「無理だってわかってる」


ウワ〜ン、どうしよ〜。この問題全っ然分かんないよ〜!!んも〜う、勉強なんて必要最低限のことが分かってればイイじゃ〜ん!!特にこの数学の問題・・・計算式がワケ分かんなさすぎ〜!!ウゥッ・・・そりゃ〜、授業をまともに聞いてないあたしが悪いんだけどさ〜。部活の朝練が早いんだも〜ん、先生の声なんて催眠の呪文と同じだよ〜!
えぇい、もう数学の宿題なんてヤメヤメ!!幸いあたしにはとっても頭の良い双子のお兄ちゃん・乱お兄ちゃんがいるから、後でお兄ちゃんに聞けばイイ話だもんね!ってコトで今度あたしが取り出した宿題は、英語の教科書!なんだけど・・・・ウゥ〜ッ、表紙見た瞬間に頭痛がする〜。英語なんて日本にずっといれば関係ないじゃ〜ん!!とか思うんだけどね〜・・・・
あたしの心の中に、「宿題をやらなきゃ」っていうのとは違う心の痛みが広がる。と同時に考えてしまうのは、この英語の先生のことなんだ・・・・・
あたしに英語教えてくれてる先生は曽我部学先生っていって、皆気楽に「Mr.ソガベ」って呼んだりしてる。あたしは普通に「曽我部先生」って呼んでるけどね。
曽我部先生は、1年に続いてあたしの担任の先生。でもって英語の先生なんだけど、いっつも白衣着てる化学バカな先生なの。英語の授業中にも時々化学の話に脱線してくし・・・・あんなに化学の知識があるなら化学の先生なってもおかしくなさそうなのに、「先生ってば変なの〜。」っていっつも思っちゃう。
ってそうじゃなくてね、曽我部先生は、その・・・あたしにとって、特別な存在で・・・・その、つまりね!あたし、曽我部先生のことが好きなんだ・・・・
きっかけは、よく分かんないけど・・・・勉強を見てもらったり、悩みを聞いてもらってる内に、気付いたら好きになってて・・・・

曽我部先生は、とにかく優しくてイイ先生なの。ついでに超カッコ良くて、背が高くて細い先生なんだよね〜。だからあたしのみならず、学園の皆から好かれてる。ライバル多くて困るんだよね〜!!
もうホンット、やんなっちゃう。曽我部先生がカッコ良くて優しすぎるから、皆曽我部先生にいっちゃうんだよね〜。友達は「ヤダ〜、だって化学ヲタなんだも〜ん。」なんて言うけど、カッコ良いコトは認めてるワケで・・・・いくらウチの学園共学で女子の方が若干少ないとは言っても、あんなカッコ良い先生いたら女生徒の皆に好かれるってコト、校長も分かってないのかな〜。
あたし・・・決して美人とか可愛いとかゆー部類じゃないし、スポーツしか取り柄がないから、補習授業でいっつも曽我部先生の迷惑かけてるんだよね〜・・・・そのおかげで曽我部先生には、「頭の悪いクラスの落ちこぼれ生徒」って意味で覚えられてるようでヤなんだけど・・・・それでも曽我部先生は、いつも優しい言葉であたしを励ましてくれるんだ・・・・・

 

「スポーツが出来るってのは最高だぞぉ〜!?ふーせー君!!先生もスポーツは人並みに出来たが、君みたいに優れていた訳じゃないからね〜。だからふーせー君、君は君の持っている才能をもっともっと伸ばしていって欲しいんだな!それが、先生が君に望むことだ!!ふーせー君!!ワハハハハハ!」

 

先生にそう言われて、嬉しくない訳がなかった。先生の為なら、本当に何でも頑張ろうって思うんだけど・・・・でも、ダメ。勉強だけは、ホンットにダメなの!!!
アウ〜。こーゆー時、お兄ちゃんのことが羨ましくなるな〜。まぁ、お兄ちゃんはあたしの逆でスポーツが全然ダメみたいなんだけど・・・・双子のクセに、どうしてあたしとお兄ちゃんってばこんなに違うんだろ・・・・
結局あたしは英語の教科書を開かないまま、隣のお兄ちゃんの部屋に行くことにした。お兄ちゃんとはクラスが違うけど、今日の宿題の所やってるにしろやってないにしろ、お兄ちゃんなら教えてくれそうだもんね♪
ってコトで、ドアをノックしてお兄ちゃんに声をかけてみました!

