Curiosity killed tha cat.

<7>


 次の日、スパイクはどこかふわふわと浮いたような、或いは水の中に漂っているような感覚からぼんやりと目を覚ました。
 目を開けてすぐには頭がはっきりせず、魂の抜けたような顔で天井を見つめ、しばらくしてようやく記憶が戻り始める。
 ちらりと枕元の時計に目をやれば、映ったのはとっくに陽も高く昇っている時刻だった。
 もうこんな時間か、と頭の片隅で思うが疲れ切った体は鉛のように重く、起き上がるのは至難の業のように思えた。
 視線をのろのろと隣に巡らせると、そこにはまだ疲れた顔で寝入ったままのフェイがいた。
 なだらかな肩が僅かに上下し、唇から洩れる細い寝息がゆるゆると伝わってくる。
 ぐったりと枕に顔をうずめている彼女の様子から、当分起きる気配はなさそうだった。
 流石にやりすぎたか、とこちらも鈍い思考の中でぼんやり思う。が、そもそもこのような状況になる原因を作ったのも元はといえば彼女の方だ、と自分を納得させることにする。
 ──昨夜、この部屋に入ってからどれだけの間、フェイを求めたのかははっきりとは覚えていない。昼近くになっても全然疲れが抜けていない体の様子からして、もしかしたら明け方近くまで抱き続けていたのかもしれない。
 ただ、激しい情事の中で感じた彼女の甘い声、艶やかな面差し、柔らかな肌の温もり、そして彼を受け入れた蕩けるような甘美な熱──それらの感覚は今もはっきりと彼の脳裏に焼きついていた。
 薬のせいとはいえ、あれほど我を忘れて女を欲した経験は、正直今まで記憶にない気がする。
 そして、彼のその執拗な求めに最後まで応え続けた女も。
 もし、これが他の女だったなら──ここまでの充足感を味わえただろうか。
 そんな考えがふと浮かび、しかしその先を答えたくないような認めたくないような、奇妙な感情がよぎった。
 それがなぜなのかは彼にもわからなかったが、とりあえず疲れた頭で考えても仕方がないと思うことにする。
 それより今は──腕に感じる女の温もりに、もう少し浸っているのも悪くはない。
 不思議とそんな思いが自然に彼を満たしていた。
 柔らかく華奢な体を腕の中に抱き寄せながら、スパイクは再び訪れた睡魔に引き込まれ、眠りに落ちていった。


 ──結局、フェイが泥のような眠りから目覚めたのはその日の夕方近くだった。
 疲労と倦怠感に包まれた状態からなかなか抜け出せず、しばらくしてようやく頭だけは正気を取り戻した後、彼女は昨夜スパイクにされたことと、あられもなくよがり乱れた自分の痴態を思い出し、怒りと羞恥とがごちゃ混ぜになった顔を真っ赤にして男に食ってかかった。
 が、当の本人は「元はといえばお前のせいだろ」と涼しい顔で受け流すだけで効果はなかった。
 確かに、そもそもの事の起こりは、彼女が昨夜の「普通の状態ではなかった」スパイクに余計なちょっかいを出したことが原因だ。彼女の方に非があるのは否めない。
 ああなることまで予測していなかった、などとは今更言えるはずもなく、かといってそれ以上の言い争いをする気力もゼロに等しかったフェイは、結局スパイクに丸め込まれるような形であしらわれてしまった。
 その後もなかなか起き上がれなかったフェイは散々スパイクに文句をぶつけたが、重い体は言うことを聞かず、半ば彼に引きずられるようにしてホテルから連れ出され、その足でずるずるとビバップへ戻っていったのだった。
 ジェットが目の下に濃い隈を作ってやつれたスパイクを見て溜め息を零し、かたや戻ってくるなり部屋に閉じこもったまま出てこようとしないフェイに首を傾げたのは言うまでもない。
 どちらにしろ、下手に触れない方が吉だろうと判断したジェットがそれ以上言及することもなく、事件の発端となった「証拠品」も翌日無事に警察へと届けられ、以後、その件が彼らの間で話に上ることもなく、後を引くこともなかった。
 ──当事者二人の心中に残った思い以外には。


 ──ったく、冗談じゃねぇ。
 珍しく自室のベッドで横になっていたスパイクは、天井に向かって吐き出した煙の行く末をぼんやりと見つめながら思った。
 あの夜以来、時々どうにも些細なことで意識してしまう。
 その気になったなら外へ行けばいいだけのことのはずなのに、当分、女に金を払う気にはなれそうもないと感じるのはなぜなのか。
 考えたくもないその空恐ろしい答えを、煙草の煙を振り払うように消せたらどんなに楽だろう。
 何度そう思っても消えない記憶を無理やり追い出すように、紫煙と共に吐き出された深い溜め息が部屋の中に響き、薄暗い天井に吸い込まれていった。


