「ラブ・キッス」 1

 

神の子が生まれた聖なる夜の前日であるクリスマス・イブ。それはこの小さな村に住む1家庭にとっても喜ばしい日であった。

「エーン、エーーン!!」
「はい、ユレウスちゃん、いい子ですね〜。よしよし・・・・」
「お母さんったらずるい!!ユレウスばっかりかまって。リーアとも遊んで!!」
「はぁ〜い。でも、ちょっと待ってね。お母さん、今手が離せなくて・・・・」
「エーーーーーーン!!!ウェーン!!」

それは、この村でも若く仲の良い夫婦として有名なレグルスとスピカの家庭での一幕。お姉さんのリーアは4歳の女の子。下の男の子・ユレウスは1歳になったばかりである。
今その下の男の子・ユレウスがご機嫌を損ねてしまったようで、泣いているのをスピカが必死に抱き上げてあやしている所であった。

「おかあさ〜ん!!ねぇねぇ、今日ってクリスマス・イブなんだよね!!前のクリスマスの時にはサンタさんちゃんと来てくれたけど、今年も来てくれるかな〜?」

リーアは手が離せない母親のスピカを見て遊べないだろうことを悟りながらも、母親の傍から離れていたくなくて、自らスピカに抱き着いてそう言った。愛する娘にそう聞かれて、スピカはユレウスをあやしながらもニッコリ笑顔でそれに答えた。

「ウフフッ、そうですね。リーアちゃんが良い子にしてるなら、きっと来ますよ。」
「ホント!?エヘヘヘヘッ。ねぇねぇ、お母さん!!サンタさんってホントにスゴイと思うの!!リーアが寝てる時に来てくれて、リーアの一番欲しいものを置いてってくれるんだよ!!!リーアね、お礼が言いたいから、今年こそサンタさんとお話するんだ〜!!」
「そうなの。でもサンタさんは恥ずかしがり屋さんだから、会うのは難しいかも・・・・」
「えぇ〜っ!?ウソーーーッ!?」

子供は一喜一憂がとても激しい。目まぐるしくコロコロと表情を変える我が娘にスピカは愛しさを覚えて、ようやく落ち着いて眠ったユレウスを小さなベッドにそっと寝かせて、リーアの手を取って言った。

「ウフフッ・・そういえば、今年リーアちゃんが欲しいものは何なの?」
「エヘヘヘヘ〜ッ。お絵かきセット!!まっしろなお絵描き帳と、たくさん色の入ったクレヨンが欲しい!!そして、リーアの描いたお花さんや子犬さんを、お父さんとお母さんに見せたいの!!」

リーアはスピカと手をつなぐだけでは物足りないようで、座ったスピカの膝の上に乗ってその体をスピカに預けた。可愛い娘にそうされるのがスピカも嬉しくて、リーアの頭を軽くなでた。

「そう。それじゃあ今度、リーアちゃんの描いたもの、お母さんに見せてね?」
「うん!!お母さんにはいっぱい見て欲しいんだ〜!!リーアは天才なんだから!!」
「ウフフフッ。そうですね。」

リーアは本当に愛する夫によく似ているなぁ、とスピカが思いながら会話することしばし。リーアの方はというと、父親がいないことが気になっていた。
こうして大好きな母親と過ごすことももちろんリーアにとっては何より嬉しいことなのだが、一体父親はどうしてしまったというのだろうか?

「ねぇねぇ、おかあさ〜ん。お父さんは〜?」
「えっ?あっ、お父さんは今、お出かけ中です。」
「そうなの?どこに行ったの?」
「ウフフッ、どこなんでしょうか。ですけど、すぐに戻ってきますから。」

とスピカが言った矢先に、「ただいま〜。」と玄関先で聞こえた父親の声。リーアはパッと反応してスピカから離れて、一気に玄関まで走った。

「おとうさーーん!!おかえりーーー!!」
「フフッ・・ただいま、リーア。いい子にしてたかい?」
「うん!!リーアはいつだっていい子だも〜ん!!」
「そうか。フフッ・・それじゃあ、ご褒美だよ。」

若き父親・レグルスはそう言って、リーアを一気に高く抱き上げた。リーアは「たかい、たかい」が大好きなので、それを分かっていてのレグルスの行動であった。

「ワーイ、ワーイ!!ウフフフフッ!!お父さん、もっとしてーーー!!」
「あぁ、ほら。たかい、たかーい。」
「エヘヘヘヘヘッ!!たかい、たかーーい!!」
「ウフフッ・・お父さん、お帰りなさいませ。」

ようやく玄関に来たスピカが、愛する夫・レグルスを出迎えた。

「あぁ、今戻ったよ、母さん。1人で大変じゃなかったかい?」
「いえ、大丈夫です。それよりお疲れ様でした。」

レグルスは常人とはかけ離れたオーラを持っている非常に魅力的な男性なのだが、実はここから少し離れた王国の元王子だったりする。
今もその王国に呼ばれて家を留守にしていたのだが・・・どうやら祖国からプレゼントをもらってきたようで、リーアを抱いていながら両手に紙袋を持っていた。

「大したことないさ。あぁ、それより・・ケーキやプレゼントの用意をしないといけないね。リーア、おまえも手伝ってくれるかい?」
「うん!!」

 

そうして今日はいつもと違った家の装飾に囲まれながら、おいしい物を沢山食べて、最高に楽しい夜を過ごした。父親と母親から奇麗な髪飾りのプレゼントもあって、リーアは今最高の幸せを感じていた。
因みに大好きな両親からもらったこの髪飾りは、リーアがすぐに母・スピカに「付けて!」とお願いして、今こうして寝ているフリをしている時にも付けている。
そう、リーアはこの時間位にいつも両親に「お休みなさい」を言って寝ている時間だった。しかし今は寝ている「フリ」をしているのだ。なぜならそれは・・・・・

「ぜぇーーったいに!!今日はサンタさんに会って、お礼を言うんだもん!!リーア、サンタさんが来てくれるまでずっと待つんだから!」

もう既にリーアが横になっているベッドの脇には、大きい靴下がぶら下がっている。この日の為にスピカが買ってくれた、リーアにとって大切な靴下だった。
この部屋にやって来て、その靴下にサンタさんがプレゼントを入れるその時にお礼を言うんだ!と、リーアはずっと機会を狙っているのだが・・・どんなに待っても誰かが部屋に入ってくる気配はない。
まだ早すぎるのだろうか?ベッドに入ってから30分ほど経って、さすがにリーアは眠気に耐えられなくなってきた。いつもならもう完全に寝てしまっている時間だ、無理もない。
だがリーアは最後まで諦めることはしない子だった。顔立ちはレグルスとスピカをミックスしたものだが、この自信に満ちたプライドの高い性格や最後まで諦めない強さは、父親のレグルス譲りであった。

「眠い、けど・・・リーアは諦めないもん・・・・」

喋っていないと本当に眠ってしまいそうだった。だがまだ起きているだろう父親や母親に自分が喋っていることを悟られてはならない。小さく囁く感じで、リーアは自分にそう言い聞かせた。だが本当に眠い時は、口を動かしていても自然と目が閉じてしまう。それでもここで眠る訳にはいかず・・・若干4歳の子供だというのに、リーアは頑張っていた。


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