乗り込むと
彼女が腕を絡ませてきた。
空いている方の手に、自分の手を重ねる。
俺はこの小さな手を持つ少女をずたずたに壊し続けているんだ。
寄り添い、体を預けている彼女は、期待しているような、
どこか不安そうな表情で最上階に着くまでの間俯いていた。
エレベーターから降り、予約している部屋の鍵を開けると、
彼女は嬉しそうにはしゃぎながら、室内を見渡した。
「青……あ、……ごめんなさい」
ベッドの中以外は、やたら名前を呼び合わない約束だった。
普通の恋人同士ではないのだ。
体だけで繋がった未来の見えない二人。
彼女はその約束を破ったことを健気に謝る。
お前は悪くない。
そんな制限をかけて苦しめているのは俺なのだから。
白々しい言葉を喉の奥にしまいこんだ。
「いいさ」
荷物を部屋の隅に置き、
「海を見に行くか」
確認するように問いかける。
「え……ええ」
部屋の中を歩き、考え事をしていたらしい彼女が、
答えを返したのは数瞬の後。
部屋に鍵をかけ、また外へと繰り出す。
ホテルを出て海岸目指して歩く。
彼女は決して隣を歩いたことは無かった。
それが、わがままにも少し寂しく思えて聞いてみると、
「あなたの後姿が見たいのよ。その背中を見てると安心するのだもの」
なんて言って笑ったっけな。
本当はさ、俺の隣を歩く女はいないんだよ。
後ろを歩くのはいつも俺だから、隣を歩く姿を見たことない。
後ろを誰かが歩いているというのも新鮮ではあるが、
手を繋いだりすることはできないから寂しかった。
砂浜を歩くと独特のザッザッという音がした。
風の爽快な香りを肌に感じる。
相変わらず後ろを歩く、彼女を振り返り名を呼ぶ。
「沙矢」
驚いた様子で、何度が瞬きする。
「隣へ来ないか」
さっと手を差し出した。
遠慮がちに手を取る彼女をそのまま引き寄せる。
「……!? 」
呆気にとられている細い体を抱きすくめた。
長い髪に指を絡ませ、梳く。
腕が背中に回される。
「もっと近くにお前を感じたい」
抱き寄せた彼女の体を少し離して顔を見つめる。
顔を両手で押さえて覗きこんだ。
あどけなかった少女は、あっという間に大人になった。
頼りないほど細いけれど、女を濃厚に感じさせる体を
幾度と無く欲しいと感じてしまう。
体だけが目当てで側に置いているわけではない。
本気に一歩だけ足りない想いしかないだけ。
これでも愛しているのだ。
体を近づけようが心を遠くに置いていても。
「どうしたの?」
彼女は瞬きをしている。
「お前はどんどん綺麗になるなと」
「……うれしい」
「私が綺麗になってるんだとしたら、あなたのおかげね」
無邪気に笑う彼女の頬を包み込み、唇を重ねた。
ざぷんと押し寄せる波が、足に絡みつく。
息が苦しくなるくらいの時間、口づけをしていた。
熱が足りない。欲しい。
俺は彼女の唇を割り、舌を差し入れた。
背にしがみつき、彼女も舌を絡めてくる。
互いの口内を味わうと息が弾けるようだった。
彼女は声を出すのをこらえている。
持っていたバッグを地に落とし、微かに喘ぐ。
力を失くす体に逆らいきれず、
縺れ合い砂の上に倒れこんだ。
口づけを止め、耳朶を甘噛みをする。
ざらりとした舌で舐め、息を吹きかける。
「……や……んっ」
首筋に顔を埋め、問いかけた。
「どうして嫌なんだ?」
意地が悪いか。
「だって……こんな所で」
「……お前が欲しいんだ」
「……せい!」
彼女の名を呼ぶ声にカッと体が熱くなる。
