「佐助! 殿!」
「お、いたいた」
 ぶんぶんと手を振る赤ハチマキの幸村君、とその周りの悪目立ちしすぎのメンバー。もしかしなくても彼らとお昼ですよね。そこだけ異空間になってますが気にしちゃ負けだ。
「おせえぞ。猿飛、
 あ、アニキー……! なんで空調の効いた室内で肩からかけた学ランの袖がなびいてんの? 気にしちゃ負けだ。
「ふん、どこぞで油でも売っていたんだろう」
 うわーい金髪お姉さんだー同級らしいけど。気にしちゃ……。
「まあまあ、みんな! 腹が減ったからって気が立ってちゃうまいメシもまずくなっちまうぜ!」
 広げているのはまつねえちゃんのお手製のお弁当ですよねうらやましい。この学校っていつからペット持ち込みOKになったんだっけ。
「ほらよ、味噌ラーメン大盛り」
 食券が切れ味鋭く飛びました! 何事もなくキャッチされました!
「…………」
 目、見えてます?
「さっさと座れ」
 命令口調がサマになってます毛利様!
「姫は今日、委員会で来れないそうだ」
 疲れるわけをここに来て知りました。先に言ってよ孫市ィ!
「そんじゃ俺様並んでくるわ。先食べててよ」
 食券をヒラヒラさせて一階に下りていった佐助君。どうやら男子と女子とに分かれて座ってる。ちょっと待って、これはマズイ。冷や汗を隠しながら、ススーっと孫市さんの横に座った。
「いただきます!」
「毎日毎日重箱三段もよく食べるな」
「食べねば強くなれませぬぞ、政宗殿!」
「そうだよ独眼竜、身長も伸びないよ!」
「Shut up! そのうち伸びるんだよ!」
「へえ、ここ三年ずっと同じセリフ聞いてるけどなあ」
「…………」
「かすがちゃんとか孫市みたいに胸になるんだったりして!」
「はっは! そりゃいい!」
「はれんち!」
「NO! んなわけねーだろ!」
「おえー、想像しちまったじゃん……」
「煩いわ」
 賑やかな男子どもとうってかわって静かな女子。三人しかいないし、何話していいかわかんないし、どうしろっていうんだ……!
「あ、そうだ。昨日うっかりアドレス全部消しちゃってさ。ゴメンだけど後で教えてくれないかな?」
 アイルーとプーギーのストラップが付いたケータイを取り出して二人を見る。呆れたと溜息を吐くかすがさんと、からすだなと控えめに苦笑いする孫市さん。が、眼福なんて思って……ます。超眼福。拝んどこ。
 ピ、と赤外線通信で電話番号もメールアドレスも名前も一気に登録! 楽でいいよね。
「かすがさんとー、」
「気味が悪いぞ、。さんづけしたりして」
「あ、あはは、そう? かすがちゃん……って三代目雑賀孫市ってなに!?」
「今さら何を言う。今までどおりサヤカで登録しておけばいい」
「え、あ、ハイ、サヤカちゃん……」
 なんとかコミュニケーションは取れました! 達成感でいっぱいです。ぬっと誰かが首を伸ばしてきて顔を上げると、前田君がニッコニコしている。キキッと夢吉も笑ってる。和むわあ。
「なんだいなんだい、女の子ばっかり仲良くしちゃって! 俺のアドレスも聞いてよ!」
「あ、うん」
 前田君からデータ受信した私のケータイはあれよあれよと全員分のデータをゲットして戻ってきた。待ち受けが必死でご飯をむさぼっている幸村君にされていたのでそっと消しといた。かなりブサイクだったそれは私と毛利君だけの秘密です。すました顔してなんて人だ……! 待ち受けに吹き出しかけた私を見て、うっすら笑ってるのが怖い。


