第1話

日の光がまぶしい朝。某駅では、今日も大量の人たちが電車を待っていた。

その中の1人に、スーツではないが、白いブラウスに、桃色の膝より少し短いスカートをはいた、どことなく優雅で可愛らしい女性が電車を待っていた。

会社の定刻は9時。毎日8時15分の電車に乗り、15分ほど電車に乗った終点の駅から歩いて5分という好立地の場所に彼女の勤務する会社はある。

その時、彼女はまだ自分がどんな目に遭うかを知らない。いつものように満員電車に乗り、終点の駅に着いてからコンビニエンスストアでお弁当を買い、会社に行く。それが変わらない日常なのだから。

程なくして、目的の電車が駅に到着した。乗り込む大量の人々。女性も色んな人に押されながら何とか乗り込み、電車は間もなく発車した。

通勤ラッシュのこの時間帯は、男性の方が割合的に多い気がする。もちろん女性もチラホラと見えているのだが、それよりスーツ姿の男性の方が圧倒的に目立つ。

いつものことながら、女性にはそれが少し怖く感じられた。彼女の会社でも男性は多いが、まだ見知っている人たちなので安心出来る分、知らない男の人たちに囲まれてばかりの電車が何倍も怖く思えるのだ。

よくある痴漢の話とかには無縁だとそれまで思っていたし、今の所そのような被害に遭ったことはなかったが・・・・周りにいる男性のことを怖く思った今日に限って、それは起こってしまった。

彼女は右手でつり革を握っていたことで、右側が完全無防備状態となっていた。最初は彼女の腰に誰かの手か腕が当たっていた程度だった為、満員電車ではよくあることだと気にならなかったが、次第にその当たっていた手が体の上に来ていることに彼女は気付き始めた。

しかし気のせいだろうと思い、何事もないようにしていたものの、とうとうその手は彼女の柔らかい胸のふくらみに到達した。

「!」

胸の下側を軽く撫でられ、更に指でコリコリと胸の中心部を探られている。

程なくしてその手は目標物をとらえたらしい。彼女の胸の敏感な部分に指を這わせ、執拗に攻め上げてきた。

「!・・・」

更に胸だけに留まらず、彼女のもう1つの柔らかいふくらみ・お尻の方にも魔の手が伸びる。

丸く形の良いお尻を何度も撫で上げられ、胸の頂を指で何度も攻められ、女性は耐え難い快楽を感じていた。

されていることは悪質で抵抗したいのに、恐怖のあまり、動くことも声を出すことも出来ない。女性は眉をしかめて目を閉じて、何とかそれに耐えようと必死になることしか出来なかった。

(誰か、誰か助けて・・・お願い・・・・!!)

満員電車の中、彼女に見向きする乗客は誰1人としていない。このまま彼女は素性の分からない痴漢に犯されてしまうのだろうか?

ビクビクと恐怖と快楽に身震いしながら、必死に女性が我慢していたその時のことだった。彼女の後ろの方で誰かが激しく動いたらしく、押された感じで大分動いてしまったのだ。

かろうじてそのまま握っていたつり革のおかげですぐ定位置に戻れたが、電車は走り続けたままだというのに、どうしたのだろうか?

何事かと驚いていたものの、ふと気が付いてみると、彼女を縛る手はもうなく、自由の身となっていた。まさか、先ほど後ろの方で動きがあったのは、誰かが自分を助けてくれたからなのだろうか?

彼女がそう思った矢先、背後から耳元で低く甘く囁く声があった。

「体は、大丈夫?」

「!!」

「あぁ、ごめん。驚かせたかな?・・君の体を触っていた男は、出入り口の方に退散させたよ。だから、安心してごらん。」

それは若い男性の声だったが、何とも言えない低く甘い美声の持ち主だった。

どうやらこの美声の男性が、彼女を痴漢の手から救ってくれたようだ。そうなると、先ほど後ろで動きがあったのは、この男性がしてくれたのだろうか?

彼女は振り向いて助けてくれたお礼を述べたかったが、つい先ほど男性に体を触られた恐怖が勝った為、振り向くことすら今の彼女にとって怖いことになっていた。

だから後ろを振り向くことは出来ず、取り敢えず頭だけのお辞儀をすることで、この男性に対して礼を述べた形を取った。それは男性も理解してくれたようで、背後から伝わる温かい雰囲気で察せられた。

それから1駅を過ぎた所で若干人の乗り降りがあり、再び電車が発車する。ここを過ぎれば終点だ。

彼女の後ろで特に目立った動きがないということは、助けてくれた男性も終点まで乗っていくのだろう。会話は1つもしなかったものの、彼女は心に決めていた。駅に到着したら、助けてくれた男性にきちんとお礼を述べようと。