 部屋の中で枕を抱きかかえ、フェイは何度呟いたかわからない台詞をまたも繰り返していた。
 ──あんなの、あいつのせいでどうかしちゃってただけだわ。絶対に、あたしの意思なんかじゃないんだから…!
 何度そう言い聞かせても、ふとしたことで思い出してしまうあの夜の出来事が、彼女を悩ませた。
 シャワーで泡を洗い流すように、あんなことの記憶もきれいに消してしまえたらいいのに。
 頭の中のもやもやした感情を枕にぶつけるように顔を伏せた彼女の胸元には、まだあの日の名残りの紅い跡がうっすらと見て取れた。
 とにかくもう、余計な好奇心を起こすのは止めにしよう──延々と続きそうな思考を無理やり断ち切るように、彼女はまた何度目かの同じ台詞と共に深い溜め息をついた。


 ビバップ号の中をうろうろとさまよう、まごついた低気圧の影二つ。
 それらが自分の行き先を認められるようになる日は、まだまだ先の話になりそうだった。


<The End.>





*あとがき、のようなもの*

いやー長かった。やっと終わったよ(苦笑)
思いつきと勢いで書き始めたスパさん暴走話、気がつけば既に長編と呼んでも差し支えないような長さになってしまいました。しかも4分の3がエロ(爆)
読んでてちょっとしつこいかなぁと不安もありましたが、とりあえずこの話はまず最初にエロありきのネタだったのでご容赦をm(__)m
さて楽屋裏というか、苦労話など。
もともとこの話は私の完全オリジナルというわけではなく、スパフェイ同志の方々とチャットをしていて派生したエロネタを色々頂いて統合したもの、という感じです。
話はまずフェイフェイの薬ネタ^-^から始まり、フェイもいいけどスパイクがクスリでラリったら更に面白そうだよね、という一言から全てが始まったのでした(笑)
「きっとメッチャ暴走しまくりだよねー」「絶対朝までしつこくヤりまくる(死)こと決定!」「んでフェイフェイがもう耐えられなくなって懇願とかしちゃうんだ♪」等々(笑)大変楽しいネタで話が弾み^-^、必然的に誰か書きません?という話になっていったのでした。
んで、最初は合作で?など色々お話も出ていたのですが、それ以降なかなか打ち合わせなどの時間も取れず、しばらくネタだけ放置されていたのですが、今回急に私の中にエロ神様が降臨してきて下さりまして(笑)半分勢いで書き始めてしまったのでした。
一番ナニが苦労したかってーと、やっぱフェイをホテルに連れ込むまでの辻褄合わせですね(苦笑) 一旦連れ込んじゃえば後はスパさんを突っ走らせれば(ヲイ)いいわけですから、とかいってそれはそれで結構難しかったんですけど。
「スパがまず自分からフェイに手は出さないだろうし……かといってフェイが他の女に妬くってのもちょっとしっくりこないしなぁ」と試行錯誤した結果、ああいう形になりました。と同時にタイトルも即決。だってぴったりだったんだもん!^^
しかし本番(爆)にもつれ込んだらもつれ込んだで、スパイクが意外と動かしにくかったのが盲点でした。元々じっくりねっとりやらしい系(死)のHが好みの上、スパイクのイメージが裏では余裕綽々性悪系で固まってたもんですから(コラ)ついそういう描写に持っていきそうになって「余裕のない時にそんな悠長なことはせんだろう」と軌道修正したりして。
でも縛りとか書けたのは楽しかったかも(笑) あと、ヤりまくられて(爆)へろへろになったフェイとか^-^ あの台詞は絶対入れる!と最初から決めてましたし。
暴走スパを書くんだと念じていてもやっぱり難しかったなー。言葉攻めとか散々悩み倒しましたしね。アレでよかったのかどうか不安でし。。
エロシーンに入ってからがえらい長くなってしまったため、表現が画一的にならないようにするのがこれまた大変でした。個人的な好みで入れたくない描写などもあったため、余計に使える表現の幅が狭くなってしまって更に一苦労。この話のために体位48手の資料なども探してしまいましたよ(爆) こうしていらん知識が増えていくのね…(苦笑)
ちなみに4話以降の体位の変遷(笑)を説明しますと、
正常位→吊り橋→抱き地蔵→時雨茶臼→深山→鵯(ひよどり)越え→鵯越えバリエーション→窓の月、といった感じでしょうか。……いちいち書いててちょっと悲しくなったな(苦笑)
興味のある方はどんな体位か調べてみると妄想がより豊かになるかも(笑)
なお、体位の説明は所によって若干違いがあります。私が参考にしたとこをここで紹介するのも何ですので、気になる方はメール下さい(笑
ま、何はともあれ、楽しい作業だったのも事実。後は読んで下さった方に少しでも楽しんで頂ければ幸いです。よかったら感想お聞かせ下さいね。
また、この場を借りてネタを提供して下さった悪スパ同盟&スパフェイスキーの皆さんにもお礼申し上げます♪




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