ワンピースの中に手を潜り込ませ、下着の上から、胸を愛撫し始めた。
「あ……ん」
頬を染めた彼女から切ない声が漏れる。
「や、やっぱり駄目よ、海を見に来たんじゃない」
制止の声。
「そうだったな」
「服、悪い」
「ん、大丈夫」
ワンピースの砂を払い、彼女は立ち上がる。
俺はその手を引き、歩き出す。
ホテルへ戻ると、フロントからキーを受け取り、エレベーターに乗った。
急いた様子で、部屋の鍵を開ける。
そのまま手を引いていた彼女をベッドに押し倒した。
俺の部屋より狭いが、二人が愛し合うには十分の大きさ。
ワンピースのボタンに手をかけ、外していく。
三つ目のボタンを外した時には首筋に食らいついていた。
「青、今日……変」
いつもはこんなに乱暴じゃないのに。
「お前が欲しくてしょうがないんだ」
ただそれだけを言った。
俺よりも強く孤独を感じているのは沙矢なのだから。
「青……」
沈みかけの陽が差しこんでうっとうしい。
俺は寝台を抜け出てカーテンを閉めにいく。
「私も貴方が欲しい。私を全部受け取って?」
甘く囁きかける彼女が愛しい。
「夕食、ルームサービスでいいか?」
「いいわ」
そうしてフロントに電話をかけルームサービスを頼んだ。
どうもこの手の沈黙は間を持たせるのが辛い。
大して話すこともないし。
冷たいようだが、適当に言葉は見繕える性質ではないからな。
用意した言葉ならすんなり吐けるのだけれど、
気持ちの無い物になるのなら、口にしない方が良いではないか。
ボーイが料理を運んできた時、彼女は化粧を直し終わった所だった。
化粧をきちんと施した彼女は普段よりずっと大人びて見え、色っぽい。
共に食事を取り、二人別々に浴室へ行く。
先に入っていた俺は、待ち遠しくて仕方なかった。
素肌にバスローブを纏い、髪を適当にタオルで拭き、
一度部屋に戻った俺は、一服し、時間をもてあましていた。
カチャリと浴室の扉の開く音を聞きつけ、俺は急いで彼女の所へ向かう。
浴室から出てきたバスローブ姿の彼女を横抱きにした。
ベッドの上まで運びその体を横たえる。
見上げる視線さえ、俺を駆り立てる道具。
早速、バスローブの紐を解くと、軽い衣擦れの音がする。
あっという間に白い肢体が露になった。
自分もバスローブを脱ぎ去り、のしかかる。
肌と肌が触れ合うと、熱い欲望が脈打ち始めた。
体は、心よりも正直だ。心に繋がっているはずなのに。
耳朶を甘噛みし、耳筋を吸い上げる。
「ふ…っ……ん」
彼女は腕をシーツの上に投げ出し、身を任せている。
潤んだ瞳でこちらを見つめ、体を震わせた。
指は唇をなぞり、頂へと堕ちていく。
鎖骨の上で舌を転がし、口づけ、赤い痕を刻む。
両の頂を指で摘み、押したり、引っ込めたりした。
ふくらみを指で押したりしてつつくと、柔らかな弾力が、
こちらに、その存在を伝えてくる。
その度にあられもない喘ぎ声が耳を掠めた。
唇を頂に滑らせると、ついばむように口づけ、含み、放す。
舌で舐め上げる。
体を反らせ、反応する体に一層欲情を誘われた。
頂を舌先で舐めて味わった後、再び口に入れ、今度は吸う。
愛撫に敏感になっている体が何度も反り、寝台へと沈む。
至る所に朱を刻んだ。
首筋を吸い上げ、鎖骨の窪みを啄ばみ、
耳の裏側にも舌を這わせた。
彼女は体を揺らし、寝台に打ちつけている。
唇の愛撫により、両のふくらみは濡れそぼり、艶々と光っている。
その様もまた美しく目に映った。
硬くなった胸の頂を爪で引っかき、指先で弾く。
