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2.
「姉さん。……本当に良かったの?大佐の事好きだったんでしょう?」 二人で暮らし始めてから、毎日のようにアルがいう言葉。 「今なら、まだ間に合うよ…?」 「決めたんだ。 オレは、大佐にちゃんとした幸せを築いて欲しいから。 結婚して、子どもを作って…子孫を残して欲しいから。 オレじゃなければ、大佐はそれができるんだ」 オレは、自分の腹に手をあてる。 女なのに。 女になることができない身体。 「…僕だったら………。 何かを失ったのが僕だったら良かったのに」 今にも爪で手の平の皮膚を破ってしまいそうなアルの手を取ってオレは微笑む。 「お前は充分苦しんでたよ」 「姉さん……」 「今までの分、一緒に幸せになろうって言っただろう? …これでいいんだよ。オレの子どもを作る機能を持っていかれたくらい構わない。 それ以外にはなんの不自由もないんだから」 元の身体に戻ったなんてウソだ。 錬成した瞬間に、賢者の石は粉々になってしまった。 元に戻るために、賢者の石という代価はあったもののそれだけじゃ足りなかった。 不足分の代価を何かで補わなければならなかった。 真理に代価を求められた時。 決めたんだ。 もう一度、賢者の石を見つけたとして。 元に戻ろうとして。 今度も、きちんと元に戻る保障なんて、ない。 同じことの繰り返しをするのなら、これで最後にしようと思った。 だいいち、また。 大佐に迷惑をかけてしまう。 上を目指す大佐の邪魔にはなりたくない。 また何かを失ったのだと知ったら・・・彼はどうする? 知られてはいけない。 もう、迷惑をかけるなんてできない。 だからオレは真理にやったんだ。 元に戻ったとウソをついてもわからない場所を。 誰にも見られない。 判らない場所。 女としての器官を。 オレは、アルの体とオレの手足を引き換えにそれを失った。 子どもを産めない女をどの男が愛してくれる? 大佐だって。 きっと、知ったらオレのことなんて嫌いになる。 嫌いになんてなって欲しくない。 オレのこと、少しでもいいから好きでいて。 遠くでいいから。 時々、愛したオレの事を思い出して。 そう。 嫌われる前に、いなくなろうって思ったんだ。 手足を元に戻したオレを見て。 何かをなくしたオレじゃなく、五体満足なオレを見て。 安心して。 何も知らないまま、オレのこの姿を覚えていて。 「これでいいんだよ。大佐はオレが元に戻ったと思ってる。 安心して、上をめざせる」 たった一枚。 いつだったか大佐と…。 軍部の中の良かった面々と一緒に撮って貰った写真。 オレは、それを見つめた。 オレの肩には大佐の手があって、オレは凄く嫌そうにして写ってる。 本当は大佐の手が触れて嬉しかったのに、オレはそれが嫌だと喚き散らしたんだ。 その時の写真。 そんなでも、いい思い出になってる。 「オレは、大佐に幸せになってほしいんだ」 オレは、幸せだから。 あんたが、この世界で生きているだけで。 「オレはいいんだ。大佐がいると思うだけで、充分幸せだから」 あんたと同じこの世界に生きていれば、それでいい・・・。 next→ ←back |