第33話「国王様」

レグルスとスピカが一緒に住むようになってから、もう少しで2ヶ月である。
正直このことにはスピカ自身が驚いてしまっていた。両親からの連絡は一切ない。どうしてなのだろうとスピカは悲しんでいたが、以前そのことについてレグルスに聞いてみた所、レグルスとスピカが住んでいる所は誰にも分かられない所なのだと言う。
確かに考えてみればそうで、アルビレオ以外の来客を見たことがない。誰にも邪魔されずにスピカだけと過ごす空間。そんな所が欲しかったのだとレグルスは教えてくれた。
スピカは愛する両親に会いたかった。だがそれは無理なことなので、せめて仮面パーティーでの男性を探してみたい。アルビレオやレグルスに、このフェラール王国の仮面パーティーが有名であることを聞かされているので、以来気になったスピカはレグルスと一緒にフェラールの城下町に出て、男性の人間観察をしていたりした。実は今日もそのようなことで2人は城下町に出ていた。だがレグルスは乗り気ではない。
フ〜ッと大きいため息をついてレグルスがスピカに言った。

「まぁ、おまえを1人で城下町に出す訳にはいかないからね〜、私が傍にいなきゃならないのは分かるけど・・・その目的が男探しだなんてね〜・・・私がいつも傍にいるのに・・・・」
「ア、アハハハハ・・・す、すみません、レグルスさん・・・・」
「・・・そもそもその探している男というのはおまえにもよく分かってないんだろう?かなり無意味に時間を潰している気がしないでもないけど・・・・」
「レグルスさん・・・本当に、すみません・・・私用で・・・・」
「全く・・・そんな顔をしないで。仕方ないよ。おまえに前から愛する男がいるのは私だって知っていたことだし。ただ・・・・おまえの中でその男を超えられない存在である自分が・・腹立たしいだけでね・・・」
「・・・レグルスさん・・・・・」

そんなことを言われてしまうとスピカも小さくなってしまう。
現にスピカはレグルスのことは嫌いじゃない。むしろとても好きだし尊敬している。だがやはり本命の男性ではないとなると、レグルスが不愉快になるのは当然のことであって。彼はスピカにひたすら「愛している」と言ってくれているのに、その彼を引き連れてスピカの本命の男性、しかもほとんど手がかりがないままにこの城下町に来ているのだから、本当にレグルスにとっては無駄な時間なのだ。
だがスピカは奇跡を信じたかった。もしかしたらこの王国に住んでいるかもしれない。そしてこの城下町を歩いているかもしれないと。
スピカ自身あの時の男性のことをよくは覚えていないが、一つだけはっきりと覚えていることがある。それは・・・とても魅力的で優しい男性だったこと。あの何とも言えない・・男の色気とでもいえばいいのだろうか。あんな独特の魅力を持っている男性はそうそういるものではない。
極めつけはあの時の優しさだった。あんなに優しくて魅力ある男性なら、きっと普段もあのような魅力を携えているステキな男性であることは間違いない。
そんなことをスピカが思っていた時だった。何だか急に周りにいた国民達がザワザワと騒がしくなった。皆城の方を見ている。
何があったのかとスピカは疑問に思い、レグルスに聞いた。

「レグルスさん?何ですか?この・・異様な雰囲気・・・・」
「あぁ・・・・国王様じゃないかな?」
「国王様?ですか?」
「そう。ここの国王は厳しいけれど、慈悲深き王様でもあるんだよ。月に1回ね、こうして国民達の前に出て・・国民を労っているんだよ。「いつもありがとう。」ってね。」
「・・国王様なんですか〜・・見てみたいです〜。あの、レグルスさん。近くに行ってみてもいいですか?」
「・・しょうがないね・・おまえがそう言うなら・・・・」
「ありがとうございます!」

と言うことで2人はお城の方に近付き、その国王様を見た。そしてその国王様を見た途端、スピカは驚いてしまった。
大変な眉目秀麗の王様である。切れ長の海より青く透き通った瞳がスピカの心に突き刺さった。見るからに「王」という雰囲気のある男性であると同時にスピカは思った。この人が、あの時の仮面パーティーの時の人ではなかったのかと。
国民に向けて礼を言い、微笑んでいるその姿はあの時の優しさを彷彿とさせた。普通の男性とは明らかに違った魅力も持っているし・・・・スピカは何となく確信してしまった。彼ではないのかと。彼こそがあの時自分を支えてくれて、一緒に踊ってくれた人ではないのかと。
そのスピカの尋常じゃない驚きようをレグルスは見て、複雑な表情になっている。