唇は彼女のそれに重ねられている。
舌を割り入れ、互いの舌を交差させ、口内を掻き回す。
喘ぎ、沈み続ける体に、ベッドの軋む音はひどくなる一方だ。
カーテンの隙間から漏れる月光が、微かに二人の裸身を映し出す。
耳朶に舌を這わせ、首筋から背に滑らせる。
背筋に口づけ、舌先は上から下へ、下から上へと行き来した。
両の頂をそれぞれの指で挟んで、房を掌で押さえて包み込む。
愛撫を加えると弾み、形を変える胸が可愛らしい。
体を抱き起こし、座位の姿勢。
彼女の小指を噛んで舌で吸い上げる。
「……っん」
倒れこんできた体とともに、ベッドに沈む。
彼女の体が上にあり自分の体が下にある状態へと体勢が入れ替わった。
腰に腕を回して抱え後ろから胸を揉み解す。
互いの両足を絡ませたあまりにも淫らな格好で、彼女は潤んだ声を零す。
上から聞こえる声は俺を一層扇情的な気分にさせた。
両腕は胸の下を辿り、下腹へと行き着く。
熱した部分をさわさわと撫で回し、指は足の付け根の間を弄り続ける。
滴る泉に指を差し入れた。
人差し指を出したり抜いたりし、本数を一本ずつ増やしていく。
湧き出る泉からぽたりぽたりと滴が流れ、俺の上を塗らした。
長い髪に鼻腔をくすぐられ、快感が高まる。
泉の湧き出る秘所を指で突く。
最初は一本から、入れる数を増やす。
片方の手では胸を撫で、頂やその周りをいじり回す。
段々と動きを早めながら指の出し抜きを繰り返す。
気づけば、既に反り返った己がどくどくと脈打っていた。
それを下から彼女に押しつけている状態も
そろそろ限界でたえられそうにない。
「いいか」
彼女の腰が宙に浮き、俺を迎え入れる体勢に
なっているのを見て、問いかけると、
「……お願い」
早く来て……青!
懇願する声が耳を打つ。
俺は指を引き抜くと自らの下着を放り、昂ぶりに素早くそれを纏わりつかせた。
入り口から中へ入ると彼女も俺も溜息をついていた。
時間をかけて、奥へ奥へぐいぐいと腰を進める。
片方の手は胸を愛撫をし、もう片方の手は、秘所へと忍び込ませて。
「あぁ……ん」
最奥まで鋭く突き上げる
何度か抜き差しして、刺し貫いた。
彼女も締めつけで応じた。
「せ……せい」
情事の時以外は、滅多に口にしない名前が彼女から零れる。
その甘い声でもっと名前を呼んで欲しいと願う。
か細く切れ切れに震えた声。
「さや」
愛しさが満ち溢れ、汗ばんだ肌に貼りついた髪を撫でてやる。
彼女の中はとても温かく気が遠くなりそうだ。
一旦己を引き抜き、彼女の体を仰向けにし、
今度は、正面から己を突き立てた。
ベッドに腕をついて、律動を始める。
奥底を己で掻き回す度に、きつく締めつけられた。
「はぁ……ん……青っ」
蕩けた顔をした彼女が、目に飛び込んでくる。
何かを求めているのか口を半開きにしていた。
両腕を俺の背中に回し、両の手を繋ぎ合わせてしがみついているようだ。
俺は、その唇を割り、舌を差し込んだ。
舌を縺れ合わせるくちゃくちゃという淫靡な音と、混じり合っていることで生じる水音。
前後運動をしながら、両の手は人差し指で尖った胸の頂をつっつき、
いやらしい手つきでふくらみを揉み込み続けている。
唇を彼女の唇から放し、右の頂に移動させた。
指で頂を挟んできつく吸う。
胸への愛撫を繰り返すのは、そうする事で彼女が一番悦ぶと知っているからだ。
つまりは一番感じる場所なのだろう。
挿入された瞬間の顔も、口づけを交わしている
