第44話「分かり合えた瞬間」

アルビレオが帰ってから、部屋に閉じこもってしまったレグルスがどうしてしまったのかと心配で、スピカはレグルスの部屋のドアをノックした。

「・・・・・・」

返事がない。明らかにレグルスはこの部屋にいる筈なのに。試しにもう1回スピカはノックしてみた。すると突然ドアが開いて、スピカは驚いてしまった。

「ん・・・?スピカ・・・?私に・・何か用かな・・・?」
「レ・・レグルスさん!?」

レグルスの顔色は本当に悪かった。いつものような余裕ある微笑も浮かべてはおらず、暗い感じである。スピカは思わずレグルスに抱き着いた。

「レグルスさん・・・その、大丈夫ですか?お顔が青い感じがします・・・・」
「あぁ・・・・フフッ。まぁ・・その内ツケがくるとは思っていたんだけどね・・・・おまえのことを、考えていたよ・・・・もしかしたら・・明日でおまえとお別れかもしれないからね。」
「!レグルスさん・・・・!」
「・・・まぁ、私は犯罪者だからね・・・・分かっていたことだけど・・・・素直に、おまえの前から消えるしかないのかな・・・・」
「・・レグルス、さん・・・・」
「フフッ、スピカ。嬉しいだろう?おまえの両親が、もうこのフェラールに来ているらしいよ?やはりおまえが恋しいのはご両親だろう?会えて良かったね。そして、私に束縛される生活も終わる・・・・」
「!・・・・・・・」
「おまえはヴァルロに戻って・・・・あぁ、もしかしたら・・ラグリアとの結婚話もあるかもね・・・・」
「ええぇっ!?」
「いいんじゃないかい?おまえはラグリアが好きなんだろう?」
「!・・そ、それは・・・・・」

もちろんラグリアの印象は悪くない。少し怖いが、優しい人であると分かったから。それにあんなに美形な人と結婚出来るのならスピカの心も少し弾むが・・・何かが違う気がした。
やはり自分が一番好きなのはあの時の仮面の男性なのだ。それは絶対に揺るがない。どんなステキな男性からプロポーズされても、スピカにとっての一番はあの時の男性なのだ。

「私の顔なんてもう見たくないだろう?犯罪に手を染めた男なんてね・・・・フフッ、最悪だよね・・・あの時姉さんの反対意見を・・素直に聞き入れていれば良かったのかな・・・・?」
「・・レグルスさん・・・・?」
「・・・スピカ・・・・今のおまえは・・私にとって、とても眩しい存在だよ・・・・今の内に、言っておこうかな?私はね、おまえとこうして今までいれて・・楽しかったよ。最高の時だった。」
「!レグルスさん・・・!そんな、嫌です!!そんな、こと・・言わないで下さい・・・・!私・・・・!」

レグルスの表情があまりにも悲痛だったし、いつもと違ってスピカのことを客観的に見ているレグルスが嫌だった。いつもみたいに愛を囁いて欲しかった。
いつだってレグルスは余裕ある人で、勝てることなんて絶対ないと思っていたのに。こんな風に、いわばレグルスに勝ってしまったことが悲しくて。スピカは泣き出してしまった。

「・・・あぁ・・おまえは・・・泣いてくれるのかい?犯罪者の、私のことを・・・・」
「レグルスさん・・・!私、レグルスさんのこと・・犯罪者だと思ったのは・・後にも先にも1回しかありません・・・!」
「え・・・・?」
「初めてレグルスさんを見て・・・気付いた時に、抱かれて・・・・その時は犯罪者だと思いました・・・ですけど・・レグルスさんそれから・・・・「犯罪者でも構わないから一緒にいたい」みたいなことを言って下さった時・・・・私はもう、レグルスさんのこと・・訴えようと思ってませんでした・・・・」
「・・・スピカ・・・・」
「・・不思議な方だと・・思ってました・・・・ずっと・・レグルスさんは・・普通の方ではないって思ってました・・・・あの、私・・レグルスさんのこと、嫌いじゃないです・・・!むしろ・・好き、です・・・!」
「!・・・スピカ・・・」
「その・・・本命さんは、譲れないですけど・・・世界で、2番目に・・大好きです。」

