掃除も終わって、来週がテストだからテスト勉強をさせるために部活もなくって、自習室へ行く人あり職員室へ質問に行く人あり塾へ一直線の人あり。ゲーセンとかカラオケは教師が抜き打ち調査に行くのでスリルがある。それでも行くやつは行くんだけど。
 私は自宅で復習派だからたまに先生のとこ行ったりするくらい。それでも結構成績はよかったりする。頭の出来が違うっていうか? なんて言おうものなら友達にグーパンされてしまうし、ウソです。普通に授業受けてて、解らなかったら解けるまでいろんな先生にヒントもらえばなんとかなったりするもんだ。
ちゃーん、旦那のところ寄って帰ろー!」
「あ、うん!」
 教室の窓から身を乗り出して廊下を歩いている私に佐助君が声をかけてきて、慌てて返事をした。走って教室に戻ると教科書やノートをカバンに詰める。友達にバイバイって手を振って帰る。廊下には先に出てた佐助君が女の子と楽しそうに話をしてました。
 ……そういえばこういうのって初めて見るかも。私? 私は現実のイケメンに興味はありません。二次元とか二次元とか二次元とかがいたら私のところに来なさい。だからお昼の集団でもなんともなかったわけで。
「……お待たせ、佐助君」
 控えめーに呼んでみると、佐助君はすぐにこっちを見た。
「うん。――じゃ、また明日ね」
「バイバイ佐助!」
 佐助君がにっこり女の子に笑うと、女の子も可愛く笑う。微笑ましい。渡り廊下を歩いて第一棟に向かいながら聞いてみた。
「さっきの子、彼女?」
「はぁ!?」
 おお、佐助君がめちゃくちゃビックリしてます。
「だってかわいい子で親しげだったからそうなのかなー、と」
「んなわけないでしょ……」
「てか、こういうのによくある、女子にキャーキャー言われてるのもなかったし、どうなってんの?」
 小声で疑問を口にした。気にはなっていたんです。同じように声量を下げて答える佐助君。
「もともと、BASARAキャラが存在する世界だからね。俺達は特別ってワケじゃない」
「ゲームの時代設定を現代に持ってきたようなものってこと?」
「簡単に言えば。すこーしだけ他の人より傑出した部分もあるけど、ちゃんの元の世界で俺達と同じ名前の人物もそうだったからこそ、歴史に残ってるだろ?」
「なるほどね」
 なんとなく理解した。BASARAキャラにはイケメンが多いけど、それがデフォルトだからチヤホヤされまくることもない。一騎当千の力を発揮しても同じく。一般人も、この人達は自分達とは違うんだ、とみんなわかっているんだろう。
「物分かりがよくて助かるなァ。……俺様、ちゃんのナビゲータになれてよかった」
 嬉しそうに目を細めた佐助君に急に恥ずかしくなって俯いた。


「旦那ァ、帰るよー」
 二年四組のクラスを覗いて呼びかけた佐助君にはすぐに答えがあった。
「おお、佐助! 今行く! それではまた明日でござる、お市殿!」
「さよなら……」
 ええー! 破廉恥幸村君がお市と普通に会話してた! つい事情を知りたくなるでしょうよ!
「幸村君幸村君、お市、ちゃんと仲いいの!?」
「浅井殿は少し遅れるとのことで、某が話し相手を務めておりました。迎えが来たら先に帰っても良いと言われておりましたゆえ!」
「へ、へー……」
 コメントのしようがない。午前中に佐助君が言ってた、一般常識があって頭もいい幸村君がここにいる。予想を裏切られてショックな私に、ほらね、みたいな顔をする佐助君が憎いです。
「帰りにコンビニ寄ろうよ。雑誌出てるんだ」
「豆大福にするか、酒まんじゅうにするか……」
「……今日はレモンティにしよ」
 今さらだけど、サチとユキともこんな感じだから、この二人ともそんなに気を使わずに一緒にいられるんだと気がついた。私は世界の中心じゃないし設定はあるそうだけど、世界は優しかった。
 自転車に乗って話しながらゆっくり帰るのが楽しい。たぶん、明日の朝には元の世界に戻っているだろうから、思いっきり今の幸せを満喫することにした。