時の顔も全て別の声と表情で悦びを表現する彼女。
俺と共に過ごして、彼女は変貌をし続ける。
彼女の左胸を弄んでいた手を放すと、体に回して唇を左胸へと移動させた。
舌先で頂を転がし、房を口に含む。
宙に反る体を掴んだ。
反る度に白い胸が揺れて、沈む時俺の体に触れてくる。
その感触がとても気持ち良く感じてしまう。
繰り返される激しい抽挿に、体は弛緩する。
汗を散らし、何度も彼女の上に覆い被さって、最奥を突き上げる。
「あああっん」
一段と高い嬌声が上がり、汗ばんだ艶かしい肌が倒れこんできた。
「せい……好き……好きなの」
掠れた声。
「さや」
甘い声で囁き、もう一度奥底まで突く。
「はぁ……はぁ……う……くっ」
絶頂を迎えた。
俺は己を一気に引き抜くと
体をびくびくと痙攣させ、薄膜越しに熱の奔流を解き放った。
急に引き抜かれた彼女が、
「くぅ……ん」
名残惜しげな声は明らかに俺自身を欲しがっていた。
「……貪欲な女だな」
思わず呟いてしまう。
どこまでも枯れない泉のような欲望で求めてくる彼女。
こんな姿を見られるのは俺だけだな。
まあ、他の男がこんな姿を見るなんて許さないが。
ぐったりと乱れた呼吸をする彼女の体を横向きにさせ、
自分も横向きに寝転がり、向かい合う。
結ばれた直後の女は、何と美しいのか。
また抱きたくなる。
いつまでも欲してしまう。
凝りもせず求め続けてしまう。
お前は気づいているのか、今日が何度目の夜かを。
俺はすべて覚えている。
どんな風に愛し合ったかも、愛したかも。
不思議と愛し方はどの夜も違う。
お前を飽きさせないことくらい容易い。
望みであれば、これからも色々魅せてやるさ。
さらりと黒髪を指に絡め、梳く。
腕の中で『女』になった彼女が、うっすらと目を開け、
「青……」
甘い声で呟いた。
俺はその頭を引き寄せる。
濡れた体にまた欲情を煽られていくようだ。
虚ろな瞳で体をくねらせて丸まっている彼女が、
いたいけで、壊してしまいたくなる。
否、これ以上どう壊すと?
散々弄んできたじゃないか。
彼女は抱かれるたびに新しい華を咲かせ、
俺なしじゃいられない体になってしまった。
俺もとっくに彼女なしではいられないのだが。
むくりとまた欲が首をもたげてしまう。
彼女の体の向きを変えた。
こちら側から見えるのは彼女の背中。
その上に覆い被さり、左の腕でベッドのシーツを掴む。
右の腕は彼女の体に回して、指で頂を押さえ、掌で胸のふくらみを包んだ。
「ふ……ぁぁんっ」
顔を覗き込むと彼女は狂おしそうな顔で喘いでいた。
鎖骨に舌を這わせ、体中の隅々に新たな痕を残す。
キスで意識を逸らせているその間にもう一度自身に準備を整え彼女の中に押し入る。
最奥の敏感な場所まで突き上げた。
深く舌を絡んだキスを交わし。
秘所にある敏感な蕾を幾度となく弾いた。
「や……んっ」
「ここがイイんだろ」
摘み上げ、唇を寄せる。
泉から溢れる物を飲み干すと、体が反った。
味わい深い果実は崇高で何よりも甘く。
こんなに気持ち良いのならずっとこうしているのも悪くない。
傲慢な悪戯心が湧き上るのを止められない俺は相当キてるな。
ただの遊びといえたら楽なのだが、そうも言えるはずもない。
ちゃんとした関係をゼロから始めたい。
もうお前以外見えないのだから。
モドル ススム モクジ
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