「・・ねぇ、スピカ・・・どうしたと言うんだい?あの国王様を見て以来、黙り込んでしまって・・・・」
「・・・・あ、あの・・レグルスさん・・・」
「ん?」
「私・・・何となく思ったんですけど・・・・私の、探していた男性に・・・・限りなく近い気がします・・・」
「!・・・・」
「素敵な・・・とても素敵な国王様ですね・・・・」

と言ってスピカは顔を赤くしてしまっている。そんなスピカを見てレグルスの心がざわつかない訳がなかった。

「・・アレが・・素敵なのかい?おまえ・・・あんな男が好みなのかい?」
「えっ?だって・・とっても素敵じゃないですか。あのお優しい微笑み・・・・見ていて、私・・感動してしまいました・・・・」
「・・・・信じられないね〜・・・・私は、彼みたいな男は好かないね。」
「どうしてですか?」
「・・やっていることが厳しすぎるからだよ。実際、この国はそんな穏やかな国という訳でもないし。それは、おまえが身を持って確認済みだろう?彼がやっていることはアメとムチ戦法なんだけどね・・・・私は好かないね〜・・・そんなことより、早く治安をどうにかして欲しいしね。」

レグルスは少し不機嫌そうにそう言った。確かに・・・以前あの愚鈍な男達に襲われそうになった時のことを考えると、国の状態はあまり良くないとスピカも思った。
だが完璧な人間がいないのと同様完璧な国なんてないとスピカは思っていた。それを言えばスピカの住んでいたヴァルロだって決して治安の良い国とは言えなかったし、貴族達の権力闘争は熾烈なものだった。
国の政治やら経済やらも大切なことには違いないのだが、女性のスピカは男性のレグルスほど政治面に詳しい訳でもない。純粋に国王のルックスや雰囲気に惹かれてもおかしくはなかった。

「・・あの、レグルスさん・・・あの国王様のお名前は何なんでしょうか・・・・?」
「ん?あぁ・・・ラグリアだよ。」
「・・ラグリア様、ですか・・・ってそんな!レグルスさん!国王様を呼び捨てにしちゃダメですよ〜。」
「そんなことを言われてもね〜。私は、あの国王様が苦手なものでね・・・」
「?・・レグルスさん?」
「・・・・ごめん、帰ろうか。スピカ。」
「えっ!?」
「あの国王様と目が合ってしまったよ・・・難癖付けられる前に逃げないとね・・・・」

とレグルスは言って少しずつ後ずさりしていたのだが、その時スピカの手を取ると同時に背を向けてダッシュしていた。

「えっ!?あ、あの〜・・レグルスさん!?」

訳も分からずに走ることしか出来ないスピカなのであった。




国王・ラグリアから逃げ帰ってきたスピカとレグルスは、家に帰ってからお互いに猛ダッシュした勢いで吐く息が後を絶えない。

「ハァ、ハァ・・・レグルスさん、ひどいですよ〜。いきなり逃げるなんて、どうしたんですかぁ〜?」
「うん、ちょっとね・・・・私は、あの国王様が苦手でね〜・・・・後を追われてなければいいんだけど・・・・」

とレグルスは言って、少しだけ家のドアを開けてキョロキョロと外を見回す。すぐに息をついてレグルスはドアを閉めた。どうやら追っ手はいなかったようである。

「に、苦手って・・・どうしてですか?」
「どうしてと言われてもね〜・・・・全てにおいて、私とは何もかもが違いすぎるんだよ。人間、気が合う相手と合わない相手がいるだろう?彼は正に、私にとっては気が合わない人間なんだよ。・・・・それより、おまえには迷惑をかけてしまったね・・・でも、おまえの男の趣味がアレだったとはね〜・・・・もう少し見る目を養った方がいいよ?スピカ。私みたいな男には魅力を感じないのかな?」

とレグルスは言い、妙に色気のある瞳でスピカを見つめてくるものだから、スピカは困ってしまった。

「あ、あの、え〜っと・・・その、レグルスさんのことは、好きですよ?」
「そんな言葉だけじゃ足りないよ。」

とレグルスは言い、スピカを強く抱き締めた。いつもは優しく暖かくスピカを包み込んでくれているレグルスにしては珍しいことで、スピカは驚くと同時に妙に緊張してしまって、胸の鼓動が早くなってしまっていた。