 うちの学校の生徒でそこそこ混んでるコンビニで佐助君はお目当てのテレビ雑誌(アイドルが表紙なのをからかったら冷たい目をされた)を手に取り、私は紙パックジュースを奥から取って、幸村君は散々悩んだ挙句に水まんじゅうにした。新発売! のポップに負けたらしい。
 自転車をこぎながらジュースを飲む。歩き食いは行儀が悪いと幸村君に叱られたけど気にしない。喉が渇いてたんです。
「旦那のウチは旧家だから、特に躾が厳しいもんね」
「昔はどこもそうなのだと思っておった……」
「私もじいちゃんばあちゃんにはきつく言われてたけど。それに家じゃちゃんとしてるし」
 ズッ、とジュースを飲み損ねたストローが大きな音を立てた。顔をしかめる幸村君に苦笑いを返す。今のは自分でもちょっとないと思う。
 と、思い出したように幸村君が私達を見た。
「そうでござった。母上が佐助と殿をまた夕食にどうかと言っていたのだが」
 幸村君の言葉に佐助君がはしゃぎだす。えっ、そういう設定? お館様のとこで同居とかじゃないんだ?
「マジ? 行く行く! ウチの親なんて時間がないからって手抜き料理しかしないんだもん、旦那が羨ましいよ」
「佐助の御母堂もそれについては申し訳ないと思っていると、母上が」
「そう思うんだったらそれを示してみせてほしいっての」
「忙しいのだ、仕方あるまい。殿はいかがでござろう」
 こっちに振られても困る。前に行ったことがあるような口ぶりなんだけど、私は知らないし。うーん、と悩む素振りでごまかすことにした。
「そうだねー、ご迷惑じゃなかったら……」
「迷惑などと! それではぜひ!」
 無邪気に喜ぶ幸村君を見ると心苦しい。それからたくさん話をしたけど、あんまり頭に入ってこなかった。


「それでは、某は道場へ行くのでここで」
 部活が休みだから、幸村君は近くの剣道場で自主練をさせてもらうらしい。
「気をつけてね」
「また明日、旦那」
「うむ。お二人も」
 手を振って別れて、幸村君が背を向けて遠ざかっていくのを見送る。隣の佐助君が何か言いたそうにしているから、顔が上げられない。
「……さよなら、って言うべきだった?」
ちゃんはどう思った?」
 こっちが質問したのに、逆に問い返されて。正直に答えるしかなさそうだ。見上げた佐助君は、何を思っているのかわからない表情。
「……言いたくなかった」
「どうして?」
「一日で終わり、今日だけの夢物語ってわかってても、楽しかったから。さよならって言っちゃうと……、それを実感しちゃって泣きそう」
 なんとか笑ってみせようとしたけど、ちょっと難しかった。たった一日のできごとが次々に思い浮かんでは消えていく。でも、心を決めた。
「楽しかったなー! 佐助君、今日は本当にありがと! 色々とお世話になりました!」
 直角になるくらいお辞儀をして、心の底からの感謝を伝える。わけのわからない状態でこんなに楽しく過ごせたのは佐助君の助力あってこそ。そう思えば自然と笑みもこぼれてくるというもの。
 パチパチと瞬いた後、照れたように笑った佐助君がどういたしまして、と言った。
「俺様も楽しかったよ。アリガトね、ちゃん」
「それはよかった! 『大変だった、しね』とか言われたら立ち直れない!」
「あはー、そんなこと言うわけないでしょ。……ねぇ、ちゃん」
 すっとマジメな顔になった佐助君に、何か大事なことを言われるのかと思わず構えた。
「なに?」
「このまま、この世界にいるつもりはない?」
 ボルドーみたいな色の髪を揺らして、佐助君はすごく真剣な目をして、言う。……どうしてそんなことを、そんな顔していうの。
「……いられないよ」
「どうして?」
「だって、私には私の暮らす普通の世界があって……。佐助君達はゲームのキャラで、本当はこんなことってあるわけなくて……。パラレルだから、楽しかったですませられるんだと思う」
 一生懸命言い訳にならない言葉を口にする私に、佐助君は動じない。小さく息を吐いて、本気の声でこんなことを言う。
「俺様は、ちゃんにいてほしい」
「どうして……」
「ここにいるかぎり、ちゃんもこの世界の一人だから俺と何の違いもないし、これが現実なんだよ。一日、ちゃんの傍にいて頼られて、すごく居心地がよくて幸せだった。きっと最初からこうなるって決まってたんだ」
 まるで告白されている気分。実際そうなんだけど、信じられなくて呆然とするしかできない。
「佐助君……」
「俺のために、この世界にいてくれませんか」
 ……黙って、微笑んだ。
「ありがとう……!」
 佐助君のために、私はこの世界の端っこにいさせてもらおう。私のためじゃなく、佐助君のため。そう思ったとたんに頭痛がして、私はこの世界の存在となっているんだと気付いた。さようなら、元の世界の私とみんな――。


 頭痛が止んで、ふと思い出した。そう、それはとても重要なことを。
「あ、でもゴメン、私二次元にしか興味ない」
「ウソだろー!?」









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2010/10/12
2010/10/14 訂正
朝起きたら学園BASARAで主人公はごく普通の腐ってる高校生、とのリクエストでした。無双の説明に一番力が入っているのは仕様です。
ホントは主人公の属性とか1〜3までの全キャラの設定とか細かく決めているんですが、出してもしょうがないので自己満ですませておきます。
よしわたり



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