第43話「運命の歯車が動き出す時」
家に帰ってからスピカは、レグルスにラグリアと何を話したのか敢えて話さなかった。レグルスもラグリアの話題は苦手だったから、特にスピカに何を聞くでもなく、その日は過ぎて行った。
だがスピカの心の中は複雑だった。もしかしたらレグルスと離れなければならないのかもしれないという不安が心の中に広がって・・・・そのことを自分で言い出すことが怖くて。
本当は言わなきゃいけないと分かっていても・・・・なぜだか言えなかったし、言いたくない気持ちがスピカの中にあった。レグルスと・・・離れたくないのかもしれない。
そのように迷いに迷って明けた翌日の昼過ぎ。穏やかな晴れ渡った昼下がり、レグルスとスピカが仲良く昼食を食べている時に来訪者がやって来た。
ゴンゴンゴンッッ!!! ガチャッ!!
「おっじゃまっしま〜っす!!お昼時にランララララ〜ン♪」
「おや?姉さん?」
「!ア、アルビレオさん・・・・!?」
「イヤッホー、お久しぶり〜!!あ〜っ!!あたしスピカちゃんに会えて嬉しいわ〜!!元気してた〜?」
とアルビレオは言ってスピカに抱き着いた。
「あ、は、はい!アルビレオさんは・・・?」
「あ〜っ!!あたしがカゼひくとかなんてぜっったいありえないコトだから、安心しちゃってよ☆」
「・・・・姉さん・・・・何も言わずにここに来るとはね〜・・・驚いてしまったよ。」
どうやら今回のアルビレオの来訪はレグルスも知らなかったらしい。驚いてアルビレオを見ている。
「あぁ。いや〜さ〜、ちょ〜っとね〜。ってあら・・・もしかしてスピカちゃん・・・こいつに例の件話してないの〜?」
「えっ・・・・?あの、その・・・・」
「?・・・「例の件」って・・何のことだい?」
レグルスは目を丸くして驚いていた。それを見てアルビレオは全てを解したみたいである。
「あ〜、ちょ〜っとレグルス〜、こっちにきなよ。あ、ゴメンね〜、スピカちゅわ〜ん。後でスピカちゃんにも話すから〜。」
「あ、は、はい・・・・」
それからレグルスとアルビレオが寄り添って何かヒソヒソ話をしていた。スピカがこうして黙っていても2人のヒソヒソ話はまるで聞こえてこない。この2人、ヒソヒソ話がうまいのだろうか?
レグルスとスピカが今住んでいる所は、近くに民家もなく静かな所なのでちょっとした物音でも聞こえやすい筈なのに・・・・何の話をしているのか気になってしまったスピカであったのだが、アルビレオは自分にも話すと言ってくれたので、一応邪魔は入れずに2人のヒソヒソ話が終わるのを待つことにした。
だがやはり完全に諦められないのも事実で、2人の表情を伺ってみれば・・・・アルビレオの表情も真剣だったし、レグルスの表情もいつもの余裕ある微笑ではなく、どこか暗く曇ったものになっていた。
それからアルビレオはスピカの方に向き直り、レグルスも普通に座りなおした。
「あ〜、ごめんごめんスピカちゃ〜ん。そんで〜・・・・スピカちゃんはきっと分かってることよね!いよいよ明日!運命の日よ〜?」
「!!あ・・は、はい・・・・」
「しっかしスピカちゃん何でこんな重要なコトこいつに話してなかったの〜?あたしはそこが意外だったんだけど〜。」
とアルビレオが言った。確かに2日前、ラグリアはスピカとレグルスを呼び寄せると言っていた。スピカの両親が明日ここに来るから、その時に審判を下すと言っていた。
だがここで1つ疑問が生じる。なぜアルビレオがそんなことを知っているのだろうか?
