第31話「お料理中に・・・」
何だかんだあったが、早いものでレグルスとスピカが一緒に生活をするようになってから1ヶ月半の月日が経っていた。
大分レグルスとの生活に慣れてきたスピカで、今スピカは何と台所に立っていた。日頃レグルスにお世話になっているので、たまには自分が作ってお返しをしなければと思ったのだ。
因みに今レグルスは2階の自室にいるみたいである。恐らく本を読んでいるのであろう。正直言ってスピカはレグルスの真面目な姿に心惹かれていた。
実際彼が読書している所を見て見惚れてしまっていたし、何か物事に集中して取り組んでいる時のレグルスの真剣な表情が好きだったし邪魔したくなかった。そしてそんな彼に喜んで欲しくて。
「これって・・・恋、なんでしょうか・・・・私は、あの時の方にしか、恋をしてない筈だったんですが・・・・あの、方は・・・どこに、いらっしゃるのでしょうか・・・・」
2週間ほど前にアルビレオが突然この家に現れた時、スピカはアルビレオにあの仮面パーティーの話を聞かせた。その時アルビレオはこのフェラールで有名な仮面パーティーがあると言っていた。レグルスもその既成事実を認めていたし・・・・何となく希望を持ってしまうのは当然だった。
それからレグルスに頼んで外に連れて行ってもらって人間観察っぽいのもしていたのだが、もちろん収穫は0。だがそのことでレグルスの嫉妬を買ってしまい、スピカは相も変わらず抱かれる日々が続いていた。
だがスピカはそれを決して嫌だとは思っていなかった。今のスピカにとってレグルスに抱いてもらえることは密かに嬉しかった。少し恥ずかしい気持ちが常にあるが。
とにかくレグルスの為に何か自分も役立ちたい。その一心でスピカはトントンとニンジンやらジャガイモを包丁で切っていたのだが、手つきがちょっと危なっかしい。今すぐ怪我をしてもおかしくないような手つきで、それでも一生懸命にスピカは頑張っていた。
「フ〜ッ・・・・次は・・・タマネギ・・・ですか?・・・確かタマネギって・・目が痛くなって、涙出ちゃいますよね・・・・涙、出さないようにしなきゃ・・・」
とスピカは呟きながらタマネギを手に取り、少しずつ切っていたのだが・・・・切る度に目がジワジワとしみていき、すぐに涙が出てしまっていた。
「うっ・・と、止まらない・・です・・・」
ちょっと困ってしまったスピカで、涙を拭いながら慣れない手つきでタマネギを切っているのでかなり危なかった。
そしてその危なさはスピカ自身の身を傷つけることとなってしまった。
「あっ!!イタッ!!」
そう、スピカは左手の人差し指を包丁で少し切ってしまっていた。
切れた所から血がにじみ出してくる。スピカはどうして良いか分からずパニック状態になってしまっていた。
「え〜っと・・続き・・じゃなくて!!えっと、消毒に包帯、ですよね?え〜っと・・救急箱は〜・・・」
と、スピカがパニックになりながらバタバタしていたら、そのバタバタした音と雰囲気に気付いたのか、レグルスがスピカのいる台所の方に下りてきた。
「スピカ?何をしているんだい?」
「えっ!?あ・・レグルスさん!ダメです!これは・・今このレグルスさんが見ていることは・・・なかったということにしていただければ嬉しいのですが・・・・」
「へぇっ?どうしてだい?スピカ・・・って・・おまえ!!」
「キャッ!!」
突然左手首を掴まれて抱き寄せられてしまいスピカは驚いてしまったのだが、そう、レグルスは見つけたのだ。スピカの指の傷を。
「どうしたんだい!?これは・・・ほら、そこに座って、消毒してあげるから。あぁ、その前に止血かな?」
とレグルスは言い、たくさんある棚の中から小さな救急箱を持ってくる。やっぱりこのような時にレグルスは頼りになる。ある意味ナイスタイミングにきてくれたレグルスにスピカは感謝してしまった。
スピカとレグルスは隣に座り込み、レグルスは手馴れた手つきで止血と消毒をする。スピカはただ黙って左手を差し出しているだけで、本当に自分は頼りにならない存在なのだと打ちひしがれてしまう。そしてこの器用に手当てしてくれている真面目な姿のレグルスを見てしまうと、スピカの胸の鼓動は一気に高鳴ってしまうのだ。
あるいは自分は、もはやレグルスが傍にいなければ生活出来なくなってしまったのではないかと思える程に。
「まぁ、こんなものかな?それより・・何だってこんな怪我をしているんだい?って・・おや?あのタマネギやらその他食材は何かな?まさか、おまえ・・・・」
「あ、その・・・す、すみません。その・・レグルスさんに、恩返しをしたくて・・・」
「恩返し?」
「その・・・いつもお世話になってばかりで・・・私、レグルスさんに、何もしてませんから・・・・」
「・・スピカ・・・何を言っているんだい?それならいっそのこと、私の方が・・・・おまえに恩返しをしなければならないのにね・・・・」
「?・・・レグルスさん・・・?」
レグルスはスピカにそう言って手を握り締めたかと思うと急に立ち上がり、台所の方に行き、切られた野菜やら肉やらを見て悟った。
「ふ〜ん。この材料は・・シチューかな?」
「!」
「フフッ、ありがたいものだね。こうして怪我してくれるまで作ってくれるなんて・・・・ねぇ、スピカ。私は・・自惚れていいのかな?おまえに愛されていると・・・」
とレグルスは言って、再びスピカの隣に座り、スピカを抱き締めた。
「・・レグルスさん・・・・」
レグルスに抱き締められるとそれだけで嬉しくて、スピカは顔を赤くしてしまっていた。
「・・・ありがとう、スピカ。こんなことをされたのは初めてだったものでね・・・・本当に、嬉しいよ。」
「えっ・・・・?そんな、初めてだなんて・・ご冗談ですよね?」
「何を言うんだい?私は・・常に女性達はその場限りの存在ばかりだったからね・・・・こんな風に親しむことなんてなかったし・・・・・何と言うのかな・・・?温かい想いを、おまえは思い起こさせてくれるね・・・・だから・・尚更おまえは、私の心を掴んで放さないんだよ・・・・」
「・・レグルスさん・・・・!」
2人の唇が自然と重なった。もうこの2人に言葉はいらなかった。ただ欲望の赴くままに・・・体が動いていた。
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