もしもクレオパトラの鼻がもう少し高かったら 4

出発



くじらの化けもんみたいな敵が来たとき。
俺は街外れで遊んでた。

なんだありゃ、と思っているうちに くじらは家に人に圧しかかってきて、 目の前で気の好いおばちゃんが潰された。
それどころかそれはあんぐりと口を開けやがって。
食べられる、なんて死に方を予想した西岐の民がいるかよ、ばかやろう。

何なんだ、と考える暇もないままに、 崩れた建物の下敷きになっちまった人達を助け出す。
いまここでやれるだけのことはして、 だけどできなかったことの大きさに腹が立つ。
そうして慌てて城に戻った。


そのときにはもう何もかもが終わった後。
そこには懐かしい弟が傷だらけでいて。
天化やナタクもボロボロでよく見たら太公望まで怪我をしていて。
そして太公望はあんちゃんとふたり、難しい顔をしていた。

「妖怪仙人たちをやっつけてやろうぜ」
と、南宮カツが叫んでいる。

まさにあれは敵だったのだと、 仙人と言うヤツで、中でも妖怪仙人というヤツで、 そしてその向こうには殷という存在があるのだと、 俺はそこではじめて悟る。
知っていたつもりだったけど。
それはやっぱりつもり、でしかなかった。


兵たちが南宮カツの叫びに応えている。
腹が立つから。
なすすべなく同胞が殺されていくことに我慢ならないから。
だから、叫ぶ気持ちは俺だってわかるけど。

「はっきり言って金鰲の仙人たちは迷惑です。 こたびも周の民は大ダメージを受けました」
旦も言う。
淡々と喋ってるこいつ、かなり怒ってやがる。
よくわかるけど。
俺だってむかついてるけど。
陽気なおばちゃんを、優しかったご隠居を、 あっという間に殺しやがった妖怪仙人とかいうヤツら、 許しちゃおけねえって思うけど。

でも。

戦はきらいだ。

旦、さっきあんなにたくさんの死を見たばかりだろ?
頼むから死ぬ気で戦うなんて言うなって。

痛てえ思いをすんのは俺、嫌だし。
ましてよく遊んでる街の連中なんて、戦になればまず最前線。
あいつらに戦えって、つまりもしかして死ぬかもしんねえって、 んなこと言いたくねえ。

だからそーゆーのはいやだと、戦いなんてよそうぜ、と ここで言おうと思ったんだけど。
口を開く前にあんちゃんと目が合った。

俺の顔を見たあんちゃんは、苦しそうに視線を外したから。
どうしても、俺は声をあげることができなかった。


言葉にしなくても、俺の思いは伝わった。
そしてあんちゃんはもう心を決めていて、 俺が何を言ってもそれを変えるつもりはないんだ。

嫌なのに。
戦なんてほんとろくなもんじゃねえのに。
痛くて哀しくてむかつくのに。
そしてそれを、俺たち以外のみんなにも押しつけるものなのに。
そういうことを全部全部分かっていても、でも戦うしかないと、 あんちゃんはそう決めているんだ。

そしてあんちゃんの眼で国を見れば。
同じことを繰り返させないためには戦うしかなく、 殷っていう存在を否定するしかない。
嫌だと言ってもじゃあどうするのかに答えはないから。 そのまま放っておいたらそれは逃げだ。 また同じことになる。

・・・・それがわかっても嫌なものは嫌なんだけど。


そうしてあんちゃんは俺のほうに視線を戻した。
変わらず苦しそうではありながら、 それでも穏やかないつものあんちゃんの表情だった。

発、言ってごらん。
おまえが言いたいことは真実だから。
しっかり聞くから。

それでも最後はわたしが決めるけれど。
逃げることはできないから。

あんちゃんと俺の思考が、同じところをきっとなぞったとわかる。
わかっていて、けれど言うのはあんちゃんを無駄に苦しめるだけだ。
今度は俺が視線を逸らす番だった。
真剣に聞くよとあんちゃんが眼で言っていたから、 ぐちゃぐちゃした気持ちをぐちゃぐちゃのままぶつけることができなかった。

自分が傷つくのは嫌だ。
街のみんなを戦いに巻き込むのも嫌だ。
でも嫌と言って放っておいたらまた攻められる。
太公望が言いかけているように、戦いを仙道に任せられたらとちょっとは思うけど。
だけどこれはもう殷と周の、人間の問題で。
妖怪仙人を、殷を、許しておけねえと思うのは、紛れもない俺たちだ。
あいつらだけの戦いじゃねーんだ。

いちばん大きな気持ちは、 これ以上あんちゃんを苦しめたくない、ってことだったかもしれない。

「嫌なことはさっさと済ませちまおーぜ。
 みんなでやりゃあ早く終わるだろ?」

顔を上げて俺は言った。
あんちゃんはほっとしたような哀しいような微笑を浮かべた。

      *

決起集会の日。
あんちゃんはみんなに向かって頭を下げた。

・・・今の幸せを守るためにも、殷の好き勝手にはさせない。
皆には苦労をかけるけれど、力を貸してほしい。

歓呼の声が上がる。
殷の支配に我慢ならないってのはみんなの正直な気持ちだからな。


仙道だけの戦いじゃねーんだ。
そうだ。
そして俺たちだけの戦いでもねえ。
仙道だけじゃない、姫家のやつだけじゃない、 腹を立てているのはきっと、民の、兵のひとりひとりだ。

戦いで傷つくのが嫌なのもひとりひとりだ。
実際戦いになれば、たくさんの人が死ぬだろう。
たくさんの人が傷つき、ときには恨みの声も上がるだろう。
俺ひとりの心のなかがこう、いまだにぐちゃぐちゃなのと一緒に。
きっとみんなの心の中がいますでに、あるいはこれからぐちゃぐちゃになる。
そしてそれを抱えたままに、ひとりひとりが答えを出すよ。

きっと俺みたいにしてさ。


ぐちゃぐちゃな気持ちをまとめて、いいほうへ進んでいくために、 王サマってのはいるんだろう?
したいけどしたくない、しなきゃいけないだろうけどしたくない、 そんなとき。
この人がみんなのことを考えて決めてくれたことだから、って ひとりひとりが思えるように。

恨まれずとも傷つけたその事実にあんちゃんは傷つくだろうけど。
俺たちひとりひとりは傷つくことの覚悟もできるよ。


俺はみんなの気持ちと離れないように生きたい。
そしてあんちゃんに伝える俺の気持ちに嘘はつかない。

だからあんちゃん、傷つくなとは言わねえけど、傷つきすぎるなよ。
迷わずにどうか、進んでくれ。



おわったあ!続き物としてのまとまりがほんとに無いままに。
でも書きたいことは一応全部書けました。 おかげで詰め込み過ぎでまとまってない・・
伯邑考、封建専制君主しています(当たり前だ)。
理性と感情の両輪を二人の弟が担っているかと。
長兄自身は旦よりはバランスが取れていると思いますがどちらかといえば「理知的」でしょうから、
このメンバーでは太公望は感情側のフォローに回りそうです。
どちらも出来るに違いないあたり、太公望の太公望たる所以(夢見てるなあ)。
じゃあそのように動かしてやれよ、というのは全く尤もですが、 (っていうか話の外で語るな>亭主)
すみません、力尽きたんです・・・伯邑考も書き込み切れてないですもんね(汗)。
でもほんとう、いいテーマをいただきました。スミレさま、ありがとうございました。

01.07.21.(1ヶ月も開いてる・・・ごめんなさい) 水波 拝

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