先生の住むアパートは、駅から徒歩三分ほどの場所にあった。
 アパートの外観は、築二十年以上は経っていそうな、お世辞にもキレイだとは言えないものだったけど、招き入
れられた狭い部屋の中は、男のひとり暮しにしては片付いているなと思った。
 一方の壁を占領している本棚には、医学の専門書から一部マンガの文庫本までがぎっしりと詰まっている。机
にも専門書が並び、ベッドには落ち着いた青系のカバーがかけられていた。台所に鍋などの調理器具が少ない
のは、食事を外ですませてるからだろうか。
「コーヒーでも入れようか」
 先生はそう言いながら、キッチンに立ち、カップを用意しはじめた。
「いい。飲み物買ってきたんだ」
 俺がそう言ってビニール袋から取り出したのは、三五〇ミリリットル入りの缶ビール二本。先生が迎えに来る前
に、駅の売店で買ったものだ。まだ冷えている。
「あ、あらたッ、お前、未成年だろ!」
 俺の手の中にあるビールに目を留めると、先生は声を上げた。
 予想どおりの反応。こういうことには厳しい先生が、黙って見過ごすはずがない。
 俺はさっさとプルトップを空け、あふれだした泡に口をつけると、もう一つの缶を先生に差し出す。
「先生も飲まない? よく冷え」
 俺が言い終らないうちに、手にしていた二つの缶ビールは先生に取り上げられてしまった。
「酒は二十歳になってからだ。これは没収ッ!」
 頭カタイなあと思いつつ、こういうところも良いんだよなと思う。
 生徒が間違ったことをすれば叱りはするけど、人格を否定するような言い方は絶対にしない。だからだろうな。
先生の悪口や、よくない噂は聞いたことがない。
「えー、せっかく買ってきたのに」
 唇を尖らせて、まさかソレ捨てたりしないよね、と付け加える。
「……僕が飲む!」
 その言葉を聞いた瞬間、俺は陰でニヤリと笑った。
 先生がアルコールに弱いことを教師連中から聞き出して知っているからだ。
「ちぇー」
 わざと残念そうに舌打ちしてみせる。
 俺からビールを取り上げた先生は、手に持った缶ビールをジッと見つめ、思い切ったように缶の飲み口に唇を
当てて一気に喉へと流し込んだ。
「おおー、いい飲みっぷり!」
 なんと、酒に弱いと聞いていた先生は、あっという間に喉を鳴らしてビールを飲み干してしまった。
 教師連中の話はガセだったのかと思いかけたとき、空になったアルミ缶をテーブルに置いた先生は、倒れるよ
うにベッドサイドにもたれかかった。
「せ、先生?」
「熱い…」
 目は潤み、頬は紅潮し、気だるげにベッドサイドに身体を預けている様は、おそらくその気のないヤツが見て
も、かなりゾクリとくるだろう。
 普段の生真面目でストイックな彼とは、別人のようだ。
「…大丈夫か? 一気に飲んだりするから」
 先生に近づき、身体を支え顔を覗きこむ。
「んー…?」
 誘うように見える潤んだ瞳を間近に見て、一気に心拍数が増した。
「…ビデオ、観ないのかよ…」
 そっと、ピンク色に染まった頬に触れてみる。
 暖かい。
 何度、こういう状況を夢見たことだろう。
 でもこれは、夢なんかじゃない。
 現実であることを確かめるように、頬のラインをたどる。
「きもちい…」
 うっすらと開いていた瞳が、気持ち良さそうに閉じられ、すぐに穏やかな寝息がもれはじめた。
 微笑んでいるように見える寝顔に、さらに鼓動が速くなっていく。
「……ごめんな、先生」
 俺はゆっくりと顔を近づけ、先生の濡れたように見える唇に唇で触れた。
 興奮に震える手で、シャツのボタンをひとつずつゆっくりと外していく。シャツの前を開くと、アルコールでピンク
に染まったきめの細かい肌が露わになり、思わずゴクリと唾を飲み込んだ。吸い寄せられるようにそこに口づけ、
証拠となる赤い痕をいくつもいくつも残していく。口づけるたびに、身体がピクピクと震えるのが可愛くてたまらな
い。
 彼の悩ましい表情に、俺の身体も火照りはじめる。
 胸の突起に吸いつきながら、彼のズボンのベルトを外し、下着の中の膨らみに触れると、
「……んっ…」
目を閉じたままの先生から、掠れた色っぽい声がもれた。
 彼の乱れた吐息をBGMに彼のものを握り、焦らすように撫で上げながら、耳朶に口づけ囁く。
「先生………好きだ…」
 ずっと胸の内にしまっていた想い。
 聴こえないとわかっているからこそ、口にできる言葉。
 声に出してしまえば、ますます愛しさがこみあげてくる。
 先生の服を全て脱がせてしまうと、今度は、深く深く貪るように口づけた………。
 
 
 
 カーテンの隙間から差し込む光に、先生は眩しそうに目を開けた。
「おはよう、先生」
 俺が覗き込んで声をかけると、
「!? ……ああ、遊びに来てたんだったな」
先生は体を起こし、二日酔いの頭を押さえて顔をしかめたが、自分の素肌からするりと落ちるタオルケットと、隣
りにいる俺の裸を見て、ピタリと動きを止めた。
 思考もストップしてしまっているらしく、石化したように固まっている。
 事態がよく呑み込めずにいるらしい先生の唇に、俺は軽く唇を触れさせた。
 先生は瞬時に俺から数センチほど飛び退くと、慌てて手の甲で唇を拭った。
「ああああ、あ、あ、新、何を…!」
「覚えてない? 昨夜のこと」
 覚えているはずがない。先生は酔って眠ってたんだから。
 俺の言葉に、先生は何とか状況を理解しようと、あたりを見まわした。
 俺が裸であること、自分までが裸で肌にはキスマークが点々と残っていること、ベッドのシーツは皺くちゃで床に
は丸まったティッシュが散らばっているのを見て、ようやくひとつの結論に達したらしい。一気にその顔が青ざめ
た。
「まさか…」
「まさか、先生の方から誘ってくるとは思わなかったな」
 記憶がないことをいいことに、俺は酔った先生に誘惑されて、そのまま身体の関係を持ってしまった、と嘘を並
べたてた。
 先生は俺の話を全て信じてしまったらしく、顔色は変わらないまま頭を抱えてしまった。
「来週も遊びに来るからヨロシク」
 俺は無邪気に見えるだろう笑顔を貼りつけて言い放った。


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