『koakuma』


安宿の薄く曇った窓から見える秋島の街並みは、古びた石畳作りの目抜き通りを挟んで、
破風で装飾された館が立ち並んでいた。
その様は、俺の駐屯地であるロークダウンを何処かしら思わせた。
しとしとと細かく降る雨は一向に止む気配もなく、空を覆う雲はますます厚みを増すばかりだった。
―――ああ、そうだ。
麦わら―――ルフィ―――と初めてロークダウンで会った日も、こんな日だった。
あの時は、ただの売り出し中の賞金首だとばかり思っていた。女だてらに3000ベリー、大したもんだ。
そのくらいにしか思わなかった。
まさかこんな風になるとは、思ってなんざいなかったさ。
俺も、そして、多分麦わら自身も。

咥えていた何本目かの葉巻をベッドサイドの灰皿に押し付け、新しいのを取り出した。
ケースを見れば、残りは少ない。吸い口を噛み切って火をつけ、白煙を吐き出しながら、独り言のように呟く。


あの時、俺が麦わらを捕まえていれば。
そうすれば、恐らく、いや絶対。こんなことにはならなかっただろう。


ばたばたとせわしなく階段を駆け上る不躾な足音。奴だ、とわかる。
「ケームリーン、買ってきたぞお!」
ノックもなしに扉が開く。息を切らし、蚊トンボのように細い手足と比べ,不釣合いなほど膨らんだ胸を
揺らしながら麦わらが部屋に入って来た。その手には頼んでおいた使いの紙袋。
煙草店の店名を印した青いインクがハトロン紙に滲んでいる。
「あんまり無い銘柄なんだな、3,4軒は回ったぞ」
「ああ、悪ぃな…」
差し出された紙袋を受け取り、中を改める。葉巻を頼んでおいたのだった。
「お釣り、40ベリーあった」
「いらん、駄賃だ。やる」
「サンキュ♪」
10ベリー銅貨数枚を嬉しそうにポケットに入れ、麦わらはにしし、といつものように歯を見せて笑う。
その身体はうっすらと濡れていた。
「…シャワー、浴びてきたらどうだ?」
「ああ、…ん、まぁ、いいや、後で」
どすん、と派手な音を立ててベッドに登り、俺の隣に腰掛ける。
被っていた麦藁帽子をサイドボードに置いて、ごろんと白いシーツの上に寝転がった。
「…どうせ、汚れちまうしな」
そう言うと、健康的に焼けた細い手が伸び、俺の服を掴んだ。
「……」
「……ケームリン、?」
囁くように名を呼ばれた。
麦わらを見ると、潤んだ大きな瞳。濡れた薄い唇。そして、赤いノースリーブの奥で、はちきれんばかりに
膨らんでいる胸が目に付いた。
さっきまでのガキっぽさや粗雑さは何処へか消え去り、紛れもない「女」の顔をした奴がそこにいた。
「……っ、」
思わずごくりと息を呑んだ。普段の、粗野で子供じみたこいつからは想像も出来ない色香が漂っていた。
何度身体を重ねても、この瞬間…麦わらが「女」になるこの瞬間だけはどうにも慣れなかった。
「…ああ、そうだな」
俺は恐る恐る、自分の服を掴む奴の手に、己の手を添えた。

 



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