「・・偽りで構わないから・・・一度だけ・・言ってみてくれないかい?私を、愛していると・・・・」
「・・・レグルスさん・・・・」
「・・・・お願いだよ、スピカ・・・・それだけで・・私は満たされるから・・・」
「・・本当・・ですか?」
「・・・おまえに愛されることが・・・私にとっては、何にも変えがたい幸せなんだよ・・・・おまえに嫌われて・・・また逃げられるようなことがあったら・・・そしたら、私は・・・・・」

レグルスは頭を押さえて苦悩に満ちた表情をしている。こんなレグルスを見たのはスピカにとってはもちろん初めてのことで驚いてしまった。
常に余裕の微笑を浮かべているレグルスがこんな顔をするなんて。スピカは驚きと困惑でどうしようか迷ってしまったが、レグルスの話の続きが気になったので、聞いてみた。

「そしたら・・どうなってしまうんですか?」
「・・・・そうだね・・どうすればいいんだろうね・・・・もちろん、最初の内はおまえに好かれるとは思っていなかった訳だけど・・・今までこうして住んできて、おまえも私のことを信頼してくれているのは分かっているから・・・・でも・・・・その内私の存在が本当にいらなくなったり、またおまえに逃げられたりしたら・・・・フフッ。罪を犯した自分を呪って、おまえの前から消えるしかないのかな・・・・」
「!・・・・・」
「でも・・・おまえを諦めたくないよ。私にだってプライドがあるからね。いつか・・おまえを振り向かせてみたいよ・・・・そして・・・おまえと結婚したい。」
「・・レグルスさん・・・・」
「・・・・フフッ。まぁ、そんな話は今はいいさ。それより、無理矢理逃げさせてしまって悪かったね。お詫びに何か作ってあげるよ。あぁ・・確かおまえはプリンが好きだったっけ?じゃあ・・プリンを作ってあげるから。」
「あっ・・本当ですか?レグルスさん。」

スピカは途端に満面笑顔になった。そう、実はスピカは大のプリン好きなのだ。
実際前にレグルスがお手製のプリンを作ってくれたことがあったのだが本当においしくて、何個でも食べれると本気でスピカが思ったしまった位においしかったりする。さすがそこはレグルスといった感じか。
レグルスはスピカの唇に軽くキスをしてから台所に向かった。スピカはそんなレグルスの後姿を見ながらプリンを楽しみに待つのだった・・・・・




「はい、お待たせ。」
「わぁっ!ありがとうございます!おいしそうですね〜・・・いただきます。」

スピカは出されたプリンを見て心が躍った。レグルスは材料にとてもこだわるので、正にプロの料理人とやっていることが変わらなかった。そんなプリンが食べれるのだから余計にスピカは嬉しくなって、早速スプーンでプリンを口に入れた。
プリンのプルプルした感触と程よい甘さがスピカの口の中に広がる。レグルスはそんなスピカを、頬杖を付きながらいつもの余裕ある微笑で見つめている。

「おいしいです!レグルスさん!」
「フフッ、ありがとう。本当におまえは・・プリンを食べる時、幸せそうに食べるね〜。見ている私も幸せになってきてしまうよ。」
「えっ?そうですか?ウフフッ、きっと大好きな食べ物だからですよ〜。」
「・・そうだね〜・・・・フフッ。」
「あ、ところで・・レグルスさんのお好きな食べ物は何なんですか?」
「う〜んそうだね〜・・・・おまえかな?」
「えぇっ!?」

スピカは驚いてしまって、危うく口に含んでいたプリンを吐き出してしまいそうになった。何とか飲み込んでプリンを処理したスピカであったが、驚く気持ちは変わらなかった。

「フフッ。そんなに驚くようなことではないだろう?いつものことなのに・・・・」
「えっ?あっ・・え〜っと〜・・・・」
「フフッ。おまえの味はね〜、すごく甘くてね・・・」
「も、もういいですからレグルスさん!食べてる時に不謹慎です!」
「アハハッ、悪いね。それじゃあ、邪魔者は引っ込むことにするよ。また夕食の時にね。」

とレグルスは言い、全然懲りてない様子で投げキスをして2階に上がって行ってしまった。
スピカは少し怒りつつ、プリンの味がとってもおいしいのでついついまた嬉しい気持ちになり、レグルスへの感謝の念を忘れることはなかったのだった。


  

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