 そんな感じで昼休みは終わり、残りの授業を受けに教室に戻る。幸村君は二年生だから別棟。幸村君が歩いていった方からすごい叫び声がした。
「ィイイエヤスゥゥウウウウ!!!」
 ビクリとして立ち止まると、いつものこといつものこと、と佐助君が軽い口調で言う。
「ハハハ! 三成、なんでもワシのせいにするのはよしてくれ!」
「貴様を許さない!」
「!!!!!」
「退けッ! 残滅してやるゥウウ!!」
 あんまりおっかないんで他の人にならって無視することにします。これも日常? おかしくね?
「あー……まだ三限も残ってる……」
 教室に帰るとすぐ、机の上でぐだーっと脱力した。クツクツと笑ってる佐助君が憎い。爆発しろ。
「サボっちゃう?」
「そんなことしません。私マジメだし」
「じゃ、次、右目の旦那だからがんばってー」
「ライティングが!? あの!?」
 大学の農学部とかにいた方がいいと思う、あの人。発音はやっぱりレッツパーリィなんだろうか。
「とーっても厳しいから気をつけて」
 またニヤニヤしながら自分の席に戻った佐助君を全力で恨む。チャイムが鳴るより早く、ガラリと勢いよくドアを開けて片倉小十郎、先生のご登場です。マジこえー……。私語もピタッと止んで、クラスの雰囲気が一瞬で変わった。あ、これ居眠りしたら極殺とか? 眠気は敵前逃亡してとっくの昔にいなくなってるけどね!


 予想を裏切ることないパーリィでしたが、私は無事帰還しました。居眠りしかけた男子の額に青白く光ったチョークを突き刺さした片倉先生の額には、一筋の前髪がはらりと……。チョークの無駄遣いにも厳しくなったっておじいちゃん先生とかはボヤいてるのに! そんなのお構いなしな片倉先生に痺れません憧れません。ひたすら怖かった……。発音は特におかしくなかったのはなぜなんだぜ。
「お疲れー。次、移動教室だぜ」
 ヘラヘラ笑って現れた佐助君。じっと睨むとヘラっと肩をすくめた。
「美術は一緒だから安心しなって。風のもいるしさ。ま、教師は……」
「…………」
「うわっ!」
「ちょっ、だから人を盾にすんのやめて!」
 背後霊のごとく風魔君が立っていて、つい朝と同じことをした。風魔君は「こいつ、できる……!」といった顔をしている(感じがした)。
「どしたの、風の。……ああ、遅れると怖いしな、あの人」
 もう織田信長か松永久秀が来ない限り驚かない。
「今度は誰ー?」
「松永の野郎」
「…………」
 はい死んだ。
「きゅ、急に腹痛が痛くなって……うーん授業受けれそうにないなー!」
「アハー、さっきまでピンピンしてたよね」
「…………」
 佐助君と風魔君に両腕を掴まれて引きずられていく。伊達君が指差して爆笑してたのと、毛利君がバカにしたように見下してきたのはチェックした。後で見てろ!
 美術教室は独特の空気があって、生徒もその、なんていうか、BASARAキャラじゃなくても個性的な人ばっかりで、いつもはそれが好きだったりするんだけど、今日ばっかりは逃げ出したい。
「さて。授業を始めよう」
 チャイムきっかりに教卓の前に立った松永久秀はゆったりと芝居がかった口ぶりでそう言った。とはいえ、画材ないからすることわかんないんだけど。
「今日はそうだな、天気がいいから写生でもしに行くとしよう。――東大寺まで」
 ムリだから! つか爆破する気!? 危うく声に出してツッコむところだった。ざわ……ざわ……となる教室に、松永はさもおかしげに笑う。
「冗談だ。各自鉛筆とスケッチブックを持って職員玄関前集合。では」
 はははと笑い声だけ残して松永は消えた。足、速いなー……。そんなキャラだったっけ?
「風魔は先行ってるってさ。あいつも北条のじいさんやら松永やらにパシられてご苦労なこって」
「へっ?」
「気付かなかった? 松永連れて消えたの」
 きょとんとしている佐助君ですが、一般人の私が気付けるわけがないでしょうよ。スケッチブックとペンケースを持つとのろりと立ち上がる。
「行こう、佐助君」
ちゃんから誘ってくれた……! 俺様大感激ッ!」
「ヨカッタネー」
 普段からそれほどテンション高いわけじゃないけど、いい加減ウザくなってきて、特に会話もなく職員玄関前に着いた。松永先生の先導で学校を出て、近所の市立博物館まで行くらしい。道中説明されたのは、そこで授業時間内に何か一つ選んで写生を終えること、できなければ単位はないこと、描く対象が先生の目に適うものでなければ点数は低くなること、だった。厳しすぎるよ!
 平日の午後、ガラガラの博物館に20人ほどの学生があちこちで一心に写生を始める。そりゃ成績かかってますから。かくいう私もせっせと白磁の首の長い花器を描いていた。シュッとしたフォルムに一目ぼれして、よくよく見ると膨らんだ胴の部分には花の模様があって、そのバランスの見事さに思わず溜息を吐いてしまったくらい。佐助君は入口にあった裸婦の銅像を描いてるはずだ。男子はこれだから!
「ほう、趣味がいい」
「ひぇっ!」
 突然の声に楯の佐助君もおらず、スケッチブックでとっさにガードをしたら、松永先生が立っていた。
「これはこのような所に置いておくには聊か勿体無いと思わないかね?」
 そう言われましても、大名家の重鎮が何かの功績に殿様直々に賜った品を子孫が寄贈、って書いてあるんだからここにあるべきなんじゃ。
「いやー、私にはなんとも……」
「ふむ……」
 意味深な笑顔を残して他の生徒の方へ向かった松永先生に胸をなで下ろす。こんなところで爆破されたらたまったもんじゃないぞ! 主に私に被害があるという点で。


