そんな日もある 1



 ハァァァ……と、やけに長い溜息をついて、それから空を見上げてみた。午前中まで青空が広がっていたはずの空は、今は灰色の雲に覆われどんよりとした空気を漂わせている。咥えた煙草を意味もなく上下に動かすと、不規則な形をした白い煙が灰色の雲に溶けていくようだった。
 ただでさえ気分が優れないというのに、この空の暗さといったら。
「あー……」
 余計に気分が滅入る気がして、サンジは知らずこめかみの辺りを押さえた。しかも、さっきから船の縁に凭れてあーあー、そればかり言っている。憂鬱になる一方だ。
 せめて、この気分と憂鬱にしている原因をなんとかできればいいのだが、それが出来れば苦労はしないというか。
「あー……」
 視線を横へずらし、晴れも曇りも関係なく元気にトレーニングしている背中を見つめた。
 これだ。これが憂鬱の原因なのだ。その背中へ向けて、さっきからずっと心が呼びかけているのだ。抱きつきたい、抱かれたい、キスをしたい。
 あけすけに言ってしまえば、セックスがしたい―――と。
 出来れば、今すぐ。
 曇りで太陽の位置がわからないが、一応まだまだ陽が高い時間。仲間も皆起きている、そんな健全たる時間帯に、サンジは何故か下半身から湧き上がる欲求に悩まされていた。



 別に、こんな昼間っから発情するほど、サンジは暇ではない。
 一日三回の食事の準備に始まり、後片付け。それが終わるとおやつの準備。夜は夜食。合間合間を見つけては、野郎共をせっついて男部屋の掃除に洗濯と、基本的な家事労働に終わりはない。唯一、心休まる時間といえば、女性達の横で給仕しながら過ごすティータイムぐらいだろうか。後は、寝る時。
 つまり、意外と忙しいのだ。
 それに、これといって飢えていたわけでもない。
 確かにここ数日、ゾロと接する時間が少なかった気はする。いつにも増してトラブルが続いたのが原因ともいえなくないが、しかし、そんなのは今に始まったことでもない。天候不順など日常茶飯事であるし、広い海の真ん中で海軍やら他の海賊にばったり出くわすことだってある。コックの仕事も忙しいが、海賊家業もそれなりに忙しかったりする。
 勿論、そんな状況でもヤるにはヤれるが、無理にアレコレして、いざという時、動けなくなってはシャレにならない。だから、ここしばらくは周りの状況をみて、そういったことは出来るだけ避けていたのだ。
 ただ、そんな時でもそれとなく隙を見つけてスキンシップを楽しむ程度に触れ合ったり、それぐらいはしていたはずだ。闇雲に人肌が恋しくなるほど、触れていないわけではない。
 それに、基本的にサンジ自身淡白な方だと思っている。ゾロを基準として考えるならば、であるが。
 何しろあの魔獣ときたら、見た目は強面で剣の道以外興味ありませんな感じなのに、いざヤるとなるとしつこくて、くどくて、エロいのだ。それに比べたら、自分の性欲など取るに足らない程度だ。
 そういった意味でも、最初の頃など本当に苦労したものだ。
 男として受け入れる側に甘んじている訳ではないが、結果としてそういうことになり、特に最初の頃……二人がこういう関係になった頃などは、精神的にも肉体的にもかなり辛かったりした。にもかかわらず、相手は自分本位なセックスばかりを求めて、それはもう揉めたりすれ違ったりと、いろんな葛藤があったりしたのだ。夜遅く、彼の気持ちがわからない……と、ラウンジの隅でそっと涙を流し――ということはなかったが、ゾロ専用、見た目は普通の激辛スープを作ったり、スペアの腹巻を全部解いたり、起こす時はマジックで顔に落書きしてから通常より二倍の威力で蹴りを入れたりと、あらゆる報復措置に余念がなかった。
 つまり、最初の頃は本当に大変だったのだ。ゾロが。
 そんな経緯があって、今の二人の関係がある。
 成り行きで始まった関係ではあるが、互いのことはそれなりに理解していると思う。陳腐なことを言えば、身体を重ねた数だけ相手のことがわかってきたのかもしれない。
 今更、口に出してアレコレ言ったりはしないが、気持ちが一方通行ではないことくらい承知している。魔獣が「思いやり」ということを憶えてからは、その気持ちに余裕も出来た。
 今では、以前なら絶対、口が避けても言わないようなことまで言ったりするほどだ。甘えたり、甘やかしてみたりなど、かなり末期だという自覚はある。
 自覚はあるが、それを断ち切ろうとは思わない。
 そんな感じで、最近は上手くいっている。
 だから、気持ちが充実している分、いくらゾロに触れる回数が減って、セックスする機会があまりなかったとしても、こんなあからさまに欲求不満になるはずがないのだ。
 それがどうだ。
 さっきから、ピンク色した妄想が止まらない。今すぐにでも、ゾロの傍に駆け寄って抱きつきたいのだ。あのがっちりした首筋に腕をまわして、無理矢理にでもこちらを振り向かせたい。
「あー……」
 溜息をついてもついても、一向にその欲求は薄れない。それどころか、溜まっていくばかりだ。非常に困った。
 このままでは、白昼堂々、皆がいるこの甲板で勃起しかねない。すでに半分くらい硬くなっているような気もする。自分の股間の辺りを見下ろせば、なだらかな山が出来ていた。
 振り払っても振り払っても、ヤりたい抱きつきたいという欲が頭をもたげる。火がくすぶって消えないように、湧き上がった欲望は中々消し去る事が出来ない。しかも、それをしょうがないことだと切る捨てることも出来ない。
 困った。本当に困った。なんでこんな取り付いたように、ヤりたいヤりたいと思ってしまうのか。
 切欠に心当たりはある。おそらく、昼食のあの時だ。
 ルフィが自分へ抱きついてきた―――あれが原因だ。



2005/06/21掲載

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