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ニンギョヒメ 1. 「元に戻る事ができて、本当に良かった。おめでとう」 「あぁ…。ありがとう」 取り戻した右腕を、左手でさすりながらオレは答えた。 目の前にいる後見人は、今までに見たことのないような笑顔でオレを見つめて本当に嬉しそうにしてくれている。 賢者の石を見つけて、オレは右腕と左足を取り戻し。 アルは、元の人間の体を取り戻した。 「あんたのお陰だよ。大佐」 オレが右腕を差し出すと、大佐も右腕を差し出してくる。 「あんたには感謝している」 「……鋼の」 「はは。もうそう呼ばれることもないな。オレが、あんたの事を大佐って呼ぶことももうない」 オレの顔、きっと情けない顔なんだろうな。 今にも泣きそうな顔だと思う。 元の体に戻ったら、国家資格を返上して故郷に戻ると決めたのは最初の頃。 そして、オレは今日のこの日。 国家資格を返上した。 だから、オレは国家錬金術師でも、軍の狗でもなんでもない。 ただの一般市民。 もう軍に来ることもなければ、大佐にあうことももう……。 ない。 「けれど、ただの知り合いとして会うことはできるよ」 大佐は、そう言って笑ってくれたけれど。 オレは首を振った。 「うん。でも……もう会うことはないよ」 決めたんだ。 オレはもうロイ・マスタングという人間にはあわない。 「そうか…。それが君の答えか…」 大佐は寂しそうに笑った。 お願いだから、そんな顔はしないでくれよ。 覚悟が揺らぐから。 ほら、オレは今にもあんたを抱き締めてしまいそうになってる。 決めたんだろう? エドワード・エルリック。 大切な人の幸せのために、サヨナラするんだって。 オレが側にいたら大佐はいつまでも幸せになんてなれない。 オレは、大佐から手を離して微笑んだ。 「あぁ。だから、これが本当にさよならだ。………大佐。 ありがとう。こんなオレを好きだと言ってくれて。 応えられなくて、ごめん」 この人がオレを好きだといったのはいつだっただろう。 返事はオレが元の体を取り戻してからでいいと、ずっと待ってくれていた。 本当はすぐにでも、抱きついて 「オレも好きだ。愛してる」 そう言いたかった。 嬉しくて、この人が愛おしくて。 そして、元に戻ったら。 今度はオレからも告白しようって思っていた。 でも、それはできない。 「………君とアルフォンス君が幸せになることを祈っているよ」 「…ありがとう。 じゃ、アルが待ってるから」 オレはそう言って執務室からでようと、大佐に背を向けた。 その時だった。 「エドワード」 初めて、銘ではなく本名で呼ばれて思わず振り返る。 「……ロイ」 オレも、大佐の名前を思わず呟く。 そうすると、大佐は目を開いて一瞬驚いたようだったけれども、すぐにいつもの顔に戻った。 「もう、男のフリもする必要もないだろう。 ……今度は、女性としても幸せになるように祈っている」 「うん、ありがとう……」 ずっと、中途半端な女としてのオレを愛してくれて。 ありがとう。 「あんたも、そろそろいい相手見つけろよな」 にぃ。 せめてもの強がり。 いやだ。 いやだ。 本当は、ずっとオレだけを愛して欲しいのに。 オレだけを見て。 オレの事だけ。 他の女になんて渡したくないのに。 泣きそうになるのを堪えて、オレは笑った。 「さよなら」 最後に笑顔を見せて、終わりにしよう。 オレは、今度こそ背を向けて扉を閉めた。 それと同時に、オレの『最初で最後の恋』に扉を閉める。 オレはきっと他の人間を愛する事はしない。 いや、できないんだ。 だからオレは一生あんたの事だけ。 あいしてる。 そして、オレは軍から離れた。 next→ |