運転手が、もうすぐ終点の駅に着くことをアナウンスで知らせる。そして彼女の目に広がるのは、いつも見慣れた景色だった。

いきなり怖い目に遭ったものの、後ろにいる男性が助けてくれたおかげで普通に会社に行くことが出来そうだ。日の光が更にまぶしくなる中、景色を見ながら、彼女は改めて今日も1日頑張ろうと気持ちを切り替えた。

電車は減速し、終点の駅に向かって少しずつ進んでいく。彼女は恐怖からようやく逃れられたことでホッとしたのか、チロッと後ろを振り向いてみた。

そこにいたのは、180センチ以上はあるだろう背の高い細身の若いルックスの整った美男で、プラチナ製の眼鏡をかけていた。

そのプラチナ製の眼鏡がこの男性によく似合っていると思ったが、思わず素顔も見てみたい、と反射的に彼女は思いながら、更にこの男性を観察する。

服装は一般的なスーツとネクタイだが、背が高く細身なのに肩幅は大きく、腰のラインと脚のラインが細くて思わずドキンとしてしまった。

男性は女性がこちらを振り向いていることに気が付いたようで、目が合うと微笑んでくれた。その微笑が想像していた以上に優しくて、再びドキンとしてしまう。

どうやらこの眼鏡美男が、自分を痴漢から助けてくれたことにほぼ間違いないようだ。こんな格好良い人に助けられるなんて、痴漢に遭ったことは不運だったものの、これは幸運ととって良いかもしれない。

間もなく電車が完全に止まり、一斉に乗客が降り出す。いつも乗客の人波はすごくて彼女は押されっぱなしだったが、今日は違った。スッと誰かに手を取られたからだ。

「えっ・・・?」

「君はこっち。俺と一緒に行こう。」

「えぇっ!?」

そう。それは紛れもなく、先ほど自分が振り返った時微笑んでくれた眼鏡美男だった。声も助けてくれた時に囁いてくれた美声そのままで、やはりこの眼鏡美男が自分を痴漢から助けてくれたのだと改めて理解した。

「まぁ、驚かないで。こうして手をつないでいれば、もう君に手出しする男なんていないから。」

「あ・・・!え、えっと、私・・・!」

眼鏡美男に導かれるように彼女は電車から降り、ホームに足を踏み入れたのだが、突然その美男は立ち止まった。そのことで女性も自然と立ち止まったのだが、一体どうしたのだろうか?

少し不思議に思って見ていると、眼鏡美男は出入り口に向かう沢山の人たちの動きに注目しているようだ。

「あの・・・?」

「ん・・・?あぁ、ごめん。あの時君を襲った男がここにいないか心配でね。でも、もういなくなったみたいだ。」

「そうですか・・・あ、あの!先ほどは助けていただきまして、本当にありがとうございました!!」

女性は男性から手をスッと離し、今度は腰からしっかり体を曲げてお辞儀をしてお礼を述べた。眼鏡美男は驚いていたようだが、すぐに微笑を浮かべた。

「大したことはしてないよ。無事で良かった。」

「は、はい!本当に、何とお礼を言ったらいいのか・・・重ね重ね、ありがとうございました!」

「フフッ。当然のことをしたまでだから、それ以上『ありがとう』はいらないよ。」

「ですが・・・」

「じゃあ、どうして俺は君を助けたと思う?」

「えっ・・・・?」

眼鏡美男が面白そうな表情でそう言ったことで、女性の方は目を丸くすることしか出来なかった。驚いて見ていると、男性は眼鏡をスッと持ち上げて話し出した。

「・・君は恐らく知らないだろうけど、俺と君は一緒の会社の人間なんだよ。」

「ええぇぇっ!?ほほ、本当ですか!?」

「あぁ。俺は営業本部所属の柏木巧斗。君は、管理本部で圭吾のサポートをしている早乙女由依ちゃんだよね?」

「!!・・・・」

女性・早乙女由依は言葉が出なかった。正しく彼女の名前は早乙女由依(さおとめゆい)であり、管理本部にて茅場圭吾(かやばけいご)という男性のサポート役をしている。

加えて営業本部の柏木巧斗(かしわぎたくと)と言えば、社内一のプレイボーイとして非常に有名な上に、営業成績も常にナンバー3内に入る好成績を収めていることで、優秀な営業マンとしても有名だ。

由依は名前こそ知っていたものの、肝心の本人に会ったことはなく、噂の人物がどんな人なのか密かにずっと気になっていた。まさかこんな形で出会うことになろうとは夢にも思わず、ただ驚くことしか出来ない。