スピカは涙を流しながらも、一生懸命笑顔を作ってレグルスにそう言った。レグルスはそんなスピカを見て胸がつぶれる思いだった。
嬉しかった。スピカに「大好き。」と言われたことが・・本当に嬉しかったのだ。

「スピカ・・・・!ありがとう・・・・こんな私に・・おまえはそんなことを言ってくれるんだね・・・・ありがとう・・・こんな、嬉しい気持ちは・・・初めてだよ・・・」

とレグルスは言って、スピカを強く抱き締めた。

「レグルスさん・・・・!」

2人は強く抱き合った。離れたくなかった。今だけ本当に時間が止まってしまえばいいと思った。
それまでレグルスと共に過ごしてきた日々が、まるで走馬灯のように頭の中を駆け巡って・・・・・レグルスと離れたくなかった。スピカは本当に、レグルスのことを犯罪者として見ていなかったから・・・・そんな風に別れるのは嫌だった。
もしかしたらレグルスがラグリアのことを嫌っていたのは、このようなことを想定していたのもあったのかもしれない。そう思うと、自分でまいた種が原因ということにはならないか。
ついついアルビレオに勧められてのことでラグリアと会ったものの・・・・結局彼はスピカの待っていた仮面の男性ではなかった。絶望感と悲しみがスピカを支配していた。

「レグルスさん、すみません・・・!」
「・・どうして・・謝るんだい?謝らなきゃならないのは私なんだよ?スピカ。」
「だって・・・私が、ラグリア様の所に行かなければ・・・・!」
「・・・スピカ。それはいいんだよ。」
「えっ?」
「いずれにしろ私は犯罪者だからね・・・・嫌でも、国王様の耳には触れることになるんだよ・・・」
「!・・・・・」
「ただその時期が早まっただけの話でね・・・・気にすることはないよ・・・・私は、もう謝っても贖えない罪を犯してしまったからね〜・・・・ねぇ、スピカ。」
「はい?」

レグルスが声をかけたので、スピカは返事をした。抱き合いながら2人は見つめ合う。

「おまえの探している男が・・・見つかるといいね・・・」
「!レグルスさん・・・・」
「フフッ、その内見つかるさ。おまえが信じていればね。やはり私は・・その男を超えることは出来ないみたいだからね・・・・最悪の場合、おまえの幸せを・・・あの世で見届けることになりそうだね・・・・」
「いやっ・・・!嫌ですそんな!!レグルスさん!死なないで下さい!!」
「そうは言ってもね〜・・・私の犯した罪は、ご両親からすれば万死に値するよ?誘拐、拉致、性的暴力・・監禁もそうかな?」
「!レグルスさん・・・・!」
「まぁ・・分かってやっていたことだからね〜・・・・罪人は、処せられてしかるべきだね。」
「・・・レグルスさん・・・・」
「最後におまえを抱いて死にたい所だけど・・・・フフッ、さすがにそれは高望みすぎるね・・・・最後まで私に付き纏うのは・・・孤独だけだろうから。」
「・・レグルスさん・・・・!」

レグルスはスピカを抱き締める手を離した。スピカもつい反射的にレグルスから離れてしまう。

「さ、もう自分の部屋に行った方がいいよ、スピカ。このままいたら・・・・私はまた・・おまえを抱きかねないから・・・・」
「!レグルスさん・・・・」
「フフッ。本来なら、最後のあがきでおまえを抱くんだろうけどね。おまえを抱いたら・・私の決意が揺らいでしまうから・・・・」
「・・レグルスさん・・・・」
「夕食の時、下においで。作っておいてあげるからね。それじゃあ。」

と言ってレグルスはいきなり部屋のドアを閉めてしまった。スピカは「レグルスさん!!」と声をかけたものの、鍵をかける音まで聞いてしまったので完全に立ち入れなくなってしまった。レグルスがスピカの存在を否定したも同然の意味なのである。
スピカはしばらくその場で泣くことしか出来なかった。ラグリアの所に行った時から、まさかこんなことになるなんて思っていなかった。
今は両親やラグリアなんてどうでも良かった。レグルスと離れることが、別れることがつらすぎて。スピカは泣きながらも何とか自分の部屋に戻り、それからはテーブルに突っ伏して泣いてしまうのだった・・・・・・・・・


  

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