「あ、はい、その・・・・話したく、なくて・・・」
「あらそーだったの〜?でもこれっていわばこいつにとっては死活問題よ〜?ま、今教えて聞かせたけどね!」
「あ、は、はい・・・あの、それより・・なぜアルビレオさんがそのことを・・・?アルビレオさんは・・・ラグリア様にお仕えしてらっしゃるのですか??」
アルビレオとレグルスの正体は未だに謎であるし、教えてくれない。何となくスピカの印象としては、2人ともお金持ちっぽい気はするのだが・・・・
「えっ?あ〜・・・ん〜、別にそんなワケじゃないんだけどねぇ〜。お仕え、ね〜・・・あたしあんなヤツに絶対仕えたくないわ。んなコトしたらストレス溜まりすぎて死ぬっつの。」
と本音ではき捨てるアルビレオにスピカはつい苦笑してしまっていた。
「アハハハ・・・は、はぁ・・・・」
「んまぁでも〜、あたしが使者なのは確かなコトよ!あぁ〜、いよいよ明日ね!レグルスには今ちゃんと言っといたから〜、レグルスと一緒にお城に行くんだよ〜?まぁ、こいつ逃げるコトとかしないと思うけどさ〜、挫けてたらスピカちゃん元気付けてあげてね〜?」
「あ、は、はい・・・・」
「・・ふぅ〜・・・・仕方ないね・・・・まぁ、彼が決めたならどうしようもないからね〜・・・・それにおまえの両親まで来るんだろう?」
「あ、は、はい・・・・」
「とうとう・・・・この生活も、終わりか・・・・・」
「そーね〜。まぁ、でもあたしは長持ちした方だと思うけどね〜。だ〜ってもう2ヶ月過ぎちゃってんのよ〜?」
レグルスは先ほどからひどく浮かない表情をしていたが、とうとう立ち上がった。そんなレグルスにアルビレオは臆することなく声をかける。
「あ、そだそだ。ついでにあたしに昼食奢ってくれると嬉しいんだけど。」
「あぁ、適当にその台所にあるものを盛って食べていいよ。ちょっと私は失礼するね。」
と言ってレグルスは2階の方に行ってしまった。何やら少し顔色が悪かった気がする。スピカは急に心配になってしまった。
だから話したくなかった。レグルスにあんな表情をして欲しくなかったから。だが嫌でもいずれ分かることなのだ。スピカは少し反省してしまった。
「レグルスさん・・大丈夫でしょうか・・・・」
「あぁ〜。んまぁ・・あいつの人生明日で終わりかもね。」
「ええぇぇ〜〜っ!?そ、そんな、アルビレオさん!」
「ん〜、でもあながちウソじゃないよーな気がするんだけどな〜。」
「あ、は、はぁ・・・・ですけど、それでは・・・・レグルスさんが・・まるで、死んでしまうみたいで・・・・」
「ウン。そーだね〜。」
とアルビレオは否定することなくあっさり肯定してしまったではないか!そんなアルビレオの返答にスピカはますます困ってしまった。
「ええぇっ!?アルビレオさん・・そんな!そんな・・私嫌です!」
「ん〜、でもさ〜、あいつ犯罪者じゃ〜ん。スピカちゃんに対する誘拐・拉致ってゆー立派な犯罪をあいつは背負ってるんだからさ〜。更にもう少し突っ込むと性的被害もあるでしょ〜?それが、国王様に暴かれちゃったんだよ〜?」
「えっ!?あ、それは・・・・はい・・・・」
「んまぁ〜・・・あいつの処遇がどーなるかは分かんないけどね〜。んでも牢屋行きにはなるのかしら〜?」
「!・・・レグルスさん・・・・!そんな・・私、そんなの嫌です!」
「嫌って・・・・・スピカちゃん。本当にウチの弟のこと、気に入ってくれてるみたいね〜。」
アルビレオは少し驚きながらも、笑顔でスピカにそう言った。
「その・・・・確かに、最初はレグルスさんのこと、怖くて、嫌でしたけど・・・・毎日私の身の回りのお世話して下さって・・・私、生活には困らなかったですし・・・・レグルスさん、その・・・常に優しくして下さいましたし・・助けられたことも、一杯ありました・・・・」
「ん〜・・・まぁ、それはそーなんだろーけど・・・・でもやっぱ関係ない第三者から見たら立派な犯罪よね〜、あいつがやってるコトって〜。だってもうあいつがスピカちゃんここに誘拐してから2ヶ月経っちゃったんだよ〜?しかもほぼ毎日の勢いでスピカちゃんとセックスしてたみたいだし・・・・スピカちゃんのご両親、メッチャ心配してたわよ〜?」
「!!・・・会った・・んですか!?アルビレオさん!」
「ん〜、そーね〜。会ったってゆーか・・・見てきたってゆー表現の方が正しいと思うんだけど。もうこの王国にいるわよ、スピカちゃんのご両親♪まぁ・・イイ親御さんだと思ったけどさ〜、な〜んか変だと思わな〜い?スピカちゅわ〜ん。」
「えっ・・・・?」
「・・・んま、別にいっか。こんなこと、あたしがゆーモンじゃあないよね〜。」
「・・・・アルビレオさん・・・・?」
「・・スピカちゃん。全ては・・明日明らかになるよ。ま〜ぁ楽しみに待ってて〜♪って所かしら?あ〜っ!!!マジメな話したらお腹空いたわ〜!!ん〜、今日のメニュー何だろう〜?」
アルビレオは立ち上がり、台所にある食べ物を物色し、鼻歌混じりにお皿に盛っている。
スピカはアルビレオに色々聞きたいことがあったが、内気な面もあって今一踏み込めずにいた。結局はアルビレオのいつもの食い意地ぶりを見てしまい苦笑しては、何か色々と気にしてしまうスピカなのであった。
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