「お兄ちゃ〜ん。今イイ〜?」
「あ・・うん。どうぞ〜。」
「ヤタッ♪お兄ちゃんつ〜かま〜えた♪」

あたしはウキウキ気分でドアを開けてお兄ちゃんの部屋に即駆け込んじゃった!あたしの妙なテンションに驚いて、お兄ちゃんってば目を見開いちゃってるよ〜。

「・・・和。その、随分嬉しそうだね?」

お兄ちゃんはやっぱり双子だからか、あたしと顔がソックリなんだよね〜。でもでも、あたしよりお兄ちゃんの方が可愛く思えるのってどうして〜!?女としてみじめだと思う瞬間・・・・

「うん!!あのね、お兄ちゃん!これの日本語訳して欲しいの!!」
「・・そっか。曽我部先生に、褒められたい?」

ギックゥッ!!!そういえば、あたしお兄ちゃんに前に曽我部先生について相談してたこと、すっかり忘れてたよ〜!!そういえばあの時のあたし、相当ブルーになってて・・・お兄ちゃん、一杯励ましてくれたな〜・・・・うん、何か今になって色々思い出してきた。

「ま、まぁ、それは・・・褒められたい、けど・・・・」
「そっか・・・・分かった。どこやってるの?」

お兄ちゃんは、何も言わなくてもあたしの複雑な思いを理解してくれてる。本当はあたしの宿題をお兄ちゃんがやるなんてこと、間違ってるんだって分かっていながらあたしにそう言ってくれる。
こういう時、改めてお兄ちゃんと双子なんだな〜って思う。そういう意味で、お兄ちゃんはあたしの中で頼れる人なんだよね〜。

「ここ、レッスン5から。」
「あぁ・・・ここ、今日俺のクラスでやった。訳付けたノート貸す?」
「えっ?いいの!?お兄ちゃん!!」
「うん。明日は、英語の授業ないから・・・・ところで、曽我部先生とはどうなの?」

お兄ちゃんはあたしにノートを差し出しながらそう尋ねてきた。あたしはそれをありがたく受け取ったんだけど・・・・ウゥッ、どうって聞かれてもな〜。

「ど、どうって言われても・・・お兄ちゃん、あたしと先生がくっつくなんてあり得ないでしょが〜!!」
「・・そう?」

お兄ちゃん、どうしてそんな驚いた目であたしを見るの〜!?むしろあたしの方が驚いちゃうじゃない!!

「そうだよ!!先生とお付き合い、だなんて・・・無理だってわかってるから・・・・」
「・・告白して、断られたの?」
「なっ・・・!!告白なんてするワケないじゃん!!」
「それなら、無理だって決め付けるのはおかしいよ、和。最後まで粘り強く諦めないのが、和の長所だろう?」

アウ。まさかお兄ちゃんにそんなこと言われるとは思いませんでした・・・・・あたし、実は少し弱くなってたのかな?今のお兄ちゃんの言葉で、すごく勇気付けられた気がする・・・・

「そ、それはそうかもしれないけど!でも、それとこれとでは話が別だよ〜!!」
「・・そっか。和は、恋する乙女なんだね。」

お、お兄ちゃん!?そんな、「クスッ」って感じで笑いながらそんなコト言わないでよ〜!!!

「お、お兄ちゃんこそ!!好きな人いないの!?」
「・・別に、特には・・・・」
「ウゥ〜ッ。いるんだったら今度あたしに言ってよね〜?」
「うん・・好きな人出来たら、真っ先に和に教えるって約束する。」
「ホント?絶対だよ?」
「うん、絶対。」
「よぉ〜っし!約束ね!」

そうしてお兄ちゃんと口約束をしてから、お兄ちゃんの勉強の邪魔になると思って部屋を出たんだけど・・・・あたし、やっぱり曽我部先生のことで弱気になってたのかな〜?曽我部先生のことを考える度に、「絶対にお付き合いなんて無理。」って思ってたから・・・・
お兄ちゃんにその気はなかったんだろうけど・・・・お兄ちゃんから、沢山勇気をもらった気がする。
うん・・・あたし、これから今以上に頑張ることにするよ!フラれる可能性が高いと思うけど、やっぱり曽我部先生が好きだから・・・・頑張ろう!!宿題なんてこの際そっちのけよ!!これからも一杯バレーに打ち込んで、ついでに曽我部先生と仲良くなるんだ!

「気合いいっぱーーーつ!!!ファイッオーーーーー!!!」

 

END.


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