 私は無事に作品も完成してスケッチブックを提出し、学校に戻ってきたわけですが。美術選択の一部の人の顔色が非常にすぐれません。爆破はされなかったものの、先生の変な質問にまともに答えてしまったばっかりに、延々と話を振られて邪魔されて完成させられなかった人達らしい。かわいそうに。
 教室に戻った時にはクタクタで、椅子にだらしなく座ってぼーっとしていた。
「ようやく本日最後の授業なわけですが。ちゃん、現在の心境をどうぞ」
 リポーターっぽく握り拳をマイクに見立ててこちらに向ける佐助君にうんざり首を動かす。いつもの数倍疲れた。今日がバイトのない日でよかった。
「へんじがない ただの しかばねの ようだ」
「お疲れの様子ですがお知らせでーす。なんと次のリーディングはザビー、」
「はぁ!? ……!」
「ぐはっ!」
 飛び起きた拍子に佐助君と思いっきり頭をぶつけた。火花が飛んだよ。
「そ、それよりザビーって校長なのに?」
「南蛮我道なんてどこ吹く風、聖人君子とか自己犠牲ってカンジ。自分で授業持ってる。三年のだけだけど」
「愛について力説したりとか、変な訓戒押し付けたりとか……」
「ないない。リアル髭の生えた天使。ま、そのせいで変な集団ができちゃってるけどねー」
 あの悪夢のような小さな髭天使がフワフワ頭の中に浮かぶのをちぎっては投げちぎっては投げする。どっかいけ。悶々としてる間にチャイムが鳴ってみんな席に着き始めてた。そして現れた巨漢の、ぱっと見、敬虔なクリスチャン(大航海時代)。大きな青い目が私と佐助君を見てにっこり笑った。
「猿飛サーン、着席デスヨ」
「はーいはい」
 ちょっと肩をすくめた佐助君は大人しく席に戻って、ドキドキの授業が始まった。


「愛ミナギル……!」
「えっ……、ちゃん正気に戻って!」
「冗談だけど。でもなんていいザビー……!」
 あんな驚くほど毒気のないザビーにイロモノ枠は似合わない。英語の発音よすぎ。さすがネイティブ……なの? あやしい日本語は相変わらずだったけど。教師の鑑。いや、人間の鑑。ひたすらザビーを褒め称えていたら佐助君にストップをかけられた。
「もうわかったから! 正気に戻ろう!」
「正気ですが何か」
「ほらー! そうやって変な集団ができちまうの! 一年の大友なんていい例だよ! 授業受けたこともない癖にさ」
「大友?」
 知らない名前が出てきた。3の新キャラだろうか。顔にそれが現れていたのか、佐助君は頷いて説明してくれる。
「大友宗麟。自称ザビー教の布教第一人者。……毛利の旦那もその集団の一員だったんだけど、今は黒歴史だから」
「サンデーやめたの?」
 あれあってこその毛利君だと思うんだけどな。佐助君の顔が怖いです。
「トラウマってレベルじゃないから、絶対に口にしないように」
「は、はい」
 じゃあチェスト島津はどうなってるんだ……。気になるけど首突っ込むと抜け出せなくなりそうなのでいいっか!
「ほら、さっさと掃除行った行った! 物理教室でしょ」
「今週はそうだったっけ。遠いしめんどくさー……」
「俺様教室だから。また後でね」
 ヘラヘラと笑う佐助君に今日で何度苛立ちを覚えたことか。









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2010/10/12
2010/10/14 訂正
よしわたり



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