「フフッ、驚いた顔をしてる。さすが、圭吾が大事にしてる姫君様だ。」

「えぇっ!?そそっ、そんな!『姫君様』だなんて・・・」

「君に似合うニックネームだと思うよ。お嬢様っぽい雰囲気があるし、何より君は可愛いから。」

眼鏡美男の、しかも社内一有名なプレイボーイの柏木巧斗に『可愛い』と言われると嬉しくなってしまう。しかし、彼にとってはそんな口説き文句は日常茶飯事なのだろう。余裕の微笑を浮かべて言っているのだから。

「そ、そんな。あの、お世辞でも嬉しいので、そのようなことは・・・・」

「お世辞じゃないよ。俺はずっと、君を狙っていたから。」

「えっ!?」

「でも、圭吾が何かとうるさいんだよ。『俺の由依に手を出すな』ってね。」

「け、圭吾君。別に、私たちそんな関係じゃないのに・・・じゃ、なくて!!あの、『狙っていた』って・・・」

「フフッ・・君のその純粋な光を宿している瞳に、俺は何度も吸い込まれそうになったよ・・・・君が、とても魅力的で。圭吾がいなければ、とっくの昔にお近付きになってた所さ。」

巧斗はそう言うと、突然由依の前にしゃがみ込んだ。そして再び由依の手を取ると、その手の甲にキスをしてきたのだ。

「!!・・・」

由依は驚きすぎて言葉が出なかった。明らかにキザっぽいことをしているのに、どうしてこの柏木巧斗という男性の前では違和感が全く感じられないのだろうか?むしろ跪いてキスをしている様が上品で洗練されているようにさえ見える。

「・・長かったよ。こうして君に声をかけるまでが・・・ようやく出会えたね。姫君・・・」

「か、柏木さん・・・・」

「フフッ、顔が赤いね。俺がキスしたことで、ドキドキしているのかな?」

柏木巧斗は立ち上がり、面白そうに微笑んで由依にそう問いかけた。そしてそのような時に限って、巧斗は腰が砕けてしまいそうな甘い美声でもって由依の心に攻撃してくる。

ただでさえ巧斗は美声なのに、そのように含みを持たれた感じで言われてしまっては、余計に意識してしまう。やはり彼は『プレイボーイ』と言われているだけあって、女性を手中にする技術もピカ一のようだ。

ここで巧斗の誘いに乗ってはおしまいだ。由依は必死に自分の気持ちを奮い立たせて、巧斗の誘惑に負けないように努めた。

「・・か、柏木さんは・・・」

「ん・・・・?」

「ウッ。か、柏木さんは、ズルイです・・・そうやって、いっつも色んな女性にキスしたり、声をかけたりしてらっしゃるんですか?」

「フフッ・・必死に自分を律してるね?由依ちゃん。我慢しなくていいんだよ・・・?」

「ン・・ッ・・!柏木、さん・・・!」

由依は巧斗をまともに見ることが出来なかった。そんな低く甘い美声で囁かれたあげく、近付かれてしまっては完全に白旗を振ってしまいそうだから。

由依は目を閉じて、顔を背けることで巧斗の誘惑を振り切るしかなかった。それでも巧斗に負けてしまうかと思ったが、意外にも先に折れたのは巧斗の方だった。

「・・・ごめん。君が嫌がるようなことは、したくなかった・・・」

「・・柏木、さん・・・・」

由依が驚いて目を開けてみれば、巧斗は少し由依から離れていた。その目線は下に向けられている。

「君と話せたことが嬉しくて、調子に乗ってしまったよ・・・ごめんね、由依ちゃん。」

「いっ、いえ!私の方こそ、すみません・・・助けていただいたのに、結局お礼も出来なくて・・・」

「フフッ。お礼、か・・・君自身っていうのはどう?」

「ええぇっ!?かかか、柏木さん!?」

巧斗が再び甘い声音でそう言うものだから、由依は驚いて巧斗を見ることしか出来なかった。だが、巧斗は面白そうに笑うだけだ。

「アハハハハハッ!驚いている由依ちゃんは可愛いね。少しからかい過ぎたかな?」

「ウゥッ。もう、柏木さんったら・・・」

「ごめん、ごめん。それより、もうこんな時間だ。もっと君と話していたい所だけど、そろそろ行かないと、ね・・・」

「えっ?あぁっ!もうこんな時間〜!?いっけない!私、お弁当買わなきゃ・・・!」

「ん・・・?由依ちゃんは、毎日お弁当を買ってるの?」

「そうなんです!どうしよう。今からじゃあ、ギリギリで・・・」

「じゃあ、俺のお弁当を一緒に食べない?」

「えっ?」

巧斗は笑顔でそう言うと、先に数歩歩き出してから、クイクイッと手で由依に来るように告げた。どうやら一緒に行こうという合図のようだ。由依は答えるように巧斗の隣に並んで、2人で一緒に歩き出した。


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